気付かぬうちに悪化も、増加する皮膚がん
『皮膚癌について』
西尾皮膚科医院院長
西尾千恵子
(會田)
高齢化に伴い、皮膚癌は増加傾向にある。一概に皮膚癌と言っても多くの種類があるが、今回は比較的多く見られる皮膚癌について紹介する。
日光角化症:
皮膚を構成している表皮角化細胞は、主に紫外線の影響で癌化し、皮膚の浅いところに病変を生じる(上皮内癌)。高齢者の顔面や手背に、限局した紅くカサカサした病変や、難治性の浅い傷(びらん)として見られ、日光角化症、又は老人性角化症と呼ばれている。疑わしい病変は、皮膚生検により組織学的に診断する。白人の高齢者には必発といわれているが、日本でも高齢化のため増加している。戸外スポーツなどで、長時間、直射日光に暴露される時は、日焼け止め(サンスクリーン)の使用が望ましい。
治療としては、浅い病変であることから、液体窒素を用いた凍結治療が一般的に行われているが再発例が多い。再発例は、有棘細胞癌への移行が疑われるので外科的切除が望ましい。
日光角化症とは異なり、表面にびらんや痂疲を伴い、紅色〜褐色の浸潤性局面として見られる上皮内癌もある。ボーエン病と呼ばれている。湿疹病変と似ているが、境界が明瞭でステロイドに反応しない場合は、ボーエン病が疑われる。放置すると進行して有棘細胞癌になるので、外科的切除が必要である。
有棘細胞癌:
表皮角化細胞由来の浸潤癌である。扁平上皮癌と同義語である。日光角化症やボーエン病を前駆病変として進展するものが多い。その他、熱傷瘢痕や慢性の皮膚潰瘍からの発生もある。60%が日光露出部に生じていることから、紫外線が主な誘因と考えられる。高齢者の顔面、手背に好発する。前述の前駆病変に、隆起性病変が出現し次第に拡大して腫瘤や難治性潰瘍として発症する。治療は外科的切除が一般的である。
悪性度の指標として用いられているBrodersの分化度分類では、角化している割合により1〜4度に分けられている。角化傾向が高い分化型(分化度1)で、腫瘍径2cm以下では低リスク、腫瘍径2cmを超えるか角化傾向が低い場合は(分化度2以上)高リスクとされる。高リスク群では、術後放射線療法を行うことが推奨されている。根治的手術が不可能な症例では、根治的放射線治療が行われる。
基底細胞癌:
表皮の最下層である基底層(表皮角化細胞が細胞分裂する層)や毛包を構成する細胞から発生する癌で、高齢者の顔面正中部に好発する。日本人で最も多い皮膚癌で、毎年10万人あたり5人以上と推定されている。紫外線を主な誘因として生じると考えられている。初期の基底細胞がんは、痛みやかゆみのない、黒色や灰黒色で光沢のある小さなしこりとして発症し、「ほくろ」によく似ている。その後、何年もの時間をかけて少しずつ増大し、中央部が傷(潰瘍)となり、周囲を黒い丘疹に縁取られた臨床像となっていく。
(写真: 基底細胞がんの臨床像)
高齢者の顔面の難治性の傷(潰瘍)は本症の可能性が高いので、生検して早く確定診断することが望ましい。遠隔転移は少ないが局所再発が多いので、深部まで十分な切除が必要である。基底細胞癌の予後は概ね良好で、再発率5%、遠隔転移0.2%以下である。
乳房外パジェット病(癌):
皮膚付属器から発生する癌は、頻度が少ないので、比較的多く見られる乳房外パジェット病について述べる。乳癌の特殊形に、乳房の皮膚に広く拡大する乳房パジェット癌がある。乳房以外にも、乳房パジェット癌に似て、皮膚表面に拡大して進展する特殊な癌があり乳房外パジェット病(癌)と称されている。乳房外パジェット病(癌)は、外陰部、腋窩、肛門に好発する。これらの部位に存在するアポクリン腺に由来する癌と考えられている。
通常、自覚症状のない紅斑として始まり、徐々に傷(びらん)を伴い拡大する。特殊な部位に発生するので、羞恥心のため医療機関への受診が遅れることが多い。進行すると結節・腫瘤を形成し(浸潤癌)、所属リンパ節転移や遠隔転移を起こす。
