国際多施設共同臨床試験を通じてアジア地域に適した標準的な治療方法を
『FNCA放射線治療プロジェクトについて』
独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院
唐澤久美子
唐澤久美子
FNCA(アジア原子力協力フォーラム)は近隣アジア諸国との原子力平和利用の様々な分野での国際協力を行っており、その中の重要な分野の一つに放射線治療プロジェクトがある。今回は2013年1月15日~1月18日にタイのバンコクで行われた2012年度 FNCA 放射線治療プロジェクトワークショップに参加された、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院の唐澤久美子先生に、ご寄稿いただいた。
がんに対する適切な治療は世界的な課題で、がんの罹患数が急激に増加しているアジア諸国では特に重要な課題となっています。がん治療の3本の柱は、外科的切除、薬物療法と放射線療法ですが、放射線療法では高度な機器を管理して、さらにそれを適切に用いることが重要です。アジア諸国でも、放射線治療を必要とする患者さんの増加と共に、放射線療法が急速に普及してきています。
今後、アジア諸国は、協力して有効で安全な放射線治療の普及に務めるべきだと考えていますが、その方向性を考える上での一助として、20年にも及ぶFNCAの取り組みを皆様に知っていただきたくご紹介させていただきます。
Forum for Nuclear Cooperation in Asia(アジア原子力協力フォーラム)
http://www.fnca.mext.go.jp/index.html
とは、近隣アジア諸国との原子力分野の協力を推進する目的で日本が主導する原子力平和利用協力の枠組みです。現在、日本を含む核不拡散条約(NPT)加盟の12カ国、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムの12カ国が参加し、放射線利用開発(産業利用・環境利用、医学利用)、研究炉利用開発、原子力安全強化、原子力基盤強化の4分野で協力活動を行っています。その歴史は、1990年の「第1回アジア地域原子力協力国際会議(ICNCA)」にはじまり、1999年に開催された第10回会議で、効果的かつ組織的な協力活動のための新たな枠組みである「アジア原子力協力フォーラム FNCA」へと移行しています。現在、放射線育種、バイオ肥料、電子加速器利用、放射線治療、研究炉ネットワーク、中性子放射化分析、原子力安全マネジメントシステム、放射線安全・廃棄物管理、人材養成、核セキュリィ・保障措置の10プロジェクトが活動しています。
放射線治療プロジェクトは1993年に活動を開始、プロジェクトリーダーの辻井博彦先生をはじめとする放射線医学総合研究所のフタッフが事務局となり、各国の放射線治療分野の医師、医学物理士などと協力して活発な活動を継続してきました。その目的は、放射線療法に関する国際的な多施設共同臨床試験を通じてアジア地域に適した標準的な治療方法を確立し、放射線治療技術および治療成績の向上を図ることで、そのために以下の活動を行っています。
- 放射線腫瘍学ワークショップ
- 国際多施設共同臨床試験
- 現地放射線治療施設の視察と指導
- 放射線治療の物理学的品質保証/品質管理(QA/QC)
- 公開講座
- 出版、広報、その他
1993年から子宮頸癌放射線治療の標準化に取り組み、日本の標準的治療法でのパイロット研究を経て、1996年から1998年に、子宮頸癌ⅢB期に対する治療の標準化試験を行い、210例が登録され、2001年に「アジア地域における子宮頚癌治療における治療標準ガイドブック」を発刊しました。日本で開発された治療法が、アジアでも標準的な治療法として認知された代表例と言えると思います。1999年から2002年には、子宮頸癌ⅡBおよびⅢB期に対する1.5Gy1日2回の加速過分割照射の臨床試験、2003年からは、化学放射線療法の臨床試験、2007年からは傍大動脈リンパ節領域の予防照射を含む化学放射線療法の臨床試験が行われています。また、品質保証/品質管理(QA/QC)に関して、2008年に「小線源治療物理のハンドブック」を発行しました。これらの取り組みにより、日本の標準的治療法がFNCA子宮頸癌プロトコールとして、参加各国における標準プロトコールの一つとなっています。
上咽頭癌には2003年から取り組み、2005年から頸部リンパ節転移例に対する化学放射線療法併用と維持化学療法の臨床試験、局所進行癌に対する化学放射線療法の臨床試験を行い、2010年からは頸部リンパ節転移例に対する導入化学療法とした化学放射線療法の臨床試験を施行しています。FNCA上咽頭癌プロトコールを標準プロトコールの一つとして取り入れている国は現在5か国です。
