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市民のためのがん治療の会
日本物理学会が掲載を拒否した原発批判論文
『放射線内部被曝の危険性と科学者の責任』

京都大学名誉教授 山田 耕作
2011年3月に起こった東日本大震災からの復興の最大の足かせとなっているのは福島第一原子力発電所の事故である。戦は「国破れて山河あり」だが、「原発事故では山河なし」となるが、政府・行政は被ばくによる健康被害を軽視して帰還を促している。こうしたなかで、原発事故直後に放射線の健康被害の本態とも言える内部被ばくに関する論文を山田耕作氏は日本物理学会の学会誌に投稿した。しかし、原発事故の被害を過小評価する立場から、学会誌編集委員会を仕切っているICRP(国際放射線防護委員会)の信奉者たちは論文の掲載を拒否した。まさに国策として推進している原子力政策を日本物理学会は科学的な議論ではなく政治的な判断で後押しする姿勢を押し通している。そこで当時投稿した論文の内容を市民向けに簡単に報告して頂くよう御依頼した。本稿はその原稿をもとに事故後の現状も踏まえて執筆頂いたものである。科学者としての社会的責任の問題や、一人の人間として社会との向き合い方も含め、多くの問題を論じている。なお甲状腺癌の問題に関しては私と見解を異にしているが、山田氏の見解として掲載いたします。私の意見はこのホームページ上の「がん医療の今」No.257No.258も参考として甲状腺癌の問題を考えて頂ければ幸いです。
(市民のためのがん治療の会 顧問  西尾 正道)

はじめに

わたしは1961年に大阪大学に入学し、2006年に京都大学を定年退職するまで45年間物理学を専門としてきました。物理学は大別して素粒子・原子核物理学と物性物理学の2つの分野があります。私は後者の分野に属し、磁性や超伝導の理論研究が専門です。易しく言えば磁石と金属中の電子の研究です。磁性や超伝導はクーロン相互作用という電子間の反発力を介して相互作用する巨視的な数の電子の統一的な運動によって起こる現象です。電子はあるときは磁石となり、ときには電気抵抗のない超伝導電流ともなるのです。これらは量子力学の世界において、10の23乗個という多数の電子の集団における統計的な法則によって起こるのです。この場合は系の粒子数が莫大なため統計法則はほぼ厳密に成り立ちます。

私は物理学会では「物理学者の社会的責任」という分科の世話人などをしてきました。原発問題はその分科の重要なテーマでした。なぜなら、物理学者は先頭に立って他の分野の科学者とともに、原発の研究・開発と利用を提唱し、推進してきたからです。学会では、シンポジウムを開き多様な立場から原発の是非を議論してきました。定年時、私が安堵したことは一人の落伍者もなく無事に学生を卒業させたことと、原発の大事故もなく、無事に定年を迎えたことでした。

しかしながら、ほっとした5年後の2011年の3月に福島原発事故が悪夢のように発生したのです。2011年の事故当時には物理学者の提唱した原発の事故により、数十万人の人々が緊急避難を余儀なくされました。子供を含む多数の人々がこうむる被害を考えるといたたまれない気持ちでした。なぜ物理学者は原発の危険性を訴え、その廃棄のために尽力してこなかったのか。申し訳なさと後悔で呆然となりました。この事故とともに私が45年をかけた物理の成果も吹き飛んだ気がしました。自分の研究よりももっと大事なことがあり、それに全力投球しなかったことへの後悔です。現在および未来の無数の人々の命と健康、幸せを奪ったことになります。とても償えない重い責任です。

人類の歴史と平等の原則

人間は社会的な動物であり、他人と比較することによってはじめて自己を認識できます。人間は集団で協力することによって、過酷な生存競争に生き残り、厳しい自然に適応して、進化してきました。社会的な集団として有機的に活動するために、言葉や文字を持ち、相互に意志を通わせる通信手段を発展させてきました。このことを考えますと、人間の本質は個々の人間としてではなく、集団としての生活や労働にその本質が存在すると考えられます。人類の歴史としての進歩は集団としての人類の進歩です。

