市民のためのがん治療の会
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『ボストン・ウェルネス通信その7:そのサプリメント大丈夫!?』


米国ボストン在住内科医師
大西 睦子
小林製薬の「紅こうじ」の成分を含むサプリメントの健康被害問題が大問題になっている。 当欄では機能性表示食品制度の始まった2015年に、大西先生に「『「機能性表示食品」に気をつけろ:米「サプリ論争」からの考察(1)』」http://com-info.org/medical.php?ima_20150616_oonishi、 「『「機能性表示食品」に気をつけろ:米「サプリ論争」からの考察(2)』」http://com-info.org/medical.php?ima_20150623_oonishi と題して2回連続でご報告を掲載させていただいた。
多くの人がサプリメントを服用しているようだが、私たち自身も宣伝に惑わされることなく、本当にそのサプリメントが必要なのか、医学的にはどうかなど、自ら知る努力をする必要もあるだろう。
もちろんサプリメントの安全性、実効性等を含め、それらの宣伝を行うメディアにも大きな責任を求めたい。
同時にいかにも国が安全性や効果を認めたように思わせる行政の責任は重大だ。

なお本稿の初出は2024年04月01日MRIC by 医療ガバナンス学会 発行Vol. 24059(http://medg.jp)「ボストン・ウェルネス通信その7:そのサプリメント大丈夫!?」です。 転載をご許可いただきました大西先生をはじめ医療ガバナンス学会に感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

「小林製薬」の「紅麹」の成分を含むサプリメントによる健康被害が問題になっています。 3月28日の集計では、5人が亡くなり、114人が入院、さらに食品メーカー各社で商品の自主回収など波紋が大きく広かっています。 厚生労働省の専門家による調査会によると、サプリメントには「プベルル酸」という青カビからつくられる物質が含まれていたそうです。 今後、その毒性や製品に混入した経路、それ以外の物質の混入などを調べるとのこと。

ところで、サプリメントを利用する多くの人は、サプリメントが無害で健康に効果があると信じています。 ただし、サプリメントの利点は大きく宣伝されていますが、医薬品と違い、もしリスクがあっても消費者に知らせる義務はありません。なぜでしょう?

サプリ大国の米国の状況を参考にながら、サプリメントや日本の機能性表示食品について考え直しましょう。

●米国、サプリメントの副作用で年間平均約23,000件の救急外来受診

多くの米国人にとってサプリメントは必需品です。 米疾病予防管理センター(CDC)の報告(2023年)によると、米国では、0~19歳の小児・青年の34.8%、20歳以上の成人の58.5%が、サプリメントを利用しています(1)。

たしかに有効性が裏付けされたサプリメントはあります。 例えば、妊婦は葉酸が欠乏しやすく、胎児の先天性欠損症の原因となりますが、予防には葉酸のサプリメントが効果的です。

一方、米国では専門家を中心に、サプリメントの必要性の有無や安全性の議論が続いています。 2015年のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)の報告では、年間平均約23,000件の救急外来受診の原因は、サプリメントの副作用であることが判明しました(2)。

救急外来を受診した人の4分の1以上が20歳から34歳であり、その半数は減量や精力増強のために販売されたサプリメントが原因で、胸痛、動悸、不整脈などの症状を引き起こしました。 ただし影響を受けたのは若者だけでありません。 4歳未満の子供の多くは、監督なしで誤ってビタミンを摂取し、アレルギー反応や消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛)を経験しました。 65歳以上の人は、大きな錠剤サイズのビタミンや微量栄養素を摂取した後、嚥下障害を引き起こしました。

このような状況は米政府としても無視できず、現在では米食品医薬品局(FDA)のウェブサイトには、サプリメントの副作用、重金属の混入、未申告のアレルゲンや微生物汚染などの問題が頻繁に報告されています(3)(4)。

●薬でも食品でもないサプリメント

米国は訴訟大国。サプリメント業者に対する問題で、さまざまな訴訟が起きています。 最近の例では、テキサス州の会社が偽ブランドサプリメントの流通の有罪を認め、450万ドルの罰金刑に同意しました。 このサプリメントには、栄養成分として誤って表示された成分や、製品ラベルに記載されていない成分が含まれていました(5)。

米国はこんな状況になってしまった背景には、1994年に米国で成立した「栄養補助食品教育法(DSHEA)」があります。 同法は、政治資金的にもサプリメント業界と強固な関係をもつ元共和党上院議員の後援により成立しました。 この法律によって、サプリメントに対するFDAの規制は大幅に制限されています。

サプリメントは販売前にFDAの承認を必要としません。 つまり、安全性や有効性、科学的根拠に基づくことを、証拠をもってFDAに証明する必要はありません。 さらに、含まれる成分が副作用を引き起こすことが知られていても、製造業者は副作用について消費者に通知する必要はありません。 こうしてサプリメントは、薬でも食品でもない位置付けとなりました。 サプリメントのラベル表示の内容が正確かつ真実であること、安全であることは、製造業者や販売代理店の言うことを信じるしかないのです。

