放射性物質を服用したり注射によって体内に投与し、病巣で局所治療。あまり知られていないアイソトープ治療とは。
「特殊な放射線治療:アイソトープ治療について」
島根大学 放射線治療科 内田伸恵
アイソトープ治療とは、物質の構成要素である元素のうち放射線を出す性質のあるもの(ラジオアイソトープ(RI);放射性同位元素)を体内に投与しておこなう放射線治療の一種です。
治療では、まず患者さんの体内にアイソトープを投与します。体内の標的病巣に集積したアイソトープは、組織中で数mmしか到達しない弱い放射線を出すため、局所的な放射線治療をおこなうことができます。内照射、非密封小線源療法とも呼ばれます。投与したアイソトープは、病巣に集まって放射線を出す以外は、殆ど尿・汗などとして体外に排泄されます。病巣に集まったアイソトープも時間とともにどんどん弱くなる性質があるので、長期間にわたって体への影響があるわけではありません。
治療では、まず患者さんの体内にアイソトープを投与します。体内の標的病巣に集積したアイソトープは、組織中で数mmしか到達しない弱い放射線を出すため、局所的な放射線治療をおこなうことができます。内照射、非密封小線源療法とも呼ばれます。投与したアイソトープは、病巣に集まって放射線を出す以外は、殆ど尿・汗などとして体外に排泄されます。病巣に集まったアイソトープも時間とともにどんどん弱くなる性質があるので、長期間にわたって体への影響があるわけではありません。
現在、甲状腺疾患に対するヨウ素131内服療法、骨転移の疼痛治療に対する塩化ストロンチウム89()治療、そして悪性リンパ腫に対するイットリウム90()による放射性免疫療法が保険適応となっています。いずれも病巣のがん細胞に対してごく局所的な放射線治療をおこなうので、全身的な副作用が少ない治療です。投与方法も1回の注射やカプセルの内服で終了するので、患者さんの負担も少なくて済みます。
ヨウ素131は、甲状腺がんが、肺や骨に多発転移した状態が主な適応です。甲状腺がんが多発転移した場合、あまり有効な抗がん剤はありません。体外からの放射線照射も、全ての転移病巣に照射するのは、副作用の面からも困難です。甲状腺がんからの転移病巣は ヨウ素を取り込む性質があるので、ヨウ素131というアイソトープの入ったカプセルを内服すると、転移病巣局所で局所的な放射線治療ができる仕組みです。カプセル内服後約3日間の放射線治療室への入室が必要です。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)のコントロールにも有効ですが、これは外来でも治療可能です。
塩化ストロンチウム89は、がんの骨転移の疼痛治療に用います。国内の多施設研究では、70%程度の患者さんで疼痛が改善しています。外来での注射投与で治療します。骨シンチグラフィで転移への集積がみられること、白血球減少などの骨髄抑制がないことを事前に確認する必要があります。どこのがんからの骨転移でも適応がありますが、「骨転移を治す」のではなく、「骨転移による痛みを和らげる」治療という位置づけになっています。
イットリウム90による放射性免疫療法は、B細胞性リンパ腫細胞の表面の特殊なたんぱく質(CD20抗原)を標的とする治療です。特異的に結合する性質の物質(抗CD20抗体)にイットリウム90というアイソトープを結合(標識)させたものを注射投与します。このため抗CD20抗体・イットリウム90が、体内でリンパ腫細胞に特異的に集まり、局所的な放射線治療をおこなうことができます。化学療法やリツキサンが有効でなかった患者さんの約80%に効果があり、約60%の患者さんで治癒が期待できるという報告があります。今のところ保険適応は悪性リンパ腫の中でも特殊な種類の再発・難治性の状態に限られています。
これらのアイソトープ治療はいずれも保険適応で、適切な管理指導のもとでおこなえば侵襲が低く非常に有効な治療です。詳細は放射線治療専門医や核医学専門医にお問い合わせください。
