市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
がん放射線療法看護認定看護師のこと、もっと知ろう

『看護師の努力』


 
今回の特集は,放射線治療のチーム医療において一層の充実が切望される看護がテーマです。近年の放射線治療患者の増加と,複雑かつ多様化した治療技術の普及により,放射線治療医や診療放射線技師と連携した看護師の業務はこれまでにも増して重要となっています。通院治療中の患者さんに日常生活におけるきめ細かな指導を行い,ときに予想される有害事象を的確に評価して,時期を逸せず効果的な予防策を提供する外来看護師の役割は,放射線治療の安全な実施にとって極めて重要です。さらに放射線治療看護の多岐にわたる知識は,入院中の患者さんへの看護実践にとっても必要不可欠でしょう。折しも本年(2009年) 9 月から「がん放射線療法看護」の初の教育課程が京都で開講されています。これは昨年(2008年) 5 月に日本看護協会が「がん放射線療法看護認定看護師」を,熟練した看護技術および知識を必要とする看護分野として新たに特定したことによります。また日本がん看護学会とJASTROが共催する「がん放射線治療・看護セミナー」は,2006年 2 月の第 1 回から今日まで着実な歩みを続けて本年(2009年)10月には第 9 回セミナーが開催されました。「放射線治療部門における看護をがん看護の専門分野として確立したい」,「放射線治療を受ける患者さんの臨床経過に関する豊富な知識をもちチーム医療を担える人材を育成したい」とこの分野の先駆となって奮闘活躍中の看護師の皆さんにその熱き思いを語っていただきます。
静岡がんセンター 村山重行

本稿は日本放射線腫瘍学会News LetterNo93(2009年11月発行)掲載の「看護師の努力」の中から、筆者の皆様並びに同学会のご許可の得られたものを、転載させていただいたものです。(會田 昭一郎)
『放射線治療に旨味をプラス!??』
国立がんセンター中央病院 末國千絵
 国立がんセンター中央病院の放射線治療スタッフは,現在総勢28名です。職種別構成は医師 8 名(うち研修医 2 名),技師12名,物理士 3 名,受付 3名,そして看護師は 2 名です。もしも…??最少 2名の看護師チームが,医師・技師軍団に圧倒され脅えながら,言いたいことも言えず,聞きたいことも聞けず,やりたいこともできず,非常に肩身が狭い…としたら???患者ケアに対するモチベーションも下がってしまうと思われますが,誠に有難いことに看護師はたった二人しかいないけれども,先生方を始め他職種の方々のサポートのお蔭で,人間関係的には非常に日当たりも風通しも良い快適なフィールドで患者ケアに専念させていただいています。しかし,放射線治療における看護は充分に確立されているとは言い難く,試行錯誤のことも多いのが実情,また容易に超えることが困難な壁があるのも事実です。そんな中,患者さんが安心して治療に臨めるように,出来るだけ副作用に苦しまず予定通りに治療が終えられるように,放射線治療外来専任の看護師として奮闘していることを紹介させていただきます。

 私が初めて放射線科に配属になった 7 年前,IVR(編集注:血管内治療など放射線診断技術の治療的応用)と放射線治療外来を 4 名の看護師が数ケ月毎にローテーションする形で勤務していました。しかし,放射線を使用する治療という繋がりはあるものの,IVRとRT(編集注:放射線治療)では看護の特殊性が大きく異なり,より専門的なケアの提供が困難という理由で,5年前にローテーションを廃止しそれぞれ専任としました。

 現在,患者ケアにおいては治療開始前のオリエンテーション,皮膚炎等治療中~終了後の副作用ケアを重点的に行い,業務外では院内の看護師教育も積極的に行っています。

 治療開始前のオリエンテーションでは,まず,医師からの説明に対する理解度や放射線治療に対する思いを確認し,恐怖心や誤解がある場合は払拭できるよう心掛けています。高い・暗いといった特殊な治療環境に対し不安が強い場合は,動画を見せたり,実際に治療室の様子を体験してもらうこともあります。生活指導においては,副作用を予防するための具体的な注意事項について,照射部位別に患者さんのライフスタイルや副作用の程度を考慮しながら説明しています。オリエンテーションは伝達事項を伝えれば良いのではなく,患者さんの心に響く言葉や方法で伝えることが重要で,患者さんの個別性やニーズに合わせて構成や掘り下げ方,使う言葉のひとつひとつをアレンジし,パンフレットだけでなくスライドを使う場合もあります。