2013年からは乳房温存術後あるいは乳房切除術後の乳癌に対する術後照射の短期照射法の臨床試験を開始し、安全かつ利便性の高い治療の普及を目指しています。 放射線治療の物理学的品質保証/品質管理(QA/QC)の活動としては、小線源治療、外部照射装置の出力線量調査を各国の施設への訪問調査で行っており、2012年度はベトナムのハノイを医学物理士の先生2名と私で訪問しました(写真1)。
臨床試験の進捗状況を報告し将来計画を討議する年次ワークショップは、各国持ち回りで年1回開かれていますが、2012年度のワークショップは2013年1月にバンコクで開催され、FNCAの11加盟国、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム、カザフスタンと、国際原子力機関(IAEA)からのオブザーバーとして原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定(RCA)の3加盟国、ミャンマー、パキスタン、スリランカが参加しました(写真2)。各国からの試験実施状況の報告に加え、2012年度新規加盟国のモンゴル、カザフスタンと、IAEA/RCAから参加の3か国からの放射線治療の状況報告がありましたが、欧米に並ぶ先進的な治療が行われている国から、放射線治療施設が1か所しかなく、まだリニアックも導入されていない国まであり、技術支援の必要性を強く感じました。
FNCAの活動は、参加各国から国内への良い治療の普及に有効と評価され、さらなる活動を期待されています。今後は、日本からの供与的な事業と並行して、アジア発の新たな治療法などに関する共同研究などの協調体制をもっと広く考える時期に来ていると考えています。
今後、アジア諸国は、協力して有効で安全な放射線治療の普及に務めるべきだと考えていますが、その方向性を考える上での一助として、20年にも及ぶFNCAの取り組みを皆様に知っていただきたくご紹介させていただきます。
Forum for Nuclear Cooperation in Asia(アジア原子力協力フォーラム)
http://www.fnca.mext.go.jp/index.html
とは、近隣アジア諸国との原子力分野の協力を推進する目的で日本が主導する原子力平和利用協力の枠組みです。現在、日本を含む核不拡散条約(NPT)加盟の12カ国、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムの12カ国が参加し、放射線利用開発(産業利用・環境利用、医学利用)、研究炉利用開発、原子力安全強化、原子力基盤強化の4分野で協力活動を行っています。その歴史は、1990年の「第1回アジア地域原子力協力国際会議(ICNCA)」にはじまり、1999年に開催された第10回会議で、効果的かつ組織的な協力活動のための新たな枠組みである「アジア原子力協力フォーラム FNCA」へと移行しています。現在、放射線育種、バイオ肥料、電子加速器利用、放射線治療、研究炉ネットワーク、中性子放射化分析、原子力安全マネジメントシステム、放射線安全・廃棄物管理、人材養成、核セキュリィ・保障措置の10プロジェクトが活動しています。
放射線治療プロジェクトは1993年に活動を開始、プロジェクトリーダーの辻井博彦先生をはじめとする放射線医学総合研究所のフタッフが事務局となり、各国の放射線治療分野の医師、医学物理士などと協力して活発な活動を継続してきました。その目的は、放射線療法に関する国際的な多施設共同臨床試験を通じてアジア地域に適した標準的な治療方法を確立し、放射線治療技術および治療成績の向上を図ることで、そのために以下の活動を行っています。
- 放射線腫瘍学ワークショップ
- 国際多施設共同臨床試験
- 現地放射線治療施設の視察と指導
- 放射線治療の物理学的品質保証/品質管理(QA/QC)
- 公開講座
- 出版、広報、その他
1993年から子宮頸癌放射線治療の標準化に取り組み、日本の標準的治療法でのパイロット研究を経て、1996年から1998年に、子宮頸癌ⅢB期に対する治療の標準化試験を行い、210例が登録され、2001年に「アジア地域における子宮頚癌治療における治療標準ガイドブック」を発刊しました。日本で開発された治療法が、アジアでも標準的な治療法として認知された代表例と言えると思います。1999年から2002年には、子宮頸癌ⅡBおよびⅢB期に対する1.5Gy1日2回の加速過分割照射の臨床試験、2003年からは、化学放射線療法の臨床試験、2007年からは傍大動脈リンパ節領域の予防照射を含む化学放射線療法の臨床試験が行われています。また、品質保証/品質管理(QA/QC)に関して、2008年に「小線源治療物理のハンドブック」を発行しました。これらの取り組みにより、日本の標準的治療法がFNCA子宮頸癌プロトコールとして、参加各国における標準プロトコールの一つとなっています。
