共著紹介
『被ばく列島―放射線医療と原子炉-』
北海道がんセンター 名誉院長
西尾正道
西尾正道
平成23年12月、野田佳彦首相は記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と事故収束を宣言した。平成25年9月にはIOC総会で東京への五輪招致演説をした安倍首相は、福島原発事故について under control として安全性確保に自信を示した。
だが、「除染」と称して放射能汚染物質を高圧洗浄などで吹き飛ばし、表土を剥ぎ取ったりしているが、見かけ上洗浄した道路やグランド、表土を剥ぎ取ったところだけは線量は少なくなるだけである。枯葉などなら吹き飛ばされたところで自然に土に返るかもしれないし、火山灰などなら、道のわきなどに積んでおいても長期間には土に返ってしまうかもしれないが、放射能汚染物質はそうは行かない、セシウムの半減期が30年、中にはそれ以上のものもあるので、「除染」といっても実際には放射能汚染物質を撒き散らしているだけで、「撒染」でしかないようだ。ましてや山間部の汚染された木々の葉などはどうなるのだろう、「除染」などできるわけもない。こうしてばらまかれた放射能汚染物質はやがて様々な経路を通って、海へと流れ込むだろう。
原発自体の垂れ流している放射能汚染水も、凍土作戦もままならず、結局だらだらと海に流れ込んでいる。これで一体、世界中に向かって安全といっていいのだろうか。
こうした事態を踏まえて市民に寄り添った情報提供を核物理工学の立場と放射線医療の立場から発言し続けるビッグ2の対談が実現し、まとまったのがご紹介する『被ばく列島―放射線医療と原子炉-』だ。
共著者のひとりであり、市民のためのがん治療の会顧問の西尾先生に「共著紹介」をお願いした。(會田 昭一郎)
だが、「除染」と称して放射能汚染物質を高圧洗浄などで吹き飛ばし、表土を剥ぎ取ったりしているが、見かけ上洗浄した道路やグランド、表土を剥ぎ取ったところだけは線量は少なくなるだけである。枯葉などなら吹き飛ばされたところで自然に土に返るかもしれないし、火山灰などなら、道のわきなどに積んでおいても長期間には土に返ってしまうかもしれないが、放射能汚染物質はそうは行かない、セシウムの半減期が30年、中にはそれ以上のものもあるので、「除染」といっても実際には放射能汚染物質を撒き散らしているだけで、「撒染」でしかないようだ。ましてや山間部の汚染された木々の葉などはどうなるのだろう、「除染」などできるわけもない。こうしてばらまかれた放射能汚染物質はやがて様々な経路を通って、海へと流れ込むだろう。
原発自体の垂れ流している放射能汚染水も、凍土作戦もままならず、結局だらだらと海に流れ込んでいる。これで一体、世界中に向かって安全といっていいのだろうか。
こうした事態を踏まえて市民に寄り添った情報提供を核物理工学の立場と放射線医療の立場から発言し続けるビッグ2の対談が実現し、まとまったのがご紹介する『被ばく列島―放射線医療と原子炉-』だ。
共著者のひとりであり、市民のためのがん治療の会顧問の西尾先生に「共著紹介」をお願いした。(會田 昭一郎)
2011年3月11日以降の日本社会は深刻な事態と向き合わなければならないこととなった。津波という自然災害の被害は国民の努力によって復興できるであろう。しかし、福島第一原子力発電所の人災も絡んだ事故処理は目途が立たないほど深刻であり、日本の出鱈目な政府・行政の対応もあり、将来的には禍根を残しかねない現状が続いている。
原発被害からの復興はその過程において、戦後の高度経済成長を成し遂げた日本の文明のあり方をも見直す機会となっているが、そうした問題意識は薄く、目先の経済的利益を追い求めている為政者の姿がある。人間には相容れない放射性物質を世界中に撒き散らそうとする無見識な政府は、原発輸出を推進し売りつける条件として、使用済み燃料棒は日本が引き取るとか、国民の血税を使って原発購入の資金を日本が融資し、事故が起これば、日本が賠償責任を取るという密約まで交わしているという。
一方で、オリンピック誘致に湧き上がっている若者の眼は政治には向かわず、為政者は戦後レジームからの脱却と称して、将来、歴史的に振り返れば、特定秘密保護法や集団的自衛権のご都合主義的解釈変更などにより、新たな戦前のレジームの構築が行われている。
また私が仕事としていたがん治療の領域でも、医療不信を根底にした風潮の中で、がんを発見しても治療しないで放置することを勧めるような医療否定本が売れている。
こうした時期に『放射線治療医の本音―がん患者2万人と向け合って―』(NHK出版、2002年刊)の出版に際しお世話になった元NHK出版部の知人より、小出章裕氏との対談を企画して頂いたことから本書を出版する運びとなった。
核物理工学の立場から原発の問題、医学の立場から放射線の健康問題を論じたいと思ったからである。福島原発事故後に多くの本が出版されたが、医師の立場からの本は少なく、またそれらの本の健康被害に関する内容はICRP(国際放射線防護委員会)の報告書を基にした内容が多く、小出氏が主張する脱原発の立場を医学的に援護する内容には乏しいものであった。そこで小出氏に共感している私は、放射線医学に長く携わってきた実感から放射線健康被害の真実を多くの方に理解して頂きたいと思い対談をさせて頂いた。
私はがんを放射線で治す表(光)の世界に身を置き、忙しい日常臨床の業務に追われていたが、原発事故後に放射線の裏(影)の世界を見渡すと、放射線の健康被害に関してはトンデモナイ嘘と誤魔化しにより疑似科学の様相を呈した物語を作り上げていることに驚愕した。原子力政策を推進するために国民の健康を犠牲にしても利益を守ろうとする国際的な原子力マフィアが健康被害を隠蔽するための物語で医療関係者も含めた国民に催眠術をかけているのである。「嘘も百万回言えば本当になる」催眠手法である。
