市民のためのがん治療の会
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終末期ケア、どう対応するか

『安心して迎えるターミナルケア』


国際ヒーリング看護協会理事長
ルミナス訪問看護ケアステーション管理者
国際生命情報科学学会 評議員
中 ルミ
治癒困難な患者が自宅で終末期を過ごすようなケースも増えているようだ、だが、そのような場合も、家族も実際に患者にどのように対応したらいいか、戸惑うケースも多いと思われる。私もあん摩・マッサージ・指圧師の資格はあるが、それは通常のコリとか筋肉痛、腰痛など、比較的健康状態も良い人に対する手技だ。かなり衰弱している場合などの施術は通常は禁忌なので、具体的な施術はよく分からない。 そこで今回はそうしたターミナルケアに際しての具体的な手技などを、訪問看護に詳しい国際ヒーリング看護協会の中 ルミ理事長に解説していただいた。(會田)
1. はじめに
 「ターミナルケア」とは、治癒困難な患者と家族を対象とする、身体的・心理的・社会的・霊性的側面の終末期ケアのことで、「緩和ケア」と称されることもあります。近代医学の延命治療が中心ではなく、苦痛と死に対する恐怖の緩和を重視しており、自由と尊厳が保障された生活の中で、残された人生を充実させ安楽に死を迎えられるよう援助することです。そのため、ターミナルケアでは、家族や友人との心の交流の機会が重視されています。

 施設や在宅でのターミナルケアはホスピス(hospice)と呼ばれ、患者・家族を中心に、医師や看護師、ソーシャルワーカー、心理療法士、各種セラピスト、宗教家、ボランティアなどによってチームを組んでおこなわれています。日本では1990年に、末期がん患者への緩和ケアが保険適応の診療項目になり、緩和ケア病棟が承認されました。

 最近では緩和ケアの一環として、アロマセラピーや音楽療法、カラーセラピー、アーユルヴェーダ、ヒーリングなどの代替療法を取り入れ始めている施設も増えてきています。なかでも、タッチケアは様々な効果をもち、ご家族にも実践できる簡便な療法の一つです。

 タッチによる皮膚への刺激は、皮膚に分布している感覚受容器から脊髄、間脳を経て大脳皮質にいたり認知されます。また大脳辺縁系・視床・視床下部・脳下垂体へも刺激が伝わり、自律神経・免疫系・内分泌系に影響を与えます。

 たとえば、やわらかいタッチをうけると、副交感神経が活性化してリラクセーション反応が得られます。そして、C線維と呼ばれる細い神経線維が柔らかいタッチによって刺激されると、脳内に心地よい感覚を生じます。さらに、オキシトシンという愛情ホルモンと呼ばれる脳内ホルモンが分泌されます。オキシトシンの効果は、他者との相互作用の促進・信頼関係の維持・抗ストレス作用があることがわかってきました。またタッチをしている人の体内でもオキシトシンが分泌され、同様の効果があることもわかっています。



このように、心身によい影響を与え、心と心の繋がりや安心感を与えるタッチケアは、患者さんと、 介護するご家族の精神的なストレスの緩和も期待できる簡便な療法と言えます。
今回は誰にでもできる簡単なタッチケアについてご紹介させていただきます。



2. タッチケアの説明
1)基本準備
施術者自身の心身におけるバランスの崩れや身体の力みは、セラピーを受ける患者にとって、不安や患者自身の余計な力みを招く恐れがあるので、施術者は自分の心身の状態を調整しておきましょう。

(1)まずクライアントに寄り添い、訴えをよく聞き何を求めているのかを観察する。

(2)これからタッチングセラピーを行うことの同意を得、触れることについて許可を得る。

(3)施術者自身の心身のバランスを整えタッチングセラピーへ入る準備を行う。
①呼吸を整え、不安や心配事を頭の中から吐く息と共に吐き出すようにする。
②施術者自身がリラックスし全身の筋肉に緊張がない状態にする。
③自分の好きな色や風景・明るい太陽のような光りを思い描くことも効果的である。

(4)足を肩幅に平行に開き、しっかりと大地を踏みしめる。このとき重心を足首に感じるようにするとバランスがとりやすくなる。(写真1)


写真1

(5)温かい太陽の光を浴びている感覚や、自分が笑顔でいられる時の幸福感を思い出し、患者も笑顔で幸福感に満たされることをイメージする。
(6)両手の平をこすり合わせ暖める。


2)部分的なタッチケア
(1)疼痛が有る場合には、疼痛がある場所にそっと手を当てタッチする。
(2)ターミナルケアや不安・不定愁訴の多い患者へは患者の手を取り、胸の中央におき、 自分の手をその上から重ね、片方の手は自分の胸の中央に置く。(写真2)


写真2

(3)胸に手を当てることに抵抗がある患者の場合は、手を包みこむようにする。(写真3)

写真3


3)全身へのトータルタッチケア
(1)仰臥位の場合
①クライアントの右側に立ち基本手順(1)から(6)までを行いタッチングセラピーを行う心準備をする。
②右足の裏と右足首:施術者の右手をクライアントの右足の裏と左手を右足首に触れる。