そのような社会における構成員個々人の間の関係はどうあるべきでしようか。その根本的な基礎は各構成員間の平等の原則です。世界の子供一人一人はそれぞれ異なる環境の下で生まれますが、お互いに人間としての本質的な違いはありません。平等以外に公平な原則はありえません。この平等で、対等な個人個人の自発的な協力こそ社会を発展させる基礎であり、原動力です。

民主主義は「平等」を意味する

世界中の全ての人間は平等であり、生まれながらにして、尊敬され、人間らしく生きる権利を持っています。思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由、居住・移動の自由、働く権利、健康で文化的に生きる権利。これらは基本的人権(人格権)と呼ばれ、他の全ての権利に優先して尊重されるべき権利です。この原則を世界の全ての人々がお互いに尊重することは、人類全体の利益となり、人類の発展につながるのです。

しかし、現実の歴史は富の蓄積とともに、社会は階級に分裂し、支配階級の権力機関として国家が誕生しました。奴隷制社会や封建制社会では人間は神の前でのみ平等でした。更に近代の資本主義社会では法の前では平等とされました。しかし、経済的格差が存在し、社会的に生産された富を私有化し、富を独占するものが絶大な権力を持っています。民主主義は経済的平等にまで拡大されなければなりません。

一方、そのような進化の歴史の中で、人類は火を使い、手を発達させ、脳の発達を通じて、科学と技術を発達させることによって、生産力を発展させてきました。このような科学と技術の進歩は、人類の長い歴史の中で様々な迷信、偏見に対する必死の戦いの中で獲得され、先人から受け継がれ発展させられてきたものです。

人間の使命と道徳(倫理)の基礎

人類の進歩は科学と民主主義の発展によって担われます。個人の喜びや幸せはこの人類の進歩を担う事業に参加・協力することによって得られます。人間の倫理の基礎は、科学と民主主義の拡大・発展を求める公的な感情や憤りにあります。これは類的存在としての人間の本性に基づくものです。

科学者の使命も同様に科学の進歩と民主主義の拡大にあります。そこにおいても、民主主義・人権はあらゆる権利に優先して尊重されるべき原則です。それ故、科学者は何よりも科学の進歩が人権を擁護し、人類に幸福をもたらすように厳しく監視する責任があります。まして軍事研究に協力することは一切許されません。福島原発事故に際しての科学者の現実はどうでしょうか。

原発の運転は被曝を避けられず、緊急避難を要する原発は社会的弱者の敵

先に述べたように、平和に安心して健康に生きることは世界の全ての人に平等に保障された基本的な権利です。その権利を現在および未来の人類に保障するために現在生きている全ての人は核兵器と原発の廃止に努める責任があります。生命・健康を犠牲にし、緊急避難を必要とする原発は子ども・老人・障がい者などの弱者を含む現実の社会では存在を許されないものです。

特に科学者は人権を護るため、自らの知識と能力を用いて原発の危険性を警告し、人々の協力を得て、原発を廃棄する義務があります。それは原発が次のような解決できない危険性を持つからです。

原子力発電の地震に対する安全性を保証することができない

100万キロワット級の原発1基で、広島型原発千発分の死の灰を内蔵する原発事故は核爆弾以上の放射性物質による汚染をもたらす恐れがあります。これを厳密に閉じ込め、長期に事故もなく運転することは技術的に不可能です。特に、日本は地殻のプレート境界上にあり、大地震や火山爆発が避けられません。地震は複雑な破壊現象であり、原発の耐震設計は信頼性がありません。更に核廃棄物の管理を幾十万年にもわたって後世に押し付けることになります。

福島原発事故による健康被害は無いのか

政府は2017年3月末で年間被曝量20ミリシーベルト、ところによっては50ミリシーベルト以下の地域への帰還を強制し、従わないものへの賠償や住宅補助を打ち切ろうとしています。そのため一貫して福島原発事故による健康被害を認めてきませんでした。

