福島原発事故で市民はどの程度被ばくしたか
『原子力発電所の事故で放出された放射性物質による地域住民の被ばく線量の測定』
竹内 宣博
空間線量率の測定があちこちで行われ、色々な議論がなされてきているが、人の行動は予測もつかないし、放射性物質は均一に存在するわけではなく、風や雨などによって流され、場所による放射線量も異なるので、子供など色々なところに潜って遊んだりする場合など、具体的にどのくらい被ばくしているかわからない。
そこで早くから西尾先生はガラスバッジの着用による線量測定を提唱され、具体的にどのくらい被曝しているかを把握すべきと各所で強く提言された。
いつものことで、良いとわかればすぐに全力で実行する米欧のやり方とは正反対に、「議論してから」と言ってなかなか実施されなかったが、結局かなりの自治体等でガラスバッジによる被ばく線量の測定が行われた。
今回はガラスバッジによる被ばく線量測定の最大の事業者である千代田テクノルの竹内常務に昨年度までの結果をまとめていただいた(會田)
そこで早くから西尾先生はガラスバッジの着用による線量測定を提唱され、具体的にどのくらい被曝しているかを把握すべきと各所で強く提言された。
いつものことで、良いとわかればすぐに全力で実行する米欧のやり方とは正反対に、「議論してから」と言ってなかなか実施されなかったが、結局かなりの自治体等でガラスバッジによる被ばく線量の測定が行われた。
今回はガラスバッジによる被ばく線量測定の最大の事業者である千代田テクノルの竹内常務に昨年度までの結果をまとめていただいた(會田)
原子力発電所の事故で放出された放射性物質による地域住民の外部被ばく線量(以下、追加被ばく線量という)を測定する手段として放射線業務従事者が使用していたガラスバッジ等の個人線量計の装着が検討され、これまでに多くの自治体等で実施されてきた。
著者が勤務している千代田テクノルでもこれらの要望を受ける形で、追加被ばく線量を測定するサービス(以下、「市民線量測定サービス」という)を行い、2011年度では20を超える自治体に対して「市民線量測定サービス」を実施した。
また、自治体とは別に生活協同組合やNPO法人等が独自にガラスバッジの提供を行う例や、企業からの利用の申し込み等もあった。これは自治体が主として提供されたのが中学生以下の就学児童、及び0歳~6歳までの未就学児童、そして妊婦等に限られていたからである。2011年度の「市民線量測定サービス」の都道府県別の利用者の推移を図1に示す。表中の都道府県名は申込者の住所で記している。
放射線業務従事者向けの「個人線量測定サービス」では、ガラスバッジが受けた自然放射線による影響を差し引く必要があり、図2に示すように自然放射線による寄与分を差し引いた値を報告している。
図2
ガラスバッジ
*ガラスバッジ:放射線を感知する特殊なガラスを利用した小型の線量計で、個人が胸ポケットなどに装着し、受けた放射線の量(外部被ばく線量)を測定し、個人線量の算定に使用されています。
しかしながら「市民線量測定サービス」は、原子力発電所の事故で放出された放射性物質による「追加被ばく線量」を求めることが目的であることから、自然放射線による寄与分を差し引かない線量を報告することを原則としている。ただし、要望があった場合には原子力発電所の事故の影響を受けていない時期に測定された茨城県大洗にある測定センターの自然放射線量を差し引いた値の報告も行った。
自治体が主として行う場合、ガラスバッジは学校等の施設を介して使用者に配布されることが多い。測定期間や測定頻度は自治体により異なっているが。2、3ヵ月間の積算線量を求めた時点で止められるケースが多かった。一方、自治体以外の利用の場合は一定期間継続して使用されるケースが多い。
この違いは状況の確認を主とする自治体と、使用者の継続した管理を行いたい団体との姿勢の違いが現れたものだと推察する。