本書では原子力発電が極めて非人間的で未熟な手段であり、代替手段があるにも関わらず、原発に固執する不当性を対談相手の小出さんに解説して頂き、私は放射線の裏(影)の世界について述べさせていただいた。特に放射線の影響は、放射線が当たっている範囲の細胞の線量を計算すべきであるが、内部被ばくも外部被ばくと同様に全身化換算して実効線量というインチキな単位で比較し、内部被ばくの線量を超極少化して評価する問題を指摘した。また原発事故後に行われている多くの隠蔽や棄民政策についても情報提供した。
さらに、医療において放射線を使う便益やメリットと健康被害のデメリットを区別し、適切に放射線を使う見識も必要であることを述べさせて頂いた。
内容的にはかなり激しいものとなったが、こうした「放痴国家」の現状の中で、今一度本書を通じて正しい情報を基に、国民が今後の生活や健康な人生を送るための判断材料として頂ければと思う。「お金のための科学・医学」ではなく、「国民のための科学・医学」への転換が必要であり、科学や医学に携わっている人達も、自らの姿勢と責任が問われていることを再認識して頂ければと思う。
角川oneテーマ21
2014年10月10日刊
定価 : 本体800円(税別)
略歴原発被害からの復興はその過程において、戦後の高度経済成長を成し遂げた日本の文明のあり方をも見直す機会となっているが、そうした問題意識は薄く、目先の経済的利益を追い求めている為政者の姿がある。人間には相容れない放射性物質を世界中に撒き散らそうとする無見識な政府は、原発輸出を推進し売りつける条件として、使用済み燃料棒は日本が引き取るとか、国民の血税を使って原発購入の資金を日本が融資し、事故が起これば、日本が賠償責任を取るという密約まで交わしているという。
一方で、オリンピック誘致に湧き上がっている若者の眼は政治には向かわず、為政者は戦後レジームからの脱却と称して、将来、歴史的に振り返れば、特定秘密保護法や集団的自衛権のご都合主義的解釈変更などにより、新たな戦前のレジームの構築が行われている。
また私が仕事としていたがん治療の領域でも、医療不信を根底にした風潮の中で、がんを発見しても治療しないで放置することを勧めるような医療否定本が売れている。
こうした時期に『放射線治療医の本音―がん患者2万人と向け合って―』(NHK出版、2002年刊)の出版に際しお世話になった元NHK出版部の知人より、小出章裕氏との対談を企画して頂いたことから本書を出版する運びとなった。
核物理工学の立場から原発の問題、医学の立場から放射線の健康問題を論じたいと思ったからである。福島原発事故後に多くの本が出版されたが、医師の立場からの本は少なく、またそれらの本の健康被害に関する内容はICRP(国際放射線防護委員会)の報告書を基にした内容が多く、小出氏が主張する脱原発の立場を医学的に援護する内容には乏しいものであった。そこで小出氏に共感している私は、放射線医学に長く携わってきた実感から放射線健康被害の真実を多くの方に理解して頂きたいと思い対談をさせて頂いた。
私はがんを放射線で治す表(光)の世界に身を置き、忙しい日常臨床の業務に追われていたが、原発事故後に放射線の裏(影)の世界を見渡すと、放射線の健康被害に関してはトンデモナイ嘘と誤魔化しにより疑似科学の様相を呈した物語を作り上げていることに驚愕した。原子力政策を推進するために国民の健康を犠牲にしても利益を守ろうとする国際的な原子力マフィアが健康被害を隠蔽するための物語で医療関係者も含めた国民に催眠術をかけているのである。「嘘も百万回言えば本当になる」催眠手法である。
本書では原子力発電が極めて非人間的で未熟な手段であり、代替手段があるにも関わらず、原発に固執する不当性を対談相手の小出さんに解説して頂き、私は放射線の裏(影)の世界について述べさせていただいた。特に放射線の影響は、放射線が当たっている範囲の細胞の線量を計算すべきであるが、内部被ばくも外部被ばくと同様に全身化換算して実効線量というインチキな単位で比較し、内部被ばくの線量を超極少化して評価する問題を指摘した。また原発事故後に行われている多くの隠蔽や棄民政策についても情報提供した。
さらに、医療において放射線を使う便益やメリットと健康被害のデメリットを区別し、適切に放射線を使う見識も必要であることを述べさせて頂いた。
内容的にはかなり激しいものとなったが、こうした「放痴国家」の現状の中で、今一度本書を通じて正しい情報を基に、国民が今後の生活や健康な人生を送るための判断材料として頂ければと思う。「お金のための科学・医学」ではなく、「国民のための科学・医学」への転換が必要であり、科学や医学に携わっている人達も、自らの姿勢と責任が問われていることを再認識して頂ければと思う。
角川oneテーマ21
2014年10月10日刊
定価 : 本体800円(税別)
西尾 正道(にしお まさみち)
北海道医薬専門学校学校長、厚生労働省北海道厚生局臨床研修審査専門員、
独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年がんの放射線治療に従事。
がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、収善するための医療を推進。「市民のためのがん治療の会」顧問。
北海道医薬専門学校学校長、厚生労働省北海道厚生局臨床研修審査専門員、
独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年がんの放射線治療に従事。
がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、収善するための医療を推進。「市民のためのがん治療の会」顧問。