放射線治療後の患者支援
『NPO法人 つなぐサポート神戸
~放射線治療後の生活支援「がんと共にその人らしく生きる」をサポートする~』
神戸大学医学部附属病院 看護部 がん放射線療法看護認定看護師
大田 史江
大田 史江
患者は入院すると、治療は医師のお世話になるが、治療後は看護師さんのサポートが頼りになる。編集子の経験でも、舌がんの小線源治療の終了後は、強烈な痛みのコントロールは看護師さんに、消耗した体力の回復には管理栄養士さんのお世話になった、今でも心から感謝している。しかし放射線治療や抗がん剤治療などは一般的な治療とは違った対応が必要な点も多々あると思われる。
このような事情を反映し、平成24(2012)年度の診療報酬改定で外来放射線治療加算がつき、平成26(2014)年度にはがん診療連携拠点病院の指定要件に「放射線治療室に専任の常勤看護師を1人以上配置すること。(中略)がん放射線療法看護認定看護師であることが望ましい」と明記された。
がん放射線療法看護認定看護師は2008年に分野特定され、翌2009年に教育課程が開講し、2015年1月現在で177人が活躍している。
だがその後、経済的事情や教員確保の困難により教育課程の閉鎖や休講が続き、がん放射線療法看護認定看護師の教育課程は1校のみとなってしまい、現在、放射線治療機器を所有している施設すべてに認定看護師を配置することは、人数的に難しい状況となっている。
今回はその中、神戸大学医学部附属病院がん放射線療法看護認定看護師として活躍しておられる大田 史江さんにご寄稿いただいた。
このような事情を反映し、平成24(2012)年度の診療報酬改定で外来放射線治療加算がつき、平成26(2014)年度にはがん診療連携拠点病院の指定要件に「放射線治療室に専任の常勤看護師を1人以上配置すること。(中略)がん放射線療法看護認定看護師であることが望ましい」と明記された。
がん放射線療法看護認定看護師は2008年に分野特定され、翌2009年に教育課程が開講し、2015年1月現在で177人が活躍している。
だがその後、経済的事情や教員確保の困難により教育課程の閉鎖や休講が続き、がん放射線療法看護認定看護師の教育課程は1校のみとなってしまい、現在、放射線治療機器を所有している施設すべてに認定看護師を配置することは、人数的に難しい状況となっている。
今回はその中、神戸大学医学部附属病院がん放射線療法看護認定看護師として活躍しておられる大田 史江さんにご寄稿いただいた。
(會田 昭一郎)
● がん治療における放射線治療の役割と背景
放射線治療は、手術・化学療法(抗がん剤治療)とともに、がんの3大治療の一つとして必要不可欠な治療となってきた。その理由の一つとして、治療の目的が幅広く、「根治的」治療から、症状を緩和する目的「緩和的」治療まで様々な患者に治療適応があり、がん治療の重要な役割を果たしていると考えられるからである。
放射線治療の特徴は、手術と違い、可能な限り臓器の機能と形態を温存できる点であり、高齢者の増加、放射線治療の普及、高精度化により、放射線治療を受ける患者数は過去10年間で倍増し、現在がん患者の約4人に1人となっている。この割合は、今後10年間で更に増え、2人に1人が放射線治療を受ける割合と予測される。つまり、がんに罹患した患者のうち2人に1人は放射線治療を何らかの目的に実施される時代がくると予測される。
現在のがん医療において、がんと診断されて放射線治療を受けた人は、治療中は入院・通院を通じて、様々な支援を、色んな場所で受ける機会はある。しかしながら、治療が終了した段階で、病院施設から定期的なフォロ―を受ける中で、健康な時の自分とは違い、今まで容易に出来ていた事が、できなくなったり、気づけば、今後どのように生活をおこなっていけば良いのか分からなく、不安になる者も少なくない。具体的には、身体的機能の衰え、精神的に以前の健康な時の自分自身の気持ちとは違った悩みが起こったり、仕事や社会的な役割を失ってしまったりと様々な影響が起こる事がある。また、放射線治療を行った後にも、手術・化学療法と他の治療を継続して受ける場合もあり、常に「がん」に罹患した自分という意識から切り離すことができない状況となる。幸い、病院施設には、がん相談室など相談できる窓口も増えて来ている現状ではあるが、実体験を通して、放射線治療を終えた患者同士が集い、勇気づけあったり、今の自分を受け入れ生きて行く上での自信がついたり、その中で、生きるヒントを見つけたりできる環境を提供される場所は少ないと考える。
● NPO法人つなぐサポート神戸の設立とその目的
