基本に忠実
『「健康」と「企業の成長」はどうつながるか
~トム・ラス著『EAT MOVE SLEEP』を巡って~』
内科医師 大西 睦子
私たちはとかく視力が改善するとか痛みが消えるなどというと、薬や健康食品、その他の医療行為を求めたがるものだ。ましてやがん患者は、厳しい状態にあればあるほど、一発逆転ホームラン、のような新薬などを求める。
私もすでに舌がんの治療後、15年近くになるいわゆる長期生存者であるので、時々「何か長期生存の秘訣があるのでしょうか」というような質問を受けることがある。
もう、10年以上前になるだろうか、亡くなった柳原 和子さんのベストセラー「がん患者学―長期生存をとげた患者に学ぶ」で長期生存のキーポイントを色々調べられ、ご自身も色々揺れ動きながらそれらを実践したりしておられたようだ。結局「がん患者学」でも、特段、特効薬のようなものは見つかっていない。
私も長期生存の秘訣と言われても、特別な薬はもちろん健康食品など一切摂っておらず、しいて言えば「正しい生活」などと訳の分からないことを言ったりする。
そう、結局治療も大事だが、地道な生活、例えば早寝早起き、規則正しい生活、よく噛んで食べる、清潔を心がける・・・などという一見、つまらないことの積み重ねが大事で、こうした基盤の上に治療があることを忘れてはならない。
大西先生のご紹介いただいた『EAT MOVE SLEEP』の日本語版『座らない!』(新潮社刊)は正にこのことを豊富な資料で実証した好著だと思う。
なお、この原稿は新潮社の会員制国際政治経済情報サイト「Foresight」(オリジナル記事はこちら http://www.fsight.jp/articles/-/40398 )に寄稿されたものからの転載です、ご厚意に感謝申し上げます。
私もすでに舌がんの治療後、15年近くになるいわゆる長期生存者であるので、時々「何か長期生存の秘訣があるのでしょうか」というような質問を受けることがある。
もう、10年以上前になるだろうか、亡くなった柳原 和子さんのベストセラー「がん患者学―長期生存をとげた患者に学ぶ」で長期生存のキーポイントを色々調べられ、ご自身も色々揺れ動きながらそれらを実践したりしておられたようだ。結局「がん患者学」でも、特段、特効薬のようなものは見つかっていない。
私も長期生存の秘訣と言われても、特別な薬はもちろん健康食品など一切摂っておらず、しいて言えば「正しい生活」などと訳の分からないことを言ったりする。
そう、結局治療も大事だが、地道な生活、例えば早寝早起き、規則正しい生活、よく噛んで食べる、清潔を心がける・・・などという一見、つまらないことの積み重ねが大事で、こうした基盤の上に治療があることを忘れてはならない。
大西先生のご紹介いただいた『EAT MOVE SLEEP』の日本語版『座らない!』(新潮社刊)は正にこのことを豊富な資料で実証した好著だと思う。
なお、この原稿は新潮社の会員制国際政治経済情報サイト「Foresight」(オリジナル記事はこちら http://www.fsight.jp/articles/-/40398 )に寄稿されたものからの転載です、ご厚意に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)
健康ブームの米国では、健康やダイエットに関するたくさんの本が出版されています。その中で極めて大きな注目を浴び、高い評価を受けている『EAT MOVE SLEEP』の日本語版『座らない!』(新潮社刊)が、このたび出版されました。この本は、健康的なライフスタイルを送るためのアイデアだけではなく、人生を勝利へと導く秘訣が込められています。私は1人の医師、研究者として、この『座らない!』を多くの方に読んでいただきたい、そのアイデアを実践していただきたいと思います。
◆難病罹患の経験から
著者のトム・ラス氏は、『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベストセラー番付にこれまで6冊もランキングされたことがある国際的ベストセラー作家です。
