『検診機関における新しい肺がん検診モデルと職員喫煙ゼロについて』
理事長 藤澤 武彦
検診機関における喫煙対策には住民を対象としたものと職員に対するものと2つあります。 地域保健事業の一環としての地域住民に対する肺がん検診は喫煙対策とも含めて重要であり、また検診を行う健診機関の職員には禁煙が当然のように求められているものと考えています。 今まさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界的に死亡者が急増している。 基礎疾患として喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患、糖尿病、循環器系疾患などを持っている患者は死亡率が高いことが報告され、重喫煙の著名人が死亡したことも報道されました。
COPDと肺がんはともに喫煙と深く関連し、死亡者数が増加している呼吸器疾患ですが、研究は最近までそれぞれ個別に行われことが殆どでした。 しかし、COPD患者には肺がんが多発し、非COPD患者に発生した肺がんより死亡率も高いという疫学的研究も複数報告されていました。 また分子生物学的ならびに遺伝子学的な研究の進歩によりCOPDの病態が解明されるとともに、肺がん発生との関連性についても明らかにされつつあります。 本稿では主たる原因が喫煙であるCOPDと肺がんにおける分子生物学的ならびに遺伝子学的な連続性およびCOPDに発生する肺がんの臨床的特徴と早期発見・予防について報告し、 COPDに着目した肺がんCT 検診の重要性につき報告するとともに、当財団における職員の喫煙者ゼロを達成した種々の取り組みについて報告します。
図1 COPDと肺がんの死亡順位は上昇
世界保健機関WHOが報告した世界における1990年から2020年における人類の疾患別死亡順位の中でCOPDと肺がんの死亡順位の推移予測ではCOPDは6位から3位、 肺がんは10位から5位と共に上昇すると予測されており、予測通り死亡者数は増加しています。
日本でも死亡順位第1位の悪性腫瘍の中で肺がん単独では7万人を越え、肺炎についで4位ということになります。 COPD死亡も今後増加していくことが予測されています。 このように日本も含め全世界においてCOPDと肺がんは生命を脅かす重大な疾患であり、その対策は喫緊の課題となっております。
図2 タバコとPM2.5
呼吸器は気流系と血流が接する極めて精巧に発達してきた臓器です。 肺は親指くらいの太さの気管、分岐して気管支、約22分岐繰り返して約2mm直径の終末細気管支から肺胞に空気が到達します。 肺胞径は100~200μメーターで、約3億個あり、表面積では50~100㎡、教室一つくらいの広さといわれています。
肺胞を拡大しますとぶどうの房のようになっていて、一つひとつの肺胞の大きさは約100マイクロメーターです。 PM10は10マイクロメーターですから肺胞の10分の1となり、PM2.5はさらに小さくなり、肺胞に到達するには物質径が小さいほど確率は高くなるのでPM2.5の肺胞への到達は高くなります。 タバコ煙に含まれる有害物質は容易に肺胞に到達し、肺実質に障害を及ぼし、破壊することになります。 空気が汚染されていれば、汚染されている物質が小さければ小さいほど肺胞に到達する量が増えていきます。 当然気管、気管支の内面にもPM2.5は沈着して付着しますので影響は出ます。 PM2.5の濃度が高いと心臓疾患、気管支喘息、肺がん等が増加することが明らかにされています。COPDも当然増加するものと考えられます。
図3 タバコ煙による肺の基本構造の破壊:COPD
COPDで亡くなられた方の肺は肺胞の破壊により大小様々な気腔を形成しています。 呼吸機能が急速に低下し、終末期では在宅酸素療法の適応となる場合もあります。 因みにCOPDの確定診断は1秒率70%未満であり、重症度は1秒率と%1秒量で決まります。
図4 COPDのCT画像所見
非喫煙者に比べて、喫煙指数(1日の喫煙本数X喫煙年数)に応じて肺胞破壊の気腔所見が高度となり、喫煙指数600以上が重喫煙者と定義されています。 本スライドの喫煙指数1080の56歳男性では大小さまざまな気腔が多くを占めていることが分かります。
図5 COPDに併発した肺がん
呼吸機能検査でCOPDと診断された症例を示します。両側下葉背面に線維化を伴う気腔所見が認められ、経過観察中左下葉に肺扁平上皮がんが発生しました。
図6 取り残された生活習慣病COPD