ヨウ素131は、甲状腺がんが、肺や骨に多発転移した状態が主な適応です。甲状腺がんが多発転移した場合、あまり有効な抗がん剤はありません。体外からの放射線照射も、全ての転移病巣に照射するのは、副作用の面からも困難です。甲状腺がんからの転移病巣は ヨウ素を取り込む性質があるので、ヨウ素131というアイソトープの入ったカプセルを内服すると、転移病巣局所で局所的な放射線治療ができる仕組みです。カプセル内服後約3日間の放射線治療室への入室が必要です。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)のコントロールにも有効ですが、これは外来でも治療可能です。
塩化ストロンチウム89は、がんの骨転移の疼痛治療に用います。国内の多施設研究では、70%程度の患者さんで疼痛が改善しています。外来での注射投与で治療します。骨シンチグラフィで転移への集積がみられること、白血球減少などの骨髄抑制がないことを事前に確認する必要があります。どこのがんからの骨転移でも適応がありますが、「骨転移を治す」のではなく、「骨転移による痛みを和らげる」治療という位置づけになっています。
イットリウム90による放射性免疫療法は、B細胞性リンパ腫細胞の表面の特殊なたんぱく質(CD20抗原)を標的とする治療です。特異的に結合する性質の物質(抗CD20抗体)にイットリウム90というアイソトープを結合(標識)させたものを注射投与します。このため抗CD20抗体・イットリウム90が、体内でリンパ腫細胞に特異的に集まり、局所的な放射線治療をおこなうことができます。化学療法やリツキサンが有効でなかった患者さんの約80%に効果があり、約60%の患者さんで治癒が期待できるという報告があります。今のところ保険適応は悪性リンパ腫の中でも特殊な種類の再発・難治性の状態に限られています。
これらのアイソトープ治療はいずれも保険適応で、適切な管理指導のもとでおこなえば侵襲が低く非常に有効な治療です。詳細は放射線治療専門医や核医学専門医にお問い合わせください。
アイソトープが、がん細胞に特異的に集積するのは、何か標的があるのでしょうか。
3種類のアイソトープ治療をご紹介しましたが、それぞれ集積する機序が異なります。 正常の甲状腺にはヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを作る機能があります。甲状腺がんやその転移病巣も、甲状腺組織と同じようにヨウ素を取り込む性質があるため、ヨウ素131が特異的に集積します。
ストロンチウム89はカルシウムと良く似た性質ですので、体内でカルシウムとおなじような振る舞いをします。従って骨が破壊されたり、それを補強しようとして骨代謝が亢進している骨に集積します。 イットリウム90がある種の悪性リンパ腫に集積するのは、この悪性リンパ腫の表面にあるたんぱく質(抗原)に対する抗体とイットリウムをくっつけて(標識)投与するからです。抗原と抗体が結合する、免疫反応を利用しているので放射免疫療法と呼ばれます。
3種類のアイソトープ治療をご紹介しましたが、それぞれ集積する機序が異なります。 正常の甲状腺にはヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを作る機能があります。甲状腺がんやその転移病巣も、甲状腺組織と同じようにヨウ素を取り込む性質があるため、ヨウ素131が特異的に集積します。
ストロンチウム89はカルシウムと良く似た性質ですので、体内でカルシウムとおなじような振る舞いをします。従って骨が破壊されたり、それを補強しようとして骨代謝が亢進している骨に集積します。 イットリウム90がある種の悪性リンパ腫に集積するのは、この悪性リンパ腫の表面にあるたんぱく質(抗原)に対する抗体とイットリウムをくっつけて(標識)投与するからです。抗原と抗体が結合する、免疫反応を利用しているので放射免疫療法と呼ばれます。
先週の「がん医療の今」では、医療放射線防護連絡協議会 総務理事の菊池先生に放射線の安全性についてご寄稿いただきましたが、体内に到達したアイソトープは、到達距離が非常に短いということは、体外にはほとんど出ない、つまり患者以外の人は被曝しないので、安全性も高いわけですね。
周りの人には影響が殆どないので、ストロンチウム89、イットリウム90による放射性免疫療法の場合は、外来治療が可能です。ヨウ素131の場合は、到達距離が長い放射線(ガンマ線)も出しているので、患者以外の人への影響もあります。このため周囲への被曝の影響が一定基準以下になるまで(通常3日間程度)、放射線管理区域内の病室に入院していただく必要があります。
