興味深い放射線治療環境の共有化
『東北がんネットワークの試み』
山形大学がん臨床センター長(放射線腫瘍学分野)
根本 建二
根本 建二
がん対策基本法の大きな柱の一つとして、日本中どこに住んでいてもがんの標準治療が受けられるいわゆる「均てん化」が進められ、がん診療連携拠点病院が全国に指定されている。だが、中でも放射線治療は手術や化学療法と異なり、通常は巨大で高額な放射線治療機器や、防護施設などを必要とするため、これらの機器や設備を導入できずにいる施設も多々ある。
そこで山形大学と東北大学が音頭をとって、がん治療全般にわたって東北地域での医療情報ネットワークを構築するという、興味深い試みがなされている。
就中成果を挙げているのが放射線治療分野で、その中心的な役割を果たしておられる山形大学の根本教授にうかがった。(會田 昭一郎)
がん対策基本法という法律があります。この法律では、日本のどこにすんでいても等しくレベルの高いがん医療が受けられるよう“均てん化”ということがうたわれています。しかしながら、現実には地域によりがんの治療法が異なっていたりしますし、放射線治療分野では地域によっては導入されていない機械もあることから、 “均てん化”が達成されているとは言いがたい状況もあります。
このような問題を解決するための、県を越えて東北地方の病院が連携しようと、東北がんネットワークという組織が平成21年に作られました(現会長:嘉山孝正国立がん研究センター名誉総長)。山形大学と東北大学が呼びかけを行い、東北地方の30を越えるがん診療に熱心な病院が会員として参加しています。化学療法、放射線治療、緩和医療、など6つの委員会にわかれて、がん医療の向上に向けた活動を行っています。このような、県境を越えた広域でのがん医療のレベルアップの試みは、全国でも東北地方でしか行われていません。
私が委員長を務める放射線治療の委員会では、放射線治療の情報共有で成果をあげています。放射線治療に特殊なものがいろいろあり、どの病院でその治療ができるのか、その病院で治療を受けるためにはどうすれば良いか、などの情報は、専門医も患者さんも持っていませんでした。医師、患者さんとも優れた治療を選ぶ機会を失っていることなります。病院が連携し、得意な分野の情報と共有することで、地方の医療資源を有効活用できるようになりました。東北地方も放射線治療の情報はhttp://touhoku-gannet.jp/にありますので是非ご覧ください。
また、このネットワーク東日本大震災の際にも大きな力を発揮しました。3月11日の震災から土日を挟んで、翌火曜日の3月15日には東北地方のほぼすべての放射線治療施設の被害状況、他院からの放射線治療患者受け入れ情報のリストが整いました(写真参照)。
震災により何らかの形で放射線治療が休止した病院は東北地方全体で25病院でしたが、被害からの復旧は速やかで、おおよそ2週間で8割の病院で放射線治療が再開したことを把握できました。非常勤医が交通網の遮断で動きがとれず、放射線治療ができなくなった病院もありましたが、ネットワークが大学を越えた派遣調整を行うことで、放射線治療の継続、新患の受け入れも可能でした。ネットワーク内での情報共有はほぼすべての病院の放射線治療が正常化した震災2ヶ月後の5月半ばまで続けられました。
放射線治療分野では重粒子線治療装置、陽子線治療装置など、数十億~百億円を超える高額な最新鋭機器が登場し、成果を上げています。しかし、高額であるため、人口密集地に設置が偏り、東北地方の患者さんに有効に使われているわけではありません(現在、東北地方の粒子線施設は郡山市の南東北病院の陽子線施設のみ)。最近ではこのネットワーク内に粒子線コンソーシアムという組織設置し、東北地方での粒子線治療装置の有効活用や導入への取り組みをも行っています。広大で人口密度の少ない東北地方で、地域の方が粒子線治療を適切に利用できるようにするため、加盟病院と粒子線治療施設をITネットワークで結び、東北地方のどこからでも陽子線治療や重粒子線治療の相談ができる体制整備をはじめています。また、今後はネットワークメンバーが協力して、重粒子線治療装置や陽子線治療装置の適正配置や有効利用も検討していく予定です。