 皮膚炎のケアは,処置グッズも記録方法も進化してきています。拙い手書きのイラストがポラロイドカメラに変わり,現在は 2 代目の高画質デジカメが大活躍,ケアの評価もしやすく,蓄積されたデータを用いて患者さんや病棟ナースにも説得力のある説明が可能です。びらんの部位や程度に合わせ,刺激を避けて無処置で経過を見るかあるいは処置を行うか,どんなグッズを使うか,悩ましいことも多いですが,より良い工夫や新しいグッズを模索しつつ,これからも経験を重ねていければと考えています。

 院内の看護師教育もシステム化され,漸く軌道に乗ってきつつあります。6 年前初めて院内で開催した放射線治療看護の勉強会は,企画などについて自己運営であったため参加者も少なく地味でしたが,現在は看護部の教育プログラムの一環として行わせていただいています。全員参加の 1 年目・2年目研修,5 年目以上の希望者対象の専門コースがあり,昨年からは院外からの受講生も専門プログラムに参加できるようになりました。看護大学等の教育機関における放射線に関する講義時間は僅か数時間です。ナースの資格を持って働き始めた後も,放射線治療について系統立てて学ぶ機会はほとんどありません。病棟を離れて治療室で照射を行う特質も影響してか,キャリアが長くても自然に身に付く知識は少ないため,看護のポイントや必要性に気づかぬまま充分なケアが提供されていない場合も多い傾向があります。私自身,放射線治療に専従しているからこそ知り得た貴重な知識や経験も多いので,それらを伝達し浸透させることで,院内全体の患者ケアの質的向上が実現できればと期待しています。

 看護師はビームを出せるわけではないので,看護師がいなくても放射線治療を患者に行うことは可能です。しかし,看護師ならではの視点とコミュニケーションスキルを駆使して,患者の苦痛や不安の軽減,治療完遂のサポートなど,看護師の果たせる役割は幅広いと考えています。味噌があれば味噌汁はできますが,だしの効いてないお味噌汁では味気ない,患者さんの緊張がほぐれホッとするような味を求めて,さらには,放射線治療に携わるスタッフも「だしの効いてない味噌汁なんて…」とだしの旨味の虜になるような存在でありたいと思っています。そのためには手抜きは禁物,一食一食心を込めて,「うちの看護婦さん,ビームは出せないけど,良い味出してますよ!」と言っていただけますように…。


《放射線治療分野における看護の今後の展望》
 4 年前に行った全国調査で放射線治療部門に専属の看護師が配置されていない施設は半数以上もあり,配属されていてもほとんどの施設で看護師数が 1~2 名と少なく,放射線治療部門の看護師の配属状況は充分に貢献可能とは言えない結果でした。【郵送アンケート調査,平成17年12月施行,有効回答数209 /749施設,看護師の配置なし:60施設(28.7%),看護師の配置あり(併任を含む):147施設(71.3%),専属看護師の配置あり102(48.8%)】その後,放射線治療外来に看護師の配置がなかった施設にも新たに看護師が配属されたり,看護師の増員が実現し治療外来に 5 名程度の看護師が配置されている施設もあります。とはいえ,化学療法や緩和療法など,他の看護の専門分野と比較すると,文献や研究だけでなく,研修会の開催や施設の枠を超えた交流の機会も少なく,患者ケアの質的向上に対する向学心や探究心を個人的に持ち備えていても,それらを後押しする機会やゆとりある人員配置が追い付いていないのが現状と思われます。今後,放射線治療の現場における看護師のニーズが高まり,ナース獲得の啓蒙が追い風となっていくこと,その結果,放射線治療部門で活躍するナースが活気に溢れ,治療の現場が華やぐことを期待したいです。また,来春いよいよ誕生する放射線療法認定看護師の方々にリーダーシップを発揮していただき,放射線治療看護の発展が加速することを期待しています。



東邦大学医療センター大森病院 祖父江由紀子
 私は,がん治療専門病院で10年近くの勤務経験を経て放射線部門に配属された。その時初めて,自分に放射線治療に関する知識が無いことに愕然とした。当時は看護師向けの放射線治療の書籍はほとんどなく,放射線治療医や診療放射線技師をつかまえては,「そもそも,放射線ってなに?」「治療室のどこから放射線が出ているの?」「放射線治療がなぜ,がんに効くの?」などの質問攻撃をした。医師や技師たちは,少なくとも私には嫌な顔を見せずに真摯に,丁寧に答えてくれた。また,推薦された専門書を読み,さらに深まる疑問にも答え,現在の私の放射線に関する知識の基礎を築いていただいたと感謝している。また,一緒に働く同僚ナースと看護ケアを検討したり,研究を行ったり,日々の看護実践を積み重ねる中で,少しずつ「放射線療法看護」がわかり始めた。それでもやはり,放射線治療看護の書籍や教育の場が少ないことは事実であった。

