『「乳歯保存ネットワーク」「非営利未来型株式会社はは」へのご協力のお願い(2)』
「乳歯保存ネットワーク」運営委員
「非営利未来型株式会社はは」代表取締役
松井英介
がん医療の今>No79 20110810
「低線量内部被曝による健康障害」
がん医療の今>No.102 20120509 & No.103 20120516
「散染による内部被曝の拡大にストップを(1)」
「散染による内部被曝の拡大にストップを(2)」
大切なのは予防原則
子どもたちをこれ以上被ばくさせないこと、環境や食生活への配慮・改善で今以上の蓄積を防ぐこと、これが一次予防です。
そのためには、まず、人工核物質による、自然生活環境・食品そして私たち自身の身体の汚染(内部被曝)を正確に把握しなければなりません。 とくに、最も厄介な人工核種のひとつストロンチウム90の調査は不可欠です。
気象庁気象研究所は、福島第一原発事故伝後の、ストロンチウム90とセシウム137の沈着を比較した調査結果を公表しています(図10)。 しかし、残念ながら、日本政府は、食品のストロンチウム90の調査測定結果は公表されていません。 放射能汚染ゾーンの定義の基礎データとして必要なストロンチウム90の土壌汚染密度の基準値も示していません。
1986年に起こったチェルノブイリ原発事故後には、チェルノブイリ事故に関する基本法が定められました。 以下、その基本法を簡単に紹介します。
チェルノブイリ事故に関する基本法
チェルノブイリ原発事故がもたらした諸問題に関するウクライナの法制度の記述は、まず基本概念文書「チェルノブイリ原発事故によって放射能に汚染されたウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)の領域での人々の生活に関する概念」の引用から始めるのが適切でしょう。
この短い文書は、チェルノブイリ事故が人びとの健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として、1991年2月27日、ウクライナSSR最高会議によって採択されました。 この基本法の実現には、子どもたちのいのち守るために移住の権利を掲げて闘った旧ソビエト市民や科学者の運動がありました。
この概念の基本目標はつぎのようなものです。
すなわち、最も影響をうけやすい人びと、つまり1986年に生まれた子どもたちに対するチェルノブイリ事故による被曝量を、どのような環境のもとでも1mSv/yr以下に、言い換えれば一生の被曝量を70mSv以下に抑える、というものです。
基本概念文書によると、「放射能汚染地域の現状は、人びとへの健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している」。
それゆえ、「これらの汚染地域から人びとを移住させることが最も重要である」。
基本概念では、(個々人の被曝量が決定されるまでは)土壌の汚染レベルが移住を決定するための暫定指標として採用されています。 一度に大量の住民を移住させることは不可能なので、基本概念では、つぎのような“順次移住の原則”が採用されています(8)表1)。
第1ステージ(強制・義務的移住の実施):セシウム137の土壌汚染レベルが555kBq/m2以上、ストロンチウム90が111kBq/m2以上、またはプルトニウムが3.7kBq/m2以上の地域。 住民の被曝量は年間5mSv/yrを越えると想定され、健康にとって危険。
第2ステージ(希望移住の実施):セシウム137の汚染レベルが185~555kBq/m2、ストロンチウム90が5.55~111kBq/m2、またはプルトニウムが0.37~3.7kBq/m2の地域。 年間被曝量は1mSv/yrを越えると想定され、健康にとって危険。
さらに、汚染地域で“クリーン”な作物の栽培が可能かどうかに関連して、移住に関する他の指標もいくつか定められています。
基本概念の重要な記述の1つは、「チェルノブイリ事故後、放射線被曝と同時に、放射線以外の要因も加わった複合的な影響が生じている。 この複合効果は、低レベル被曝にともなう人びとの健康悪化を、とくに子どもたちに対し、増幅させる、こうした条件下では、放射能汚染対策を決定するにあたって複合効果がその重要な指標となる」ことです。
