市民のためのがん治療の会
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『製薬マネーデータベースの歩みとこれから(薬のおカネを議論しよう第107回)』


医療ガバナンス研究所医師
尾崎章彦
製薬メーカーから医師への金銭の提供は、依然としてとどまるところを知らないようだ。 当欄でもこの問題は従前より報告させていただいているが、膨大な作業を身銭を切って取り組んでおられることからその信頼性は高く、メディアも製薬メーカーに忖度してかほとんど報道されない。 一方でむしろ国際的な評価が高く、今回も関連論文が国際学術雑誌に掲載されたとのことである。
なお、2021年度製薬会社別支払いは「製薬マネーデータベース『YEN FOR DOCS』の2021年度版(最新)」に掲載されているが、本稿の理解を深めるため、末尾に掲載させていただいた。
また、「来年度中頃には医療機器マネーの公開も開始予定」とのことで、大いに期待したい。

この記事の初出は医薬経済2024年2月15日号に掲載された記事で、2024年6月12日MRIC by 医療ガバナンス学会発行(http://medg.jp)に掲載されたものをご許可をいただき転載させていただきました。
ご厚意に感謝いたします。
(會田 昭一郎)

24年2月2日、製薬マネーデータベースへのアクセス(インターネット経由)を解析した論文が国際学術雑誌である『Health Policy and Technology』に掲載された。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2211883724000108

本稿では、そのエッセンスとともに、製薬マネーデータベースの歩みとこれからを紹介したい。

我われが最初に製薬マネーの調査結果を公表したのは5年前のことだ。 19年1月には、製薬企業が医療者や医療機関に支払った金銭のデータを統合、「製薬マネーデータベース」としてネット上で無料公開を開始した。 現在、16年から20年までのデータを公開している。

今回の論文では、公開が開始された19年1月15日から21年5月24日にかけてのアクセスを対象とした。 その結果、35万4863人からのべ60万4903回のアクセスがあり、総ページビューは563万5087回であった。 ある情報筋によると、一般的な企業のコーポレートサイトでは、1ヵ月あたりのPVの目安は3000~1万PV程度という。 もちろん会社やサービス、商品の知名度によって変わってくるが、一般的なサイトと比べて、より多くの方々が製薬マネーデータベースを訪問してくれていると言えそうだ。

実際、つい先日も、Yahoo知恵袋で「21年の製薬マネーデータベースはいつ公開されますか」という質問を見つけた。 「Yahoo知恵袋ではなく、我われに直接尋ねてほしい!」と思いつつも、製薬マネーデータベースは少しずつ社会の公共財として地位を獲得しつつあることを実感できた。

そのうえで、今回の論文はもうひとつ、興味深い事実を提供している。

データベース上でアンケート調査を実施した結果、製薬企業関係者や医療者と比較して一般の方々は、製薬と医療側との金銭関係に対し、極めて懐疑的で批判的な考えを持っているということだ。

奇しくも芸能界のような領域でも昨今、これまでタブー化されていた恥部がどんどん明るみに晒されている。 医療界も、従来以上にコンプライアンスを重視した行動が求められるようになっていると考えるべきだろう。

だが、そうした追い風に喜んでばかりはいられない。 問題は、端的に言えばお金だ。

医療にまつわるお金の流れを明らかにすることは、不正抑止につながり、公益に資する。 ところが公益に資するからといって、その研究にお金が集まるわけではない。 我われも、医療ガバナンス研究所への一般的な寄付や、我われが医療行為の対価としていただいている給与所得などから、その費用の大部分を捻出しているのが実情だ。

そもそも製薬企業から医療者に支払われる金銭に関するデータベースを、医療ガバナンス研究所のような「国とも製薬企業とも直接関わりのない組織」が長期にわたって運用するケースは、他にほとんど見られない。 例えば、欧州にも、欧州全体の製薬マネーをまとめた「Euro For Docs」といった自主的なプロジェクトが存在し、我われの共同研究者も関わっている。 ただ、彼らは「お金がなく、いつまで続けられるかわからない」と嘆いていた。

一方で、見方を変えれば、「自分たちでその費用を賄っているからこそ、自分たちが正しいと信じることを追求できる」とも言える。 その点、国が現在進めている「利益相反データベース」などは、関係各所に配慮した挙げ句、絵に描いた餅になるのではと危惧している。 いずれにしても我われはそのような〝雑音〟に惑わされず、自らの道を突き進んでいきたい。

Yahoo知恵袋の質問に答えるわけではないが、21年度のデータは24年3月末にすでに公開済みであり、多くの方々にアクセスしていただきたい。
https://yenfordocs.jp/

さらに来年度中頃には医療機器マネーの公開も開始予定だ。 読者の方々におかれては、ぜひ楽しみにしていただきたい。

2021年度製薬会社別 支払い
原稿執筆料等
1.第一三共 2,211,917,983円
2.大塚製薬 1,602,051,723円
3.アストラゼネカ 1,580,387,730円
4.中外製薬 1,329,734,100円
5.ノバルティスファーマ 1,318,463,762円
6.日本イーライリリー 1,153,442,784円
7.住友ファーマ 1,080,804,949円
8.武田薬品工業 1,073,329,311円
9.小野薬品工業 1,008,272,582円
10.エーザイ 964,353,900円

2021年度主要20学会別 理事平均受領額
1.日本内科学会 6,221,817円
2.日本皮膚科学会 4,837,684円
3.日本泌尿器科学会 4,731,981円
4.日本眼科学会 3,997,818円
5.日本整形外科学会 2,023,168円
6.日本精神神経学会 1,715,984円
7.日本産科婦人科学会 1,630,332円
8.日本外科学会 1,393,729円
9.日本小児科学会 1,350,239円
10.日本脳神経外科学会 1,049,723円
※調査時点の理事により算出

尾崎 章彦(おざき あきひこ)

外科医。
平成22年3月 東京大学医学部卒
平成22年4月 国保旭中央病院 初期研修医
平成24年4月 一般財団法人竹田健康財団 竹田綜合財団 外科研修医
平成26年10月 南相馬市立総合病院 外科
平成29年1月 大町病院 内科
平成29年7月 常磐病院 乳腺外科
外科研修医時代に経験した東日本大震災に大きな影響を受ける。 平成24年4月からは福島県に移住し、一般外科診療の傍,震災に関連した健康問題や製薬企業と医療者の金銭的利益相反の問題などに取り組んでいる。 専門は乳癌。令和3年12月より福島県立医科大学特任教授(非常勤)に就任
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