例えば環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の「中間とりまとめ」(2014年12月22日)において「今般の事故による住民の被曝の線量に鑑みると」「福島県及び福島近隣県において」@「がん罹患率に統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低い」A「放射線被曝により遺伝的影響の増加が識別されるとは予想されない」B「不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響が今後増加することは予想されない」として、政府・東電は一切の人的被害を頭から否定しています。これは政府・東電の犯罪を隠蔽し、賠償責任を免れるためです。

しかし、現実は違う
1.甲状腺がん

福島県民健康調査で子どもの甲状腺がん及びその疑いが2016年6月現在174名発見されています。これは疫学という統計学の方法を用いて津田敏秀氏らによって著しい多発であることが科学的に証明されています。1) 先行検査(1巡目)が約9年間(0から18歳までの子供の平均観察期間;全て自然発生のがんを発見したと仮定して0から18歳までの子供の誕生以来の経過年数を平均して観察期間とした)で115名、調査途中の本格検査(2巡目)が約3年の観察期間で59名です。宗川吉汪氏らによれば2巡目の本格検査の方が先行検査より、1年当たりの発症率が高く(約3倍)、さらなる甲状腺がんの増加が危惧されます。2) 同様の結論、後に実施された本格検査の方が先行検査より罹患率が高いということは牧野淳一郎氏によっても証明されています。3)これらの結果は小児甲状腺がんの増加が原発事故の影響であることを実証するものです。さらに、福島県の検討委員会が福島原発事故の影響でないことの根拠としてきた潜伏期間が4年以上であることが正しくないことが福島県自身の調査で証明されてしまいました。2016年6月末までの調査によると、本格検査で悪性ないしは悪性疑いとされた59人の中、先行の1巡目になにも異常がなかったA1が28人、A2(結節5mm以下、のう胞20mm以下)判定が26人で、5人が異常ありのB判定でした。少なくともA判定の異常なしとされた54人が2年以内に甲状腺がんになったことになります。この潜伏期間が2年以内という事実を鈴木真一氏が中心となった福島県の調査によって証明したことになります。

実は福島原発による事故から3年間(2011〜2013)の年齢分布とウクライナの4年間(1986〜1989)の甲状腺がんの症例数の年齢分布は高年齢の子どもが多く、鈴木真一氏達も自分の論文でstriking similarity(著しい類似性)があると書いています。ベラルーシの調査ではゼロ歳で被曝した人はおよそ7年後にピークとなる発生率となっています。それ故、福島原発事故の小児がんの発生は、今後被曝時低年齢の人に増大していく心配があります。

図1はロシアの甲状腺がんの毎年の全年齢での罹患数ですが、20年以上経っても毎年約600人で、さらに増加し続けています。

図1.1986年のチェルノブイリ事故から20年以上経った今も甲状腺がんは増加を続けている。(青色:男性、赤色:女性)
図1.1986年のチェルノブイリ事故から20年以上経った今も甲状腺がんは増加を続けている。(青色:男性、赤色:女性)

図2 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)
図2 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係(NEWS No.485 p03)
医療問題研究会の山本英彦医師によると小児甲状腺がんの発生率(悪性率)は福島原発からの距離とともに減少する。これは甲状腺がんの原因が福島原発であることを明確に示す4)

図2は山本英彦医師による福島原発からの距離と先行検査の小児がん発生率の関係を示しています(危険率p=0.002)。4) 原発に近いほど発症率が高く、小児甲状腺がんの原因が福島原発事故にあることを明確に示しています。

2.その他の病気

また、2011年12月には、自然死産率が福島近隣4県で12.9%、その周辺11県で5.2%増加しました。更に、福島県などにおける心臓病(特に急性心筋梗塞)の多発、心疾患、悪性リンパ腫・白血病、白内障の増加、鼻血、免疫機能の低下が見られます。5)