セシウム137汚染レベルが185kBq/m2以下、ストロンチウム90が5.55kBq/m2以下、プルトニウムが0.37kBq/m2以下の地域では、厳重な放射能汚染対策が実施され、事故にともなう被曝量が1mSv/yr以下という条件で居住が認められる。 この条件が充たされない地域の住民には、“クリーン”地域への移住の権利が認められます。
こうした基本概念の実施のため、つぎの2つのウクライナの法律、「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」および「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」が制定されました(8)表1)。
年間被曝量(実効線量)の定め方
ここで、注意しなければならないことがあります。
それは、年間被曝量(実効線量)の定め方が、チェルノブイリと日本では違うことです。
チェルノブイリ法では、年間被曝量(実効線量)が、各核種の詳細な土壌汚染密度の調査に基づいて定められました。 これに対して、現在日本で私たちが使っている年間被曝量(実効線量)は、航空機を使って、あるいは地上1mなどに設置されたモニタリングポストなどで測定された空間線量であることです。 換言すると、チェルノブイリ法では、各核種から放射されるγ線、α線、β線のすべてを考慮して導かれた実効線量(mSv/yr)であるのに対して、日本の実効線量は、γ線のみの測定に基づいていることです。 つまり、日本の実効線量は、放射線汚染の実態を過小評価しているのです。
流通する食品のストロンチウム90 の濃度を調べ、汚染の少ない食品を摂ることができるようにしなければなりません。 そのためには、中央政府と地方自治体が食品の安全を保障するシステムを組み上げるように、粘り強く働きかけなけなければなりません。
そして、すでに核物質を取り込んでしまった子どもたちが病気にならないようにすることが大切です。 精度の高い検診システムで、病気をはやく見つけ、適切な治療によって子どもたちのいのちを守ることです。これが二次予防です。
私たちは、まず東海地方岐阜市で、乳歯の測定ができるように準備中です。 乳歯一本一本に含まれるストロンチウム90 が測定できるようにするのです。 そして、その経験を全国各地で利用してもらおうと考えています。
抜けた乳歯を捨てないで、保存しておきましょう
赤ちゃんの歯は、お母さんのお腹でいのちが生まれて5~6週間経ったころからできはじめ、生まれて6~8 ヶ月経つと生えてきます。 ストロンチウム90 の半減期は約29 年なので、長い間ほとんどなくなることはありません。 乳歯を保存しておけば、その中にあるストロンチウム90 をいつでも測定することができます。 お子さんの抜けた乳歯を捨てないで、記録カードと一緒に保存しておきましょう。
乳歯の測定結果は、子どものいのちと健康を守るために使います
3.11原発大惨事によって環境に放出され、子どもの体内に取り込まれたストロンチウム90は日本ではほとんど調べられていません。 とくに子ども一人ひとりの歯を調べた結果はありません。 私たちは、それを調べて、子ども一人ひとりの健康状態を正確に把握し、病気の予防に役立てようと考えています。調査料はいただきません。
測定の結果は、子どものいのちと健康を守るために使います。 内部被曝の確認、被曝と健康への影響の分析、一般市民や国・自治体に対する提言の基礎資料とします。 子どもたちの健康影響を調べるためには、一地域だけでなく全国のデータが必要です。
「乳歯保存ネットワーク」と非営利未来型「株式会社はは」について
「乳歯保存ネットワーク」http://pdn311.town-web.net/
<抜けた歯の提供先>
抜けた歯は、記録カードと一緒に下記へお届けください。
送って頂いた乳歯は測定によって形がなくなりますので、返却できません。 測定結果の通知は、記録カード(15)測定結果通知の希望への記入をお願いします。 預かり証を発行し、厳重に管理・保管します。 測定結果の通知を希望された方には、個別に結果をお知らせします。結果に関する相談にも応じます。
