市民のためのがん治療の会
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『NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」ラボからトリチウムの測定報告』


認定NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」事務局長  鈴木 薫
2011年3月に発生した福島原発事故後、政府・行政はまともに国民の被曝線量を測定せず、従来の規制値を後出しジャンケン手法で緩和し、棄民政策を続けている。 そして事故当日発出された原子力緊急事態宣言はなおつづいている。 民間の放射線測定を行っているほとんどの施設はガンマー線の測定だけであった。 そこで「たらちね」では深刻な健康被害につながる内部被曝も考慮してSr-90やトリチウムからのベータ線の測定を行う準備を進め、最近では測定業務も軌道に乗り精度の高い測定が可能となったってきた。 そこで、鈴木薫氏にお願いして、ベータ線測定の現状を報告して頂いた。 2022年夏をめどにトリチウムを含んだ汚染水を海洋放出しようとしているが、国による緩慢な殺人行為を考える基礎的対比資料として頂ければと思う。
「市民のためのがん治療の会」顧問 西尾正道

NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」は、東日本大震災による福島第一原発の事故を受けて2011年11月に開所しました。 開所当時はセシウムの測定だけを行なっていましたが、2014年にベータ線のみ発するストロンチウム90とトリチウムの測定を始めました。

「たらちね」の活動は、市民自らが測定したデータを元に子どもたちの健康を守り、自分たちの進む未来を考える、その意志に賛同した多くの専門家の協力により支えられています。

ベータ線の測定は、工学博士で原子力研究開発機構の元研究員である天野光氏にご指導いただきました。

2015年9月から福島第一原発沖1.5km地点での定点海洋調査を開始し、2021年8月の調査で25回目となります。

海洋調査を始めたきっかけは、原発事故直後から話題になっていた汚染水の問題があったからです。 地下から海にダダ漏れている汚染水、デブリの冷却水や原発敷地内で汲み上げられタンクに保管されている地下水など、いつか汚染水が海洋に放出されるかもしれないことが心配だったからです。

汚染水が流れ出して、海洋汚染の濃度が高くならないうちに、基礎となるデータをとっておきたいと考えました。 汚染水の海洋放出が始まってしまったら、それ以前のデータは取れなくなってしまうし、このようなとんでもない事故を起こした私たちの世代が、子どもたちに残せる科学的なものとして、この測定は重要だと考えました。

これは、海がどのぐらい汚れてしまったか?を知るためのデータであり、場合によっては汚染水の放出を止めるデータになるかもしれません。

2015年当時、トリチウムという核種は一般に広く知られておらず、私たちは西尾正道先生に教えてもらい、その危険性について知りました。

セシウムはカリウム(K)と、ストロンチウム(Sr)はカルシウム(Ca)と同様な体内動態で放射線を出すだけですが、 トリチウムは人体の全ての物質の化学構造式に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウムとなり、放射線を出すだけでなく、ベータ崩壊してヘリウム(He)に変わります。 壊変により、水素結合で結びついている遺伝子の二重螺旋構造も壊れてしまい、化学構造式まで変えてしまう唯一の放射性物質なのです。

このように、学びを深めていく過程で、カナダ・オンタリオ州のピッカリング原発近隣の子どもたちの小児がんの報告を知りました。 https://cnic.jp/files/20140121_Kagaku_201305_Kamisawa.pdf

ピッカリング原発は、CANDU炉(重水原子炉)8基が稼働しています。 トリチウムの発生が多い原子炉です。 「たらちね」では、この近隣にお住まいの方とご縁があり、2018年に一般の家庭の水道水を提供してもらいトリチウムを測定した結果、値は3.75Bq/Lでした。 その後、2021年7月と8月に福島県内の水道水のトリチウムを測定してみました。 結果は、南会津郡只見町:0.41Bq/L、いわき市遠野町:0.24Bq/L でした。 オンタリオ州の水道水のトリチウム値は福島県の水道水の10倍程度だということがわかりました。 この水道水を生活水として使うことが子どもたちの病気の発症に関係があるかもしれないと感じました。

※「たらちね」の測定結果はホームページで公開しています。 https://tarachineiwaki.org/radiation/result
https://tarachineiwaki.org/wpcms/wp-content/uploads/sokutei_kekka_202107_v3.pdf
https://tarachineiwaki.org/wpcms/wp-content/uploads/sokutei_kekka_202108.pdf

1960年代の大気圏内核実験以前の環境中のトリチム濃度は0.1Bq/L~0.5Bq/L程度といわれています。 https://atomica.jaea.go.jp/data/pict/09/09010308/02.gif

「たらちね」の測定結果から、福島県内の水道水のトリチウムの濃度もその範囲の値であることがわかりました。 今後、何らかの理由で値が上がった場合、この測定結果を元に値の変動を知ることができます。