周産期死亡率の増加が最近、H. シュアブ氏達によって発表されました。6) 2012年1月の震災10か月後において、周産期死亡率が岩手・宮城で15.6%、福島・茨城・栃木・群馬で17.5%、中程度の汚染地域の千葉・埼玉・東京で6.8%増加しました。それ以外の汚染の低い地域では増加は観測されませんでした。これらの事実は被曝被害の広がりと深刻さを示すものです。

また、日本医科大学などのグループが行った東日本大震災前後に妊娠した福島県の女性1万2300人の調査では、震災から3か月以内に妊娠した女性は1728人で、2500グラム未満の低体重出産児が185人で全体の11%で震災前に比べて2〜3ポイント増加していました。さらに赤ちゃんが「極低出生体重児」と呼ばれる体重1500グラム未満で生まれた赤ちゃんは20人で、震災前の2倍から3倍にのぼっていました。

福島原発から大量に放出された放射性微粒子は一層危険である

福島原発事故によって、ナノ(10-9m)からミクロン(10-6m)の大きさで様々な放射性微粒子が放出されていることが明らかになっています5)。ミクロン程度の微粒子は肺胞などに取り込まれ、より微小なナノ粒子は血液を通じて体内を移動します。そして臓器内に偏在し、その放射性微粒子の発する放射線によって直接、遺伝子や細胞を損傷します。それのみならず、放射線の電離作用によって生じた反応性に富む不対イオンである活性酸素やフリー・ラディカルを通じて、間接的に細胞を破壊し、臓器を損傷します。5,7,8) 心筋梗塞や腎臓や肝臓の病気を引き起こします。さらに、生じた活性酸素やフリー・ラディカルは、エネルギー生産に重要なミトコンドリアや細胞膜を破壊し、体力や免疫力を弱めます。このように放射性微粒子による被曝は重大な健康破壊をもたらすのです。この活性酸素を介しての間接的な効果はペトカウ効果と呼ばれ、放射線が直接与える被害に比べ3から4倍大きく、ほとんどの病気に関与するといわれています。

2014年までの我が国の死亡統計の矢ケ崎克馬氏による分析によると、福島原発事故以後、死亡率が急上昇しています。9)それを年齢別に見ると75歳以上の老人層のみの死亡率が急上昇しています。このことから、矢ケ崎氏は放射線の作用は主として75歳以上の老人の死亡を年13万人ほど誘発させていると推計しています。このように放射線被曝は体力の弱い人たちの死亡を早めるのです。

人工の放射性元素は天然のカリウム40に比べ体内被曝の危険性が高い

カリウム40はカリウムチャンネルを通じてすばやく移動し、局所的に偏在することはありません。しかし、カリウム以外のセシウム137などの人工の放射性核種は臓器に取り込まれ偏在し、局所的、集中的、継続的被曝を与えます。10)その結果、バンダジェフスキーが発見した「長寿命放射性元素の体内取り込み症候群」を引き起こし、格段に危険です。5,11) 例えばチェルノブイリの膀胱がんは尿中50 Bq/kgのカリウム40でなく数Bq/kgのセシウム137で起こります(Bqはベクレル)11)

内部被曝は遺伝子を破壊するだけでなく、ホルモン作用を攪乱する

体内に取り込まれた放射線の影響の中でも、ホルモン作用の攪乱は環境ホルモンと同様に遺伝子の発現を攪乱し、胎児の発達にとって重大な障害をもたらします。ダイオキシンなどの環境ホルモンに代わって放射線が「胎児―母親系」のホルモン作用を攪乱し、正常な発達を妨害します。結果として子供たちは病弱になったり、生殖系に損傷を受け、それが次世代以降に引き継がれます。チェルノブイリ事故により汚染されたベラルーシ、ウクライナ、ロシアでは「胎児期起源」の健康破壊は成長後の健康破壊の原因として重大な問題となっています。7,8,11−13)

チェルノブイリ事故の被害を報告したヤブロコフたちの「チェルノブイリ被害の全貌」によると「重要な知見の1つは、甲状腺がんの症例が1例あれば、他の種類の甲状腺疾患が約1000例存在することである」という(p81)。14)福島では子どもの甲状腺がんが174人ですから、他の甲状腺疾患が17万例あることになります。