「この製品は栄養不足を助け、健康をサポートします」とか、「健康上の問題のリスクを低減します」などと表示することも、何の規制も受けずに可能です。 ただし、同時に、「これはFDAによって評価されたものではありません。 また、この製品は疾病の診断、治療、治癒、予防を目的としたものではありません」という「断り書き」は表示しなければなりません。 また、仮に「特定の疾患または状態の治療、予防または治癒」などと表示すると、そのサプリメントは未承認薬ということになるので違法です。 もちろん、安全でないことをFDAが発見した場合は、FDAは業者に警告を発するか、市場から製品を排除するなどの行動を取ることができます。 しかし、これはあくまでも事後対応です。

一方米国では、1990年に成立した「栄養表示教育法」により、企業からの申請に基づき、FDAが認めたものについて食品全般を対象として健康強調表示が可能となりました。 ただし、これはFDAの厳格な審査により、明確な科学的な根拠に基づいて専門家の間で合意が得られ、食品や栄養素を摂取したことで病気のリスクを軽減する可能性が認められた場合に限定されます。 例えば、カルシウムの多い食品、脂肪の少ない食品や食物繊維の多い食品など、生活習慣病の予防に効果が報告されている食品です。 その後、法律の緩和はあるものの、今日まで、食品の表示に関しては、サプリメントとは違って、FDAにより厳しく規制されています。

ちなみに、日本の「機能性表示食品」の新制度は、実は1994年に米国で成立した「栄養補助食品教育法」におけるサプリメントの表示制度を参考にしています。 さらに、日本の機能性表示食品の対象は、サプリメントだけでなく、加工食品や生鮮食品まで含まれます。

日本にも、米国の「栄養表示教育法」と同種の制度、「トクホ」の名称で知られる「特定保健用食品」があります。 これは国の審査が必要です。 この表示許可を得るには、臨床試験データをはじめ膨大な量の書類を厚生労働省に提出しなければならず、その審査も厳密に行われます。 つまり費用や時間の面で企業側の負担が大きくなります。

●サプリメントの詐欺に騙されないための6つのヒント

さてFDAは、「病気や健康に効果があるように誤って宣伝しているにもかかわらず、安全性と有効性が科学的に証明されていない場合、その健康食品は詐欺行為となります」「リスクを冒す価値はない」と警告し、 詐欺をみつけるための6つのヒントを紹介しています(6)。 日本の消費者も参考になります。

1:ひとつの健康食品ですべてが解決する

さまざまな病気を治すと謳う健康食品は怪しい。 FDAは、偽の万能薬を販売する企業に対し、警告状を送り続け、必要に応じて強制措置を取っています。 これらの奇跡的な治療法は存在せず、インチキであり、これらの企業が売っているのは偽りの希望だけです。

2:個人の「成功」体験談

「糖尿病が治った」「COVID-19感染がすぐに止まった」といった成功談は、簡単に作り話ができ、科学的証拠の代わりにはなりません。

3:即効性のある治療法

医薬品であっても、すぐに治る病気や症状はほとんどありません。 「30日で30キロ痩せる」「ウイルス感染から守る」「数日で皮膚がんをなくす」といった言葉には注意しましょう。

4:「すべて自然な」治療や処置

「すべて自然な」といった表現に騙されてはならない。 このような言葉は、製品が従来の治療法よりも安全であることを示唆するために、注目を集めるために健康詐欺でよく使われます。 こうした言葉は、必ずしも安全性と一致するわけではありません。 自然界に存在する植物(毒キノコなど)の中には、食べると有害であったり、死に至るものもあります。 さらにFDAは、「オールナチュラル」の治療薬や治療法として宣伝されている製品の中に、隠れて危険なほど高用量の処方薬成分やその他の医薬品有効成分が含まれているものが数多くあります。

5:奇跡の治療法

「新発見」「結果保証」「秘密の成分」といった類いの謳い文句を目にしたら、注意を促すべきです。 もし深刻な病気に対する本当の治療法がFDAの認可を受けたものであれば、医療専門家によって処方されるはずです。

6:陰謀論

「これは政府や大手製薬会社が知らせたくない治療法」というような主張は、一般常識的な疑問から消費者の目をそらすために使われます。

以上、サプリメントに関するお話です。 すべてのサプリメントが無害で健康に効果があるわけはないこと、誇大に宣伝される可能性があること、そして、国の審査が必要ないので、安全性や有効性は事業者を信用するしかないことを忘れないでください。 また、現在サプリメントを利用している方、これからサプリメントの利用を考えている方、ぜひその必要性を医師に相談してください。

(1)https://www.cdc.gov/nchs/data/nhsr/nhsr183.pdf
(2)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmsa1504267
(3)https://www.fda.gov/news-events/rumor-control/facts-about-dietary-supplements
(4)https://www.fda.gov/consumers/health-fraud-scams/health-fraud-product-database
(5)https://www.justice.gov/opa/pr/texas-company-pleads-guilty-distributing-misbranded-dietary-supplements-and-agrees-45
(6)https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/6-tip-offs-rip-offs-dont-fall-health-fraud-scams


大西 睦子(おおにし むつこ)

内科医師、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ在住、医学博士。 1970年、愛知県生まれ。 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。 国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。 2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。 2008年4月から2013年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。 ハーバード大学学部長賞を2度受賞。 現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。 著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。 『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)。 『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)などがある。
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