ラス氏は、体の1カ所以上に腫瘍が発症するフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)と呼ばれる遺伝子疾患に罹患しています。16歳のときに視力の異常を感じて母親と一緒に眼科に受診し、VHL病による網膜の腫瘍を宣告されました。残りの人生に不安を感じる中、VHL病は、網膜以外にも腫瘍が発症する可能性があることを知りました。そして、視力は回復しないものの、長く生きるために何をすれば良いのか徹底的に学んだといいます。
その後20年が経過し、現在ラス氏は、腎臓、副腎、膵臓、脊椎と大脳に腫瘍が見つかっています。定期検査を利用して手術の必要性があるか否かを見守りつつ、医学や心理学などの膨大な学術文献を読み、病気の予防や長生きの研究を進めています。
◆「負」と「正」のスパイラル
自らを様々な試みの「生き証人」と呼ぶラス氏は、長年の経験と冷静な研究調査の結果、毎日のルーティン化されたライフスタイルに小さな変化を起こすことで、そのうちに大きな変化が起こることを見出しました。
その小さな変化とは、「食べる・動く・眠る」の3つの要素を同時に改善することから始まります。「3つも一緒に? それは小さな変化ではない!」と思われる方もいるでしょう。たとえば、「飲み過ぎて眠れず、朝は食欲がなくて、疲れを感じ動きたくない」という経験はありませんか? これは「負のスパイラル」です。一方、「朝軽い運動をした後、野菜たっぷりの朝食を摂取して1日アクティブに過ごし、夜はぐっすり眠れた」という経験はどうでしょうか。こちらは「正のスパイラル」ですね。つまり、この3つの要素はお互いに影響し合っているため、同時に変える方がかえって容易で、より効果的なのです。
といっても、毎日の生活のパターンを変えるためには、強い意志と行動力が必要です。こびりついた長年の悪い癖を直すのは大変です。そこでラス氏は、全30章の各章ごとに、「食べる・動く・眠る」の3つの要素の研究を紹介し、実践可能なアイデアを提案しています。その中で、それぞれが楽しみながら実践可能なアイデアを選んで、毎日少なくとも1つ取り組むのです。小さな変化が数週間後に定着し、そのうち習慣化します。アイデアの背景をもっと詳しく知りたい場合、本の最後に参考文献リストが掲載されていますので、論文を読んで勉強もできます。
たとえば、まず私がラス氏のアドバイスですぐに実行したいと思うのは、1日8時間の睡眠の確保です。健康を考えるときに後回しにしがちな睡眠は、「未来への投資」です。また、私は運動好きなのですが、1日に座っている時間が長すぎます。これまでの研究で「1日6時間以上座ると早死にするリスクが高まる」ことが示唆されており、予防のために自宅用にスタンディングデスクを入手しました。さらに、普段は忙しくてついついオフィスの机で仕事をしながら昼食をすませています。でも、やはり仲間と一緒に昼食をとり、気分転換をしてメリハリをつけるべきですね。こんな感じで是非、みなさんにも取り組んで頂きたいのです。
◆組織のリーダーこそ!
また、ラス氏にはもう1つの顔があります。それは、世論調査の先駆け的な存在である米国の大手世論調査会社「ギャラップ」社での上級科学者兼アドバイザーとしての実務者の顔です。そこでの長年の経験と実績を踏まえ、「健康経営」が企業を変えることを主張しています。組織のリーダーこそ、毎日の優先順位の最上位に自分の健康=「正しく食べて、よく動き、しっかり寝る」を置き、模範を示すべきだと論じているのです。
ちなみにラス氏自身、オフィスで自分専用のカップや保冷タンブラーを使用する若手社員を見て、「紙コップを使い捨てする人間にはなりたくない」と感じ、自分の意志で行動を改めたといいます。会社は人々の行動に変化を起こす装置としても機能するのです。健康についても、こうして社内で価値観を共有すれば、はつらつとした状況で仕事ができ、結果的に生産性を上げることができます。健康とウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状況)を促進することは、時間はかかりますが、最終的に企業としての成長につながるのです。
最後に、ラス氏は、「人生そのものが逆境に打ち勝つためのゲーム。毎日コツコツと道を切り開き、勝利に向かおう」と助言します。1日中座っている場合ではないですね。今すぐ、立ち上がって行動を起こしましょう!