2013年8月、兵庫県神戸市を中心にがん治療に関わる医師、看護師、診療放射線技師の有志が、職場、職域を超えて集まり、がん治療、その中でも特に放射線治療を受けた方の背景を踏まえながら、患者やそのご家族の為に放射線治療後の「がんと共にその人らしく生きる」をサポートし、放射線治療後の疑問や副作用、生活における注意すべき点について分かりやすく答え、生活に役立つ情報を提供する事業及び「患者・医療・社会」を「つなぐ」ための積極的な情報発信を行いたいと考えた。放射線治療を終えた患者が安心して暮らせる社会を目指し、健康であった時の自分と何ら変わり得ない「自分らしく」を大切にして、新たな人生に向かっていく方々のサポートをする目的として2014年9月、特定非営利活動法人「つなぐサポート神戸」を設立した。現在までの事業内容は、「つなぐ手帳」ハンドブックの作成、「つなぐ記念日」イベントを実施した。現在NPO法人しゃらくと共催し、乳がん経験者を対象としたお茶会イベントを定期的に開催している。
● 「つなぐ手帳」ハンドブックの作成
放射線治療の対象患者は、根治治療から緩和的治療まで幅が広い。主な照射部位として頭部・頚部・胸部・腹部・骨盤部・陰部・四肢などがん種や適応はあるものの、多くの部位へ照射される。つなぐサポート神戸では、放射線治療中ではなく、放射線治療後の日常生活ケアに着目をし、放射線治療を受けた患者・ご家族が、治療後も少しでも快適に過ごせるようにと願いを込めて、日常生活に役立つハンドブックの作成に取り組んだ。初版として、「乳がん」「骨への転移」患者を対象としたハンドブックの作成を行った。このハンドブックは、他のどの冊子とも異なるこだわり、工夫をした点がある。それは、『医療とアート』の融合である。患者が手にとって心が癒され、前向きになれるハンドブックとして3種類の表紙からハンドブックを選ぶ所からはじまる。表紙は、「つなぐ」と示され、見た目は放射線治療後のハンドブックとは感じさせない作りとなっている。この表紙のイラストを手がけたのは、プロのイラストレ-タ-であるドン・カ・ジョンさんである。ドン・カ・ジョンさんは、東日本大震災で特に深刻に被害にあった岩手・宮城・福島を中心に、被災者の方からお願い事を集め、その願いを絵や詩に表現して、被災地で「復興WISHくん展」として、絵や詩を通して、被災地の方達が少しでも元気づけられるようにと祈りを込めて、活動をしている。
つなぐサポート神戸のメンバーは、ドン・カ・ジョンさんの絵や詩を知り、この絵や詩を通して、人の心を動かし、元気や勇気をつけられるという発想に共感し、がんと宣告されて気持ちが落ち込む患者やご家族も同様に、この絵や詩を見る事で少しでも元気づけられないだろうかという一心から、ドン・カ・ジョンさんに是非表紙を描いてもらいたいという思いで依頼をした。何度も手にとって、表紙を見るだけで心が癒され、かつ日常生活に活かされる、そんなハンドブックの作成に取り組んでいる。(図1.ハンドブックの写真)
『乳がん』ハンドブック
『骨転移』ハンドブック
図1.ハンドブックの写真
☆乳がんハンドブックの紹介
乳がんのハンドブックは、乳がんの治療後に役立つ手帳として
- あなたの放射線治療記録
- 放射線治療科の受診スケジュール
- 安心して生活するためのQ&A
- 生活に役立つ情報
- スケジュール手帳
- 緊急連絡先
の項目に分けて内容を厳選した。安心して生活していくためのQ&Aについて、(図2.「乳がん」ハンドブックの内容一例)示す通りである。放射線治療を終えた患者が、何度も手にとって日常生活の手引書として活用してもらえるような手帳を目指している。
図2.「乳がん」ハンドブックの一例
☆骨転移ハンドブックの紹介
骨転移のハンドブックは、骨転移の治療後に役立つ手帳として
- あなたの照射した部位・線量・回数・期間・医療施設
- 患者さんの声Q&A
- スケジュール手帳
- 緊急連絡先メモ
の項目に分けて内容を厳選した。患者さんの声Q&Aについて(図3.「骨転移」ハンドブック内容の一例)示しているが、日常生活動作における注意点など細かく写真付きで紹介している。また、社会資源の活用方法について、情報発信を行い、介護をどのように受けられるのかという内容にまで落とし込み、生活を行う上で患者・ご家族が必要な社会資源を活用できるレベルまでに内容を集約した。
図3.「骨転移」ハンドブック内容の一例
このハンドブックの運用は、NPO法人つなぐサポート神戸に、有志として参加している病院6施設で、該当する患者に対して配布を行っている。現在は、頭頚部がん患者の為のハンドブックを制作している。
●『つなぐ記念日』イベント
