消費税増税に潜む大きな医療危機
『いつまでこの状態が続くのか、増税分の価格転嫁が許されない医療費』
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
院長 多田 智裕
ただともひろ胃腸科肛門科
院長 多田 智裕
2014年4月からの消費税増税が決まった。美容整形など一部を除き、保険診療の対象となる医療行為には消費税は非課税になっている。病院での医療行為の大半が保険診療だから、ほとんどの人は病院に通ったとしても消費税が掛からない。一方病院側にとっては、患者から消費税を取れない事は非常に大きな負担となる。病院が購入する大小様々な医療機器、治療に使う薬剤、包帯や注射などの消耗品などにすべて消費税が課税される。つまり病院は「売上」からは消費税が入らず、「仕入」には消費税が掛かるので、消費税分だけ損害となり、いわゆる「損税」が発生している。
これは消費税導入時からの問題になっているにもかかわらず一向に改善されず、消費税が増税されるほど損税額は拡大し、医療機関にとって大きな問題となっている。
政府は12月20日、2014年度診療報酬・薬価改定の改定率(医療費ベース)について、全体(ネット)で0.1%引き上げることを決めたが、損税解消にはほど遠い。
医療機関は全日本病院協会の調査によると、2008年度の1年間に未収金、いわゆる取りっぱぐれが136億1,234万円(1施設平均548万円)にも上るなどこれらの構造的な経営悪化要因に悩まされている。 結局こうした医療施設の疲弊は、私たち患者へのサービスの低下などとなって返ってくる。自分は医療費が非課税だから「ああ良かった」として他人事では済まない問題だ。
なお、このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)http://jbpress.ismedia.jp/ 2013年11月14日に掲載されたものをご厚意で転載させていただいたものです。
いつもながらの多田先生のご厚意に感謝いたします。(會田昭一郎)
これは消費税導入時からの問題になっているにもかかわらず一向に改善されず、消費税が増税されるほど損税額は拡大し、医療機関にとって大きな問題となっている。
政府は12月20日、2014年度診療報酬・薬価改定の改定率(医療費ベース)について、全体(ネット)で0.1%引き上げることを決めたが、損税解消にはほど遠い。
医療機関は全日本病院協会の調査によると、2008年度の1年間に未収金、いわゆる取りっぱぐれが136億1,234万円(1施設平均548万円)にも上るなどこれらの構造的な経営悪化要因に悩まされている。 結局こうした医療施設の疲弊は、私たち患者へのサービスの低下などとなって返ってくる。自分は医療費が非課税だから「ああ良かった」として他人事では済まない問題だ。
なお、このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)http://jbpress.ismedia.jp/ 2013年11月14日に掲載されたものをご厚意で転載させていただいたものです。
いつもながらの多田先生のご厚意に感謝いたします。(會田昭一郎)
10月1日 安倍晋三首相は2014年4月より消費税を5%から8%に引き上げることを表明しました。それを受けて、様々な業界で3%増税分を価格に転嫁する動きが次々に明らかになってきました。
日本郵便は現在50円のはがき代金を52円に、80円の封書代金を82円に値上げすることを表明しています。また、銀行の振込手数料は105円が108円へと3円値上げ、タバコも1箱につき20円、ディズニーランドの入園料も200円値上げされるようです。
その一方、あまり意識されることはありませんが、医療費には消費税がかかりません。非課税なのです。
このことについて、「医療費は消費税がかからないので、来年4月から3%消費税が増えようが、これから先、さらに10%になろうが、医療費は増税の影響を受けません」と説明しているメディアも見受けられます。しかし、それは認識があまりにも表面的すぎます。
なぜならば、利用者が窓口で支払う医療費に消費税は発生しませんが、医療機関が薬や医療機器などを仕入れたりする代金、消耗品購入や外注費用には、全て消費税が課税されているからです。 この医療費の消費税非課税問題により、医療機関が被っている損害は、私の診療所で年間250万円程度、病院ともなれば5000万円から数億円と言われています。
ましてや消費税が8%になれば負担額は1.6倍に、10%になれば2倍になってしまいます。この医療機関の損税問題はずっと指摘され続けてきました。政府は一体いつまで放置し続けるつもりなのでしょうか。
●消費税増税の負担が医療機関を直撃
そもそも消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、「消費者が負担し、事業者が納付」(国税庁の定義)するものです。
ですから、消費税そのものを企業が負担することはありません。企業は販売価格に消費税を上乗せした金額を消費者に請求し、その消費税を国に納付しているだけなのです。
ところが医療においては、受診者が窓口で支払った2000円に消費税は含まれていないのに、医療機関は仕入れ等に発生した消費税を納めなければなりません。消費税非課税であるがため、消費税を“利用者ではなく医療機関が負担して納付”するという状態になっています。
もちろん、消費税がかからないものは、家賃や学費(授業料)などのように他にもあります、でもこれらは、消費税増税の際に各自が自由に値段を決める(上げる)ことができます。
しかし、医療費は全国一律の統制価格で値段が決まっているため、医療機関が消費税分の値上げをすることが許されません。つまり、3%消費税が増え ると、医療そのものの価格(保険点数)を国が3%上昇させない限り、医療機関の負担する消費税が増えてしまうことになるのです。
●「診療報酬に上乗せ」ですでに補填済み?
