『雑感2―汚染処理水の海洋放出は殺人行為 !』
市民のためのがん治療の会 顧問 西尾正道
はじめに
トリチウムを含む処理水を希釈して海洋放出がされようとしている。 放射性核種を含んだ汚染水をALPS装置で可能な限り少なくした処理水を海洋放出する方向で動いている。 処理水と言ってもトリチウム(3H)は分離できないとして、40倍に薄めて沖合1Km先から海洋放出するという。 いったい日本という国はとんでもない見識の無い人間により国民の健康を損なうことを平然とする国となっているようだ。 国民も正しい科学的知識をもとに考えることも無く、『今だけ・金だけ・自分だけ』で科学的知識ゼロの政治家や行政官に従うお人好しとなっている。 また内閣機密費から高額の寄付をもらっている大手メディアも戦時中の大本営発表のように政権の都合の良い内容だけを報じる国民洗脳機関化している。 DX法案が成立し、原発の稼働が続く日本で資料1に示す各界の関係で滅亡への道を歩んでいるのである。 全てお金で結びつき科学的知識も、人間としての見識も無い人達が強固に結びつき原子力政策を推進している。
2023年5月9日に本ホームページ上にNo.495『雑感-滅亡への道を歩む日本の現状』 (http://www.com-info.org/medical.php?ima_20230509_nishio)を掲載したが、 本稿では海洋放出に際してほとんど報道もされず、議論もされていないトリチウムの人体影響について論じたい。 またトリチウムの問題も以前にNo.380 20181211『トリチウムの健康被害について』 (http://www.co-info.org/medical.php?ima_20181211_nishio)を掲載しているので、その稿も参考として頂きたい。 また講演などで使用しているスライド図表を資料として使用することをお許しいただきたい。
1. ICRP理論の問題
放射線被曝による健康被害の本態は内部被曝によるものであるが、深刻であるため、原爆製造過程で、米国は内部被曝は軍事機密扱いとした。 そのため、内部被曝に関しては報じてはいけない機密となり、その延長上に健康被害が過少評価され続けている。 また原子力政策を推進するために都合の良い非科学的物語を作成し、その内容を幾つかの国際機関を創設して協力して原子力政策を推進している。 資料2にこうした原子力マフィアの構図を示す。
ICRPやIAEAは密接に連絡を取り合い、原子力政策を推進しているが、IAEAはWHOと1959年に密約を結んでいる。 この密約(WHA12―40)の内容は、被曝の健康被害に関しては勝手に公表せず、IAEAの了解を得るという密約である。 このため、WHOが放射線の健康への影響に関する使命を果たすことができない主な理由となっている。
また、ICRPの歴史をまとめたものを資料3に示すが、1946年にマンハツタン計画に関与した物理学者たちがNCRPを結成したが、 1950年にICRPを設立し、医学における健康被害よりも原子力利用を推進する立場で非科学的な健康被害に関する物語を作る組織となり、 2年後には内部被曝に関する委員会の審議を打ち切ったため、内部被曝に関する報告は無くなった。
こうした動きに対してカール・モーガンは著書の中で、原子力事業を保持することがICRPの目的であると記している。 更に福島事故後にNHKが2011年12月28日に報じた番組の要約を資料4に示すが、チャールズ・マインホールド氏の証言は健康被害に関しては、科学的な根拠はないが、ICRPが勝手に決めたと証言している。
こうした歴史的経緯を経て内部被曝は機密とされてきたのである。 このため、汚染水の海洋放出に関してIAEAからお墨付きを得たとしても、全く安全性が得られたわけではなく、ポーズだけなのである。 放射線の影響は付与されたエネルギー分布によるが、例えて言えば、外部被曝とは、薪ストーブに近づき暖を取ることであり、内部被曝とは薪ストーブの中で燃えている小紛を口に入れることである。 どちらが危険かは動物でもわかるが、ICRPの嘘で書かれた教科書を読んでいる医師も技師も物理学者も騙されているのである。 また人体影響を評価する指標として実効線量(Sv)という単位も極めてインチキである。 放射線は被曝した細胞や部位しか影響がないのに全く被曝していない部位も含めて全身化換算して議論しているのである。 目薬は2~3滴でも眼に滴下するから効果があるのであるが、その目薬を口から投与して目薬の量を全身化換算しているようなものである。 更に被曝の影響は被曝した部位や範囲だけでなく時間的因子も関与するが、全く検討されていないのである。 お酒一升を一晩で飲むか、1年で飲むかでは全く影響は異なるのである。 単位の問題に関しては資料5に示す。