米国では、1965年に比べて1998年では、高血圧などの生活習慣病に対するキャンペーンが効を奏し、 冠動脈疾患、脳卒中、その他の脳血管疾患、その他の疾患の死亡率が低下したのに対し、COPDの死亡率だけが著しく増加しており、喫煙対策の必要性を示唆しています。
図7 年齢別のCOPD罹患率(日本)
福地らは40歳以上のCOPDの罹患率を推測する目的で42,027人への無作為電話調査で、医療機関での検査に同意した2,666人を対象に呼吸機能検査等をおこなった。 その結果、40歳代、50歳代、60歳代、70歳以上ではCOPDの頻度はそれぞれ3.1%、5.1%、12.2%、17.4%であった。 この頻度を本邦における分布でCOPDの罹患数を計算すると約530万人のCOPD患者が本邦には存在するものと推計されました。 NICE studyとしてERJに報告しました。
図8 COPDと診断された被験者の過去の臨床診断と重症度
またNICE studyではCOPDと診断された被験者のうち過去にCOPDと診断されていた割合はたった10%にとどまっており、診断された10%のうち80%近くは重症度I期の軽症でした。 検診により未診断のCOPDを発見し、早期治療に結び付けることがCOPD患者の重症化を防止するために不可欠であることを示唆しています。
図9 肺がんとCOPDの因果関係
肺がんとCOPDは共に喫煙と強く関連し、両疾患の発生に強く関連しています。 環境因子としては粘液繊毛系の障害による発がん物質の貯留や活性酸素・活性窒素によるDNAの傷害が上げられます。 COPDに伴う慢性炎症が肺がん発生と関連することも明らかにされていますが、NF-κBの活性化も証明されています。 遺伝的素因としては解毒酵素系GSTM遺伝子変異で活性化発がん物質の解毒が低下するため両疾患の発生は亢進します。 また、CYP4501A1(シトクロムP1A1)の活性化により肺がん発生は高まりますが、CYP2A6遺伝子変異又は多型例では両疾患の発生は低下することが明らかになっています。 さらにタバコの健康被害は女性に強くでることが知られています。
図10 女性肺がんの特徴
日本人におけるCYP1A1遺伝子の活性は約35%あり、約65%は不活性であり、解毒酵素のGSTM1は約50%が活性を持ち、約50%が不活性です。 従ってCYP1A1遺伝子活性があると発がん物質の活性化が進み、強力な発がん性を示し、また解毒系のGSTM1不活性の人では活性化発がん物質の解毒が進まず、細胞の遺伝子損傷を惹起し、がんを発生する頻度が高くなります。
女性の肺がんの特徴としてはエストロゲンがCYP1A1の活性を高めることにより、肺がん発生率が男性より高まることが知られています。 これが本邦において受動喫煙防止対策が不可欠である理由の1つです。
図11 COPD患者における肺がん発生リスク
COPD患者における肺がん発生リスクに関する疫学研究では、COPDでない人では1000人当たり2人であるのに対し、COPD患者では1000人当たり10人と、毎年の肺がん発生確率は5倍と高いことが報告されています。
図12 COPDと肺がん死亡の関係
それでは肺がん死亡率ではどうでしょうか? 当然同じ喫煙指数1200で比較しています。 COPDでない人では1000人中0.43人であるのに対して、COPD患者では3.02人と高くなります。 両者の差は約7倍になります。 肺がんの罹患率も喫煙によって高くなりますが、死亡率も7倍高くなり、COPDという病態が肺がんの発生および悪性度にも関連していることが明らかになっています。
図13 肺がんとCOPDとの関係
たばこ煙には4000種類の化学成分が含まれ,そのうち200種類は人体にとり有害物質であり、40種類は発がん性を有しています。 これらの有害物質の吸入により、個体の喫煙に対する感受性の遺伝的多様性と関連して、肺内における酸化ストレスおよびプロテアーゼの亢進、有害物質の活性化、解毒の不活性化により、 肺胞上皮や細気管支上皮の炎症の進展と共に上皮の破壊と修復が進行します。 その結果、細気管支肺胞幹細胞の老化・枯渇化により気腫化が進展し、最終的にはCOPDの状態となる。 一方、幹細胞の不死化が惹起されればがん化し、肺がんが形成されます。正確にはまだ解明されていませんが約4分の1は両者の重複状態にあるものと考えられています。
図14 肺の慢性炎症から気腫化と発がん