③右足首と右膝:施術者の右手をクライアントの右足首に、左手をクライアントの右膝に触れる。

④右膝と右腰:施術者の右手をクライアントの右膝に、左手をクライアントの右腰に触れる

⑤左足の裏と左足首:施術者の右手をクライアントの左足の裏と左手を左足首にあてる。

⑥左足首と左膝:施術者の右手を患者の左足首に、左手をクライアントの左膝にあてる

⑦左膝と左腰:施術者の右手をクライアントの左膝に、左手をクライアントの左腰にあてる。
⑧右腰と左腰:施術者の右手をクライアントの左腰に、左手を右腰にあてる。

⑨下腹部とみぞおち:施術者の右手をおへそ(腸)のあたり、左手をみぞおち(胃)へあてる。

⑩みぞおちと胸:施術者の右手をみぞおち(胃)のあたり、左手を胸にあてる。
(異性へ試行する場合クライアントの手を借りてあてると良い)

⑪右手首と右肘:施術者の右手をクライアントの右手首に、左手を右肘にあてる。

⑫右肘と右肩:施術者の右手をクライアントの右肘に、左手を右肩にあてる。

⑬左手首と左肘:施術者の右手をクライアントの左手首に、左手を左肘にあてる。

⑭左肘と左肩:施術者の右手をクライアントの左肘に、左手を左肩にあてる。
⑮右肩と左肩:施術者の右手をクライアントの左肩に、左手を右肩にあてる。

⑯胸と喉:施術者の左手をクライアントの喉に、クライアントの手をとり、右手を重ね胸にあてる。

⑰喉と額:施術者の右手をクライアントの喉に、左手を額にあてる。

⑱額と頭頂:施術者の右手を額に、左手を頭頂にあてる。

⑲最後に手を包みクライアントの状態の観察や感想を聞く。
⑳飲水が可能なクライアントの場合は水をコップに1杯ほど飲んでもらう。


(2)施術者2名によるタッチングセラピー
クライアントの両サイドから施術者2名による全身トータルタッチングセラピーも可能である。



3.具体的事例
1)胃痛・腹痛・腰痛・咽頭痛・関節痛などの疼痛を訴える患者に疼痛が出現している場所に手をあてることでペインスケールが軽減し、疼痛の緩和を図ることができた。

2)不安・不定愁訴の多い患者・不眠を訴える患者へトータルタッチングを試行することで、不安の訴えが軽減し、ポジティブな発言や笑顔が見られるようになった。

3)ターミナルにおける患者に、その家族が手や体を触れていくことで、言葉によるコミュニケーションがとれない状態でも、より良い看取りを促すことができた。



4.さいごに
在宅でターミナルを迎えるには、「何をしてあげればいいのかわからない」「どうなっていくのか不安「見ていてつらい。疲れてしまった。」「できることはすべてしてあげたい。」など、ご家族もつらいお気持ちやご心配になられると思います。しかし、ご家族と協力しそれを共に乗り越え、寄り添わせていただきながら、ご自宅での看取り通して感じたことは、ご本人・ご家族の希望をかなえ、その人らしく最期を迎える感動は、本当に忘れられないほど充実した感動の想い出となることです。
仏教では、四苦八苦という表現があるのをご存じでしょうか。

生苦・・・うまれることにともなう苦しみ
老苦・・・老いにともなう苦しみ
病苦・・・病にともなう苦しみ
死苦・・・死にともなう苦しみ
愛別離苦・・・愛する人と別れる苦しみ
怨憎会苦・・・嫌な相手と向き合う苦しみ
求不得苦・・・求めても入らない苦しみ
五蘊盛苦・・・五感や心の働きが生む煩悩を制御できない苦しみ

これらの煩悩を無くせば人は心穏やかになれるとの教えです。患者さん自身が病と向き合い、その病をも受け入れ、生きていることへの感謝ができるとき、病でありながら、新しい人生の再出発ができるのだと思っています。
病を治すことに焦点をおいてしまうと、どうしても戦いと苦しみになっていくと思います。
病であってもその方が何かできる可能性を見いだし、その可能性を広げて行くことが生きる望み・希望へとつながっていくのかもしれません。
人は誰でもいつか死を迎えるものです。いつか自分が迎える最期の時をどのように過ごされたいか、日頃からイメージングしておくことが、デスエデュケーションとなり、より充実した人生になっていくことと思います。


参考文献
看護の技がもたらす効果「触れること、聴くことの気づき」 佐久大学 尾崎 フサ子
看護とタッチに関する実践的研究 藤野 彰子 風間書房
第三の脳 傳田 光洋 朝日出版
賢い皮膚 傳田 光洋 ちくま新書
「脳」という皮膚 山口 創 東京書籍
子供の脳は肌にある 山口 創 光文社新書
ターミナルケア 中谷茂一  聖学院大学助教授
「オキシトシン」シャスティン・ウヴネース・モベリ 
体と心を癒すタッチケアと祈り 2012年12月15日いわき市講演 土井 麻里 関西医科大学

略歴
中 ルミ(なか るみ)
平成7年、千葉県医療技術大学校 第一看護学科卒業。元文部科学省 放射線医学総研究所 病院部にて癌看護に務める。海外研修後心と体と魂の三身一体のホリスティック医療に興味をもち、セコム訪問看護ステーションでの勤務を経て、アロマやヒーリング、アートセラピーなどの代替療法を取り入れたルミナス訪問看護ケアステーションを立ち上げ、普及に努めている。国際ヒーリング看護協会理事長。ルミナス訪問看護ケアステーション管理者。国際生命情報科学学会評議員。三幸福祉カレッジ介護講師。


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