 このような実感は私一人の感覚ではなく,JASTROと日本がん看護学会では放射線治療に対する看護教育の必要性の緊急性と立ち遅れに対し,「放射線治療にかかわる看護師教育支援ワーキンググループ」を立ち上げ,共催での看護セミナーを2006年から継続して開催している。このセミナーのアンケートでは,参加者の特徴として臨床経験は平均16年と長かったが,放射線治療の看護経験の平均は 3年と比較的短いことが特徴的であった。このような背景の参加者アンケートで意見の多かったものは,① 看護師自身の知識不足の実感と教育の機会が少ないこと,② 医師・技師の連携の中に入り込めず,意思疎通が不十分でチーム医療の不足を感じること,③ 外来や病棟とのコミュニケーション不足の実感,④ 病院幹部が放射線治療部門における看護の重要性を認識していないこと,⑤ 診断部門などとの兼務で多忙であり,治療患者とゆっくり接する時間とスペースがないこと,⑥放射線療法部門における「認定看護師」など専門的な看護提供者の分野認定に関する希望,などであった。

 「認定看護師(Certified Nurse:CN)」や「専門看護師(Certified Nurse Specialist:CNS)」は日本における看護のスペシャリストとして日本看護協会の認定する資格である。CNSは,「複雑で解決困難な看護問題を持つ個人,家族及び集団に対して水準の高い看護ケアを効率よく提供するための,特定の専門看護分野の知識及び技術を深め,保健医療福祉の発展に貢献し併せて看護学の向上をはかる」ことを目的としている。実務経験 5 年以上,そのうち3 年以上は専門領域での経験が必要で,看護系大学院で所定の課程を修了することが必要となる。修士課程を卒業後 1 年以上(今年度から 6 ヶ月に改訂)の専門領域での経験も要件であり,規程を充たすと試験が受けられる。私は昨年,書類審査の 1次試験と口頭試問の 2 次試験を受けて合格し,「がん看護」分野のCNの仲間入りをした。CNSは2009年10 月現在で10分野が特定されており,がん看護分野のCNSは128名が日本全国で活躍している。CNSには 6 つの役割があり,実践,相談,調整,倫理調整,教育,研究といった内容である。

 CNは「特定の看護分野において,熟練した看護技術と知識を用いて,水準の高い看護実践ができ看護現場における看護ケアの広がりと質の向上をはかる」ことを目的としており,実践,指導,相談という 3 つの役割を持つ。CNは,実務経験に関しては専門看護師と同様で日本看護協会が認定した『認定看護師教育課程』を修了後,日本看護協会の試験に合格することで認定される。

 「がん放射線療法看護認定看護師」は,「がん放射線治療効果を最大限に得るため,放射線療法の治療過程により生じる患者の身体,心理,社会的問題の解決を支援し,長期にわたる治療を主体的に継続し,完遂できるよう,水準の高い専門的知識と技術を提供する」ことを目的に,2008年度に分野認定された。今年度から社団法人京都府看護協会で教育課程が開講され,2010年に誕生が予定,その活躍が期待されている。

 今回,JASTRO Newsletter の特集に原稿依頼をいただいたことで,僭越ながら読者である放射線治療医や診療放射線技師,医学物理士などの方々へ提案をさせてください(急に語尾が変化したことには触れないでください)。まずは,看護師を「看護のプロ」として活用してください。しかし,看護師は前述のように「放射線」に関する知識習得の場が極端に少ないことにご理解をいただき,看護師への放射線に関する知識の伝達・教育や看護セミナー等への参加の促進にご協力いただけると,患者ケアがよりよいものになると信じています。また,昨年新設された「外来放射線治療加算」の施設基準に「放射線治療部門『専従』看護師の配置」や「看護師の面談必要なスペース」について追記されるようにご尽力いただけると幸甚と存じます。

 私自身も,看護師として努力を続けることが必要と感じている。CNSとCNは他の認定資格と同様に質の保持を目的として 5 年毎の更新となる。この更新という制度には継続した自己研鑽の必要性を求められている。私は,学んだことは利用しなければ意味が無い,と常々考えている。学んだことを活かすということがCNSとしての活動そのものであり,院内外での私の活動を病院看護部,協働する看護師,医師,診療放射線技師,事務の方々などたくさんの方々に支えられて活動できていることを感謝している。今後も,自分自身の自己研鑽と放射線治療を受ける患者のケアに携わる看護の質の向上に向けての努力を続けてゆきたい。
Copyright © Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.