市民のためのがん治療の会
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『冬の脱水予防 夏だけでなく今こそ水分補給が大切な3つの要因』


ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本 佳奈
老化というものはこういうものかと自覚しつつ今日もお陰様で何とか生活をしている。
私は特にアンチエイジングなどということはやっていないが、年をとってからは水分をとる、深呼吸をする、声を出す、軽い運動をする、うがいをして口腔清浄に努める、多少は頭を使うなどを心がけている。 就中水分をとることは大事で、意識的に行わないとだめだと思う。
そのようなことを考えていたら以前からお世話になっている山本佳奈先生が恰好のご寄稿をされたので、早速転載をお願いしてお許しをいただいた。 是非ご参考にされるよう希望します。
この原稿は2021年3月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行メールマガジン (http://medg.jp) に掲載されたもので、 原資料はAERA dot.(2020年12月16日配信; https://dot.asahi.com/2020040700005.html?page=1)からMRICメールマガジンに転載されたものである。 転載ご許可に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

寒さが一段と厳しくなってきましたね。夏に比べると汗をあまりかかない冬ですが、実は季節に関係なく身体からは水分が自然と失われています。 そのため、水分の摂取量が減りがちな冬も、脱水を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

そこで、今回は、冬でも注意が必要な脱水についてお話ししたいと思います。

冬に引き起こされる脱水には、主に3つの要因が挙げられます。

まず1つ目は、空気の乾燥です。 冬は湿度が低くなりますが、そもそも湿度とは空気中に含まれる水蒸気の量のことです。 温度が高いと空気中に含まれる水蒸気量は増え、温度が低くなると含む水蒸気量は減少するため、気温の低くなる冬は空気中に含まれる水蒸気量が減り、乾燥してしまうというわけです。 それに加え、近年の住宅は気密性が高いために湿度が上がらず、暖房器具の使用によって室内は乾燥しがちです。

このような環境下では、皮膚や粘膜、はく息などから自然と水分が失われてしまいます。 これを、不感蒸泄と言います。 不感蒸泄は、1日あたり約900ミリリットルと言われていますが、気温が低く、湿度が低くなるほど、失われる水分量が多くなることが報告されています。 冬は、私たちが気付かないうちに体内からどんどん水分が失われてしまっているというわけです。

2つ目は、飲水量の不足です。 夏と比較して喉の渇きを感じにくく、また汗をかいている実感がないのに加え、身体を冷やしたくない、夜間トイレに行くのが嫌だといった理由から、水分の摂取をどうしても控えてしまいがちです。

3つ目は、感染性胃腸炎によって引き起こされる嘔吐や下痢といった症状です。 嘔吐や下痢によって、それらに含まれる水分に加え、ナトリウム、ミネラルといった電解質も失われてしまいます。 そのため、普段よりも脱水症に陥るリスクが高まってしまいます。 インフルエンザを含む風邪によって高熱が出た際にも、体温を調節するために汗をたくさんかくため、水分が失われがちです。

冬に多いノロウイルスやロタウイルスといった感染性胃腸炎の際は、水分を補給し、脱水を防ぐことが大切です。 嘔吐や下痢のほか、汗をかくことで、水分だけでなく、電解質も失われています。 水だけを飲むのではなく、電解質を含む飲料によって水分補給をすることがとても大切です。

最後に、冬といえばこたつ、ですよね。 こたつの中で寝ないようにすることも、大切な脱水予防のひとつです。 こたつの中は、人間の体温よりも高い温度に設定されています。 そのため、こたつの中に入っている体の部分はどんどん熱くなっていってしまいます。 私たちの身体は、体温を下げようと汗をかくのですが、こたつのよって引き続き温められ続けてしまうため、さらに汗をかくことによって、体温を下げようとします。 ただし、こたつに入りながら寝てしまっては、体内の水分が不足しているという体の変化に気づかず、体内は水分不足に陥るというわけなのです。

余談ですが、脱水状態になると血液が濃縮されるため、血栓ができやすくなってしまいます。 血栓によって血管が詰まると、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気を発症することにも繋がります。 また、こたつの中は狭いため、ベッドとは違い十分な寝返りを打つことができません。 そのため、同じ姿勢を長く続けることになり、腰や肩などの筋肉や関節への負担となり、腰痛や肩こりも引き起こしてしまうことにもつながってしまいます。

電気毛布や電気カーペットの使用にも注意が必要です。 体全体が温まるため、寝ている時に使用すると体温調節ができなくなり、こたつと同様に脱水を招く恐れがあるだけでなく、低温やけどを起こす危険性もあるのです。

それに、乾燥を防ぐことは、風邪対策にも繋がります。 喉や鼻などの粘膜が乾燥すると、粘膜のバリア機能が弱くなり、免疫が働きにくくなってしまいます。 そうすると、のどや鼻の粘膜からウイルスが侵入し、風邪を引き起こしやすくなってしまうからです。

脱水の予防には、夏だけでなく、冬でもこまめな水分補給が大切です。 脱水は夏しか起きないと思っていませんでしたか? 寒さが一段と厳しくなってきた今、是非こまめな水分補給を心がけてくださいね。


山本 佳奈(やまもと かな)

1989年生まれ。滋賀県出身。医師。 2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。 ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
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