こうしたインチキ理論の中で、トリチウムはエネルギーが低いので、1Bqという物理量をSvに換算する換算係数は極めて小さく操作し、安全だと宣伝しているのである。 全く根拠は無いが、トリチウムの換算係数は1Bq=0.000000013μSvとして計算し、他の放射性物質と比べて影響は小さいとしている (Cs-137の約300分の1)。 トリチウム1Bqを実効線量(Sv)に計算する換算係数は全く根拠も実証性もない。 しかし、1Bq当たり0.000000019mSvとして計算し、他の放射性物質と比べて影響は小さいとしている。 内部被曝線量を計算する預託実効線量係数の数値は全く根拠のないものであり、限局した小範囲しか被曝しない内部被曝の影響を全身影響の単位であるSvで評価することは不可能なのである。
2. トリチウムの健康被害
トリチウムは基本的には水素として体内動態として動き、β線を出しているが、政府や有識者とされる人達は、トリチウムは自然界にもあり、エネルギーが低いとして安全安心神話を振り撒いている。 更に核ゴミを処分する企業であるNUMOの河田東海夫という人間は私個人をNET上で「トリチウム内部被ばくの恐怖を煽る西尾氏の欺瞞と非倫理性」と題して個人攻撃をしているが、 その内容は科学的・医学的根拠は全く書いておらず、誹謗・中傷そのものである。 河田東海夫の人間性を疑うようものであるが、金儲けの邪魔をするなということなのであろうが、逆に最も核心を突いた意見を言っているので、個人攻撃しているのであろう。 資料7がその内容である。
しかし、資料8にトリウウムの関する事実とデータを示し、逐次真実を述べる。
こうしたインチキな説明に対して、トリチウムに関する基礎的なことを資料9、資料10に示す。
水素と酸素は5.7eVで結合し水(H2O)となっているが、トリチウムは平均エネルギーでも千倍のエネルギーである。 また原発稼働により、自然界にあったトリチウムの2~3千倍のトリチウムを環境中に放出しているのである。 また飛程は約10μmであり、ほぼ細胞一個分である。 しかし、深刻なのは体内では通常の水素として動くので、トリチウム水の場合は10日前後で代謝されるが、有機結合型トリチウムとなったものは人体の全ての生成物の化学構造式の中に水素として取り込まれることである。 資料11にトリチウムの代謝仮説と有機結合トリチウムの具体的な体内の存在形態を示す。
また資料12にカナダからの報告書の要旨を示すが、カナダの原子炉は稼働後、地域住民の健康被害が出て、住民が告発したため、 調査した結果、トリチウムが関係していたことが判明したため、規制値も20Bq/L という超低い排出基準値としている。 日本は50年前に稼働した福島原発が年間20兆Bqのトリチウムを出していたので、全く動物実験などの調査もしないで、1割増しの年間22兆Bqを放出の基準としたので、 それが1L当たりに換算すれば6万Bq/L というとんでもない基準となっているのである。 資料12にイアン・フェアリー氏の論文の要旨を示す。
さらにトリチウムは食物連鎖の過程で、濃縮し、更に生物濃縮したものが人間の体内に摂取されるのである。その経過を資料13に示す。
トリチウム元素は⽔素と同じ性質を持ち、通常は気体かトリチウム⽔(HTO)として存在し、1 gの気体トリチウム(HT)は360 兆Bq、1 gのトリチウム⽔(HTO)は55 兆Bqを含んでいるのである。 このため、世界中の原発施設周辺で事故が起きなくても、健康被害が報告されているのは、トリチウムが関係していると考えられる。 資料14にドイツの原子力発電所周辺の癌と白血病の調査(KiKK 調査)を行ったセバスチャンの報告を示す。 トリチウム元素は⽔素と同じ性質を持ち、通常は気体かトリチウム⽔(HTO)として存在。
こうした原発施設周辺での発癌の増加は日本でも見られているが、資料15と資料16に本邦のデータを示す。
またトリチウムは発がんだけではなく、色々な健康被害にも関与している可能性が示唆されている。 資料17はカナダのデータであるが、トリチウムを大量に出すCANDU原子炉(重水炉)が稼働後、住民が新生児死亡の増加や白血病の増加を実感し問題となった。 調査の結果、トリチウムが関与していることが判明したため、前述したが、カナダのトリチウムの排出基準は20Bq/Lと極めて少ない基準としている(資料18)。 トリチウムの規制値は日本は6万Bq/L、カナダは20Bq/L なのである。
また、脂肪組織の化学構造式に取り込まれたトリチウムは長く留まるので、脂肪組織の多い乳房や脳組織に影響を与える可能性が強いが、実際に米国の原発立地地域で乳癌の罹患率が増加していた。 資料19にその報告を示す。
また、脳組織も脂肪成分が多い臓器であるが、脳科学者の黒田洋一郎氏は農薬と発達障害の関係を著した終活の本を2014年に出版したが、2020年にトリチウムの脳への影響について追加し改訂版を出している。 その記載の一部を資料20に示す。