「たらちね」では、2020年末に全国の人々の支援を受けて、トリチウムを濃縮し測定するための電解濃縮装置を導入しました。 機器はとても高価で価格は500万円です。 「たらちね」では、この機器の導入により、トリチウムの検出下限値を下げることに成功しました。 濃縮以前の検出下限値は2Bq/L程度でしたが、現在は0.1Bq/L程度です。

海水、河川水、水道水などトリチウムを含む水試料は最初に濾過し、還流蒸留で余計な有機物などを取り除き、電解濃縮装置にかけてトリチウムを濃縮します。

電解濃縮の仕組みは、水の中の酸素(O)と水素(H)を電解して揮発させ、トリチウム(3H)を水の形で装置内に溜めて捕集します。 そのトリチウム水をチェレンコフ光の発光を促進させるカクテル剤と混ぜて液体シンチレーションカウンターで測定します。 測定結果は、トリチウムを濃縮した濃度計算やバックグラウンド(環境中の放射能)を差引く補正計算をして試料1L中にどのぐらいのトリチウムが含まれているかを算出します。

これまでは、測定してもND(不検出・検出下限値以下)としか示せなかった測定結果が、濃縮することにより数値とし可視化できるようになったのは大きな成果です。 福島県内の水道水中のトリチウムを検出できたのも、電解濃縮装置を使用したからです。 人々の思いが、市民の測定を一歩前進させました。

「たらちね」の海洋調査は、開始以来25回目となりますが、23回目の測定結果から電解濃縮装置を使用した測定結果を出すことができました。 https://tarachineiwaki.org/radiation/result#kaiyou

今のところ、海水の測定でトリチウムが大きく検出されることはありません。

ほとんどが検出下限値以下(検出下限値0.1Bq/L程度)です。

「たらちね」の測定結果から、現状では「海水よりも陸水の方がトリチウムの値は高い」という説は間違いではないことがわかりました。 福島第一原発事故の後、国や東電が発表する核種の対比割合は、測ってみると実際は違うこともありました。 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-08-01-08.html

例えば、セシウム134・137とストロンチウム90の割合は測定する試料の性質により違ってきます。 カルシウムの多い植物は土壌中からストロンチウム90を取り込みやすく、国が示す割合と違うので、自分たちで測定して初めて知ることも多くあります。

今後、福島第一原発から汚染水が放出された場合、これらの測定結果がどうなっていくのか、コツコツと測定していきたいと思っています。

東電は、福島第一原発の敷地・陸から1kmのところまで、海底を這うようにトンネルをつくり、海に汚染水を流すと発表しています。 それに伴い、自社でのモニタリング測定も回数や定点数を増やしていくとしています。

しかし、広い海で行われる東電のサンプリングや測定が正しいものかどうか、市民が確かめる術はなく、これまでの経緯から、東電のやることが本当に信用できるのか?という疑問があります。 数えきれないほどの隠蔽、「わからなければ報告しない」体質を信頼できない中、汚染水の海洋放出が実行されることは、堪え難く恐ろしいことです。

また、これからも延々と続く人間の歴史の中で、 「事故を起こした原発が海に汚染水を流す」ことは、特別な出来事だと思います。未来の人々からは「あの時代の人たちは、なんて事をしてくれたんだ。」 と非難されるような出来事だと思います。

放出しない方法があるのに放出の判断をする国、そしてその方針に従い実行する東電の、どうしようもないダメな両者の関係を、市民である私たちが解体することは、残念ながらできません。

しかし、海を守り、子どもたちの未来を守るために、私たちの測定活動がきっと役に立つ時があることを信じて、これからも励み尽くしていきたいと思っています。

なおトリチウムの人体影響については西尾正道先生の本ホームページ上の掲載原稿を参考としてください。
No.380 20181211 『トリチウムの健康被害について』
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20181211_nishio

海水をタンクに採取し、測定室へ搬入

いわき放射能市民測定室「たらちね」ラボの測定風景

〜放射能測定の受付〜

「たらちね」では、家庭の水道水や近隣の河川水、海水の放射能測定を受付けております。
測定料金は、全国のご支援でまかなわれているため自己負担はございません。お申込みをお待ちしています。
(民間の分析機関の放射能測定料金の参考目安は1試料あたり、トリチウム自由水・8万円、トリチウム組織結合水・12万円、ストロンチム90・16万円、セシウム134/137・2万円です。)
【放射能測定の申込み・お問合せ】

電話:0246-92-2526
Eメール:toiawase@tarachineiwaki.org
測定試料送付先:〒971-8162
福島県いわき市小名浜花畑町11番地の3カネマンビル3F
認定NPO法人いわき放射能市民測定室たらちね 宛

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鈴木 薫(すずき かおり)

福島県いわき市小名浜生まれ・在住/ 認定NPO法人いわき放射能市民測定室たらちね 事務局長
2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故を受けて市内の有志や母親たちと一緒に「いわき放射能市民測定室たらちね」を開設した。 測定経験のない母親たちが、子どもや家族を守るため始めた活動は今も続けている。
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