市民のためのがん治療の会
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納得して受ける放射線治療

『放射線治療を受けるにあたって~放射線に対する認識と支持療法の重要性~』


三重大学医学部附属病院
放射線治療科 豊増 泰

放射線治療は手術や薬物療法とならびがん治療において重要な役割を担っており、 近年では強度変調放射線治療(IMRT; intensity-modulated radiation therapy)のような放射線治療方法の進歩により腫瘍の形にそった治療が可能となってきており、 身体への負担が少ない(低侵襲な)治療が可能となってきています。

日々診療にあたっていると、放射線治療について『痛くないですか?』、『熱くないですか?』、『怖いです、心配です』といった言葉や質問をきく機会がよくあります。 放射線の種類は様々ですが、放射線治療で現在最もよく用いられるものはX線です。 X線は発見者の名をとってレントゲン線と言われることもありますが、健康診断などでもよく行われるレントゲン撮影(胸部単純X線撮影)や胃透視などでも用いられており、日常でふれる機会も多くあります。 エネルギーや線量(放射線の量)は異なりますが、放射線治療で用いられるX線も同じX線です。 そのため、放射線治療を受けている際に通常痛みや熱を感じることはありません。 また医師としては治療効果・副作用など不安な点や疑問点に対して1つ1つ丁寧に対応していく必要があると考えております。 最近では他の職種を含めたチーム医療の重要性がいわれており、『がん相談支援センター』のある病院も増えてきています。 がん相談支援センターでは、不安や疑問点などを看護師や臨床心理士など多職種の方に相談することが可能です。


放射線治療は通常1日1回で月~金曜日まで5回/週の治療を繰り返します。 合計の治療回数は部位や病気の状態によっても異なりますが、例えば頭頸部癌の場合には30-35回(6-7週間)がよく用いられます。 様々な治療スケジュールがありますが、放射線治療を受けるにあたって最も重要なことは予定された治療を最後まで受けていただくことです。 前述したように放射線治療を受ける際に痛みや熱を感じることはありませんが、放射線治療によって腫瘍のまわりにある正常な細胞もダメージを受けることにより、 治療が進むにつれて放射線治療による副作用(急性期有害事象)が出現してきます。 副作用(急性期有害事象)は治療開始後2-3週目から出現し、治療終了後数週間かけて改善する一過性のものが多いことから、この時期を乗り越えることが特に重要となります。 近年では、この副作用を乗り越えるためにも支持療法が注目されています。 支持療法とは、がん自体に伴う症状や治療による副作用に対する予防・症状軽減のための治療のことです。 放射線治療の副作用でよく認められるものとして皮膚炎と粘膜炎がありますが、いずれも重症化した場合には、放射線治療を中断せざるをえなくなることがあります。 皮膚炎に対しては保湿剤、粘膜炎に対しては含嗽剤や鎮痛剤などを用いますが、物理刺激を減らすことによっても副作用を軽減することが可能です。 例えば、皮膚炎に対しては皮膚を擦らないこと、粘膜炎に対しては食事の種類や形態・食べ方などを工夫することなどが対策の一つとなるなど、セルフケアが重要となります。 近年では専門看護師が常在する病院も増えてきており、気兼ねなく医療スタッフにご相談ください。 このような副作用を軽減し、放射線治療を完遂するためには、ご本人・ご家族・医療従事者が力を合わせて治療にあたることが必要と考えております。



豊増 泰(とよます ゆたか)

平成22年に九州大学医学部医学科卒業後、浜の町病院にて初期臨床研修医。 総合南東北病院、兵庫県立粒子線医療センターを経て、平成25年4月より三重大学医学部附属病院放射線治療科に勤務。
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