放射線の影響は核種毎に異なるが、核種の体内動態が大きく関与していることはよく知られている。 Srであれば、Caと類似し、CsであればKと同様な体内動態を辿る。 そのため、CaやKが関与した病態に影響を与えるが、トリチウムは体内動態が水素として動くだけでなく、体内の物質の化学構造式の中に水素として取り込まれるため、化学構造式まで変える唯一の放射性物質なのである。 このため、細胞内でDNAを構成している塩基の化学構造式に入り、β線を出すだけではなく、Heに変わり、化学構造式まで変えてしまうのである。 結果として遺伝子編集をしているようなものとなる。 資料21にDNAを構成している塩基の一つであるアデニンの化学構造式の変化を例に示す。 DNAを構成している塩基の化学構造式まで変え、Heに変われば、水素結合力で結びついている二重螺旋構造の結合力も脆弱となる。
1980年代~1990年代に北海道の苫小牧市で核融合炉の実験炉を建設する案が検討されたが、 トリチウムを大量に排出することから、ノーベル賞を受賞した小柴晶俊氏はトリチウムの危険性について警告し、当時の小泉純一郎首相に核融合は止めるように嘆願書を提出していた(資料22)。
3. 最後に
トリチウムは分離できないと言って海洋放出しようとしているが、実際には事故後数年後にロシアの会社が分離技術を開発し日本は落札したが、 当時の世耕経産大臣が、採用を却下したと言われている技術は資料23である。
水とトリチウム水は沸点が異なり、トリチウム水は1.5℃高いので、通常の水は沸騰させたのち水に戻し、沸点の高いトリチウム水は残るので、それをガラス固化などして地上で保管管理すればよいのである。 体積は1/6千となると言われている。福島第2原発は廃炉が決まっており、保管するための十分な敷地はある。 また事故を起こした原発の廃炉も計画されているが、デブリを取り出すためのロボット開発のメドは全く立っていない。 コンピューター制御でロボットを動かそうとしても、高線量の環境下ではコンピューターを制御するCPUが壊れるため、人手で取り出すためには数百年後の話なのである。 いつまでも出続ける地下水対策も不十分で、この先ほぼ永遠に海洋放出することは緩慢な殺人行為となることを自覚すべきである。 科学的知識ゼロで、金絡みだけで動く政治家や行政官や企業人は人間としての見識を持ってもらいたいものである。 日本の国土面積は世界の陸地面積の0.2%に過ぎないが、地震は世界の20%であり、国土の狭い地震大国では原発は最も不適な発電手段である。 原子炉建屋は配管の森のような建造物であり、配管の破損だけで大事故につながるし、軍事費を倍増しても原発建屋にミサイル一発撃ち込まれれば、戦争どころではなくなるのであるが、全くこんな危険性も議論されることはない。 また自然界に存在する放射性物質を原発稼働により10億倍の放射性物質を作り出すこととなるが、これは見識のある人間がすることではない。 人生で失って最も後悔するのは健康である。 トリチウム以外の放射性核種はALPSでできるだけ除去して放出するとしてもゼロではない。 ヨウ素-129(I-129)などは半減期1570万年であり、昆布やワカメなどに取り込まれ、それを食する人間は甲状腺癌が多発することとなる。 海洋放出が目前に迫ってもその危険性が報じられることも無く、IAEAのお墨付きを得たとして放出されようとしている。 核兵器製造や原子力政策を推進するために人体影響を過小評価する非科学的なインチキ理論体系を根本的に見直す見識を持ちたいものである。
最後に資料24にまとめを示し稿を終わる。 SrはCa、CsはKと体内動態は類似しており、その動態に応じた反応が起こるが、トリチウムは人体を構成しているすべての物質の化学構造式に水素(H)として入り、化学構造式を変えてしまう唯一の放射性物質なのである。 安全なわけはないのです。
1947年函館市出身。札幌医科大学卒業。 74年国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現北海道がんセンター)放射線科勤務。 2008年4月同センター院長、13年4月から名誉院長。 「市民のためのがん治療の会」顧問。 「いわき放射能市民測定室たらちね」顧問。 内部被曝を利用した小線源治療をライフワークとし、40年にわたり3万人以上の患者の治療に当たってきた。 著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、 『がんの放射線治療』 (日本評論社)、 『放射線治療医の本音-がん患者-2万人と向き合ってー』 ( NHK出版)、 『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、 『放射線健康障害の真実』(旬報社)、『正直ながんの話』(旬報社)、 『被ばく列島』(小出裕章共著・角川学芸出版)、 『患者よ、がんと賢く闘え!放射線の光と闇』(旬報社)、 『被曝インフォデミツク』(寿郎社)、など。 その他、専門学術書、論文多数。