医療機関でも湿疹やインキンタムシ(白癬症)と誤診されやすい。本症を疑われる場合には、すみやかに生検し確定診断することが必要である。治療の第一選択は外科的切除だが、部位的に全切除が難しい場合もある。切除不能例や転移巣に放射線治療が行われる場合もある。
5年生存率は、微小浸潤の場合90%以上だが、深部浸潤すると60%まで落ちる。外陰部、腋窩、肛門周囲に難治性紅斑病変がある場合は、早期の皮膚科受診がのぞまれる。
(写真:陰嚢のパジェット癌)
悪性黒色腫(メラノーマ):
色素細胞が癌化して生じるまれな皮膚悪性腫瘍で、有棘細胞癌、基底細胞癌に次ぐ発生頻度であり、発生数は1年間に2人/10万人程度で、患者数のピークは60歳代である。欧米に比し発生率は少ないが、増加傾向にある。悪性黒色腫はホクロの癌と言われているが、ホクロ(色素細胞性母斑)から生じるのではなく、最初から、悪性黒色腫(表皮内黒色腫)として発生する。
症状により表在拡大型、悪性黒子型、肢端黒子型、結節型の4病型に分類される。日本人では、手掌、足底、爪部にホクロ(黒子)のような色素斑で発症する肢端黒子型が多い(悪性黒色腫の45%)。特に足底部が最好発部位である(同30%)
ホクロに比し、早期の黒色腫は、不規則な形で、色調の濃淡不整を認め、増大傾向が見られるといった特徴がある。
(写真: 悪性黒色腫の臨床像)
表皮内黒色腫からtumor thickness(腫瘍の深さ)1mm以下の早期病変で切除されると予後はきわめて良好である。切除も小範囲ですむ。本症が疑われたら早期に皮膚科専門医の受診してほしい。皮膚科では、ダーモスコピーという拡大鏡を使って詳細に腫瘍を観察し診断する。
悪性黒色腫は進行すると、転移し易く非常に悪性度の高い腫瘍である。Tumor thickness が2mm以上になると、リンパ行性転移が高率に見られる。
以前は予防的リンパ節廓清が行われていたが、廓清による弊害も多いため現在はセンチネルリンパ節生検が行われている。これは、原発巣部に色素などのトレサーを皮内注射して最初に標識されるリンパ節を同定し、これを生検して顕微鏡で転移の有無を確認し、転移があった場合にリンパ節廓清を行う方法である。この方法で、不必要なリンパ節廓清を避けるようになってきている。
リンパ節転移のある病期Vの黒色腫の45〜60%に遠隔転移が生じる。遠隔転移を起こした悪性黒色腫はきわめて難治である。放射線療法により局所制御が得えられる場合もあるが、有効な全身療法は確立されていない。
最近、悪性黒色腫細胞における遺伝子変異、分子異常の解明が進み分子標的薬による新たな治療法の開発が始められている。悪性黒色腫こそ、早期診断、早期治療がもっとも有効な腫瘍である。
以上、皮膚癌について概説したが、一般的に予後良好な腫瘍であっても、進行すると命取りとなる。見える部位だけに注意して皮膚の変化を観察することが望まれる。
最近、みのもんたさんの奥様が皮膚がんで亡くなりました。皮膚がんはそんなに多いがんではないのであまり注目されませんが、内臓のがんのように検査しなければわからないがんとは違って見ればわかるのですが、それだけに却って見逃されやすい。私も舌がんで、やはり鏡に映せば見えるので、ケナログ(口腔炎などに用いられる口腔用軟膏)などで治療しようとしたりして。手遅れになったりしやすいこともありますね。
癌一般につい言えると思いますが、最初は小さな軽い病変で始まるので、市販の軟膏などを塗っている方が多いです。時間がたっても治らない場合は悪性の病変であることが多いです。
癌一般につい言えると思いますが、最初は小さな軽い病変で始まるので、市販の軟膏などを塗っている方が多いです。時間がたっても治らない場合は悪性の病変であることが多いです。
そういう観点から、皮膚科学会などで市民向けにHPなどで、こんな時には皮膚科で診ていただいたら、というようなガイドラインなど示しておられるところがあればご紹介ください。