〒502-0017 岐阜県岐阜市長良雄総878-16 TEL:058-296-4038 FAX:058-296-3903
つぎのお願いの手紙は、「乳歯保存ネットワーク」の「呼びかけ人」や協力者の方がたに送ったものです。
大変長らくお待たせいたしました。
「非営利未来型株式会社はは(HaHa.Inc.)」の概要書ができ上りましたので、上記住所にご一報いただけますれば、お送りいたします。
「子どもたち・次世代を放射線被曝から守る」。
このことが、核の時代に生まれた私の責任だと自分自身に言い聞かせてまいりました。
2011年3月11日東京電力福島第一原子力発電所(TEPCO)事故現場からは、今なお、さまざまな人工核種が放出されています。
それらは、小さな粒やガス状になり、呼吸や飲食とともに体内に入ってきます。内部被曝です。 その影響を一番強く受けるのが胎児と子どもたちです。 子どもの病気を予防するために、ストロンチウム-90を測定することにしました。 ストロンチウム-90は、骨や歯に集中的に蓄積し何十年もベータ線を出しつづけます。造血組織・骨髄への影響がとくに深刻です。
子どもたちの乳歯は6歳から12歳くらいの間に抜けますので、これからが正念場です。
原発は、国策として日本政府が推進してきました。乳歯に含まれるストロンチウム-90の測定は、本来政府が責任をもってやるべき事柄です。 しかし現政府は腰を上げませんので、私たち市民・科学者・技術者がまず測定し、政府に提言することにしました。
スイス・バーゼル州立研究所は、1950年から現在まで乳歯の測定を続けてきました。 日本の子どもたちの乳歯を測定し、私たちの研修も快く受け入れてくださいました。 今までの活動については、つぎのサイトをご覧ください。http://pdn311.town-web.net/
測定所発足を実現するために、「非営利未来型株式会社はは」にご参加いただきますよう、お願い申しあげます。
取締役 | 市原千博 伊藤久司 大沼章子 大沼淳一 所 源亮 藤野健正 星野 香 松井和子 若岡マス美 |
監査役 | 寺尾 宏 安田洋子 |
今年度の出資目標株数は、5千株(一株1万円)です。 今までお寄せいただいた出資金で、ストロンチウム90の測定に必要な、下記のような計測システムを発注いたしました。 2018年1月の測定所開設に向けて、目標達成の努力を重ねているところです。
お力添えのほど、重ねてお願いする次第です。
LB4200の検出器。同時に16試料の測定ができます。
新聞報道
「乳歯保存ネットワーク(PDTN)」と「非営利未来型株式会社 はは」について報道した最近の新聞記事の主なものを以下に紹介します。 中日新聞は一面トップに、東京新聞は第一社会面大きく掲載されたものです。
日本政府は「核兵器禁止条約」に批准を!
稿を閉じるにあたり、新たな核戦争が朝鮮半島・日本列島地域を主戦場に展開される危機が迫っている現状について、触れようと思います。
1950年6月25日に始まった朝鮮戦争は、1953年7月27日に休戦協定に署名がなされましたが、以後65年後の現在なお、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国・大韓民国の「最終的な平和解決」(平和条約)は未だ成立していません。 のみならず、休戦協定後も大韓民国軍は米軍に全権を委ねており、大韓民国政府に「平和条約」を締結する権限はありません。 大韓民国の文在寅(문재인)大統領は就任当初から、主権の回復を主張してきましたが、まだ実現していません。
日本はというと、例えば、日米地位協定の不平等が指摘されています。 在日米軍将兵には日本の法令は適用されず、外交官なみの治外法権・特権が保証され、逆に日本住民の人権は侵害されています。 在日米軍基地周辺の住民などから、地位協定の改定を求める声が上がっています。 第二次世界大戦時のファシズム3国枢軸であったイタリア共和国とドイツ連邦共和国が、大使館の土地以外の管理権を取り戻したのに対して、日米地位協定は1960年以降、一言一句改定されていません。
