『子宮体がんに対する放射線療法』
兼安 祐子
昨年4月の「子宮の日」に因んで福山医療センター放射線治療科の兼安祐子先生に子宮頸がんについてご寄稿いただいた。
(http://www.com-info.org/medical.php?ima_20150403_kaneyasu)
引き続き兼安祐子先生にお願いし、今回は子宮体がんについてご寄稿いただいた。年度末から年度替わりのご多用の時期にご協力いただき、感謝申し上げます。
子宮がんは子宮頸がんと子宮体がんに分類されます。前回の1.子宮頸がんに続き、今回は、2.子宮体癌に対する放射線療法についてお話します。
2. 子宮体癌子宮体がんは、子宮の内側にある子宮内膜から発生する癌です。閉経後50-60代に最も多く診断されています。発生のリスク因子は、肥満、高血圧、糖尿病で、ホルモン補充療法、子宮内膜増殖症、不規則な月経、無月経や排卵異常、多囊胞卵巣症候群、妊娠や出産の経験がないことなどです。わが国における子宮体がんは高齢化や肥満の増加、乳癌のリスク因子と同様の食生活の欧米化に伴い、年々増加傾向にあります。
子宮体癌は、組織型や生物学的相違からタイプⅠとタイプⅡの2型に分類されます。タイプⅠの癌は全子宮体癌の約90%を占め、エストロゲン過剰の状態で、高分化から中分化型類内膜腺癌で内膜増殖症を合併し予後は概して良好です。エストロゲンの慢性的な暴露と、プロゲステロンの低下や欠乏が関係しています。このタイプⅠの患者はしばしば、肥満、高脂血症、糖尿病を合併しています。タイプⅡの腫瘍は、子宮体癌の10%程度で低分化型類内膜腺癌や非類内膜腺癌(漿液性腺癌、明細胞腺癌など)で内膜は萎縮しています。予後は概してタイプⅠより不良です。このtypeⅡの患者はしばしば、多産、高齢、非肥満です。
臨床症状と検診子宮体癌患者の90%に不正出血がみられます。不正出血は褐色の帯下(おりもの)だけの場合もあります。症例の大部分(65%)が子宮体部に限局したⅠ期と診断され、手術により良好な治療成績が得られます。早期発見のために検診は重要ですが、検診センター等での「子宮がん検診」は、一般に子宮頸癌検診を指し、子宮体がん検診は含まれないことが多いため、留意が必要です。
放射線療法の意義と適応子宮体癌根治的治療の第一選択は根治的手術です。子宮体癌は子宮頸癌と異なり、放射線感受性が低いと考えられる腺癌が大部分を占めることや子宮が大きい場合等に良好な腔内照射の線量分布が得難い等から、根治的放射線治療がまず最初に行われることは少ないです。
2012年の日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会報告では、Ⅰ-Ⅱ期の98%、Ⅲ-Ⅳ期でも90%に対して手術が行われていました。わが国では放射線療法は主に術後補助療法の一部としての術後照射として用いられています。術後再発リスクを有する症例のうち、中リスク群以上で、化学療法との兼ね合いで個別に術後照射が検討されています。わが国では欧米より拡大した手術が行われているため、欧米のエビデンスを根拠とした推奨をそのままわが国に適用することは適切ではありません。表1に術後再発リスク分類を示します。
根治的放射線療法の適応は合併症等で手術不能である場合や切除不能な進行癌です。
- 低リスク群:
- 類内膜腺癌G1あるいはG2で筋層浸潤1/2未満
- 子宮頸部浸潤なし
- 脈管侵襲なし
- 遠隔転移なし
- 中リスク群:
- 類内膜腺癌G1あるいはG2で筋層浸潤1/2以上
- 類内膜腺癌G3で筋層浸潤1/2未満
- 漿液性腺癌, 明細胞腺癌で筋層浸潤なし
- 子宮頸部浸潤なし
- 脈管侵襲あり
- 遠隔転移なし
- 高リスク群:
- 類内膜腺癌G3で筋層浸潤1/2以上
- 漿液性腺癌, 明細胞腺癌で筋層浸潤あり
- 付属器・漿膜・基靭帯進展あり
- 子宮頸部浸潤あり
- 腟壁浸潤あり
- 骨盤あるいは傍大動脈リンパ節転移あり
- 膀胱・直腸浸潤あり
- 腹腔内播種あり
- 遠隔転移あり
子宮体がんの進行期分類と放射線治療
