市民のためのがん治療の会
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『大阪府におけるがん患者の悩みやニーズに関する実態調査』


大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻
特任助教 青木 美和
教授 荒尾 晴惠

平成30年12月9日(日)に大阪がん患者団体協議会主催の公開シンポジウム『皆で考える「がんサバイバーシップ支援」』の第 2 回「がん患者に関する調査報告」が大阪国際がんセンターで開催されました。

私たちは、公開シンポジウムのシンポジストとして、 「大阪府におけるがん患者の悩みやニーズに関する実態調査」の結果のから、がん患者さんの「就労状況の実態」と「家族に対する思い」について報告させていただきました。 今回は、その発表内容の一部をご紹介します。

1.調査目的と方法

今回発表した内容は、平成29年1月~3月に実施した大阪府がん患者状況調査の一部の結果です。 この調査は、大阪府の第3期がん対策推進計画の策定にあたり、大阪府のがん患者さんが必要としている支援を明らかにすることを目的として行われました。

調査は、大阪府内の国指定のがん診療連携拠点病院17施設に入院・通院中の20歳以上のがん患者さん3,622名にそれぞれの病院でアンケートを配布後、郵送法で回収し、1,981名(回収率54.7%)から回答を得ました。

2.調査結果(全ての患者さんの回答を分析した結果)

1)対象者の概要

アンケートに回答いただいた方の平均年齢は、65.5歳でした。 年代別にみると、60歳代33.6%(654名)、70歳代31.5%(612名)が多く、50歳代は16.3%(318名)、40歳代は8.6%(168名)でした。 また、性別は、女性が54.3%(1,059名)、男性が45.7%(893名)の割合でした。 疾患は、乳がん22.3%(435名)、結腸・直腸がん18.6%(362名)、肺がん13.0%(253名)、胃がん11.9%(233名)の順に多く、これらの上位4疾患が全体の65%を占めていました。


2)療養生活における情報ニーズの実態

療養生活における情報ニーズの実態を調べるために、「がんの治療や療養を考える際にどのような情報を知りたいですか」と尋ね、 「非常にそう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の5段階で回答を得ました。その結果を下記の図1に示します。


図1 療養生活における情報ニーズ

「非常にそう思う」、「ややそう思う」と回答した方の割合が多かった項目から順に、 「病状理解のための症状についての情報(91.7%)」、 「自分の治療内容を理解するためのがん治療の情報(92.8%)」、 「副作用と対応方法(90.7%)」、 「治療に伴う身体への長期的影響の情報(89.7%)」でした。 がん患者さんの約9割は、自身の治療や、治療を受けることによって身体に起こりうる変化に関する情報を求めていることがわかりました。

また、「がん治療にかかる費用の情報(80.1%)」、「経済的支援や社会保障制度の情報(79.4%)」が続き、 8割のがん患者さんは経済的な負担に関する情報や経済的支援に関する情報を求めていることがわかりました。

3.調査結果(患者さんの特徴別に分析した結果)

1)がん患者さんの就労状況の実態

がん患者さんの就労状況の実態を調べるために、がん診断時の就業状況が「自営業」および「被雇用者」だった、921名の方の回答を分析しました。

「診断後に働き方に変化はあったか」を尋ねたところ、29%の患者さんが退職したと回答しました。 退職した方のうち再就職した方は17.2%であり、再就職が困難な現状が浮かび上がりました。

また、雇用形態によって退職した割合に差があるのかを検討したところ、正社員では退職した方が18.4%であるのに対し、パートアルバイトでは46.6%となっていました。 加えて、性別による退職者割合の違いを検討したところ、男性に比べ、女性の方が退職した割合が大きいことが示されました。 そのため、特に被雇用者である女性の離職対策や再就職支援を充実する必要があります。

加えて、世帯収入が5万円以上減少したものは40%程度であり、なかでも40~60代の収入の減少の割合が大きいことがわかりました。 そのため、各世代のライフイベントなどを考慮に入れ、収入への影響をアセスメントしたうえで支援することが重要であると考えられます。 特に、働き盛りである40代や、定年前後の60歳台のがん患者さんに対して、引き続き社会的役割を担えるよう、就労支援体制の充実が求められます。


2)外来化学療法中のがん患者さんが抱く家族に対する思い

今回は、患者さんの抱く家族に対する思いの中でも、「家族に負担をかけているという思い(以下、家族への負担感)」に着目して調査を行いました。 外来化学療法中のがん患者さんが抱いている家族への負担感を明らかにするために、外来化学療法中のがん患者さん600名の回答を分析しました。

「家族に負担をかけていると思うか」の問いに、「非常にそう思う」、「ややそう思う」と回答した方は計88.6%でした。 この結果から、9割近くの患者さんが家族への負担感を抱いている実態がわかりました。

また、家族への負担感は、患者さんの活動レベルによって差があることがわかりました。 なかでも、「0:活動レベルの低下がない状態」の患者さんに比べ、 「1:激しい運動は難しいが、歩行や軽作業はできる状態」の患者さんのほうが、家族への負担感を抱いていました。 この結果から、治療に伴って活動に制限が生じるようになると家族への負担感を抱くようになる傾向にあると言えます。

加えて、「仕事や経済面」、「家族や周囲の人との関わり」、「生き方・生きがい」のそれぞれについて悩みがない方に比べて、 悩みがある方のほうが、家族への負担感を抱いていることがわかりました。 この結果から、化学療法を受けながら社会生活を送る中で生じる悩みが、家族に負担をかけているという思いに関連していることがわかりました。

患者さんの「家族に負担をかけているのではないかという思い」を和らげるためにも、医療者は、患者さんの活動のレベルを維持し、 身体的な苦痛を緩和するように努めることが最優先課題であることがわかりました。 また、患者さんとご家族間の調整を図るために、患者さんの普段の生活の様子や、家庭内で担う役割にも関心を寄せて関わりを行うことが大切であると考えています。


この調査を通じて、がん患者さんの就労状況や、治療を受けながら生活しているがん患者さんの家族に対する思いの実態を明らかにすることができました。 シンポジウムでは、患者さんの治療や出現している症状に対するケアや支援に加え、患者さんの生活に関心を寄せ、個々の患者さんに応じた支援の在り方を検討することの重要性をお伝えしました。

上記の結果の一部は、第3期大阪府がん対策推進計画 (2)資料編に掲載されています。ご興味のある方は、下記URLをご参照ください。

大阪府がん対策推進計画について:http://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/keikaku/index.html


荒尾 晴惠(あらお はるえ)

2000年より兵庫県立大学看護学部の教員を経て、2009年4月より現職。 がん看護専門看護師のコースも担当している。 がん患者の症状マネジメント、セルフケアに関する研究、がん患者と家族の看護に関する研究に取り組む。 日本緩和医療学会理事、日本がん看護学会副理事長、日本臨床腫瘍学会協議員などがん関連の学会において役割を果たしている。

青木 美和(あおき みわ)

大学卒業後、看護師として病院に勤務。 2014年大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士前期課程を修了。 高知県立大学看護学部助教を経て、2017年8月より現職。 終末期のせん妄に対する看護支援の研究、がん患者の家族への負担感に関する研究に取り組む。
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