なお、自治体で使用されたガラスバッジの測定結果については、自治体のホームページで公開されている。ここでは一例として福島市が公開している内容を図3に記す。福島市は、1回目が1月間、2回目が2ヵ月間の合計3月間ガラスバッジを使用した。3月間の積算線量を見ると全体の約90%が0.5ミリシーベルトの範囲内であったことが分かる。なお、積算線量が高かった使用者については市が行動調査を行い、原因を確認している。多くの場合、屋外に放置された等の不適切な使用が原因であったと記されている。
ガラスバッジを地域住民に提供したNPO法人では、ガラスバッジ使用のメリットとして、放射性物質の可視化を挙げている。すなわち、「警戒区域」、「避難準備区域」、「通常区域」というように地域は分類されたが、放射性物質の飛散はその通りにはなっていないことがこれまでの調査で分かっており、住民の多くは自分たちが安全なのかどうか迷いながら生活している。そのような人たちにとって、数字という明確な判断材料が提供されたことの意義は大きいというものである。このような住民の多くは今年度も引き続いてガラスバッジを使用されている。
最後になるが、現在伊達市では2012年度全住民に対してガラスバッジによる「追加被ばく線量」の測定を一年間行うことを決定し、現在、測定を実施している。
ガラスバッジを継続して使用することにより、生活圏で実施される除染の効果を見る指標としても利用することができるので、画期的な試みであると感じている。ガラスバッジによる一連の外部被ばくの測定が、利用者にとって“安心”の一助となることを念願する。
著者が勤務している千代田テクノルでもこれらの要望を受ける形で、追加被ばく線量を測定するサービス(以下、「市民線量測定サービス」という)を行い、2011年度では20を超える自治体に対して「市民線量測定サービス」を実施した。
また、自治体とは別に生活協同組合やNPO法人等が独自にガラスバッジの提供を行う例や、企業からの利用の申し込み等もあった。これは自治体が主として提供されたのが中学生以下の就学児童、及び0歳~6歳までの未就学児童、そして妊婦等に限られていたからである。2011年度の「市民線量測定サービス」の都道府県別の利用者の推移を図1に示す。表中の都道府県名は申込者の住所で記している。
放射線業務従事者向けの「個人線量測定サービス」では、ガラスバッジが受けた自然放射線による影響を差し引く必要があり、図2に示すように自然放射線による寄与分を差し引いた値を報告している。
図2
ガラスバッジ
しかしながら「市民線量測定サービス」は、原子力発電所の事故で放出された放射性物質による「追加被ばく線量」を求めることが目的であることから、自然放射線による寄与分を差し引かない線量を報告することを原則としている。ただし、要望があった場合には原子力発電所の事故の影響を受けていない時期に測定された茨城県大洗にある測定センターの自然放射線量を差し引いた値の報告も行った。
自治体が主として行う場合、ガラスバッジは学校等の施設を介して使用者に配布されることが多い。測定期間や測定頻度は自治体により異なっているが。2、3ヵ月間の積算線量を求めた時点で止められるケースが多かった。一方、自治体以外の利用の場合は一定期間継続して使用されるケースが多い。
この違いは状況の確認を主とする自治体と、使用者の継続した管理を行いたい団体との姿勢の違いが現れたものだと推察する。
なお、自治体で使用されたガラスバッジの測定結果については、自治体のホームページで公開されている。ここでは一例として福島市が公開している内容を図3に記す。福島市は、1回目が1月間、2回目が2ヵ月間の合計3月間ガラスバッジを使用した。3月間の積算線量を見ると全体の約90%が0.5ミリシーベルトの範囲内であったことが分かる。なお、積算線量が高かった使用者については市が行動調査を行い、原因を確認している。多くの場合、屋外に放置された等の不適切な使用が原因であったと記されている。
