市民のためのがん治療の会
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『再注目される"ハイパーサーミア"』


産業医科大学病院放射線治療科
准教授 大栗 隆行

2014年に本ホームページ ”がん治療の今”におきましてNo. 191『がんの温熱療法(ハイパーサーミア)』と題して、ハイパーサーミアを紹介いたしました。 今回、再度ハイパーサーミアに関する最近の話題に関しお話させて頂きます。 

ハイパーサーミアは、放射線治療の治療効果を高める目的で開発され1990年代に保険収載され、多くのがん治療施設に導入されました。 しかしながら、その後の2000年代に様々ながん種で抗がん剤を同時併用する化学放射線療法の有効性が示されました。 そのためハイパーサーミアを放射線治療効果の改善を目的として使用することが減り、ハイパーサーミアの実施を中止した施設も少なくありませんでした。 また、同時期に放射線治療に大きな技術革新がおき、強度変調放射線治療(IMRT)、定位照射や粒子線治療等が発展したため、放射線治療医のハイパーサーミアへの関心も低下しました。 いわば、ハイパーサーミアは“置き去り”にされた治療となりました。

オランダ、ドイツや日本の一部の施設では、ハイパーサーミアの臨床研究が継続されてきました。 腫瘍の温度上昇が得やすく放射線治療効果の改善の得られやすい浅在性の腫瘍である乳癌や頭頚部癌に加え、加温装置や加温法の改良により深在性の腫瘍でも治療効果の改善が示されてきています。 子宮頸癌や直腸癌では、複数のランダム化比較試験でハイパーサーミアの併用メリットが報告されています。 本邦でも局所進行性の子宮頸癌に対して化学放射線療法にハイパーサーミアを併用することで腫瘍消失率の改善が得られることが多施設で実施されたランダム化比較試験の結果として2016年に報告されました。

このような結果から、ここ数年、現在の標準的治療である化学放射線療法や高精度放射線治療(IMRT, 粒子線治療など)の治療効果を更に高めるための手段としてハイパーサーミアが再度注目されています。 大学病院やがんセンター等のがん拠点病院において、ハイパーサーミア装置の新規導入や新型加温装置への更新が続いています。

日本ハイパーサーミア学会では、より適正なハイパーサーミアの普及のために”ハイパーサーミア ガイドライン” の作成を行っています。 本邦では30年に及ぶ臨床実績があります。その間に多くの臨床試験が実施されています。 ハイパーサーミアを放射線治療や化学療法と併用して用いることで、どのようなメリットが得られるのかを科学的根拠に基づき評価し、各がん種別の推奨度を設定しています。

ハイパーサーミアを併用する頻度の高い膵癌に関しては、欧州で化学放射線療法にハイパーサーミアを追加する有効性を検証するランダム化比較試験が進行中です。 2019年版の日本膵臓学会の膵癌診療ガイドラインでは、ハイパーサーミアに関するコラムが掲載されています。 今後、ハイパーサーミアの知見の普及のために、他のがん種別の診療ガイドラインにおいても、科学的な評価がなされ記載が加わるように取り組んでいきたいと思います。 特に放射線治療とハイパーサーミアの併用に関するエビデンスレベルの高い報告が多くなされている乳癌、子宮頸癌や直腸癌に関しては記載が望まれます。


温熱療法(ハイパーサーミア)の加温装置

うつ伏せまたは仰向けになり、写真中央のパッドで病変部位の皮膚表面を挟み込み、高周波電流を流し加温します。


<編集補足>

治療可能な医療施設、日本ハイパーサーミア学会HPの「一般社団法人日本ハイパーサーミア学会 認定施設」をご参考になさってください。

https://www.jsho.jp/index.php?option=com_content&view=category&layout=blog&id=31&Itemid=157

大栗 隆行(おおぐり たかゆき)

平成9年、産業医科大学医学部を卒業。 産業医科大学病院 放射線科入局、新日鉄八幡記念病院放射線科、産業医科大学大学院 第一病理学を経て、 平成28年1月 オランダ エラスムス大学 放射線腫瘍学 ハイパーサーミア部門、 平成29年7月より産業医科大学病院 放射線治療科 准教授、現在に至る。 専門 放射線腫瘍学 特に温熱療法。
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