周りの人には影響が殆どないので、ストロンチウム89、イットリウム90による放射性免疫療法の場合は、外来治療が可能です。ヨウ素131の場合は、到達距離が長い放射線(ガンマ線)も出しているので、患者以外の人への影響もあります。このため周囲への被曝の影響が一定基準以下になるまで(通常3日間程度)、放射線管理区域内の病室に入院していただく必要があります。
その上アイソトープは時間とともにどんどん弱くなるということは、いわゆる半減期が短いんですね。
ヨウ素131の場合は半減期が8日程度、ストロンチウム89は59日、イットリウム90は64時間です。
ヨウ素131の場合は半減期が8日程度、ストロンチウム89は59日、イットリウム90は64時間です。
ということは尿などによる排せつも、外部環境に対しても安全ということですね。
ヨウ素131内服後放射線治療管理区域内から退出したのちの状態、および外来治療可能なストロンチウム89、イットリウム90は、排泄物・汗・唾液なども安全基準以下となります。しかしながら、念のため、投与直後などはタオルや歯ブラシを共用しない、お風呂は最後に入る、男性も座って小用をしていただく(周りを汚染しないため)などの生活指導をしています。授乳も避けて頂きます。
ヨウ素131内服後放射線治療管理区域内から退出したのちの状態、および外来治療可能なストロンチウム89、イットリウム90は、排泄物・汗・唾液なども安全基準以下となります。しかしながら、念のため、投与直後などはタオルや歯ブラシを共用しない、お風呂は最後に入る、男性も座って小用をしていただく(周りを汚染しないため)などの生活指導をしています。授乳も避けて頂きます。
多くのがん患者会は国際的に標準治療として用いられている抗がん剤を、日本でも早期に承認してくれという活動をしています。その前にまず治療法についても、国際的に標準治療として適用されている放射線治療が、日本ではいまだに十分に活用されていないのも残念ですね。放射線治療のもう一つの大きな役割として、緩和医療への活用ですが、痛みに対してもすぐに鎮痛剤。外部照射やストロンチウム89を使えばいいのにと思われるケースにも上手に使われていません。苦しむのは患者です。折角認可されたストロンチウム89もあまり活用されていないのでは。
ストロンチウム89は、メーカーの情報では2010年4月7日現在で、約2172例です。また使用可能施設(施設要件完備)が296施設で、登録実績のある施設は251施設です。がん診療連携拠点病院として指定されている375施設でも使用していない病院も多くあります。骨転移の痛みに苦しむ患者さんの数に比べるとほんの僅かしかまだ使用されていないようです。まだまだ認知度が低いのだと思います。
ストロンチウム89は、メーカーの情報では2010年4月7日現在で、約2172例です。また使用可能施設(施設要件完備)が296施設で、登録実績のある施設は251施設です。がん診療連携拠点病院として指定されている375施設でも使用していない病院も多くあります。骨転移の痛みに苦しむ患者さんの数に比べるとほんの僅かしかまだ使用されていないようです。まだまだ認知度が低いのだと思います。
イットリウムー90による放射免疫療法は悪性リンパ腫の中でも特殊な種類の再発・難治性の状態に限って保険適用になるのでしょうか。
「CD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫」が保険適応となっています。CD20という抗原を持っているリンパ腫細胞に対する放射免疫療法なのですから、細胞がCD20を持っていることが前提になります。
「CD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫」が保険適応となっています。CD20という抗原を持っているリンパ腫細胞に対する放射免疫療法なのですから、細胞がCD20を持っていることが前提になります。
内照射の適応となるがんは甲状腺疾患に対するヨウ素131内服療法、骨転移の疼痛に対する塩化ストロンチウム89()治療、そして悪性リンパ腫に対するイットリウム90()による放射免疫療法などとりあえずは保険適用のがんをご紹介いただきましたが、それ以外にも適応になるがんがあるのでしょうか。
