日本のジェネリックは高すぎる
『高いジェネリックが新薬開発を阻害している』
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
院長 多田 智裕
http://www.com-info.org/ima/ima_20120613_tada.html) もご覧ください)
にもあるとおり、簡単にジェネリックで代替できるというものではないようだ。
おまけに多田先生のおっしゃる通り、日本ではジェネリックに替えても、たいして安くはならない。
たいして安くもならないのに安全性や効果に疑問のあるジェネリックの利用を促すために、個別に郵便でお知らせを配布したり、膨大な費用を掛けての政府広報などが行われているのを見ると、何のためにジェネリック利用促進をPRしているのか分からない。
なお、このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)
http://jbpress.ismedia.jp/
2014年12月1日に掲載されたものをご厚意で転載させていただいたものです。 いつもながらの多田先生のご厚意に感謝いたします。(會田昭一郎)
11月19日 自民党行政改革推進本部が「医療費抑制のため、全ての処方箋に安価な後発医薬品(ジェネリック)を調剤するよう」求める提言を衆院選の公約に反映させる方針を決めたという報道がありました。
具体的には、「先発医薬品を希望する場合には後発品との差額を患者の自費負担で行う」ことを目指すとされています。
日本の医療費が増えている理由の1つとして、「薬剤価格が高い」「薬剤使用量が多い」ことが挙げられるのは間違いありません。安いジェネリックを使用すれば、年間3000億円ほどの医療費削減効果が見込まれると言われます。それを聞けば、誰もがそうすべきだと思うことでしょう。
でも、日本の薬剤費の金額は年間8兆円に及びます。ですから、ジェネリックによって節約されるとされる3000億円はそのうちの数%に過ぎません。私は、ジェネリックの推進よりも、ジェネリックの“価格決定方法”を見直すことの方が重要だと考えています。なぜなら現在の日本のジェネリック価格は法外に高く、それが新薬開発を阻害しているのです。しかし、そのことは一般の方にほとんど理解されていないようです。
ジェネリックは「先発品と同じ」ではありません
以前のコラム「ジェネリックは『先発品と同じ薬』ではありません」でも述べましたが、ジェネリック(後発医薬品)は「先発医薬品と同一の有効成分を同一量含有している」だけであり、添加物などは異なります。先発医薬品と決して「同じ」ではありません。
ジェネリックに変更して薬の効果が明らかに低下した症例や、添加物による副作用と思われるアレルギー症例を経験している医師は、私を含めて数多くいると思われます。ですから「質を落とさない薬剤費の抑制」の一番正当な方策は、「特許切れの先発品価格をジェネリックと同じ程度の価格にする」ことのはずです。
なぜ、それができないのでしょうか?これを理解するには、ジェネリックの価格決定メカニズムを見ていく必要があります。
ジェネリックを高く設定する日本の価格決定方式
アメリカでは先発品の特許が切れた後に発売されるジェネリックの値段は「先発医薬品の10〜20%」が相場です。しかし、日本では、厚生労働省により「先発医薬品の60%」と高く設定されているのです。いくら、ジェネリックの安全性の確保と安定供給のためとはいえ、ジェネリックの開発費は新薬の100分の1もかからないことを考えると、この価格設定はジェネリックメーカーに過度の利益をもたらしている可能性が高いといえるでしょう。
また、ジェネリック価格が高く設定されていることにより、日本では先発医薬品の売り上げがジェネリック発売後もそれほど下がりません。ジェネリックが先発品の15%程度の価格で発売されているアメリカでは、ジェネリック発売後のわずか半年後に先発品は7割のシェアを失うとされています。そして、その後も続くジェネリックメーカーの価格攻勢により、特許が失効した先発品は採算がとれなくなりなり、売却されることも少なくありません。
このような過酷なメカニズムによって、「特許切れの先発品価格がジェネリックと同じ程度の価格になる」ことが達成されているのです。一方、ジェネリックと先発品の価格差が少ない日本では、ジェネリック発売後1年に先発品が失うシェアは1割程度にすぎないと推定されています。