人体では約60兆個の細胞のうち約1%は死に、細胞分裂により補われています。 正常肺でも毎日約1%の細胞が死に、幹細胞(BASC)により補充されているものと考えられています。 喫煙中に含まれる有害物質による慢性的な炎症による気道・肺胞の障害によりエラスターゼなどのプロテアーゼが産生され細胞外マトリックスの破壊、 酸化ストレスやそれに反応するプロテアーゼが白血球や肺胞マクロファージを活性化させることにより、細胞が接合する足場を失い肺胞壁の破壊が惹起されることにより気腫化が進行します。 その結果、それを修復し元に戻そうとBASCが活発に働くが、癌化に誘導させる物質(成長因子はMMP)が豊富に存在する環境下では、正常細胞への分化ではなく、癌化に向かってしまうのではないかと考えられています。
図15 GWASによる肺がんとCOPDの連続性
ゲノム網羅的遺伝子解析の結果では肺がん関連遺伝子、染色体15q25、ニコチン性アセチルコリン受容体、CHRNA3,5、CHRNB4など両疾患の間には連続性が認められる結果も報告されてきています。
図16 肺がん・COPD検診と低線量ヘリカルCT
このようにCOPDと肺がんには臨床的にも密接な関連性があるものと考え、当財団ではCOPDに着目した肺がん検診を平成20年から施行してきました。 千葉市では個別検診で、他の4市町村は集団検診で行いました。 呼吸機能検査でCOPDの患者には車載型低線量ヘリカルCT検査を施行しました。
図17 千葉市平成22年度肺がん(COPD)・結核検診表~個別検診~
千葉市では平成20年からCOPDも含めた肺がん(COPD)・結核検診票を作成し胸部検診を行っています。 スライドは平成22年のものを示します。 問診の喫煙歴、年齢、自覚症状からCOPDの高危険群をスクリーニングし、精密検査を行えるようにしました。
図18 千葉市肺がん(COPD)検診におけるがん発見率
千葉市での肺がん検診受診者は約10万人であり、問診によりCOPD高危険とされ呼吸機能検査を行い、COPDと診断されたものは毎年100名前後と多くはありませんでしたが、 少ないながらCT検査で肺がんと診断されたCOPD患者が発見された。 またCOPDを肺がん検診に加えることにより医師会員の意識の向上と担当者の追跡調査を積極的に行うなどの努力の結果、肺がん発見率は約2倍に向上しています。
図19 胸部検診概要~集団検診~
集団健診を行った4市町の胸部検診概要を示します。 従来の胸部X線写真と喀痰細胞診検査を行います。 このモデル事業では問診票を修正して自覚症状や既往症からハイリスクを抽出して呼吸機能検査を実施します。 COPDハイリスクでない群には簡易肺機能検査である肺チェッカーによる年齢において実年齢との差が10歳以上を呼吸機能検査の適応として検査しました。 その、結果COPDと診断されたものには車載型低線量CT検査を実施します。 COPDでないものは経過観察とします。
図20 いすみ市におけるCOPDスクリーニング成績
全体で2168名(男性1017名、女性1151名)に肺機能検査を施行しました。 その結果、気流閉塞(1秒率70%未満)が302名(13.9%)のみとめられ、年齢の上昇とともに割合は増加し、60および70歳代ではそれぞれ13.2%および21.1%でした。 COPDは女性にも高率に認められ、ほとんどはI期、II期の軽症、中等症でした。
図21 いすみ市における肺がん検診成績
胸部X線検査では検診年度の肺がん発見率は人口10万対で53と平均的ですが、追跡して検査を行うと人口10万対で136と高率となりました。 またCOPDスクリーニング群では経年での肺がん発見率は0.78%と過去のCOPD患者における肺がん発生率約1%という報告と近い検出率でした。
図22 米国肺検診臨床試験(NLST)
米国で肺検診におけるCTの有効性を確認するための研究が行われました。 喫煙指数600以上の重喫煙者を対象に胸部X線写真と胸部CT検査の2群による無作為比較対象試験が行われ、33検査機関が参加しました。 その結果、CT群の肺がんによる死亡率が中間評価で20%低下しており、低線量ヘリカルCTの有意性が確認されたことが報告され、肺がん検診におけるCT検査の導入に大きな関心が寄せられています。
図23 Airflow limitation and histology shift in the National Lung Screening Trial The NLST-ACRIN Cohort Substudy
