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市民のためのがん治療の会
放射線治療を上手に受けて、疼痛緩和、骨折などに対処しよう
『骨転移に対する放射線治療』

千葉県がんセンター 放射線治療部
幡野和男
 がんが進行すると様々な臓器に転移をきたし、様々な症状を呈してきます。脳転移であれば、神経麻痺、意識障害など、肺転移であれば、呼吸困難、痛みなどが生じてきます。骨転移はがんの治療経過でよく見られるものです。一般的には、痛みや麻痺などの症状で発見されることが多く、まれに無症状で見つかることもあります。いずれにしても発見されたなら早めに治療しておくことが必要です。
放射線治療の目的
 骨転移に対する放射線治療の目的は、主として3つあります。
@ 骨転移による痛みの軽減・除去
A 病的骨折予防
B 麻痺の予防・改善

 骨転移は乳がん、前立腺癌、肺がんなどによるものが多く認められます。骨転移による痛みは、程度の差はあれ、日常生活に支障を来すものです。放射線治療による除痛効果は軽減までを含めるとおよそ90%で得られます。ただし、痛みが軽減するまでの期間には、個人差があり、1回の照射で痛みが軽減することもありますが、一般的にはおよそ2週間の体外照射による治療が終了するころには70-80%で何らかの痛みの軽減が得られます。大事なことは、放射線治療が終了した時点で痛みが残っていたとしても、その後時間とともに軽減して行くことも多いと言うことです。

 骨転移がおこると、その骨は外圧に対して弱くなります。特に腕や脚の骨、背骨などは外圧が加わることにより、骨折を起こすことがしばしばあります。こうした骨折を予防する目的で放射線治療が行われます。しかし、骨の一番外側を形成している骨皮質という堅い部分が、広い範囲で壊されている場合には治療中でもちょっとした力が加わることにより簡単に骨折が起こることもあります。従って、なるべく早い時期に照射を行うことが重要となるのです。不幸にして骨折が起こると、当然痛みが増強します。腕や脚の骨の場合には、まず、整復術を行い、骨折の状態を修復させた後で放射線治療を行います。

 骨転移が背骨(頸椎・胸椎・腰椎)に生じた場合、それが大きくなって背骨の中心部を通る脊髄神経を圧迫すると、腕や脚の運動麻痺が起こります。転移部位の痛みから始まり、その後、下肢のしびれ等の症状が出てきます。さらに、徐々に脚の筋力低下がおこり、そうなると急速に運動麻痺(脚が動かない、歩けない、立てない)が起こってきます。X線写真だけでは、脊髄神経の圧迫の程度がよくわからない場合が多く、CT, MRIなどの検査が有用です。こうした検査により、脊髄を圧迫しそうな腫瘍が認められ多場合には、早急に予防的な放射線治療が必要となります。また、運動麻痺の症状が出現した場合には、可能であれば24時間以内に放射線治療を開始すべきです。これが遅れると、麻痺は改善しにくくなってしまいます。放射線治療装置のある施設においては、このような麻痺出現の患者さんに対しては、緊急照射がその日のうちに行われることが通常です。


実際の放射線治療
 骨転移に対する放射線治療は、通常、1回3Gyで計10回という方法が一般的です。最近では、1回で放射線治療を終了してしまう方法もあります。おもな治療スケジュールは3Gyで10回、 4Gy で5-6回、5Gyで4回 8Gyで1回のみ、 2.5Gyで15回などがあります。個々の患者さんの体の状態によって、それに適した方法を選択することが重要です。体調が余り良くない、予後不良(残されている期間が短い)の患者さんで大腿骨転移であれば、1-2回の短期間照射で良いかもしれません。しかし、他に転移が無く、予後良好な患者さんに対しては10-20回の照射で、しっかりと転移したがんをたたく治療スケジュールが良い場合もあります。乳がんによる骨転移では、比較的長期生存の可能性が高く、こうした場合には、やはりしっかりと多くの線量を照射する方がよいでしょう。2010年にアメリカの放射線腫瘍学会(ASTRO)から転移性骨腫瘍の放射線治療におけるガイドラインが示されました。これによると腕や脚などのいわゆる長管骨の転移による痛みには、8Gyを1回照射するだけで、3Gyで10回とほぼ同等の治療効果が得られることがわかっています。しかし、3Gyで10回照射後の痛みの再発率が8%であるのに対して、8Gyを1回では20%の再発率であったと報告されています。従って、あくまでも患者さんの状態によって治療スケジュールが変化するということは理解しておくべきでしょう。