上咽頭癌には2003年から取り組み、2005年から頸部リンパ節転移例に対する化学放射線療法併用と維持化学療法の臨床試験、局所進行癌に対する化学放射線療法の臨床試験を行い、2010年からは頸部リンパ節転移例に対する導入化学療法とした化学放射線療法の臨床試験を施行しています。FNCA上咽頭癌プロトコールを標準プロトコールの一つとして取り入れている国は現在5か国です。
2013年からは乳房温存術後あるいは乳房切除術後の乳癌に対する術後照射の短期照射法の臨床試験を開始し、安全かつ利便性の高い治療の普及を目指しています。 放射線治療の物理学的品質保証/品質管理(QA/QC)の活動としては、小線源治療、外部照射装置の出力線量調査を各国の施設への訪問調査で行っており、2012年度はベトナムのハノイを医学物理士の先生2名と私で訪問しました(写真1)。
臨床試験の進捗状況を報告し将来計画を討議する年次ワークショップは、各国持ち回りで年1回開かれていますが、2012年度のワークショップは2013年1月にバンコクで開催され、FNCAの11加盟国、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム、カザフスタンと、国際原子力機関(IAEA)からのオブザーバーとして原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定(RCA)の3加盟国、ミャンマー、パキスタン、スリランカが参加しました(写真2)。各国からの試験実施状況の報告に加え、2012年度新規加盟国のモンゴル、カザフスタンと、IAEA/RCAから参加の3か国からの放射線治療の状況報告がありましたが、欧米に並ぶ先進的な治療が行われている国から、放射線治療施設が1か所しかなく、まだリニアックも導入されていない国まであり、技術支援の必要性を強く感じました。
FNCAの活動は、参加各国から国内への良い治療の普及に有効と評価され、さらなる活動を期待されています。今後は、日本からの供与的な事業と並行して、アジア発の新たな治療法などに関する共同研究などの協調体制をもっと広く考える時期に来ていると考えています。
写真1:ベトナム ハノイのNational Cancer Instituteでの線量測定の様子
写真2:2012年度放射線治療ワークショップ ( タイ・バンコク)での討議の様子。
写真3:バンコクのシリラート病院の視察。
ちょうどタイ訪問中の安倍首相と一緒になりました。
タイ王国随一の病院で、放射線治療施設とスタッフの充実も目を見張るものでした。
ちょうどタイ訪問中の安倍首相と一緒になりました。
タイ王国随一の病院で、放射線治療施設とスタッフの充実も目を見張るものでした。
略歴
唐澤 久美子(からさわ くみこ)
昭和61年東京女子医科大学卒業後同放射線科入局、同大放射線科助手、講師を経て、平成14年順天堂大放射線科講師、平成17年同助教授、平成18年同大学院先端放射線治療医学物理学講座責任者併任を経て平成23年より現職。
専門 がんの放射線療法(とくに乳癌)、化学放射線療法、医学物理教育
日本医学放射線学会放射線治療専門医 日本乳癌学会乳腺専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本放射線腫瘍学会代議員・広報委員・医学物理士委員 日本医学物理士認定機構理事・教育コース認定委員・医学物理士認定委員・試験委員 日本乳癌学会評議員 日本医学物理学会代議員・教育委員・防護委員など
昭和61年東京女子医科大学卒業後同放射線科入局、同大放射線科助手、講師を経て、平成14年順天堂大放射線科講師、平成17年同助教授、平成18年同大学院先端放射線治療医学物理学講座責任者併任を経て平成23年より現職。
専門 がんの放射線療法(とくに乳癌)、化学放射線療法、医学物理教育
日本医学放射線学会放射線治療専門医 日本乳癌学会乳腺専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本放射線腫瘍学会代議員・広報委員・医学物理士委員 日本医学物理士認定機構理事・教育コース認定委員・医学物理士認定委員・試験委員 日本乳癌学会評議員 日本医学物理学会代議員・教育委員・防護委員など