『放射線療法後の皮膚について考える』
放射線療法は3大がん治療のひとつとされ、近年治療機器の進歩とともに局所治療としての重要なものとなっています。 私は数十年にわたり放射線療法の説明をしてきましたが、最近は放射線療法を受けることへの恐怖感は減ってきているように思います。 その反面、魔法のような印象を持たれる方もいて驚きます。 手術に比べると確かに治療中の痛みや出血はありませんし、仕事をしながら受けることもできますので、不思議な治療方法かもしれません。
しかし、副作用はそれなりにありますので、気をつけなければなりません。 照射を受ける部位によって異なりますので、担当の放射線治療医や看護師の説明をよく聞いて、対処していくことが大切です。 放射線療法の多くは外照射(体の外から照射する方法)で、程度は様々ですが皮膚炎は必発です。 放射線療法後に起こる皮膚炎・皮膚障害について考え、どう対処すればいいのかをお話しします。
<放射線療法による皮膚の変化>
放射線療法を受けた皮膚は毛のう・皮脂腺・汗腺がダメージを受けるので、ドライスキン状態になります。 エクリン汗腺は、体温調節(汗を出して体温を調節する)・保湿作用(汗には尿素・乳酸などの保湿作用を有する成分が入っている)・感染防御などの作用がありますが、 この部分の働きがおちると皮膚を守る力がおちるので外からの刺激に弱くなってきます。
下記のグラフは、放射線療法によって皮膚に起こるかもしれない変化を簡単にまとめています。 放射線療法を開始すると、皮膚には炎症(皮膚炎)が起きて、ほてりなども加わり、日焼けに似た状態になります。 炎症は、放射線療法終了後1週間くらいをピークに、1か月程度まで持続することがあります。 また、放射線療法終了2週間ほどすると炎症がおさまる過程で皮膚は黒ずみ(色素沈着)、かゆみが生じてきます。 こうした放射線療法による皮膚の変化は通常1年ほどで元の状態に戻りますが、数年かかることもあります。また、皮膚のむくみが出ることもあります。
このような皮膚の状態を理解して、適切なスキンケアを継続的に行うことが放射線療法後の皮膚を守るために大切なことになります。
<自分でできる対処方法>
- ①皮膚の観察:赤くなっていないか?乾燥していないか?色素沈着はどうか?について観察して、医療者に報告しましょう。
- ②冷やす:多くは保冷剤を使用しますが、冷蔵庫にいれて軟らかいものを使用し、冷凍庫にいれたものは使用しないようにしましょう。 症状を緩和する目的で使用し、予防的に使用するものではありません。
- ③照射部位の保護:下着は軟らかい綿を使用し、縫い目が照射野にあたるときには、刺激になるので注意しましょう。
- ④入浴時の注意:熱いお湯や冷たい水はさけ、照射された皮膚は直接こすらず、石鹸は泡を立ててなでるように洗いましょう。 入浴剤に関しては大丈夫なこともありますので、担当医師に相談してください。
- ⑤入浴後の注意:タオルでゴシゴシ拭かず、押さえるように水分をとるようなイメージで拭いてください。
- ⑥温泉の注意:放射線療法後の温泉に行ける時期は個人差がありますが、強酸性・強アルカリ性の線質は1年くらい避けた方がいいと思います。 急激に汗をかかせるサウナや岩盤浴は長期にわたって注意が必要です。
<保湿について>
放射線療法中~終了後1か月程度は、放射線治療医師に相談し、皮膚炎の程度に合わせた外用剤を使用し、できるだけ早期に炎症を回復させましょう。
1か月経過すると多くの皮膚炎は回復し、乾燥してきますので、ヘパリン類似物質製剤を外用できるようになります。
ヘパリン類似物質製剤に期待すること:
- ①持続性のある高い保湿効果
- ②血行促進作用
- ③皮脂欠乏などの諸症状の改善
- ④傷があればケロイドなどの予防
外用法でお勧めすること:
- ①1日2回がお勧め:朝と入浴後に使用することにより保湿力が上がります。
- ②入浴直後がお勧め:入浴後1分後と60分後の使用を比較すると早い方が2週間後の肌の水分量に違いがみられたという報告があります。
<ヘパリン類似物質製剤の話題>
2017年10月~11月にテレビ・新聞・雑誌などで話題になった「ヒルドイド」についてのお知らせです。 ファッション雑誌や美容雑誌・芸能人やモデルなどが紹介したため、健保連が「美容に関心の高い女性の間で皮膚科等を受診し、 乾燥肌等の訴えでヒルドイドを化粧品代わりに処方してもらうことが流行している可能性が高い」と指摘して、使用について問題となりました。 これに関連して、ヘパリン類似物質製剤の医薬品としての処方についても問題となりました。 これについて、皮膚科学会・放射線腫瘍学会・各がんの患者会が意見書を提出し、 最終的な判断としては、2018年度診療報酬改定では処方制限を行わないが、疾病の治療以外は保険給付の対象外であることが算定要件に明記されています。 ヒルドイド(マルホ製薬)は先発品であり、処方によってジェネリック後発品)に代わることもあります。 外用剤の基材に差はないといわれていますが、照射後の皮膚の状態によっては、基材が合わないこともあるので、何か問題があるときには我慢せずに放射線治療医師に相談してください。
<まとめ>
放射線療法(外照射)後の皮膚は、早期には炎症(皮膚炎)が起こり、その後乾燥してきます。 がん治療を的確にうけて、正常組織を回復させることを目標に、毎日のスキンケアを継続的に続けることは、大切なことです。
現職:久留米大学放射線治療センター 教授・センター長
1988年 久留米大学医学部卒業後 久留米大学医学部放射線科に入局
2000年 久留米大学医学部放射線科講師
2006年 米国MD Anderson Cancer Center and Kuakini Hospital研修
2009年 久留米大学医学部放射線科准教授
2010年 一般財団法人佐賀国際重粒子線がん治療財団理事
2011年 久留米大学医学部重粒子線がん治療講座 教授
2014年 久留米大学放射線治療センター教授