そのような状況下で、沖縄の方々に対する、大阪機動隊員の「土人」、海上保安庁隊員の「日本語わかりますか?」妄言。 また、中国と「北朝鮮」を睨んだ与那国・石垣・宮古・南西諸島の住民の意向を無視、核ミサイル配備、米海兵隊に代わる自衛隊の配備が強行されています。
「核兵器禁止条約」は、アジア、中南米、アフリカ諸国、オーストリアをはじめとするヨーロッパの国々122ヵ国(国連加盟国の圧倒的多数)の賛成で、採択されました。 この条約は、核兵器やその他の核爆発装置の開発、実験、生産、製造、取得、保有または備蓄のほか、これらの兵器を使用したり、使用の脅しをかけたりすることを含め、ありとあらゆる核兵器関連の活動を禁止しています。 プルトニウム239の保有・備蓄が禁止されるのはいうまでもありません。 ところがなんと「唯一のヒバク国」を自称する安部政権は、核大国USAなどと轡を並べてこの条約に反対したのです。
核をもって攻撃しあう形で、朝鮮戦争が再開された場合、1950年代(65~67年前)と異なり、火事場泥棒的「イトヘン・カネヘン」景気に浮かれている余裕はまったくありません。 なぜなら、上述したように、日本は、アメリカ合衆国の世界戦略の一環として、東北アジア地域限定核戦争の当事者として組み込まれているからです。
日本政府は「核兵器禁止条約」に批准を!の声を大きくすることが、「核と人類は共存できない」という森瀧市郎さんの遺志を受け継ぎ、南北朝鮮の非暴力的統一を成し遂げ、東北アジアの平和を実現するために、不可欠なのではないでしょうか。
そしてそれが、子どもの乳歯を通じて、次世代との対話をひろげ、「核から子どもたち次世代のいのちと尊厳を守る」確かな道なのではないかと、私は考えています。 (完)
[参考文献]
- 1) 森瀧市郎著「核と人類は共存できない―核絶対否定への歩み―」(2015年)七つ森書館
- 2) 松井英介「見えない恐怖―放射線内部被曝」(2011)旬報社, P.41-5
- 3) カール・Z ・モーガン・ケン・M ・ピーターソン著、松井浩・片桐浩訳、『原子力開発の光と影─核開発者からの証言』 (2003), 昭和堂、P.153-6
- 4) ウラジミール・チェルトコフ著,中尾和美・新居朋子・髭郁彦訳「チェルノブイリの犯罪」上巻(2015 緑風出版), P.132-3
- 5) コリン・コバヤシ『国際原子力ロビーの犯罪─チェルノブイリから福島へ』(2013)以文社,P.27-8
- 6) 山内知也監訳「放射線被ばくによる健康影響とリスク評価―欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告」(2011年)明石書店, P.25-40
- 7) 田畑純編著「口腔の発生と組織 改訂3版」(2015年)南山堂, P.42&52
- 8) オレグ・ナスビット、今中哲二:「ウクライナでの事故への法的取り組み」今中哲二編「チェルノブイリ事故による放射能災害―国際共同研究報告書」【技術と人間 1998年出版】P.48より引用)
岐阜県立医科大学卒業後、岐阜大学医学部放射線医学講座助手、講師、助教授。 1981-82年 ベルリン市立呼吸器専門病院Heckeshorn病院留学。医学部退官後、愛知県犬山中央病院放射線科部長を経て、岐阜環境医学研究所・座禅洞診療所を開設、所長、現在に至る。 この間、呼吸器疾患の画像および内視鏡診断と治療、肺がんの予防・早期発見、集団検診ならびに治療に携わる。
厚生労働省『肺野微小肺がんの診断および治療法の開発に関する研究』等、肺がんの診断・治療法の確立に関する研究委員、日本呼吸器学会特別会員・専門医、日本がん検診・診断学会評議員、日本呼吸器内視鏡学会特別会員・指導医・専門医、東京都予防医学協会学術委員など。
日本気管支学会第一回大畑賞(2001年)、第13回世界気管支学会・気管食道学会 最優秀賞(2004年)。
「Handbuch der inneren Medizin IV 4A」(1985年 Springer-Verlag)、「胸部X線診断アトラス5」(1992年 医学書院)、「新・画像診断のための解剖図譜」(1999年 メジカルビュー社)、「気管支鏡所見の読み」(2001年 丸善)など執筆。