5000円の薬が800円になれば、7割以上の人はすぐに変更することでしょう。しかし、3000〜4000円にしかならないのであれば、大半の人が変更しないのも当たり前です。ジェネリックの価格が高く設定されているために、先発品メーカーは特許切れ後も利益を挙げ続けられます。結果として、製薬メーカーの新薬開発への取り組みが遅くなるという悪影響が生じています。その上、私たちは特許切れの薬を安く購入できない状態におかれているのです。
ジェネリックの価格は高いが新薬は低く抑えられている
話はそれだけでは終わりません。日本では、ジェネリックが高価格で維持されている一方で、新薬の価格は低く抑えられています。胃腸科の例で言うと、3年前にアストラゼネカ(イギリスの製薬メーカー)から発売された、逆流性食道炎などに対する新薬「ネキシウム」(胃酸分泌抑制薬)は、なんと同社の既存薬の「オメプラール」よりもよりも薬価が安いのです(オメプラール97.0円に対して、ネキシウム96.7円での新規薬価収載)
海外で高い売り上げを誇る「良い薬が安く入った」と喜ぶのは早計すぎます。「新薬が既存薬と同等の値段でしか薬価収載されない」というルールのため、武田製薬の「タケプロン」の改良薬「TAK-390MR」が開発中止(薬としては完成しているが、発売申請を取り下げた)になるなど、新薬の国内発売が断念される例が相次いでいるからです。タケプロンの例で言うと、これは武田製薬が悪いわけではありません。高額なコストをかけて新薬を開発しても、既存薬であるタケプロンより安い値段しか認められないのであれば、会社としてタケプロンを販売し続ける方を選ぶのは当然のことでしょう。
このように、新薬を安く認可すること、は巡り巡って、新薬の国内での発売断念というというデメリットを私たちにもたらすのです。「ドラックラグ」と言われる、海外の薬が日本で薬が手に入らない事態は単に、認可が遅いという理由だけでは決してありません。
ジェネリックの調剤を義務づけるのが本当に成長戦略なのか?
これまでの話をまとめますと、日本ではジェネリックを高く設定し、新薬を安く設定しているということです。つまり私たちは、ジェネリックを高値で、そして先発医薬品を安値で購入する環境に置かれているのです。これでは、日本でのジェネリックの普及が他国に比べて進まないのは当然です。単純に、国民一人ひとりが合理的な選択をしているだけなのです。アベノミクスの成長戦略は、この状況を放置するのでしょうか? あくまでもジェネリックは、「安価な後発品」だとして、先発品の代わりにジェネリックを調剤することを義務づけることになのでしょうか?
私は、そうではなく、ジェネリックの価格を適正に引き下げ、新薬に開発費用を盛り込んだ価格を設定する方を先に行うべきではないかと考えます。ジェネリックの価格低下は利用者にメリットをもたらします。同時に新薬に加算を設定して、特許切れの薬から新薬への新陳代謝を促すことこそが、真の成長戦略なのではないでしょうか。
略歴具体的には、「先発医薬品を希望する場合には後発品との差額を患者の自費負担で行う」ことを目指すとされています。
日本の医療費が増えている理由の1つとして、「薬剤価格が高い」「薬剤使用量が多い」ことが挙げられるのは間違いありません。安いジェネリックを使用すれば、年間3000億円ほどの医療費削減効果が見込まれると言われます。それを聞けば、誰もがそうすべきだと思うことでしょう。
でも、日本の薬剤費の金額は年間8兆円に及びます。ですから、ジェネリックによって節約されるとされる3000億円はそのうちの数%に過ぎません。私は、ジェネリックの推進よりも、ジェネリックの“価格決定方法”を見直すことの方が重要だと考えています。なぜなら現在の日本のジェネリック価格は法外に高く、それが新薬開発を阻害しているのです。しかし、そのことは一般の方にほとんど理解されていないようです。
ジェネリックは「先発品と同じ」ではありません
以前のコラム「ジェネリックは『先発品と同じ薬』ではありません」でも述べましたが、ジェネリック(後発医薬品)は「先発医薬品と同一の有効成分を同一量含有している」だけであり、添加物などは異なります。先発医薬品と決して「同じ」ではありません。
ジェネリックに変更して薬の効果が明らかに低下した症例や、添加物による副作用と思われるアレルギー症例を経験している医師は、私を含めて数多くいると思われます。ですから「質を落とさない薬剤費の抑制」の一番正当な方策は、「特許切れの先発品価格をジェネリックと同じ程度の価格にする」ことのはずです。
