市民のためのがん治療の会
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『想像以上の倦怠感にまさかコロナ? 実は尿路感染症で女医が気を付けたいと思ったことは?』


ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本 佳奈
COVID-19感染拡大に伴い、Stay at home、在宅勤務などの新しい生活様式が普及し始めております。 ただ急激な新しい生活様式への移行はまた、運動量や食生活などの変化をもたらし健康上の問題も惹起しております。 その一つに尿路感染症があります。 これは尿路に細菌が入り増殖する疾患ですが、長時間座り同じ姿勢を続けることにより代謝の低下や血行不良となり、免疫力が低下し細菌に対する抵抗力が低下し排除する能力が低下するためと考えられます。 またエアコンの効いた室内で長時間過ごすと骨盤中の血行が悪くなり、膀胱、尿路に細菌感染がおこりやすくなるなどが考えられます。 さらに何かとストレスも発生し、これも免疫力を低下させます。
尿路感染は早期に治療すれば尿路に限局して治療できますが、悪化すると腎臓が侵され、最悪、命にかかわることになりかねません。
そこでナビタスクリニックの山本佳奈先生が医療ガバナンス学会発行のメールマガジンに尿路感染症についてご寄稿されましたので、ご厚意で転載させていただきました。
この原稿は2020年7月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行メールマガジン (http://medg.jp) に掲載されたもので、 原資料はAERA dot. (4月8日配信;https://dot.asahi.com/2020040700005.html?page=1) からMRICメールマガジンに転載されたものです。 転載ご許可に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

私ごとではありますが、先月の中旬のある日の日中に、急に眠気とだるさが全身を襲い、翌日には想像以上に全身の倦怠感が辛くなり、ベッドから起き上がれなくなるということがありました。

時節柄、やはり新型コロナウイルスの感染を心配しました。 ただ、咳といった呼吸器症状がないため、さすがに考えにくいと思っていましたが、念のため自宅で安静することにしました。 数日経っても新型コロナウイルスを強く疑う症状はなかったため、病院を受診したところ「軽い腎盂腎炎(じんうじんえん)ですね」と診断されました。

ある時、排尿後に「ツン」とした痛みがしばらく続くような感覚を急に自覚するようになり、そんな痛みと同時に、残尿感も残るようになりました。 以前から、疲れが溜まっている時には排尿時の痛みや残尿感を感じることは多々あったので、「今回も時間が経てば症状もいつの間にか改善するだろう」と軽く考えていたのですが、最初に「ツン」とした痛みを感じた1週間後くらいでしょうか。

高熱ではなく微熱程度であり、腰も何となく重い感じがするくらいでしたので、腎盂腎炎を疑ってはいませんでした。 しかし、診断がつき、排尿後に「ツン」とした痛みや残尿感を少し前から自覚していたものの放置してしまったこと、そして水分摂取が足りなかったことやトイレを我慢しがちであったことを反省したのでした。

腎臓や膀胱、尿管や尿道の炎症を「尿路感染症」と言います。 主な尿路感染症は、膀胱炎や腎盂腎炎、尿道炎であり、クリニックでしばしば遭遇する疾患です。 尿路感染症は、一般的に女性の方がなりやすいと言われています。 その理由は、男性に比べて尿道が短いこと、そして男性と比較すると尿道の入り口が肛門に近い位置にあることが挙げられます。 女性は男性よりも外から細菌が侵入しやすい構造なのです。

そこで今回は、女性に多い尿路感染症についてお話ししたいと思います。

何度も頻回にトイレに行きたくなる(頻尿)、おしっこをしてもまだおしっこが出そうな気がする(残尿感)、尿に血液が混じっている(血尿)、排尿時に痛みを感じる(排尿時痛)。 これらの症状を感じた経験はありませんか。これらは膀胱炎の典型的な症状です。

膀胱炎を治療しないで放置したり、細菌の感染が強かったりすると、細菌が逆行性に膀胱から尿管をつたって腎盂(腎臓で作られた尿を集めて尿管へ送る部分)にまで侵入し、腎臓全体に炎症を起こします。 これを、腎盂腎炎と言います。

腎盂腎炎に特徴的な症状は、38度を超える高熱、腰の痛み、膀胱炎様の症状(排尿痛、頻尿、残尿感)です。 悪寒や震え、嘔気や嘔吐といった消化器症状を認めることもあります。 背中を殴られたような痛みがある、脇腹が痛いという方もいらっしゃいます。 尿は濁ってみえます。腎盂腎炎の治療には1週間から2週間の抗菌薬の内服(または投与)、そして安静が大切です。

腎臓は、血液中に溜まった老廃物や体にとって毒となる物質を除去して余分な水分とともに尿を作り、体の外に排泄する働きを担っている臓器です。 血液をろ過する働きを担う腎臓に細菌が侵入すると、最悪の場合、全身に細菌が撒き散らされ(菌血症・敗血症)、重症化する可能性すらあるのです。

尿路感染症の原因となる細菌の多くは、大腸菌です。 大腸菌はその名の通り、小腸から大腸にかけて存在している腸内細菌の一つです。 腸内細菌は、ヒトと共存しており、私たちの体調や健康と密接に関連していますが、腸内ではない部分に侵入してしまった場合、炎症を引き起こしてしまうのです。

とはいえ、膀胱の中に多少の細菌が入り込んでしまっても、増える前に尿とともに排泄されてしまうので、炎症を起こす、つまり膀胱炎にはなりません。 膀胱炎を発症しても、軽症であれば自然治癒することが多いです。

症状が続く場合や症状を強く自覚する場合は、我慢せずに病院を受診しましょう。 尿検査を行い、膀胱炎と診断されれば、抗菌薬が処方されます。

膀胱炎を引き起こす要因としては、体調不良や免疫の低下、水分摂取の不足、トイレを我慢する、性行為などがあげられます。

マイアミ大学のHooton氏らは、1.5 リットル/日未満の水分をあまり摂取しない女性が1日に飲む水の量を1.5 リットルに増やしたところ膀胱炎の再発が減ったと報告しています。 具体的には、1年間の膀胱炎の平均発生数は飲水量を増やした群では1.7回、増やさなかった群では3.2回であって、飲水量を増やした群では膀胱炎に対する抗菌剤の使用も減ったとのことでした。

ですから、水分を十分に摂取することはもちろん、疲れているときは休む、トイレを我慢しすぎない、陰部を清潔に保つことといった日常生活での心がけが、膀胱炎を予防する上で大切です。

女性にとっては身近な疾患といっても過言ではない尿路感染症。日常生活で出来る予防を是非とも心がけてくださいね。


山本 佳奈(やまもと かな)

1989年生まれ。滋賀県出身。医師。 2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。 ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
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