社員のがんをバックアップする企業
『優良「がん対策推進企業アクション推進パートナー企業」としての活動』
株式会社松下産業 代表取締役社長 松下 和正
がんの好発年齢は70歳以降と言っても、最近は働き盛りの人の発症も多い。がんの告知を受けると当面は生きたい、何とか治りたいという気持ちが先走るが、治療方針を聞いたり、一段落してその後のことを考えると、治療費のことが気にかかる。
ましてや現役で働いている人の場合は、仕事の引継ぎ、治療中の勤務形態などが心配になる。また、その期間が長期にわたる場合などは、収入の減少にも備えなければならない。
このような場合に、勤務先が何かと相談に乗ってくれればいいが、なかなかそのようなケースは少ないようだ。
それでも相談できるような場合はまだいい方で、なかなか自分の病気について勤務先はおろか仕事仲間にも言い出しにくい場合すらある。
このところ行政も職場でのサポート体制を整えるように様々な施策を講じ始めた。
今回は2014年の東京都「がん患者の治療と仕事への両立への優良な取り組みを行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞された松下産業の松下和正代表取締役社長に、同社の取り組みをご紹介いただいた。
ましてや現役で働いている人の場合は、仕事の引継ぎ、治療中の勤務形態などが心配になる。また、その期間が長期にわたる場合などは、収入の減少にも備えなければならない。
このような場合に、勤務先が何かと相談に乗ってくれればいいが、なかなかそのようなケースは少ないようだ。
それでも相談できるような場合はまだいい方で、なかなか自分の病気について勤務先はおろか仕事仲間にも言い出しにくい場合すらある。
このところ行政も職場でのサポート体制を整えるように様々な施策を講じ始めた。
今回は2014年の東京都「がん患者の治療と仕事への両立への優良な取り組みを行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞された松下産業の松下和正代表取締役社長に、同社の取り組みをご紹介いただいた。
(會田 昭一郎)
当社は創業56年、社員数232名の総合建設会社、いわゆるゼネコンである。
2014年、東京都「がん患者の治療と仕事への両立への優良な取り組みを行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞。また、厚生労働省「がん対策推進企業アクション推進パートナー企業」の登録を受け、がんに関する最新情報を随時、社内に通知している。
がんであることを告白できず、会社に迷惑がかかるだろうと会社を自主退職する人、働き続けられても企業側の理解が足りず、肩身の狭い苦しい思いをしている人も多いと聞き意外に思っている。当社ではがん患者も治療しながら、出来る範囲で通常勤務または在宅勤務することが、本人のためにも会社にとっても当然で望ましいと言うことが共通認識になっている(この10年で10名が癌の診断を受け、7名が現在も勤務、1名定年退職、2名死亡)。
当社のような中小企業、しかも何かと評判のよろしくない建設業であってもできることがあるということを知っていただきたいと思う。
1)従業員の声を経営に生かす取り組み
近江商人の「三方良し」から発展させた「四方良し(顧客・従業員・協力会社・地域)」が弊社の経営方針。従業員が生き生きと働ける環境がステークホルダーの満足度にも影響を及ぼすと考えている。
また、当社では賞与支給時、経営者が従業員一人ひとりにねぎらいの言葉をかけながら、面談を行う。この取り組みは30年以上前から実施している。近況、配属の希望、将来のビジョンなど仕事に関する事柄以外に、病気や家族に関する相談など、私的な事柄についても話を聞くようにしている。
2)文京区ワーク・ライフ・バランス推進認定企業
毎年、子供の夏休み期間に「ファミリーデー」を開催し、家族に仕事場を見学してもらっている。また、区内中学生の職場体験受入れ、男女区別ない公平な評価制度、風通しのよい企業風土などを評価され、2012年文京区よりワーク・ライフ・バランス推進企業として認定を受けた。過酷な勤務の多い建設業にとり、この認定がブラックユーモアにならないよう、「ヒューマンリソースセンター(HRC)」という、ワンストップで、社員の採用、教育・自己啓発、健康管理・メンタルヘルス、ライフデザイン、子育て・介護支援、確定拠出年金等を社員の身になって取り扱う独立部署を設立し実効性をあげている。
3)社内報に「闘病記」掲載
復帰した社員の闘病記を掲載。不測の事態が起こっても会社がバックアップしてくれるという安心感を家族に与えることが出来ていると感じている。
その他、在宅勤務制度の活用、病状や治療に合わせた柔軟な勤務体制、法定項目以外の便潜血検査の実施と二次検査の報告促進、相談窓口の一本化などの社内体制を整えている。
1)経済面
入院や治療が継続的、断続的に長引くことによって家計の負担も増える。休職中は健康保険制度の傷病手当金が支給されるが、その額は2/3程度に留まっている。復職後、断続的に休む場合は、所得が減少する可能性がある。所得をどのようにカバーしていくかが課題。当社では民間の所得保障保険の活用について検討中である。
2)医療面
患者は一つの病院だけで治療を受けているとは限らない。放射線治療は○○病院、手術は △△病院など、複数の病院に主治医がいる場合がある。病院間で連携し、治療方針のすり合わせを行えるようになれば、本人や家族の戸惑いや悩みは減るだろう。また、セカンドオピニオンですらまだまだ言い出しにくいと言う話を聞く。会社としてこの辺りの支援も行っている。