なぜ、それができないのでしょうか?これを理解するには、ジェネリックの価格決定メカニズムを見ていく必要があります。
ジェネリックを高く設定する日本の価格決定方式
アメリカでは先発品の特許が切れた後に発売されるジェネリックの値段は「先発医薬品の10〜20%」が相場です。しかし、日本では、厚生労働省により「先発医薬品の60%」と高く設定されているのです。いくら、ジェネリックの安全性の確保と安定供給のためとはいえ、ジェネリックの開発費は新薬の100分の1もかからないことを考えると、この価格設定はジェネリックメーカーに過度の利益をもたらしている可能性が高いといえるでしょう。
また、ジェネリック価格が高く設定されていることにより、日本では先発医薬品の売り上げがジェネリック発売後もそれほど下がりません。ジェネリックが先発品の15%程度の価格で発売されているアメリカでは、ジェネリック発売後のわずか半年後に先発品は7割のシェアを失うとされています。そして、その後も続くジェネリックメーカーの価格攻勢により、特許が失効した先発品は採算がとれなくなりなり、売却されることも少なくありません。
このような過酷なメカニズムによって、「特許切れの先発品価格がジェネリックと同じ程度の価格になる」ことが達成されているのです。一方、ジェネリックと先発品の価格差が少ない日本では、ジェネリック発売後1年に先発品が失うシェアは1割程度にすぎないと推定されています。
5000円の薬が800円になれば、7割以上の人はすぐに変更することでしょう。しかし、3000〜4000円にしかならないのであれば、大半の人が変更しないのも当たり前です。ジェネリックの価格が高く設定されているために、先発品メーカーは特許切れ後も利益を挙げ続けられます。結果として、製薬メーカーの新薬開発への取り組みが遅くなるという悪影響が生じています。その上、私たちは特許切れの薬を安く購入できない状態におかれているのです。
ジェネリックの価格は高いが新薬は低く抑えられている
話はそれだけでは終わりません。日本では、ジェネリックが高価格で維持されている一方で、新薬の価格は低く抑えられています。胃腸科の例で言うと、3年前にアストラゼネカ(イギリスの製薬メーカー)から発売された、逆流性食道炎などに対する新薬「ネキシウム」(胃酸分泌抑制薬)は、なんと同社の既存薬の「オメプラール」よりもよりも薬価が安いのです(オメプラール97.0円に対して、ネキシウム96.7円での新規薬価収載)
海外で高い売り上げを誇る「良い薬が安く入った」と喜ぶのは早計すぎます。「新薬が既存薬と同等の値段でしか薬価収載されない」というルールのため、武田製薬の「タケプロン」の改良薬「TAK-390MR」が開発中止(薬としては完成しているが、発売申請を取り下げた)になるなど、新薬の国内発売が断念される例が相次いでいるからです。タケプロンの例で言うと、これは武田製薬が悪いわけではありません。高額なコストをかけて新薬を開発しても、既存薬であるタケプロンより安い値段しか認められないのであれば、会社としてタケプロンを販売し続ける方を選ぶのは当然のことでしょう。
このように、新薬を安く認可すること、は巡り巡って、新薬の国内での発売断念というというデメリットを私たちにもたらすのです。「ドラックラグ」と言われる、海外の薬が日本で薬が手に入らない事態は単に、認可が遅いという理由だけでは決してありません。
ジェネリックの調剤を義務づけるのが本当に成長戦略なのか?
これまでの話をまとめますと、日本ではジェネリックを高く設定し、新薬を安く設定しているということです。つまり私たちは、ジェネリックを高値で、そして先発医薬品を安値で購入する環境に置かれているのです。これでは、日本でのジェネリックの普及が他国に比べて進まないのは当然です。単純に、国民一人ひとりが合理的な選択をしているだけなのです。アベノミクスの成長戦略は、この状況を放置するのでしょうか? あくまでもジェネリックは、「安価な後発品」だとして、先発品の代わりにジェネリックを調剤することを義務づけることになのでしょうか?
私は、そうではなく、ジェネリックの価格を適正に引き下げ、新薬に開発費用を盛り込んだ価格を設定する方を先に行うべきではないかと考えます。ジェネリックの価格低下は利用者にメリットをもたらします。同時に新薬に加算を設定して、特許切れの薬から新薬への新陳代謝を促すことこそが、真の成長戦略なのではないでしょうか。
多田 智裕(ただ ともひろ)
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士