市民のためのがん治療の会
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『ESMO(欧州臨床腫瘍学会)2019に参加して』


昭和大学内科学講座腫瘍内科学部門主任教授
昭和大学病院腫瘍センター長
角田卓也


本年9月27日から10月1日までスペインのバルセロナで開催されたESMO(欧州臨床腫瘍学会)に参加してきました。 この学会は毎年米国シカゴで開催されるASCO(米国臨床腫瘍学会)の欧州版です。 今年の学会テーマは、translating science into better cancer patients careで、意訳しますと“科学の成果をがん患者さんのためになるようにうまく届ける”でしょうか。 今年は、参加者3万人以上、137国、2217演題(93 late break abstracts;演題登録締め切り後にデータが出た最新の演題)、18編の同時論文発表がありました。


私は学会に参加する目的として、新しい知識の吸収はもちろんのこと、がん治療における世界の潮流を学ぶようにしています。 「今後、がん治療はどのようになっていくのか?」「今、がん治療において何が問題でそれをどのように解決しようとしているのか?」を感じ取り、 患者さんに対する日常の診療や新しい研究に役立てたいと考えています。


今回、面白かった発表に一つに、「Gartner’s Hype Technology Cycle」という聞き慣れない考え方がありました。 図1に示すように、ある技術が開発され、マスコミやメディアがどんどん取り上げ、実際の実力より大きく評価されます。 しかし、冷静になって判断すると、現実的には期待されたほど素晴らしいものではなく、一気に失望へと転落します。 その後、現実から出てきた問題点とそれを凌駕する解決法により期待値は再び上昇し、適切な評価を受け、その技術が広く正しい評価で定着すると言うものです。

演者は、がん免疫療法がまさにこの法則に当てはまるのではないかとプレゼンしておりました。 昨年、がん免疫療法の革新的な発見でノーベル賞を受賞したときがまさにPeak of Inflated Expectation(過剰期待の頂)であったが、 その後種々の限界が少しずつ分かってきて期待値が下がってきました。 Trough of Disillusionment(幻滅のくぼ地)です。 しかし、問題点を少しずつでも解明すること(Slope of Enlightenment、啓蒙の坂)で、真の評価(Plateau of Productivity、生産性の大地)を上げることができると言うものです。 私はこのPlateau of Productivityは大変高いものであると考えております。 なぜなら、従来のがん薬物療法が達し得なかった“完治”をがん免疫療法のみが達成できたからです。 カプランマイヤー曲線で、3年生存すれば5年、10年と生存する“カンガルーテール現象”です。



14番目の柱として確立したがん免疫療法は、いまやがん薬物療法の主役(主薬?)になろうとしています。 図2に示しますように、当初ステージIVのセカンドライン以降より承認されていったがん免疫療法が、ファーストラインとなり、更にステージIIIにも適応が拡大されてきました。 さらに、ステージIやIIという術後非補助療法、術前補助療法にその適応が拡大しつつあります。 現在、このステージでも数多くの大規模臨床試験が進行中です。 その結果は来年、再来年に公表されると考えられています。 まさにがん免疫療法ががん治療全体を大きな潮流で浸透しつつあるといって過言ではありません。 10年前には誰も予想できなかったパラダイムシフトが今まさに現実ものとなりつつあります。


角田 卓也(つのだ たくや)

1987年和歌山県立医科大学卒業後、同大学第二外科助教を経て2000年東京大学医科学研究所付属病院外科講師。 同院准教授を経て2006年ワクチンサイエンス株式会社、代表取締役・社長。 2010年オンコセラピーサイエンス株式会社、代表取締役・社長。 2015年メルクセローノ株式会社、MA Oncology部長を経て2016年昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学講座・教授、 2018年昭和大学医学部内科学部門腫瘍内科学部門・主任教授、昭和大学病院腫瘍センター長
1992-1995年City of Hope National Cancer Institute (Los Angeles)留学、同講師就任
医学博士(テーマ:腫瘍浸潤リンパ球の基礎的・臨床的研究)
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