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子宮頸がん予防のためのHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン
子宮頸がんは原因が解明されているがん、だから、本当に予防が可能!

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授
今野 良

 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)は、発がん性HPVの中でも特に子宮頸がんの原因として最も多い(60−70%)とされるHPV16型と18型の感染を防ぐワクチンで、海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本では2009年10月に承認され、12月から一般の医療機関で接種できるようになりました。また、2010年には子宮頸がんに関連するHPV16型と18型の感染以外に、コンジローマなどの原因となるHPV6型と11型の感染も防ぐことのできるワクチンが承認されそうです。

 なぜ、ワクチンで子宮頸がんが予防できるのでしょうか。
 子宮頸がんの原因は、ほぼ100%が(HPV)というウイルスの感染です。多くの場合、性行為によって感染すると考えられていて、発がん性(ハイリスク)HPVは、すべての女性の約80%が一生に一度は感染していると報告があるほどとてもありふれたウイルス。このため、性行動のあるすべての女性が子宮頸がんになる可能性を持っています。

 ところで、ワクチンとは、病気の原因となる細菌やウイルスなどを病原性のない無害な状態にしておいて、接種し本当の感染を防ぐ方法です。これまでは、麻疹(はしか)やインフルエンザのように感染症に対する予防接種のみでしたが、子宮頸がんがHPV感染を原因とするがんであることから、HPVの感染をワクチンによって防ぐことで、がんの予防が可能になったわけです。

 ウイルスといっても、その種類によって全く性質が異なります。麻疹(はしか)やインフルエンザでは、激しい全身の症状が起きますが、HPVは初期の一過性感染では全く自覚症状もなく、細胞を調べても異常がありません。発がん性HPVのごく一部が長期間(最低5年から10年以上)の症状を表さない潜伏期を経て、前がん病変となり、その一部が子宮頸がんに進行します。つまり、HPVワクチンは今、接種することにより、将来の子宮頸がんの発生を予防するワクチンです。

 3回のワクチン接種で、発がん性HPVの感染から長期にわたってからだを守ることが可能です。しかし、このワクチンは、すでに今感染しているHPVを排除したり、子宮頸部の前がん病変やがんを治療したりする効果はなく、あくまでも接種後のHPV感染を防ぐものです。

 HPVワクチンは、本物のウイルスに似た偽ウイルスを遺伝子工学的にハイテク技術でつくった新しいワクチンです。このワクチンに含まれる偽ウイルスには本当の中身(遺伝子)がない殻だけの偽ウイルスなので、接種しても感染することはありません。このワクチンの接種対象は10歳以上の女性です。

 成人一般女性に対して、このHPVワクチンを接種した場合には、子宮頸がんを60%程度予防できることが臨床試験で示されています。性行為を始める前の女子では将来の子宮頸がんを70%以上予防できます。性行為開始後の女性に対して、HPVワクチンを接種すると「子宮頸がんになりやすくなる」というデマや噂があるようですが、決してそんなことはありません。若いうちに接種した方が、効率的であるというにすぎません。

 ただし、下記に該当する場合は接種ができません。
(1) 明らかに発熱がある
(2) 重篤な急性疾患にかかっている
(3) このワクチンの成分に対して過敏症を示したことがある
(4) 医師がワクチンを接種すべきではないと判断された場合

 HPVワクチンは、半年間の間に3回(1回目、2回目:1カ月後、3回目:6カ月後)、腕の筋肉に注射します。1〜2回の接種では十分な抗体ができないため、半年の間に3回の接種が必要です。ただし、接種期間の途中で妊娠した際には、その後の接種はいったん中断して、分娩後に再開することとされています。接種期間が半年より延びたからといって効果が落ちることはありません。もちろん、接種後に妊娠がわかったからといって、妊娠中絶の必要などは全くありません。

HPVワクチン接種の副作用
 HPVワクチンを接種した後には、注射した部分が痛むことがあります。注射した部分の痛みや腫れは、体内でウイルス感染に対して防御する仕組みが働くために起こります。通常数日間程度で治ります。副作用の頻度は以下のとおりです。

 頻度10%以上:かゆみ、注射部の痛み・赤み・腫れ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、筋肉痛、関節痛、頭痛、疲労。
 頻度T−10%未満:発疹、じんましん、注射部のしこり、めまい、発熱、上気道感染
 頻度0.1−1%未満:注射部分のピリピリ・ムズムズ感

 極くまれに、アナフィラキシー様症状(血管浮腫、じんましん、呼吸困難など)が表れます。普段と違いおかしいなあという様子がある場合には、遠慮なく医師・看護師に申し出てください。接種時および接種後に立ったままでいると、失神、息苦しさ、動悸などが起こることがありますので、座って安静にしていましょう。

 ワクチンの効果がどのくらい続くのか、追加接種が必要かどうかについては、まだはっきりとわかっていませんが、今のところ、接種後、最低でも20年以上は効果が持続すると推計されています。

HPVワクチンを接種することでHPV 16型とHPV 18型の感染を防ぐことができますが、全ての発がん性HPVの感染を防ぐことができるわけではありません。そのため、ワクチンを接種しなかった場合と比べれば可能性はかなり低いもの(70%以上減少)の、ワクチンを接種していても子宮頸がんにかかる可能性はあります。子宮頸がんを完全に防ぐためには、HPVワクチンの接種だけではなく、定期的に子宮頸がん検診を受けて前がん病変のうちに見つけることが大切です。成人女性ではワクチン接種後も、年に1回は子宮頸がん検診を受けましょう。

 もちろん、ワクチンを受けた成人前の女子は、将来「大人の女性」になったら、検診を受けることを覚えておきましょう。それが、健康で素敵な「女性」や「おかあさん」になるための正しい知識です。


略歴
今野 良 (こんの りょう)

1984年自治医科大学卒業。1998年からHPVの研究開始。1991年、上記テーマで
医学博士。東北大学産婦人科講師、自治医科大学助教授を経て、現職。
日本産婦人科医会がん対策委員会子宮がん小委員長、日本婦人科がん検診学会理
事、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長。子宮頸癌とHPV(検診、ワク
チン、治療)に関する国内外の共同研究と啓発、著作活動に取り組む。


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