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市民のためのがん治療の会
4月9日「子宮の日」に因んで
『子宮がんに対する放射線療』

独立行政法人 国立病院機構 福山医療センター 放射線治療科
(前 広島大学病院放射線治療科)
兼安 祐子
4月9日は「子宮の日」ということで、様々なイベントなども催されるようだ。
「がん医療の今」もこれに因んで子宮がんについて取り上げ、前・広島大学病院放射線治療科で 現・福山医療センター放射線治療科の兼安先生に子宮がんの放射線治療についてご寄稿いただいた。
最近、若年者の子宮がんも増加しており、放射線治療で切らずに済んで子宮を温存できたとしても、 残念ながら母性を失う場合もあるようで、大きな問題だ。
今後の研究によって、これらの問題の解決が進展することを切望する。
なお、長文のため、次週に掛けて連載させていただきます。
(會田 昭一郎)
子宮がんに対する放射線療法
 子宮がんは子宮頸がんと子宮体がんに分類されます。今回は、子宮がんに対する放射線療法についてお話します。

1.子宮頸がん
 子宮頸がんとは、子宮の下1/ 3 にある子宮頸部という部分に出来た癌のことです。 日本国内で子宮頸がんを発症する人は年間 約10000人で、死亡する人は約3500人です。 比較的若い人から高齢者まで幅広い年齢の女性に発症しますが、わが国では最近若年者を中心に増加傾向にあります。
 子宮頸がんの原因は主に性交渉によるヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus; HPV)感染です。 HPV はごくありふれたウイルスで多くの女性が一生に一度は感染するといわれています。 HPVに感染しても多くの場合は免疫の力で自然にウイルスは消滅しますが、がんを誘発するハイリスク型の HPVの感染が長期にわたり持続した場合、がんの発生の原因になる可能性があるとされています。
 主な症状は性器出血ですが、早期には症状はありません。検診を受けることで早期発見できます。 早期に発見すると治療しやすく治りやすいがんですので、検診が有効とされています。 また、細胞診には限界がありますが (CIN2/3検出感度は70-80%)、HPV検査を組み合わせることで、 病変検出率が95%以上になります。 しかし、わが国の子宮頸がん検診受診率は30%と欧米の70%と比べて低いという問題点があります。

治療方法の選択について
 早期がんの場合は、手術でも放射線でも同様に治るため、 治療後のQOL(quality of life生活の質)の差も患者さんの治療選択基準のひとつになります。 治療による効果も副作用もすべての患者さんに同様に出現するわけではありませんが、 医師は根拠に基づいた正確な情報と適切な選択肢を患者さんに提供し、 患者さんはその情報に基づいてご自分の治療法を考え、納得た上で選択して頂きたいと思います。
 一方、進行子宮頸がんの治療は、通常は手術の選択肢はなく、化学放射線治療となります。 根治的放射線治療は外部照射と腔内照射を組み合わせるのが原則です。 もし、婦人科から紹介された放射線科で、治療方針として外部照射のみを示された場合は、 腔内照射の可能な施設への紹介と連携が必要であることを患者として認識し、かつ要求する必要があります。 通常は外部照射のみ(腔内照射の組み合わせなし)では、抗がん剤を併用しても進行がんは治癒出来ません。
図1は子宮頸がんVB期の患者さんの化学放射線療法前後のMRI画像です。
図1 子宮頸部扁平上皮がんIIIB期(T3bN0M0)
図1_1 図1_2
図1−1 図1−2
図1−1 治療前
 治療前のMRIでは、子宮頸部に約8cmの灰色の腫瘍があり、腟下1/2レベルまでの突出と、 子宮体部への浸潤を認めます(白矢印)。腫瘍によって直腸や膀胱は圧排されています。 また、この腫瘍が原因で子宮腔内に液体が貯留しています(子宮留膿腫:黒矢頭)。
図1−2 治療二ヶ月後
 治療後のMRIでは、子宮頸部の灰色の腫瘍は縮小しています(白矢印)。また、子宮腔内の液体貯留も減少しています。

子宮頸がんの進行期分類と治療
1) 進行期分類(国際産科婦人科連合2008の分類、図2)
I期 :
がんが子宮頸部に限局するもの(体部浸潤の有無は考慮しない)
IA期 :
組織学的にのみ診断できる浸潤癌。間質浸潤の深さが5mm以内で、広がりが7mmをこえないもの
IA1期 :
間質浸潤の深さが3mm以内のもの
IA2期 :
上記以外のもの
IB期 :
臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがIA期をこえるもの
IB1期 :
病巣が4 cm以下のもの
IB2期 :
病巣が4 cmをこえるもの
II期 : 
がんが子宮頸部をこえて広がっているが、骨盤壁または膣下1/3には達していないもの
IIA期 :
膣壁浸潤が認められるが、子宮傍組織浸潤は認められないもの
IIA1期 :
病巣が4cm以下のもの
IIA2期 :
病巣が4cmをこえるもの
IIB期 :
子宮傍組織浸潤の認められるもの
III期 :
がん浸潤が骨盤壁にまで達するもので、腫瘍塊と骨盤壁との間にcancer free spaceを残さない、 または膣壁浸潤が下1/3に達するもの
IIIA期 :
膣壁浸潤は下1/3に達するが、子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの
IIIB期 :
子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの、または明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの
IV期 :
がんが小骨盤をこえて広がるか、膀胱、直腸粘膜を侵すもの
IVA期 :
膀胱、直腸粘膜への浸潤があるもの
IVB期 :
小骨盤腔をこえて広がるもの

図2 子宮頸がんの進行期分類
図2
Quinn MA, Benedet JL, Odicino F, et al Carcinoma of the cervix uteri. FIGO 26th Annual Report on the Results of Treatment in Gynecological Cancer. Int J Gynecol Obstet. 2006 Nov ;95 Suppl 1: S43-44 より改変

2)進行期別の推奨される治療法について(子宮頸癌治療ガイドライン2011年版より)
IA期 : 手術。高齢や合併症のため手術ができない場合は、放射線治療が行われます。
IA1期 子宮頸部円錐切除術や単純子宮全摘術で治療可能なため通常は手術が行われます。
IA2期 準広汎子宮全摘術以上の手術が推奨されます。
IB, IIA期 : 手術または放射線治療
 手術または放射線治療いずれも推奨されます。 手術の場合は子宮と周囲の組織と骨盤内のリンパ節を切除する広汎子宮全摘術が行われます。 腫瘍が大きい場合やリンパ節転移がある場合は抗がん剤治療が併用されます。
IIB期 : 手術または放射線治療+抗がん剤治療
 国内では手術または放射線治療+抗がん剤治療が行われますが、欧米では放射線治療+抗がん剤治療が選択されます。 手術の場合は広汎子宮全摘術が行われ、術後に放射線治療と抗がん剤治療を行います。
IIIA, IIIB, IVA期 : 放射線治療+抗がん剤治療
 抗がん剤治療を併用した放射線治療が行われます。手術は不可能です。
IVB期 : 抗がん剤治療
 症状が強い場合、症状を緩和するための放射線治療を合わせて行います。

<次週に続きます>

略歴
兼安 祐子(かねやす ゆうこ)

1985年 東京女子医科大学卒業後、同大学放射線科助手、2000年広島大学放射線科助手、 2008年同科診療講師、2014年福山医療センター放射線治療科医長。


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