◆難病罹患の経験から
著者のトム・ラス氏は、『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベストセラー番付にこれまで6冊もランキングされたことがある国際的ベストセラー作家です。
ラス氏は、体の1カ所以上に腫瘍が発症するフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)と呼ばれる遺伝子疾患に罹患しています。16歳のときに視力の異常を感じて母親と一緒に眼科に受診し、VHL病による網膜の腫瘍を宣告されました。残りの人生に不安を感じる中、VHL病は、網膜以外にも腫瘍が発症する可能性があることを知りました。そして、視力は回復しないものの、長く生きるために何をすれば良いのか徹底的に学んだといいます。
その後20年が経過し、現在ラス氏は、腎臓、副腎、膵臓、脊椎と大脳に腫瘍が見つかっています。定期検査を利用して手術の必要性があるか否かを見守りつつ、医学や心理学などの膨大な学術文献を読み、病気の予防や長生きの研究を進めています。
◆「負」と「正」のスパイラル
自らを様々な試みの「生き証人」と呼ぶラス氏は、長年の経験と冷静な研究調査の結果、毎日のルーティン化されたライフスタイルに小さな変化を起こすことで、そのうちに大きな変化が起こることを見出しました。
その小さな変化とは、「食べる・動く・眠る」の3つの要素を同時に改善することから始まります。「3つも一緒に? それは小さな変化ではない!」と思われる方もいるでしょう。たとえば、「飲み過ぎて眠れず、朝は食欲がなくて、疲れを感じ動きたくない」という経験はありませんか? これは「負のスパイラル」です。一方、「朝軽い運動をした後、野菜たっぷりの朝食を摂取して1日アクティブに過ごし、夜はぐっすり眠れた」という経験はどうでしょうか。こちらは「正のスパイラル」ですね。つまり、この3つの要素はお互いに影響し合っているため、同時に変える方がかえって容易で、より効果的なのです。
といっても、毎日の生活のパターンを変えるためには、強い意志と行動力が必要です。こびりついた長年の悪い癖を直すのは大変です。そこでラス氏は、全30章の各章ごとに、「食べる・動く・眠る」の3つの要素の研究を紹介し、実践可能なアイデアを提案しています。その中で、それぞれが楽しみながら実践可能なアイデアを選んで、毎日少なくとも1つ取り組むのです。小さな変化が数週間後に定着し、そのうち習慣化します。アイデアの背景をもっと詳しく知りたい場合、本の最後に参考文献リストが掲載されていますので、論文を読んで勉強もできます。
たとえば、まず私がラス氏のアドバイスですぐに実行したいと思うのは、1日8時間の睡眠の確保です。健康を考えるときに後回しにしがちな睡眠は、「未来への投資」です。また、私は運動好きなのですが、1日に座っている時間が長すぎます。これまでの研究で「1日6時間以上座ると早死にするリスクが高まる」ことが示唆されており、予防のために自宅用にスタンディングデスクを入手しました。さらに、普段は忙しくてついついオフィスの机で仕事をしながら昼食をすませています。でも、やはり仲間と一緒に昼食をとり、気分転換をしてメリハリをつけるべきですね。こんな感じで是非、みなさんにも取り組んで頂きたいのです。
◆組織のリーダーこそ!
また、ラス氏にはもう1つの顔があります。それは、世論調査の先駆け的な存在である米国の大手世論調査会社「ギャラップ」社での上級科学者兼アドバイザーとしての実務者の顔です。そこでの長年の経験と実績を踏まえ、「健康経営」が企業を変えることを主張しています。組織のリーダーこそ、毎日の優先順位の最上位に自分の健康=「正しく食べて、よく動き、しっかり寝る」を置き、模範を示すべきだと論じているのです。
ちなみにラス氏自身、オフィスで自分専用のカップや保冷タンブラーを使用する若手社員を見て、「紙コップを使い捨てする人間にはなりたくない」と感じ、自分の意志で行動を改めたといいます。会社は人々の行動に変化を起こす装置としても機能するのです。健康についても、こうして社内で価値観を共有すれば、はつらつとした状況で仕事ができ、結果的に生産性を上げることができます。健康とウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状況)を促進することは、時間はかかりますが、最終的に企業としての成長につながるのです。
最後に、ラス氏は、「人生そのものが逆境に打ち勝つためのゲーム。毎日コツコツと道を切り開き、勝利に向かおう」と助言します。1日中座っている場合ではないですね。今すぐ、立ち上がって行動を起こしましょう!