NLSTの研究ではCTスクリーニングが肺がんの死亡率を20%と有意に低下させることが胸部X線写真との比較研究で明らかにされたが、 単に生命予後に関連しない早期のがんも検出(overdiagnosis)している可能性が指摘されました。 YoungらはNLST参加機関の中で肺機能検査が施行された約半数について分析した結果、COPD患者群ではoverdiagnosisが少なく、 CTスクリーニングの利益ー不利益という観点からはNLST研究の中には2つの亜群が存在している可能性が示唆されたとしています。
図24 組織型と進行度 (Airflow limitation and histology shift in the National Lung Screening Trial The NLST-ACRIN Cohort Substudy)
組織型の比較検討では左の非COPD群では胸部X線に比べてCTで気管支肺胞上皮がん(BAC)が多く検出されています。 これに対して右のCOPD群ではBACの発見率は低く、進行度でもそれが反映されています。 非COPD群にはBACが多く検出されoverdiagnosisといえる。 COPD群にはoverdiagnosisは見られていない。 肺がんに対するCT検診においてはCOPDについて検討する必要性が示唆される成績と考えます。
図25 最新のCOPDの治療
COPDの治療は初期の場合では禁煙と吸入薬の治療を行います。 禁煙はニコチン補充のためのニコレットガムやパッチがあります。 また飲み薬のバレニクレン等もあります。 作動薬(アゴニスト)作用により、たばこに対する切望感、離脱症状が軽減され、拮抗薬(アンタゴニスト)作用により、喫煙によって得られる満足感が抑制される。 吸入薬も進歩し、β2刺激薬、抗コリン薬、吸入ステロイドなどにより、進行をとめることが出来るようになってきており、これら3種の混合吸入薬も開発されてきています。 また進行期でも吸入薬に在宅酸素療法、肺容量減少手術、気管支バルブ留置術等の新しい治療法も開発されてきています。 COPDは不治の病ではなく予防可能で、治療可能な病気であり、重症でも新しい治療法が開発され、QOLは著しく向上できる疾患となっています。
図26 放射線医学研究所重粒子線治療センター
近年における医工学分野の目覚しい進歩により、肺がんの診断治療も低侵襲で正確な手技となってきており、 千葉市放射線医学研究所の重粒子線治療は最新のがん放射線治療装置である重粒子線による治療が行われています。 重粒子線は放射線の1種でがん病巣をピンポイントで死滅できる最先端の治療法で、肺がんでは1回の照射で治療できる方法が開発されています。
図27 末梢型肺がん(腺がん) T2N0M0病期IB
末梢型肺腺がんに対して有効であり、1回の重粒子線治療によりがんは殆ど消失しました。 臨床的には比較的早期のI期例に対する重粒子線治療は5年生存率で約70%と飛躍的に良好となってきています。
図28 低侵襲手術~胸腔鏡補助下手術からロボット手術へ~
1980年代に胸腔鏡補助下に肺葉切除術が施行されるようになり現在通常手術として肺がんに対して行われ、 2010年代に入りロボット補助下の手術も行われるようになり、徐々に広がりつつありますロボット補助下の手術器具では関節機能もあり今後広く行われていくものと考えられます。
図29 肺がんが治る確率
肺がんは手術ができれば2人に1人以上は完治でき、早期に発見できれば90%近くは治すことができます。 重粒子線やレーザーで、手術をしないでもがんを治すことができる時代となってきています。 しかし、自覚症状で発見される肺がんは進行がんであり、手術できる確率は30~40%と低く、さらに手術不能の進行がんが50~60%も存在しているのが現実です。 検診により早期がんを発見でき、肺がんの治癒率向上には検診が不可欠です。
図30 職場禁煙に向けた経緯
当財団の施設における喫煙対策は平成18年5月,私が理事長就任に就任した時に始めました。 財団敷地内禁煙と職員採用試験では施設の状況や当財団の事業、すなわち県民の健康づくりと保持増進であることを説明し喫煙の有無を確認し採用を決定しました。 平成24年4月公益財団法人に移行し、人事評価制度を導入し、その中に禁煙ルール違反はマイナス評価とすることに決定しました。
平成29年4月には財団敷地内外を問わず休憩時間を含む勤務時間全てを禁煙とすることに決定するとともに、 職員採用試験についても非喫煙者を応募条件とすることに決定しホームページ上で公表しました。 従って平成29年以降はたばこを吸っている人は職員に応募してこなくなり、また採用試験の際には非喫煙者であることを確認しています。
図31 「求むたばこ吸わない人」 NG?