図4.「つなぐ記念日」イベント内容
平成27年7月5日に、がん患者支援イベントとして「がんと共にその人らしく生きる」をサポートするイベントを開催した。
参加した患者・ご家族が笑顔で楽しく過ごしてもらえるよう、イベント内容にも工夫した。実際のイベント内容は、神戸市立桂木小学校合唱団による合唱・イラストレータードン・カ・ジョン氏のトークショー・アロマテラピー・理学療法士によるストレッチや体力測定・プロのカメラマンによる記念写真・NPO法人しゃらくによる旅の案内(病気の為に行きたいけど行けない患者の旅のお手伝いをする)など多くのイベントを準備して実施した。(図4.「つなぐ記念日」イベント内容)
参加者約70名と盛会裏に終わり、どのイベントも高評価であった。
参加者約70名と盛会裏に終わり、どのイベントも高評価であった。
参加者が、一時でも笑顔で、心が癒される瞬間を得られる事が、本イベントの目的であった。がんと宣告され、がん治療を行い、がんといつもとなり合わせにして生きる中、気持が落ち込んだり、社会とのつながりが困難に感じたり、様々な悩みや不安の中で、「人と人とのつながり」を通して、出会いや楽しみ、生きがいを見つける手助けになればという思いでイベントを開催した。今後も定期的にこのようなイベント開催に向けて準備を進める意向である。
● 乳がん経験者のお茶会
図5.乳がん経験者お茶会の紹介
平成28年2月6日にNPO法人しゃらくと共催し、第1回目の乳がん経験者を対象としたお茶会を開催した。参加者は5名と少人数であったが、日頃の不安や悩みなどを共感し、同じ経験をもつ者同士だからこそ分かり合える、人と人とがつながり、少しでも、身も心も軽く、前向きな気持ちになれる事を目的に開催した。
参加者の声より、今後もこのようなイベントを開催して欲しいという要望があった。同じような境遇の者が何気なく話せる空間、場所の提供を行い、日々様々な事を思い、悩みながら生きる乳がん経験者の為のサポート支援ができるよう、このようなイベントを今後も継続する意向で、『第2回 乳がんケアカフェ』を平成28年5月21日に開催する。(図5.乳がん経験者お茶会の紹介)
● NPO法人つなぐサポート神戸の今後
2014年9月、特定非営利活動法人「つなぐサポート神戸」を設立してから、約1年と半年が経過した。その間、イベントやハンドブックの作成を行い、放射線治療を実施した患者、ご家族に対して積極的に情報発信を行い、「がんと共にその人らしく生きる」をサポートする事に尽力した。
NPO法人つなぐサポート神戸の今後については、まず、この団体について社会の人々に多く認知してもらえるようにアピールをして行く事からが大切であると考える。その為には、現在までに行ってきた活動を絶やさずに、継続して行く事が重要であると考える。
今後も放射線治療を受ける患者が増加すると予測される社会背景において、放射線治療を受けた患者が、がんサバイバ―として決して孤立せず、「患者=医療・患者=社会」を「つなぐ」かけ橋となれる団体でありたい。今後、地域そして全国へ自団体について情報発信を継続し、放射線治療を終えた患者が安心して暮らして行ける社会を目指し、『がんがなんだ、それも自分』と思えるその人らしい人生をサポートしたい。今後も、この団体を、より多くの方々に知ってもらい、共感・賛同してもらえるよう、透明性のあるNPO法人として、活動を広げて行きたいと考えている。
略歴大田 史江(おおた ふみえ)
神戸大学医学部附属病院 看護部 がん放射線療法看護認定看護師
看護学校卒業後、大学病院の呼吸器・腫瘍内科病棟へ勤務する。
2005年に現在の神戸大学医学部附属病院に就職。当初は救急看護を経験していたが、がん看護に興味があり、2007年通信教育大学を通して学位取得、アロマテラピーアドバイザー資格取得、2012年がん放射線療法看護認定看護師となり、現在放射線治療におけるチーム医療に尽力する。2013年放射線治療を受ける患者・ご家族の為に支援を行う、『NPO法人つなぐサポート神戸』の設立に参画する。
神戸大学医学部附属病院 看護部 がん放射線療法看護認定看護師
看護学校卒業後、大学病院の呼吸器・腫瘍内科病棟へ勤務する。
2005年に現在の神戸大学医学部附属病院に就職。当初は救急看護を経験していたが、がん看護に興味があり、2007年通信教育大学を通して学位取得、アロマテラピーアドバイザー資格取得、2012年がん放射線療法看護認定看護師となり、現在放射線治療におけるチーム医療に尽力する。2013年放射線治療を受ける患者・ご家族の為に支援を行う、『NPO法人つなぐサポート神戸』の設立に参画する。