医療費の非課税問題は、消費税分だけ医療費の価格を上げれば解決します。そのため厚生労働省はこれまで「この損税分は診療報酬に上乗せ済み」と説明しています。
確かに1989年の消費税3%導入時に診療報酬は0.76%上昇しました。また、97年に消費税が3%から5%に上昇した際に、診療報酬は0.77%上昇しています。
しかし問題は、消費税が5%上乗せされたのに対して、診療報酬が合計で1.53%しか値上げされていないことにあります。日本医師会の試算では医 療機関の実質消費税負担は2.2%であり、少なくとも0.67%分は損税が解消されていません。これで「消費税分は既に補填済み」とされるのは大いに無理 があります。
5%の増税の補填として「1.53%の報酬上昇で消費税増税分は解決済み」という理屈を一般に当てはめると一体どうなるのでしょうか。
この理屈で行くと、今回の3%消費税増税分の価格値上げは0.7%程度でよいということになります。今回の消費税増税に対して3%の価格上乗せを 表明している企業は便乗値上げであり、本来アップしてしなくてもよい2.3%分を便乗値上げしているということになってしまいます。
●医療費の“消費税ゼロ税率”実現を
医療が国民の生命や健康維持に直接関わるものである以上、医療費を消費税非課税にすること自体は政策的配慮として決して間違っているものではありません。
しかし、そのために医療機関に年間数百万から数千万円の損税を発生させているのです。この状況を見て見ぬ振りをして放置するのは大きな問題と言わざるをえません。
診療報酬を自由に設定することができない医療機関は、現状で平均利益率が4~5%程度と厳しい経営を余儀なくされています。
消費税がさらに3%増税される際に、また0.7%程度中途半端に診療報酬を上げて、「補填したので解決済み」ということにされる。この、とても抜本的とは言えない対策を、消費税増税の度にこれからもずっと続けるつもりなのでしょうか。
私も含めて医療界は、医療費の“消費税ゼロ税率”を求めています。「医療費が消費税非課税である以上、医療機関が支払う消費税も還付可能にしてほしい」という要望です。
この主張に対して「医療を特別扱いすると税制の根幹を揺るぎかねない」と指摘する声も聞かれます。しかし、「税制の不公平を直してほしい」という至極真っ当な要求だと思います。
トヨタ、ソニーなどの日本を代表する輸出企業は、輸出品に転嫁できない消費税を戻し税として還付されています。それなのに、医療機関はなぜ消費税の還付請求ができないのか、なぜ根本的な解決策を回避するのか、合理的な説明はおそらく不可能でしょう。
その一方、あまり意識されることはありませんが、医療費には消費税がかかりません。非課税なのです。
このことについて、「医療費は消費税がかからないので、来年4月から3%消費税が増えようが、これから先、さらに10%になろうが、医療費は増税の影響を受けません」と説明しているメディアも見受けられます。しかし、それは認識があまりにも表面的すぎます。
なぜならば、利用者が窓口で支払う医療費に消費税は発生しませんが、医療機関が薬や医療機器などを仕入れたりする代金、消耗品購入や外注費用には、全て消費税が課税されているからです。 この医療費の消費税非課税問題により、医療機関が被っている損害は、私の診療所で年間250万円程度、病院ともなれば5000万円から数億円と言われています。
ましてや消費税が8%になれば負担額は1.6倍に、10%になれば2倍になってしまいます。この医療機関の損税問題はずっと指摘され続けてきました。政府は一体いつまで放置し続けるつもりなのでしょうか。
●消費税増税の負担が医療機関を直撃
そもそも消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、「消費者が負担し、事業者が納付」(国税庁の定義)するものです。
