『AI画像診断、8K内視鏡、続々登場する新技術』
多田 智裕
11月24日 東大発医療ベンチャー、エルピクセル(東京都文京区)が人工知能を活用した医療画像診断支援技術「EIRL(エイル)」を発表しました。
CT・MRI検査では、医療技術の進歩とともに撮影される枚数が増え続けています。 医療画像診断支援技術は、医療画像を診断する医師の業務負荷の軽減に役立つことが期待されます。
またEIRLは、1種類の画像のみを解析するこれまでの人工知能とは違い、 CT、脳MRI、胸部X線、乳腺MRI、大腸内視鏡、病理などの10種類の医療画像診断を行うことができます。 将来的に、患者が複数の検査を受ける際には、このような複数の画像を診断する人工知能が活躍することでしょう。
現在、医療現場ではこうした様々な新技術へのチャレンジが行われています。 すべてがうまくいくわけではない厳しい世界ですが、そうしたチャレンジを続けることこそが医療現場を変えていくと私は信じています。
超拡大内視鏡リアルタイム診断の衝撃
2016年、昭和大学横浜市北部病院の三澤将史先生らは、超拡大内視鏡による、リアルタイムでの大腸腫瘍診断システムを発表しました。
約10年前に熊谷洋一先生(現、埼玉医科大学)らによって開発された胃と大腸の超拡大内視鏡は500倍までの拡大が可能で、細胞レベルまでの病変観察ができます。 その画像を人工知能が診断することにより、病変ががんでないかどうかなどを瞬時に診断するのです。
従来の内視鏡ですと、検査時に組織を採取して、それを病理検査に提出するため、診断まで通常10日前後の時間を要します。 それが、検査時に、瞬時に高精度で判明するようになるのです。
超拡大内視鏡(Endocytoscope)はオリンパスより来年発売される予定とのことです。現場での活用が進めば、医療は大きく変わるでしょう。
微細な血管や神経までくっきり見える近未来手術
2017年9月にカイロス(東京都千代田区)が発売した世界初の8K硬性内視鏡システム(腹腔鏡手術システム)は、 人間の視覚で感知できる限界を超える画像を提供します。 実際にデモを見ると、損傷してはならない神経線維の一本一本までくっきりと確認できます。
8Kという現行のハイビジョンの16倍の超高画質は、モニターぎりぎりまで近づいてもドットが見えることなく、実物と見間違うくらいの解像度です。
カメラ自体も重さ370グラムと世界最軽量で使い勝手がよく、これからは、微細な血管や肉眼では見えないくらいの細い糸まで、 大画面で手術室スタッフ全員が確認しながら手術を行うことが可能になります。 より安全かつ精緻な手術が行われるようになるのは確実と思われます。
糖尿病患者を救うのは薬ではなく仲間の存在?
11月24日に世界的な製薬メーカー、 米MSDは日本の糖尿病領域における医療課題を解決するビジネスプランの最優秀賞にエーテンラボの「三日坊主防止アプリ みんチャレ」を選出しました (参考「糖尿病領域に特化したビジネスコンテスト、最優秀賞はアプリ『みんチャレ』--MSD」CNET)。
このコンテストのコンセプトは、「医薬品提供の価値をより高めるとともに、 医薬品提供にとどまらないサービスやソリューションの提供で社会に貢献する」こととされています。 確かに薬だけではなく、生活習慣を変えることで改善する病気が多いのは確かです。
生活習慣を改善するアプリは他にいくつもありますが、 「みんチャレ」の特色は、アプリ内で出会った5人のユーザーと交流しながら目標達成を目指すという仕組みにあります。 リアルな知り合いでなく、ネット上のアプリで見ず知らずの人たちが病気を改善する仲間となり、 お互い励まし合ながら病気を改善していくのです。この仕組みが広がれば、医療現場は様変わりすることでしょう。
内視鏡画像人工知能診断でがんの見逃しゼロを
私がCEOを務めるAI Medical Service Inc.は、 内視鏡検査時のがんの見逃しゼロを目指して、内視鏡画像人工知能診断ソフトを開発しています。
下の内視鏡画像の写真をご覧ください。左の写真を見てもどこに病変があるのか分からないと思います(本職の医師でも検出は容易ではありません)。 しかし人工知能は右の写真のように胃がんをきちんと検出しています。
内視鏡検査において病変を見逃さないためには、高度な熟練の技を必要とします。 胃炎の中で胃がんを見つけるのは特に難しいのですが、人工知能を併用すれば、内視鏡検査時にリアルタイムでがん検出のアラートを表示させることが可能になります。
これは全世界の医療現場で使用することが可能なシステムであり、私たちは開発を急ピッチで進めています。
近未来の医療現場は、今までと別次元の世界へ
膨大な検査画像の診断を人工知能がアシストすることで、より正確な診断が受けられるようになる──。
内視鏡検査ではガンの見逃しがゼロになり、病理組織検査を待たずにその場で診断結果が判明する──。
手術では、人間の視力で4.2の目を持ったカメラと8K大画面が導入され、精緻な手術が安全に行われるようになる──。
病気の治療につながる生活習慣改善を、ネットで知り合った人とアプリで行うことが当たり前になる──。
そんな別次元の医療現場が近未来に実現することを目指して、私も微力ながら頑張っていきたいと思います。
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、 東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、 東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、 日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、 東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士