市民のためのがん治療の会
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『なぜ男子もHPVワクチン(子宮頚がんワクチン)を接種した方がいいのか
~男性でもHPVワクチンを定期接種化するよう求める署名を厚労省に提出した若者たち~』


医療ガバナンス研究所
理事長 上 昌広
本稿は、昨今の状況に鑑み重要と考え、上先生のご許可を得て転載させていただきました。 なお、本稿の初出は3/14(火) 日刊ゲンダイDIGITALの配信です。 ご厚意に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

「息子が医学部に合格しました」と患者から言われた。 私はお祝いを述べ、医学生の心構えを語った後、「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを打っておいた方がいいですよ」と付け加えた。 なぜ、男子に勧めるのか。本稿でご紹介したい。

HPVワクチンの別名は子宮頚がんワクチン。 日本では、小学6年~高校1年の女子を対象に、3回の公的接種が実施されている。 HPVは性行為を通じて感染し、子宮頚がんを引き起こす。 性交渉を経験する前に接種することで、子宮頚がんを80%以上減らすことが英国や北欧から報告されている。

HPVが引き起こす悪性腫瘍は子宮頚がんだけではない。 膣がんの70%、陰茎がんの50%、肛門がんの80%の発症に関与していることが知られている。 さらに、咽頭がんの25~60%にも関与する。 オーラルセックスによりHPVが咽頭粘膜に感染するためだ。

咽頭がんは、もっぱら男性におこる。 坂本龍一さん、村野武範さんらの著名人も罹患した。 男性に多い理由のひとつは、男性の方がHPVに感染しやすいからだ。 2012年2月、米オハイオ州立大学の研究チームが、「米国医師会誌(JAMA)」に発表した研究によれば、口腔粘膜のHPV感染率は女性が3.6%であるのに対し、男性は10.1%だ。

では、HPVワクチンは男性にも効くのか。 どうやら有効そうだ。 2017年6月、米ウォマック・アーミー・メディカル・センターの研究チームが、「米医師会誌腫瘍版」に発表した研究によれば、 ワクチンを打った男性では、陰茎のHPV感染が75%減少していたという。

予防するのは、HPVの感染だけではない。 2011年11月には、男性同性愛者における肛門の前がん病変を半減させたという臨床研究が、米「ニューイングランド医学誌」に報告されている。 現在、他のがんに対する研究も進んでいる。

世界は男子に対するHPVワクチン接種を推進している。 2011年10月、米疾病対策センター(CDC)は、男児への接種を推奨し、北欧や英国とともに定期接種の対象となっている。 青少年の接種も進み、2013~18年の間に18~26歳の男性の接種率は8%から27%と、女性(54%)の半分まで上昇した。

日本はどうか。 厚労省は2020年12月に、男児に対する4価のHPVワクチンの接種を承認した。 最新の9価ワクチンは未承認だが、咽頭がんを起こしやすいHPV-16型をカバーするため、大きな問題はない。

問題は法定接種の対象となっていないことだ。 費用は自己負担で、多くの医療機関で3回接種の費用は約5万円となる。 どうすればいいのか。 高額だが、5万円で息子をがんから守ることができるのだ。 大学入学時に接種することをお勧めしたい。


上 昌広(かみ まさひろ)

医療ガバナンス研究所理事長。 1993年東京大学医学部卒。 1999年同大学院修了。医学博士。 虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。 2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
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