ですから、消費税そのものを企業が負担することはありません。企業は販売価格に消費税を上乗せした金額を消費者に請求し、その消費税を国に納付しているだけなのです。
ところが医療においては、受診者が窓口で支払った2000円に消費税は含まれていないのに、医療機関は仕入れ等に発生した消費税を納めなければなりません。消費税非課税であるがため、消費税を“利用者ではなく医療機関が負担して納付”するという状態になっています。
もちろん、消費税がかからないものは、家賃や学費(授業料)などのように他にもあります、でもこれらは、消費税増税の際に各自が自由に値段を決める(上げる)ことができます。
しかし、医療費は全国一律の統制価格で値段が決まっているため、医療機関が消費税分の値上げをすることが許されません。つまり、3%消費税が増え ると、医療そのものの価格(保険点数)を国が3%上昇させない限り、医療機関の負担する消費税が増えてしまうことになるのです。
●「診療報酬に上乗せ」ですでに補填済み?
医療費の非課税問題は、消費税分だけ医療費の価格を上げれば解決します。そのため厚生労働省はこれまで「この損税分は診療報酬に上乗せ済み」と説明しています。
確かに1989年の消費税3%導入時に診療報酬は0.76%上昇しました。また、97年に消費税が3%から5%に上昇した際に、診療報酬は0.77%上昇しています。
しかし問題は、消費税が5%上乗せされたのに対して、診療報酬が合計で1.53%しか値上げされていないことにあります。日本医師会の試算では医 療機関の実質消費税負担は2.2%であり、少なくとも0.67%分は損税が解消されていません。これで「消費税分は既に補填済み」とされるのは大いに無理 があります。
5%の増税の補填として「1.53%の報酬上昇で消費税増税分は解決済み」という理屈を一般に当てはめると一体どうなるのでしょうか。
この理屈で行くと、今回の3%消費税増税分の価格値上げは0.7%程度でよいということになります。今回の消費税増税に対して3%の価格上乗せを 表明している企業は便乗値上げであり、本来アップしてしなくてもよい2.3%分を便乗値上げしているということになってしまいます。
●医療費の“消費税ゼロ税率”実現を
医療が国民の生命や健康維持に直接関わるものである以上、医療費を消費税非課税にすること自体は政策的配慮として決して間違っているものではありません。
しかし、そのために医療機関に年間数百万から数千万円の損税を発生させているのです。この状況を見て見ぬ振りをして放置するのは大きな問題と言わざるをえません。
診療報酬を自由に設定することができない医療機関は、現状で平均利益率が4~5%程度と厳しい経営を余儀なくされています。
消費税がさらに3%増税される際に、また0.7%程度中途半端に診療報酬を上げて、「補填したので解決済み」ということにされる。この、とても抜本的とは言えない対策を、消費税増税の度にこれからもずっと続けるつもりなのでしょうか。
私も含めて医療界は、医療費の“消費税ゼロ税率”を求めています。「医療費が消費税非課税である以上、医療機関が支払う消費税も還付可能にしてほしい」という要望です。
この主張に対して「医療を特別扱いすると税制の根幹を揺るぎかねない」と指摘する声も聞かれます。しかし、「税制の不公平を直してほしい」という至極真っ当な要求だと思います。
トヨタ、ソニーなどの日本を代表する輸出企業は、輸出品に転嫁できない消費税を戻し税として還付されています。それなのに、医療機関はなぜ消費税の還付請求ができないのか、なぜ根本的な解決策を回避するのか、合理的な説明はおそらく不可能でしょう。
略歴
多田 智裕(ただ ともひろ)
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士