ガラスバッジを地域住民に提供したNPO法人では、ガラスバッジ使用のメリットとして、放射性物質の可視化を挙げている。すなわち、「警戒区域」、「避難準備区域」、「通常区域」というように地域は分類されたが、放射性物質の飛散はその通りにはなっていないことがこれまでの調査で分かっており、住民の多くは自分たちが安全なのかどうか迷いながら生活している。そのような人たちにとって、数字という明確な判断材料が提供されたことの意義は大きいというものである。このような住民の多くは今年度も引き続いてガラスバッジを使用されている。
最後になるが、現在伊達市では2012年度全住民に対してガラスバッジによる「追加被ばく線量」の測定を一年間行うことを決定し、現在、測定を実施している。
ガラスバッジを継続して使用することにより、生活圏で実施される除染の効果を見る指標としても利用することができるので、画期的な試みであると感じている。ガラスバッジによる一連の外部被ばくの測定が、利用者にとって“安心”の一助となることを念願する。
コメント:北海道がんセンター院長 西尾正道
1. 原発事故直後にガラスバッジを手配し、個人の外部被ばく線量の測定の準備を行っていたのですが、政府・行政の混乱により、多くの人の測定は行われなかったという事態であったが、2011年7月頃より測定を開始できる体制ができた。しかし事故後3カ月経過しているため、放出された放射性物質の約9割を占めていたヨウ素はすでに消失しているため、この測定値はほぼCs-134とCs-137のガンマー線のみの測定値と考えてよい。2. 福島市の被ばく線量の全体データに対して、平成24年1月4日に開催された福島市健康管理検討委員会は「将来、放射線によるがんの増加など可能性は少ないと判断されます」との見解を示しているが、この測定値は被曝線量の一部でしかなく、また内部被ばくが全く含まれていない外部被ばくだけのデータであることを考慮する必要がある。また年間20mSvまで許容し、これ以下であれば問題なしとする国側の基本的な見解からのコメントである。
3. 一般公衆の線量限度は法律で年間1mSvとされているが、1年間の線量推計値が1mSvを超えるものが約1万8千人前後であることは極めて深刻な事態であったと考えるべきである(図-3-3)。放射能が減弱した事故後数カ月後からの測定結果であることや、対象者が健常な成人ではなく、中学生以下の小児や児童や妊婦であることにも留意すべきである。
4. 平成21年度(2009年4月~2010年3月)の期間に医療分野を中心として職業被曝(線量限度は5年間で100mSv)を同じガラスバッジで測定している個人線量当量の集計(244,025名)では、一人平均年間被ばく線量は0.21mSvである。(中村尚司:FBNews No.407(20100101発行)
その中で、年間1mSv以上の人は13,587人(0.55%)にすぎない。またこうした職業被曝の測定を行っている人達は、放射線障害防止に関する法律 (文部科学省)や医療法・労働安全衛生法・電離放射線障害防止規則 (厚生労働省)などの多重規制を受け、半年から1年単位で健康診断も義務づけられ、健康管理されているのである。しかし、職業被曝集団以上の被ばくを受けている福島在住の子供や妊婦の健康管理は野放しなのである。国自ら法律違反を行っていると言える。
以上、多くの評価に関する問題はあるが、いち早く実測値の測定にご協力頂いた千代田テクノル社および竹内宣博氏に感謝いたします。今後も長期的な測定により、将来生じる可能性のある健康被害を検討できる基礎資料の保存をお願いする次第である。
略歴
竹内 宣博(たけうち のぶひろ)
北海道大学工学部原子工学科卒
これまで、放射線防護、放射線利用安全に係る業務を担当
現在は、個人線量測定システムの研究開発、RIの国産化研究開発・事業化、福島復興支援などに従事
現在、株式会社千代田テクノル常務取締役
北海道大学工学部原子工学科卒
これまで、放射線防護、放射線利用安全に係る業務を担当
現在は、個人線量測定システムの研究開発、RIの国産化研究開発・事業化、福島復興支援などに従事
現在、株式会社千代田テクノル常務取締役