2016年9月14日の第24回福島県「県民健康調査」検討委員会におけるアンケート調査(2010年8月1日から2012年4月8日に生まれたこども)の報告によると、「こどもがこれまでに入院を要した病気にかかったことがある」割合は24.7%で4人に1人の割合でした。入院時の疾患は多様ですが、肺炎が162人、RSウイルス感染症101人、気管支炎60人、ロタウイルス感染症44人、胃腸炎41人、気管支喘息41人、川崎病32人等でした。15)免疫力がなく感染症にかかるなど病弱の子供が多数見られます。放射性微粒子の放射線が発生する活性酸素を通じての健康破壊とともに、それらがホルモン作用を攪乱することによる生殖系を通じた長期的な健康破壊が危惧されます。

福島原発事故に対する科学者の責任

今回の福島原発事故は現在および未来の多くの人命、健康を破壊する結果となりました。日本の科学者は原子力平和利用三原則「自主・民主・公開」の基に原発を容認してきました。日本の科学者たちは、地球規模の破壊力を持つ原発の危険性を正しく認識せず、原発の推進に協力し11)、あるいは黙認してきたのです。このような原子力の推進や黙認の結果として、福島原発事故を招来することになりました。科学者は全体としても個人としても現在・未来の人類に対して重大な責任があります。

にもかかわらず、福島原発事故の責任をとらないだけでなく、被害を最小に留め、被災者を救済することにも消極的です。日本物理学会誌編集委員会は放射性微粒子による内部被曝を心配する私の投稿にも、「風評被害を煽る」として事実の公表さえ妨害しました。更に、事故原因も究明されていないのに、日本物理学会として、実質的に原発推進のためと受け取られかねないシンポジウムを開いたり、被曝の被害を過小に評価して被災地への帰還を強制する政府に加担する科学者もいます。11,16,17) この帰還の強制に対しても大多数の科学者は黙認しています。これは大量の放射線被曝による直接的・間接的殺人に加担する行為にも等しい犯罪です。先に述べたように生存権という最も大切な人権を侵害する人間として許すことのできない犯罪です。

世界はエネルギー大転換の時代に入った

一方、資源の枯渇として強調されてきたエネルギーの問題に関して、歴史的な大転換が起こっています。風力、ソーラーなどの再生可能エネルギーの方が化石燃料より安くなる時代に入りました。朝日新聞なども家庭の電気料金に比べて、太陽光発電単価の方が安くなったと報道しています。日本政府の発表でも、世界の再生可能エネルギーの成長は加速度的です。世界は枯渇の心配のない究極のエネルギーへの歴史的転換期を迎えています。危険を覚悟して原発を推進する理由は完全になくなりました。これは素晴らしい科学の進歩です。にもかかわらず、原発の必要性を主張する科学者がいるのはこの科学の進歩を知らず、被曝の危険性を軽視し、人権を無視し、研究者の利己的利害に固執している結果としか考えられません。

図3.世界の自然エネルギー発電量は原発の2倍
図3.世界の自然エネルギー発電量は原発の2倍

特に注目されるのは2005年頃、原発と同じ程度であった自然エネルギーによる発電量が2014年には原発の2倍になって、さらに急速な上昇を続けていることです。それに加えて、日本には急峻な豊富な水流があり、水力発電の潜在能力が大きいことが指摘されています。18) このような自然エネルギーの現実の急速な発展は私達の科学進歩に対する信頼と希望をもたらすものです。ダムの間違った利用18)や低周波公害など問題がないわけではないが、自然エネルギーは多様であり、民主的な議論を通じて解決不可能ではないと思われます。自然エネルギーは省エネ技術と合わせて未来のエネルギーを担うことができるでしょう。私達は究極のエネルギーに手が届く時代にいるのであり、原発は不要です。