副腎の褐色細胞腫という特殊な腫瘍に対する内照射がありますが、日本では未承認です。
副腎の褐色細胞腫という特殊な腫瘍に対する内照射がありますが、日本では未承認です。
先日、東京大学医科学研究所で、中村祐輔先生などのご協力で講演会を行いましたが、その時のテーマが、「治療を受けたい患者と治療したくてもできない研究者、隔てる制度の壁」というものでした。患者会としては、先生方が治療してあげたいとお思いでもできない原因を教えていただけないと、行動に移せません。今回の内照射の制度的な問題点は何でしょうか。
放射線治療は、他院や他科から患者さんを紹介されることが殆どです。このため、主治医や患者さん自身が放射線治療について御存知ないと、せっかく適応があっても治療を受けることができない人が出てきます。 アイソトープ治療も認知度がまだまだ低いということが1点です。
それから 治療施設が限られているのが2点目。特に放射線治療室が必要なヨウ素131治療は、治療施設が足らず、患者さんの治療待ちが長期間になりがちです。 また、アイソトープ治療に対する診療報酬が不十分であったことも、治療施設が少ない要因と考えられています。平成22年4月からの診療報酬改定でようやく少し改善されましたが、まだ不十分で施設整備の費用などを考慮すると採算はとれません。海外で使用できる薬が日本では承認に非常に時間がかかることは、抗癌剤の場合と同じです。
放射線治療は、他院や他科から患者さんを紹介されることが殆どです。このため、主治医や患者さん自身が放射線治療について御存知ないと、せっかく適応があっても治療を受けることができない人が出てきます。 アイソトープ治療も認知度がまだまだ低いということが1点です。
それから 治療施設が限られているのが2点目。特に放射線治療室が必要なヨウ素131治療は、治療施設が足らず、患者さんの治療待ちが長期間になりがちです。 また、アイソトープ治療に対する診療報酬が不十分であったことも、治療施設が少ない要因と考えられています。平成22年4月からの診療報酬改定でようやく少し改善されましたが、まだ不十分で施設整備の費用などを考慮すると採算はとれません。海外で使用できる薬が日本では承認に非常に時間がかかることは、抗癌剤の場合と同じです。
先生方には医学的なご研究などではご苦労いただきたいですが、制度的なことや事務的なことで先生方の貴重な時間などが消耗してゆくのは、本当に見ていて辛い。患者にとっても、国家にとってもこれ以上のマイナスはありません。お手伝いできることはなんとかお手伝いしたいと考えております。タイアップして役割分担し、いい方向に持ってゆきたいですね。
是非、よろしくお願いします。
是非、よろしくお願いします。
最後に内照射のできる施設などのサイトがあればご紹介いただけないでしょうか。例えば甲状腺がんなどでヨウ素ー131を使用する場合は、カプセル内服後約3日間の放射線管理区域内への入室が必要ということですが、放射線治療室などの施設がないと治療ができないわけで、どこでも治療を受けられるというわけではないですね。
甲状腺がんのヨウ素131治療施設、ストロンチウム治療施設や、アイソトープ治療を受けるにあたっての注意点などは腫瘍免疫核医学研究会のサイトから閲覧できます。
http://oncology.jsnm.org
甲状腺がんのヨウ素131治療施設、ストロンチウム治療施設や、アイソトープ治療を受けるにあたっての注意点などは腫瘍免疫核医学研究会のサイトから閲覧できます。
http://oncology.jsnm.org
略歴
内田 伸恵 (うちだ のぶえ)
昭和59年 | 島根医科大学医学部卒 |
島根医科大学附属病院医員(研修医)(放射線科) | |
昭和61年 | 国澤病院 |
平成3年 | 島根医科大学大学院医学研究科形態系専攻博士課程入学 |
平成7年 | 同上修了 |
平成12年 | 島根医科大学助教授放射線医学講座) |
平成15年 | 島根大学医学部助教授(放射線医学講座) |
平成20年 | 島根大学医学部教授(放射線医学講座 がん放射線治療教育学) |
放射線治療科長 |