日本皮膚悪性腫瘍学会が、ホームページに皮膚癌の写真を載せて分かり易く解説しています。(http://www.skincancer.jp/) 皮膚癌の治療方針については、ガイドラインが日本皮膚科学会のホームページに掲載されています。(http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/ )
日本皮膚悪性腫瘍学会が、ホームページに皮膚癌の写真を載せて分かり易く解説しています。(http://www.skincancer.jp/) 皮膚癌の治療方針については、ガイドラインが日本皮膚科学会のホームページに掲載されています。(http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/ )
これから夏本番。意外に秋のお彼岸を中心とする行楽シーズンにかけても紫外線は強烈になるようですが、皮膚がんの最大の要因の日照について、アドバイスいただければ。日本のように穏やかな気候の地域は地球上でも珍しいと思いますが、日本のようなところではわざわざ日光浴をする必要もないと思いますが。
皮膚癌の多いオーストラリアでは、紫外線と皮膚癌発生について多く研究され、サンスクリーン剤は日光角化症や有棘細胞癌の発生を約30%減少させると報告されています。日本では、大規模な研究は少ないのですが、兵庫県と沖縄県における日光角化症の罹患率を比較した研究では、沖縄県の罹患率は兵庫の5倍であると報告されています。通常の日常生活でも、紫外線は一定程度浴びていますのでわざわざ日光浴することはお勧めできません。
皮膚癌の多いオーストラリアでは、紫外線と皮膚癌発生について多く研究され、サンスクリーン剤は日光角化症や有棘細胞癌の発生を約30%減少させると報告されています。日本では、大規模な研究は少ないのですが、兵庫県と沖縄県における日光角化症の罹患率を比較した研究では、沖縄県の罹患率は兵庫の5倍であると報告されています。通常の日常生活でも、紫外線は一定程度浴びていますのでわざわざ日光浴することはお勧めできません。
美容上のことからでしょうが、「日焼けサロン」といったところも見受けられますが、美容と危険の難しいところですね。消費者保護の見地からは、ロングマフラーとか厚底サンダルなど、美容と危険の見地から、危険の方が大きいということになって市場から消えた商品もありますが。
日本人の有棘細胞癌の60%は日光露出部に発生すると報告されています。白人ほどではありませんが、その発生に日光紫外線が関与していると考えられます。また、紫外線はシミやシワの原因にもなります。若い時は考えが及ばないかもしれませんが、紫外線の影響は時間がたってからでてきます。紫外線の害を、是非、若い人にも知ってほしいです。
日本人の有棘細胞癌の60%は日光露出部に発生すると報告されています。白人ほどではありませんが、その発生に日光紫外線が関与していると考えられます。また、紫外線はシミやシワの原因にもなります。若い時は考えが及ばないかもしれませんが、紫外線の影響は時間がたってからでてきます。紫外線の害を、是非、若い人にも知ってほしいです。
略歴
西尾千恵子 (にしおちえこ)
昭和48年札幌医科大学卒業、同大皮膚科入局。同大皮膚科助手、講師を経て昭和60年 札幌市白石区に西尾皮膚科医院を開業、現在にいたる。
札幌医科大学皮膚科学講座非常勤講師。皮膚科専門医、医学博士
所属学会:日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科学会、東洋医学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会
昭和48年札幌医科大学卒業、同大皮膚科入局。同大皮膚科助手、講師を経て昭和60年 札幌市白石区に西尾皮膚科医院を開業、現在にいたる。
札幌医科大学皮膚科学講座非常勤講師。皮膚科専門医、医学博士
所属学会:日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科学会、東洋医学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会