毎日新聞掲載記事です。 「“求むタバコを吸わない人 NG?” 千葉県で健診を行う公益財団法人ちば県民保健予防財団(千葉市美浜区)が9月、看護師などの求人票に「非喫煙者に限る」との条件を記載するよう求めたところ、 ハローワーク千葉(同区)から「タバコは個人の問題」として拒否されましたが、財団は「健康増進のためなのに残念」とする一方で、ハローワークは「個人の適性・能力のみで選考すべきだ」と反論しています。」
産業医大・大和教授は「喫煙者を雇えば、患者に受動喫煙被害を起こす可能性があり、関連産業ではむしろ採用を非喫煙者に限るのは必要条件だ。」と強調しています。 専門家としての意見であると考えます。
一方、愛煙家の経済アナリスト・森永卓郎氏は「出自などで差別するのがダメなのと同様、喫煙するから排除するのは差別」と言っていますが、 出自と喫煙を同じレベルで考える等、論理の基本が間違っているのではないかと思います。
厚生労働省就労支援室は「合理的な理由があれば一概に差別とは言えない」と説明しています。
この記事により「非喫煙者に限る」という応募資格について、SNS上では1千件以上の書き込みがあったが、財団の立場を支持する意見もおおく関心を高めることとなった。
図32 喫煙に対する意識調査
平成30年12月当財団は全役職員に喫煙に関する意識調査を実施し、313人が回答した。 現在喫煙しているが8人で、5人が事務系、3人が技術系であり、たばこの種類は一般的タバコ製品が5人、加熱式たばこが3人でした。 技術系の3人及び事務系2人には、いずれするつもりや試みたことがあるなど禁煙する考えを表明しており、禁煙しました。 しかし事務系3人は禁煙する意思が少ないので禁煙に向かう対処法を変えることが必要であると思われました。
事務系3人のうち1人は心筋梗塞を発症し、最近禁煙しました。 残りの2人のうち1人は自己都合で退職し、最後の1人は直接面談し、喫煙による健康被害の重大性と財団の運営面で極めて重要な役割を果たしていることから禁煙を強く勧め、そして禁煙してくれました。 現在当財団では喫煙者はゼロです。 喫煙習慣による疾病で職員を失うことは組織にとっても大きな痛手であること,即ち組織の危機管理の面からも喫煙対策は喫緊の課題であると考えています。
図33 令和2年4月就業規則規定
通告しました。 同時に禁煙外来補助を5000円することに決定し、千葉県医業健康保険組合の被保険者は禁煙治療費1万円が禁煙に成功した場合補助されるが、財団が補助する5000円は禁煙に失敗しても補助することにしました。
令和2年4月には「勤務時間及び休憩時間は財団敷地内外を問わず喫煙(加熱式たばこ及び電子たばこ等これらに類似するたばこを含む)しないこと」を就業規則に追加しました。 顧問弁護士は喫煙の幸福追求権などが問われるが、喫煙の自由があらゆるところで保障されなければならないことではなく、 財団の事業場での規律保持の観点においても一定の合理性があるので問題ないとのことでありましたが、違反者がでた場合の罰則については慎重に進めるようサジェスチョンされました。
受動喫煙防止を完全に達成するためには喫煙者ゼロの職場を達成することが不可欠です。 千葉市では2020年4月受動喫煙防止条例が制定されましたが、これはたばこゼロ社会へ向かう1つの過程であると考えています。 そしてたばこゼロ社会の基礎として、喫煙者ゼロの職場を達成するとともに加熱式たばこを含む喫煙の健康被害を常に新しい科学的データに基づいて普及啓発していかなければならないものと考えています。 就業規則に規定し、違反者に対しては罰則規定に基づいた対応をしていくことを職員に徹底していく必要があり、たばこ問題は単に健康被害を超えて職場の働き方に対する規律の徹底の観点からも重要であると考ええています。
(本発表内容は2019年2月日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会大会長講演、2019年5月世界禁煙デー特別講演および2019年9月日本タバコフリー学会学術大会シンポジュームで発表したものを中心に纏めたものです。)
1967年千葉大学医学部卒業
1972年千葉大学医学研究科外科学博士課程修了
1974~1977年米国カリフォルニア州City of Hope National Medical Center留学
1997年千葉大学医学部呼吸器外科教授
2003年千葉大学病院長・国立大学病院長会議常置委員長
2005年千葉大学理事・副学長
2005年アジア太平洋気管支学会設立・理事長
2006年ちば県民保健予防財団理事長
2008年千葉大学名誉教授
2008年千葉県医療審議会委員
2008年千葉県がん対策審議会委員 千葉県がん対策審議会予防・早期発見部会長 千葉県がん対策審議会がん登録部会委員
2008年千葉県地域・職域連携推進委員会会長
2016年千葉県医師会受動喫煙防止委員会委員長
2017年予防医学事業推進全国大会主催
2018年がん征圧全国大会主催
2019年2月日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会大会長