このように東北がんネットワークは様々な形で地域のがん医療のレベルアップに貢献しています。皆様のご支援を賜れば幸いです。
このような問題を解決するための、県を越えて東北地方の病院が連携しようと、東北がんネットワークという組織が平成21年に作られました(現会長:嘉山孝正国立がん研究センター名誉総長)。山形大学と東北大学が呼びかけを行い、東北地方の30を越えるがん診療に熱心な病院が会員として参加しています。化学療法、放射線治療、緩和医療、など6つの委員会にわかれて、がん医療の向上に向けた活動を行っています。このような、県境を越えた広域でのがん医療のレベルアップの試みは、全国でも東北地方でしか行われていません。
私が委員長を務める放射線治療の委員会では、放射線治療の情報共有で成果をあげています。放射線治療に特殊なものがいろいろあり、どの病院でその治療ができるのか、その病院で治療を受けるためにはどうすれば良いか、などの情報は、専門医も患者さんも持っていませんでした。医師、患者さんとも優れた治療を選ぶ機会を失っていることなります。病院が連携し、得意な分野の情報と共有することで、地方の医療資源を有効活用できるようになりました。東北地方も放射線治療の情報はhttp://touhoku-gannet.jp/にありますので是非ご覧ください。
また、このネットワーク東日本大震災の際にも大きな力を発揮しました。3月11日の震災から土日を挟んで、翌火曜日の3月15日には東北地方のほぼすべての放射線治療施設の被害状況、他院からの放射線治療患者受け入れ情報のリストが整いました(写真参照)。
震災直後の東北がんネットワークメーリングリスト
*個人情報保護の観点から差出人は表示しておりません。
*個人情報保護の観点から差出人は表示しておりません。
震災により何らかの形で放射線治療が休止した病院は東北地方全体で25病院でしたが、被害からの復旧は速やかで、おおよそ2週間で8割の病院で放射線治療が再開したことを把握できました。非常勤医が交通網の遮断で動きがとれず、放射線治療ができなくなった病院もありましたが、ネットワークが大学を越えた派遣調整を行うことで、放射線治療の継続、新患の受け入れも可能でした。ネットワーク内での情報共有はほぼすべての病院の放射線治療が正常化した震災2ヶ月後の5月半ばまで続けられました。
放射線治療分野では重粒子線治療装置、陽子線治療装置など、数十億~百億円を超える高額な最新鋭機器が登場し、成果を上げています。しかし、高額であるため、人口密集地に設置が偏り、東北地方の患者さんに有効に使われているわけではありません(現在、東北地方の粒子線施設は郡山市の南東北病院の陽子線施設のみ)。最近ではこのネットワーク内に粒子線コンソーシアムという組織設置し、東北地方での粒子線治療装置の有効活用や導入への取り組みをも行っています。広大で人口密度の少ない東北地方で、地域の方が粒子線治療を適切に利用できるようにするため、加盟病院と粒子線治療施設をITネットワークで結び、東北地方のどこからでも陽子線治療や重粒子線治療の相談ができる体制整備をはじめています。また、今後はネットワークメンバーが協力して、重粒子線治療装置や陽子線治療装置の適正配置や有効利用も検討していく予定です。
このように東北がんネットワークは様々な形で地域のがん医療のレベルアップに貢献しています。皆様のご支援を賜れば幸いです。
略歴
根本 建二(ねもと けんじ)
東北大学医学部卒業後、宮城県立成人病センター放射線科、東北大学医学部大学院、東北大学医学部付属病院助手、東北大学大学院量子治療学分野講師、東北大学大学院放射線腫瘍学分野助教授を経て平成18年4月山形大学医学部放射線腫瘍学分野教授。平成19年4月から山形大学医学部がん臨床センター長を兼務。
東北大学医学部卒業後、宮城県立成人病センター放射線科、東北大学医学部大学院、東北大学医学部付属病院助手、東北大学大学院量子治療学分野講師、東北大学大学院放射線腫瘍学分野助教授を経て平成18年4月山形大学医学部放射線腫瘍学分野教授。平成19年4月から山形大学医学部がん臨床センター長を兼務。