1)手術進行期分類(日本産科婦人科学会2011、国際産科婦人科連合2008の分類より抜粋)
- Ⅰ期:がんが子宮体部に限局するもの
- ⅠA期:がんが子宮筋層1/2未満のもの
- ⅠB期:がんが子宮筋層1/2以上のもの
- Ⅱ期:がんが子宮頸部間質に浸潤するが、子宮をこえていないもの*
- Ⅲ期:がんが子宮外に広がるが、小骨盤をこえていないもの、または所属リンパ節へ広がるもの
- ⅢA期:子宮漿膜ならびに / あるいは付属器を侵すもの
- ⅢB期:腟ならびに / あるいは子宮傍組織へ広がるもの
- ⅢC期:骨盤リンパ節ならびに / あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
- ⅢC1期:骨盤リンパ節転移陽性のもの
- ⅢC2期:骨盤リンパ節への転移にかかわらず、傍大動脈リンパ節転移陽性のもの
- Ⅳ期:がんが小骨盤をこえて広がるか、明らかに膀胱ならびに / あるいは腸粘膜を侵すもの. ならびに / あるいは遠隔転移のあるもの
- ⅣA期:膀胱ならびに / あるいは腸粘膜への浸潤のあるもの
- ⅣB期:腹腔内ならびに / あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの
初回治療として手術がなされなかった症例(放射線や化学療法など)の進行期は、MRI、CTなどの画像診断で日産婦2011進行期分類を用いて推定する。
2) 根治的放射線治療法について(子宮体がん治療ガイドライン2013年版より抜粋一部改変)
根治的放射線療法では全骨盤照射と腔内照射の組み合わせが適用される事が多いですが、子宮頸癌の治療における標準治療法のような指針は未だ確立していません。 MRI、CTなどの画像診断で、臨床的に腫瘍が子宮内膜に限局する症例では腔内照射単独の適応と考えられます。しかし、腫瘍が子宮内膜に限局しているということに関して、画像診断による判定が困難な場合があるため腔内照射単独症例は限られます。子宮筋層1/2以上に浸潤するⅠB期や、子宮外への浸潤が疑われる症例、骨盤リンパ節転移が疑われる症例では全骨盤外部照射を併用する必要があると考えられます。腫瘍の大きい進行癌で腫瘍制御を目標にする場合には、外部照射と腔内照射の併用を原則とします。
放射線治療の方法前回の 1.子宮頸がんでお話ししたことと同じように、リニアックという治療装置を用いて体の外部から放射線をあてる外部照射とラルス(図1)という治療装置を用いて体の中から放射線をあてる腔内照射を組み合わせて治療します。腔内照射のアプリケータの種類は、子宮頸がんと種類が異なります。
外部照射は子宮と子宮体癌が転移を起こしやすい骨盤内のリンパ節に対して行います。腔内照射は子宮の内部から病巣に集中的に放射線をあてる治療です。通常は、外部照射から治療を開始し、後半に腔内照射を組み合わせて治療を行います。全体の治療に要する期間は約6~7週間です。入院で治療を行うことが多いですが、外来通院での治療も可能です。放射線治療は手術と異なり、腫瘍を切り取る治療ではありません。がん細胞に一定期間放射線をあてることで、細胞分裂ができずにがん細胞を死滅させる治療です。放射線をあてたその日に効果がでるのではなく、数週間後から効果が出始めます。腫瘍縮小の程度は患者さんによって異なり、日々の内診で観察します。患者さんの全身状態や体調、腫瘍の縮小程度などにより、抗がん剤と組み合わせるのか、外部照射と腔内照射の組み合わせ方や線量はどうするのかなど患者さんごとに個別化した治療を行います。
この本体からチューブの中を通って小さい線源(イリジウム-192)がアプリケータの中へ移送され、照射が終了すると本体に戻ってきます。
外部照射の方法
治療開始前の準備として皮膚に印をつけてCTを撮影し治療位置を決めます。CT画像をもとに治療範囲や治療線量を決定します。治療範囲は通常子宮とその周囲のリンパ節で、前後左右の4方向から放射線の治療を行います。1回の治療時間は約10分間で治療台の上で仰向けに横たわり安静にした状態で行います。月曜~金曜の毎日1回、週5回で、合計25~30回 の治療を行います。外部照射の治療時は、骨盤内の小腸をできるだけ照射野の外へ外す目的で膀胱内にある程度の尿が貯まった状態で治療をします。