 ここで、ASTROからのガイドラインの概略を述べておきます。

@ 痛みを伴う骨転移に対する適切な線量分割法は?
3Gyで10回、4Gyで6回、5Gyで4回、8Gyで1回などの照射法があり、除痛効果はほぼ同等。しかし、痛みの再発の頻度は8Gy1回照射によるものが20%と最も高く、少なくとも1回照射でない場合は8%であり、適応には注意が必要。

A 1回照射はどのような症例に適応となるのか?
 少なくとも、1回照射がそれ以外の方法に比べて、除痛効果が劣るということはない。問題は、再発率が高いこと。

B 1回照射の副作用は大丈夫なのか?
 これまでのところ、1回照射による副作用がそれ以外に比べて有意に高いという報告はなし。

C 一度照射された部位への再照射の可能性は?
 四肢骨などへの再照射についてはどのような患者さんに再照射すべきかについては、明らかになっていない。この点については、臨床試験で明らかにしていくべきである。脊椎骨における照射後の疼痛再増強に対しては再照射により除痛効果が得られることは確認されているが、至適線量等についてはわかっていない。

D 骨転移に対する定位的照射(SBRT)の適応は?
 定位的照射による効果は、いずれも単一施設からの遡及的検討結果であり、現時点では多施設臨床試験でのみ行うべきものである。

E 背骨への転移に対して照射後の再照射をSBRTで行うこの是非は?
 この照射への適応基準は示されていない。これも、多施設臨床試験による検討が必要。

F 外科的切除術後の照射は?
 外科的に切除すれば、その後の放射線治療が不要となるということはない。至適線量分割法は不明であるが、1回3Gyで10回程度の線量が必要であろう。

G メタストロンなどの放射性医薬品による治療は?
 多発骨転移に対する姑息治療として行われることがある。これにより、体外照射が不要とはならない。骨硬化性の転移巣に対して適応となる。骨転移巣が余り多くない状態での予防的投与については今後の検討が必要である。

H ビフォスフォネイト使用により体外照射は不要となるか?
 疼痛の強い患者で、ビフォスフォネイト使用により、体外照射が不要となることはない。いくつかの臨床試験において同時併用によって除痛効果があり、再骨化がおこりやすいことはわかっている。しかし、照射単独に比べて良好ということは示されていない。


まとめ
 がん患者さんにおいて、その経過中の骨転移による疼痛は日常生活において生活の質(QOL)を低下させる要因の一つであります。これに対して、様々な治療が行われますが、比較的早期に放射線治療を併用することにより、疼痛緩和が得られ、鎮痛剤の減量が可能となることが多く見られます。患者さんの状態に応じて照射法も変化しますが、早めに放射線腫瘍医に相談し、適切な治療を受けられることをおすすめします。



参考文献
1. 西尾正道、他 骨転移の放射線治療. 臨床放射線 56:963-974, 2011
2. Lutz S. et al. Palliative Radiotherapy for bone metastases: An ASTRO Evidence-Based Guidline. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 79: 965-976, 2011


略歴
幡野 和男(はたの かずお)

1981年日本大学医学部卒業後、国立病院医療センター(現:国立国際研究センター)研修医、榛原総合病院放射線科医長、国立病院医療センター(現:国立国際研究センター)厚生技官、千葉大学医学部放射線医学教室助手、講師を経て1994年より千葉県がんセンター放射線治療部部長、現職。
この間1992-1993米国ペンシルバニア・ハーネマン医科大学放射線腫瘍学・核医学フェロー(Prof. L. Brady)
日本医学放射線学会専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本がん治療認定機構暫定教育医
所属学会:日本癌学会、日本癌治療学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会、米国放射線腫瘍学会(ASTRO), 欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)など
放射線医学総合研究所重粒子線治療ネットワーク会議頭頸部腫瘍委員、放射線医学総合研究所重粒子線治療ネットワーク会議婦人科腫瘍委員
専門:放射線治療、特に脳腫瘍(悪性神経膠芽腫)、頭頸部腫瘍、前立腺がんなどへのIMRT、MRIを用いた画像誘導子宮頸癌放射線治療
医学博士


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