市民のためのがん治療の会
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『コロナワクチン未接種の人たちの様々な理由を調査してわかってきたこと』


ナビタスクリニック(立川)内科医山本佳奈
この原稿は初出はAERA dot.(https://dot.asahi.com/dot/2022040500044.html?page=1 4月6日配信)で、 2022年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会からの転載です。
転載許可をいただきましたナビタスクリニック(立川)内科医山本佳奈先生にはいつもながらのご厚意に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

オミクロン株の流行を受けて適応されていた「まん延防止等重点措置」解除から2週間が過ぎました。 定期的に外来を受診されている方からは、「最近は、在宅勤務ではなく出社しています」という声や、 「しばらく休んでいた運動を再開しました」という声が多く聞かれてきました。 その一方で、「コロナが怖いから、まだ人と会うことや外出は極力控えています」という声や、 「久しぶりに外出したら、駅や電車に人が多くてびっくりした」という声も聞かれます。

勤務先の内科外来に発熱を含む風邪症状を主訴に受診される患者さんの数の推移や日本の新規感染者数のデータから、 私は新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染症の第6波は3月末で落ち着くだろうと予想していました。 しかしながら、2022年4月3日時点の新規感染者数は7,899人であり、最も多かった2月9日の1万8,287人からは減少しているものの、3月中旬の感染者数とあまり変わりません。 第6波はピークアウトしたとはいえ、感染者数が横ばいで推移しているのと同様に、風邪症状を認めて内科外来を受診される方も、一時期よりは減ったものの、まだまだいらっしゃいます。

つい先日のことでした。 「派遣で働いているので、翌日発熱して休んだら仕事がなくなってしまう。本当はコロナワクチンを打ちたいのですが、まだ接種できていないのです‥」と診察室に入るなりおっしゃる50代の女性がいました。 発熱はしていないものの、咳と喉の痛みが数日前から続いており、「コロナだったらどうしよう」と不安になり受診された方でした。 「コロナになって休むことになっても仕事を失うし、コロナワクチンを接種したい気持ちは当初から持っているものの、ワクチンを接種した翌日に熱がでたら勤務できず仕事を失うし、 かといってワクチン接種のために休みを確保することもできない……」とおっしゃいました。

PCR検査でコロナ陽性と判明したら、医師には発生届を作成し保健所に提出する義務があります。 発生届にはコロナワクチン接種の有無や接種日、ワクチンの種類など接種歴の有無を詳しく書く蘭があるため、未接種であるかどうかも分かります。 そこで私は、無理のない範囲内で未接種の理由を聞くようにしています。 ワクチン未接種につながるワクチン忌避は、世界共通の問題であるからです。

ワクチン忌避にかかわる要因は、主に3つあることが指摘されています。 1つ目は「信頼(confidence)」です。 政府や医療に対する不信、ワクチンの有効性や安全性に対する不信は、ワクチン接種を進めるうえで障壁となる可能性が指摘されています。 外来でも、「ワクチンは信頼できないから打ちたくない」「国産のコロナワクチンでないと接種しません」という声は少なからず聞かれます。

2020年10月にネイチャーメディシンに掲載されたJV Lazarus氏らが19カ国を対象とした調査の結果、 「政府を信頼している」と答えた人は「信頼していない」と答えた人よりも、ワクチンを受け入れる可能性が高かったことが分かりました。 RJD Vergara氏らは、コロナワクチンに限らず、ワクチン接種の普及は国民の政府への信頼に基づくと言及しています。

2つ目は「利便性(convenience)」です。 1回目のコロナワクチンの集団接種が始まった当初、「自宅近くの接種会場では全く予約が取れず、電車やバスを乗り継いで来た」「オンライン予約できず、孫に予約してもらった」という声をよく聞きました。 接種場所や時間、価格、接種サービスの質、接種の予約などが「利便性」にかかわります。 特に、孤立した高齢者や貧困層といった社会から取り残されがちな集団は、接種費用が無料であっても、「オンライン予約ができない」「接種会場まで行く手段がない」などの問題が残ることが指摘されています。 予約ができない、接種会場まで行く手段がない、といった理由で諦めた方は結構いらっしゃるのかもしれないと、集団接種のお手伝いをして感じました。

3つ目がワクチン接種に対する「自己満足(complacensy)」です。 ワクチン未接種の理由をうかがうと、「すでにコロナにかかったから、ワクチン接種をしないことにした」とおっしゃる方にお会いしたことがありますが、 ワクチン接種は必要ないと判断し「自己満足」した一例です。 コロナワクチン接種に伴うリスクとコロナになるリスクとを比較検討し「自分にとってワクチン接種は必要ではない」と判断した結果、「自己満足」し、結果的にワクチン未接種になるという訳です。

しかしながら、2月中旬、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N EJM)にオンライン公開された最新の研究報告によると、 イスラエルの約15万人分の医療記録からファーザー製のコロナワクチン接種前にコロナ感染から回復した患者におけるコロナ再感染率を評価した結果、 コロナワクチン接種は16歳から64歳の人の再感染の82%、65歳以上の人の再感染の60%を防ぐことが分かりました。 「コロナ罹患後にファイザー製のワクチンを少なくとも1回接種することで、再感染のリスクが有意に低くなったことが最新の研究で報告されましたよ」と紹介しながら、 過去にコロナになってしまった人に対し、私はワクチン接種を薦めるようにしています。

これら以外にも、コロナのワクチンに関するSNS上のニセ情報や、コロナのニュース自体にあまり接していないことなども、ワクチン接種をためらう要因となりうるとされています。 「テレビ番組・ラジオ・友人・親が、こういっていたけど、本当ですか? どうなのですか?」と聞かれることは、いまだにとっても多いです。

このようなワクチン忌避の理由が未接種につながるものだと思っていたのですが、それだけではなく、 冒頭にご紹介したような「接種したくても、仕事が休めずどうしても打てない」と言う理由に加えて、 「一人暮らしだから(接種しなくていいと判断した)」「在宅勤務になってしまい外出しないから(接種しなくていいと考えた)」「親が接種しなくていいと言うから」という理由もありました。

ワクチン忌避に関する調査結果は、たくさん報告されています。 ただし、それらの多くが、私が行ったようなアンケートを基本とした調査です。 実際にワクチン接種を受けなかった人たちに関する報告はほとんどありません。 外来の場で聞く限りではありますが、ワクチン忌避だけでなく、さまざまな理由により接種したくても接種できていないという方が少なからずいらっしゃることを考慮すると、 ワクチン忌避とワクチン未接種が必ずしも結びついていない可能性があると私は考えています。

昨年実施された1・2回目の集団接種の際にコロナワクチンを接種しなかった人についての情報(年齢、性別、同居家族の有無など)を現在、調査中です。 未接種者の特徴が明らかになれば、現在進行中の3回目の追加接種や計画が始まっている4回目の接種を進めるうえで大いに役立つのではないかと、私は考えています。


山本 佳奈(やまもと かな)

1989年生まれ。滋賀県出身。医師。 2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。 ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
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