腔内照射の方法子宮のなかに器具(アプリケータ:図2)を挿入し、その中に放射線を出す線源を入れる治療です。子宮の中から、病巣部に高い線量の放射線を集中してあてることが出来ます。1週間に1回で3~4回程度行います。治療の方法は、前処置として、アプリケータ挿入前の数時間~数日前から1回~数回に分けて、ラミセルなどの子宮頸管拡張器を用いて子宮頸管を時間をかけて拡張させておきます。その後、治療直前にラミセルを抜去し、子宮の中に金属製のアプリケータを2本挿入し、ネジとガーゼで固定します。アプリケータを入れる時に痛みを感じることがあるため、挿入前に鎮痛剤(坐薬や注射)で痛みを軽減させます。これらのアプリケータ挿入を、腟および腹部からの超音波検査下に施行し、子宮底部にアプリケータ先端が適切に到達しているのを確認します。膀胱の中と直腸の中に放射線の量を測るための管を入れます。レントゲンやCTを撮影してアプリケータの位置を確認し、レントゲン写真やCT写真をもとに放射線の量を計算し治療時間を決めます。アプリケータを治療機械に接続し治療を開始します。照射時間は10~20分程度で、照射中に痛みなどは感じません。照射終了後、ガーゼやアプリケータを取りはずします。以上すべてに1時間30分くらいかかります。図3は線量分布図です。子宮全体に6Gyが照射されるように、線源の停留位置と時間を検討します。
治療成績
根治照射の5年生存率は、Ⅰ期50-100%、Ⅱ期26-100%、Ⅲ期0-37%、Ⅳ期0%と、進行がんでは不良です。一方、術後照射の成績は日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会による全国集計(2009年)では、Ⅰ期82.1%、Ⅱ期64.7%、Ⅲ期58.8%です。
放射線治療の副作用について急性期有害事象
放射線治療中の主な副作用は下痢です。症状の程度には個人差があります。症状が軽い場合は治療不要ですが、強い場合には、下痢止めの内服や、点滴治療を行います。また、高度な下痢の場合は、照射を休止します。
食欲低下、腹痛を伴う場合もあります。その他、膀胱への影響として、頻尿や残尿感、排尿時痛などを認めることがあります。また、放射線をあてた皮膚の皮膚炎が生じます。腟へのがんの浸潤が下方へのびている場合は、外陰部に放射線があたるため、外陰炎が生じます。血液検査では、白血球減少が生じることがありますが、程度は軽度で、通常処置は不要です。抗がん剤を併用した場合、副作用が増強することがあります。以上の症状は、治療終了~数週間程度で軽快します。
晩期有害事象放射線治療の晩期の副作用として、時に、治療半年~数年後に直腸や膀胱の粘膜炎のため血便や血尿が出ることがあります。子宮体癌では、子宮底部の線量分布が広がるため、S状結腸の過線量による出血・狭窄が出ることがあります。通常は経過観察することで治りますが、まれに処置を要することがあります。その他、まれに小腸、下肢や骨の副作用として、腸閉塞、下肢リンパ浮腫や骨粗鬆症による骨折がみられることがあります。多くは、保存的に治療します。閉経前の患者さんでは、卵巣に放射線があたることで、卵巣の機能が廃絶し、閉経します。
文献
- 婦人科腫瘍委員会報告.2012年度子宮体癌患者年報
http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-go/kanja_2012.pdf - 日本産婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会 (編).子宮体癌取り扱い規約. 改訂第3版.金原出版;東京2012.
- 日本婦人科腫瘍学会編:子宮体癌治療ガイドライン2013年版,東京,金原出版,2013
- 日本放射線腫瘍学会編:婦人科 Ⅱ子宮体癌 放射線治療計画ガイドライン2012年版,東京,金原出版,2012