3)がんの特徴、治療方法に関する知識を得る
がんと診断を受けた者、またはその家族は、本やインターネットなどから正しい情報を得ようと必死になる。がんに関する本や情報は沢山出回っている。私が思うところ、内容に関しては玉石混交である。当社では正しい知識や理解を促すため、多くの医療に関する書籍等を取り揃えているが、現在専用ライブラリー設置を検討中である。
また、「妻や子ががんに罹った」という相談も増えてきた。現在は諸団体で実施している各種健診の活用を促しているが、今後は、家族を対象にした研修実施など啓蒙活動も必要と感じている。
略歴2014年、東京都「がん患者の治療と仕事への両立への優良な取り組みを行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞。また、厚生労働省「がん対策推進企業アクション推進パートナー企業」の登録を受け、がんに関する最新情報を随時、社内に通知している。
がんであることを告白できず、会社に迷惑がかかるだろうと会社を自主退職する人、働き続けられても企業側の理解が足りず、肩身の狭い苦しい思いをしている人も多いと聞き意外に思っている。当社ではがん患者も治療しながら、出来る範囲で通常勤務または在宅勤務することが、本人のためにも会社にとっても当然で望ましいと言うことが共通認識になっている(この10年で10名が癌の診断を受け、7名が現在も勤務、1名定年退職、2名死亡)。
当社のような中小企業、しかも何かと評判のよろしくない建設業であってもできることがあるということを知っていただきたいと思う。
1、病気に対する社内理解を促進
当社には草創期より経営者が従業員を想う気持ちに従業員が応えるという「お互いを思いやる」風土と「家族ぐるみの付き合い」があった。下記の取り組みがさらに病気に対する社内理解を促進したと考えている。1)従業員の声を経営に生かす取り組み
近江商人の「三方良し」から発展させた「四方良し(顧客・従業員・協力会社・地域)」が弊社の経営方針。従業員が生き生きと働ける環境がステークホルダーの満足度にも影響を及ぼすと考えている。
また、当社では賞与支給時、経営者が従業員一人ひとりにねぎらいの言葉をかけながら、面談を行う。この取り組みは30年以上前から実施している。近況、配属の希望、将来のビジョンなど仕事に関する事柄以外に、病気や家族に関する相談など、私的な事柄についても話を聞くようにしている。
2)文京区ワーク・ライフ・バランス推進認定企業
毎年、子供の夏休み期間に「ファミリーデー」を開催し、家族に仕事場を見学してもらっている。また、区内中学生の職場体験受入れ、男女区別ない公平な評価制度、風通しのよい企業風土などを評価され、2012年文京区よりワーク・ライフ・バランス推進企業として認定を受けた。過酷な勤務の多い建設業にとり、この認定がブラックユーモアにならないよう、「ヒューマンリソースセンター(HRC)」という、ワンストップで、社員の採用、教育・自己啓発、健康管理・メンタルヘルス、ライフデザイン、子育て・介護支援、確定拠出年金等を社員の身になって取り扱う独立部署を設立し実効性をあげている。
3)社内報に「闘病記」掲載
復帰した社員の闘病記を掲載。不測の事態が起こっても会社がバックアップしてくれるという安心感を家族に与えることが出来ていると感じている。
その他、在宅勤務制度の活用、病状や治療に合わせた柔軟な勤務体制、法定項目以外の便潜血検査の実施と二次検査の報告促進、相談窓口の一本化などの社内体制を整えている。
2、今後の課題
支援を始めてから課題も見えてきた。1)経済面
入院や治療が継続的、断続的に長引くことによって家計の負担も増える。休職中は健康保険制度の傷病手当金が支給されるが、その額は2/3程度に留まっている。復職後、断続的に休む場合は、所得が減少する可能性がある。所得をどのようにカバーしていくかが課題。当社では民間の所得保障保険の活用について検討中である。
2)医療面
患者は一つの病院だけで治療を受けているとは限らない。放射線治療は○○病院、手術は △△病院など、複数の病院に主治医がいる場合がある。病院間で連携し、治療方針のすり合わせを行えるようになれば、本人や家族の戸惑いや悩みは減るだろう。また、セカンドオピニオンですらまだまだ言い出しにくいと言う話を聞く。会社としてこの辺りの支援も行っている。
3)がんの特徴、治療方法に関する知識を得る
がんと診断を受けた者、またはその家族は、本やインターネットなどから正しい情報を得ようと必死になる。がんに関する本や情報は沢山出回っている。私が思うところ、内容に関しては玉石混交である。当社では正しい知識や理解を促すため、多くの医療に関する書籍等を取り揃えているが、現在専用ライブラリー設置を検討中である。
また、「妻や子ががんに罹った」という相談も増えてきた。現在は諸団体で実施している各種健診の活用を促しているが、今後は、家族を対象にした研修実施など啓蒙活動も必要と感じている。
松下 和正(まつした かずまさ)
総合建設業 株式会社松下産業 代表取締役社長
1956年東京都文京区生 「建築は目的でなく手段、お客様の真の目的を実現する、コンシェルジュのような会社になろう」がモットー。谷根千等の地域保存、活性化、建築、土地活用のセカンドオピニオンにも注力。
総合建設業 株式会社松下産業 代表取締役社長
1956年東京都文京区生 「建築は目的でなく手段、お客様の真の目的を実現する、コンシェルジュのような会社になろう」がモットー。谷根千等の地域保存、活性化、建築、土地活用のセカンドオピニオンにも注力。