福島原発事故以来6年になろうとする今、何をなすべきか

現在、甲状腺がんをはじめ多くの被曝被害が劇的に増加し、顕在化しています。にもかかわらず、政府・東電は被曝の被害を隠蔽し、危険を顧みず、年間20ミリシーベルトの汚染地への帰還を避難者に強制し、従わないものには住宅の援助や賠償を打ち切ろうとしています。この原発事故の加害者たる政府・東電による人権を無視した政策を撤回させ、避難の権利を確立する運動をいっそう強化しなければならないと思います。

謝辞 渡辺悦司、遠藤順子、小柴信子、落合祥堯、片岡光男、稲垣睿、高木伸の方々はじめ多くの方に議論していただきました。内容は著者の責任ですが大変参考になりました。

参考文献

  • 1. Thyroid Cancer Detection by Ultrasound among Residents Aged 18 Years and Younger in Fukushima, Japan:2011 to 2014. Tsuda T..Tokinobu A. Suzuki A., Yamamoto E.: Epidemiology:May 2016 - Volume 27 - Issue 3 - p 316-322
  • 2. 福島原発事故と小児甲状腺がん 宗川吉汪、大倉弘之、尾崎望著、本の泉社 2015年、日本科学者会議京都支部HP http://web.kyoto-inet.or.jp/people/jsa-k/
  • 3. 「3.11以後の科学リテラシーno.36」 牧野淳一郎、『科学』2015年,10月号、岩波書店 p937.
  • 4. 福島原発からの距離と甲状腺がんの関係 山本英彦、医療問題研究会NEWS No.485 p03.
    http://ebm-jp.com/2016/04/news-485-2016-01-p03/
  • 5. 放射線被曝の争点−福島原発事故の被害は無いのか― 渡辺悦司、遠藤順子、山田耕作著 緑風出版 2016年
  • 6. Increases in Perinatal Mortality in Prefectures Contaminated by the Fukushima Nuclear Power Plant Acciddent in Japan; Hagen Heinrich Scherb, Kuniyoshi Mori, Keiji Hayashi ;Medicine 2016; 95: e4958
  • 7. 放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響−チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ− ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳 合同出版2011年
  • 8. 放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響―チェルノブイリ原発事故その人口「損失」の現実― ユーリ・I・バンダジェフスキー/N・F・ドウボバヤ著 久保田護訳 合同出版 2013年
  • 9. 原子力緊急事態宣言下の人権と健康被害;矢ケ崎克馬著 季論21 2016年秋号p100
  • 10. 新・環境学III −有害人工化合物/原子力−市川定夫著 藤原書店2008年
  • 11. 原発問題の争点−内部被曝・地震・東電− 大和田幸嗣、橋本眞佐男、山田耕作、渡辺悦司著 緑風出版 2012年
  • 12. 未来世代への「戦争」が始まっている−ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ― 綿貫礼子、吉田由布子著 岩波書店 2005年
  • 13. 放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 綿貫礼子編、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン著 新評論 2012年
  • 14. チェルノブイリ被害の全貌 ヤブロコフ他 岩波書店 2013年
  • 15. 県民調査 妊婦の不安 子供の入院 Days Japan 2016年11月号p53 http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/182584.pdf  も参照
  • 16. 田崎晴明著「やっかいな放射線と向きあって暮らしていくための基礎知識」の問題点‐科学的な基礎からの再検討を望む、山田耕作
    http://blog.acsir.org/?eid=25
  • 17. 福島原発事故に対する物理学者の責任を問う、山田耕作
    http://blog.acsir.org/?search=%C5%C4%BA%EA%C0%B2%CC%C0&x=24&y=8
  • 18. 水力発電が日本を救う 竹村公太郎著 東洋経済 2016年
略歴
山田 耕作(やまだ こうさく)

1942年兵庫県小野市に生まれる。大阪大学大学院理学研究科博士課程中退。東京大学物性研究所、静岡大学工業短期大学部、京都大学基礎物理学研究所、京都大学大学院理学研究科に勤め、2006年定年退職。京都大学名誉教授。市民と科学者の内部被曝問題研究会会員。

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