進行食道がん、進行頭頸部がんなどに期待される化学療法と陽子線による化学放射線療法-----
EBMレベルでの検証はこれから
南東北がん陽子線治療センター センター長 不破信和
新しい放射線治療:陽子線治療とは
陽子線治療はどのようながんに有効なのか
費用
略歴
陽子線治療について簡単に説明しましょう。
陽子線治療とは水素の原子核である陽子を光速近くまで加速し、
“がん”組織に衝突させることによりがん細胞を消滅させる放射線治療です。
陽子線治療と従来の放射線治療との最も大きな違いは体内での放射線の分布の違いです。 図1にその違いを示しますが、従来の放射線治療では体表面近くで線量が最大になり、
徐々に線量が減少するのに対し、陽子線は止まる直前に高い線量を体内に落とす特徴があるため、
“がん”により多い放射線を与えることができ、より高い効果と同時に正常組織に対する障害を
軽減することが可能となります。また“がん”細胞に対する効果も従来の放射線治療よりも高いとされています。
陽子線治療はどのようながんに有効なのか
本施設では頭頸部がん、肺がん、食道がん、肝臓がん、前立腺がんに力を入れていますが、特に頭打ちとなっている進行がんの治療成績の改善に力を入れています。具体的には食道がんには化学療法と陽子線による化学放射線療法を行っています。最近の化学療法の進歩は著しく、食道がんでは放射線治療との併用により治療成績の改善が得られていますが、心臓、肺が照射されることによる治療後の副作用が問題となっています。また照射部位の制御率も頭打ちになっていますが、陽子線治療と化学療法との併用療法により副作用の軽減と治療効果を上げることにより、治療成績を大幅に改善することも夢ではないと考えています。図2は陽子線治療の線量分布を示しますが、食道に陽子線が集中していることが判ります。進行肺がんにおいても化学療法との併用で治療成績の改善は可能であると考えています。頭頸部がん、特に舌がんには抗がん剤を動脈から投与する動注療法と陽子線治療との併用療法に力を注いでいます。舌がんは頭頸部がんの中で最も多く、また若い人にも出来ることが特徴です。舌進行がんの治療は手術が標準治療ですが、その機能の損失は大きいものがあります。前任地でもこの治療に取り組んで来ましたが、陽子線治療と動注療法の併用療法には大きな手ごたえを感じており、この病に悩む人の手助けができればと思っています。
図3は舌動脈にカテーテルが挿入され、造影剤が流れている写真を示しますが、舌のみに抗がん剤が投与されることを意味します。また同時に静脈から抗がん剤の中和剤を入れますので抗がん剤の副作用は大幅に軽減されます。従来の放射線治療では下顎骨に照射されるため、下顎骨が大きな障害を受け、また治療後に歯が脱落することが多かったのですが、図4に示すように下顎骨全体が照射されることがなくなるため、副作用が大幅に軽減されると考えています。肝臓がんは治療部位以外にも再発が多いのが特徴ですが、陽子線治療と細胞免疫療法を組み合わせて再発を減らす試みも始めています。
図3は舌動脈にカテーテルが挿入され、造影剤が流れている写真を示しますが、舌のみに抗がん剤が投与されることを意味します。また同時に静脈から抗がん剤の中和剤を入れますので抗がん剤の副作用は大幅に軽減されます。従来の放射線治療では下顎骨に照射されるため、下顎骨が大きな障害を受け、また治療後に歯が脱落することが多かったのですが、図4に示すように下顎骨全体が照射されることがなくなるため、副作用が大幅に軽減されると考えています。肝臓がんは治療部位以外にも再発が多いのが特徴ですが、陽子線治療と細胞免疫療法を組み合わせて再発を減らす試みも始めています。
費用
現在、陽子線治療をおこなうには300万円程度の費用がかかります。近い将来、一部の“がん”陽子線治療に健康保険が適用されるようです。しかし、全ての“がん”に適用されるものではありませんが、大きな前進であると考えています。陽子線治療が標準的な治療となっている領域は少なく、最近良く言われるEBM (evidence based medicine)の乏しい治療法かもしれませんが、本施設でも少しずつEBMを積み上げ、がん治療の進歩に少しでも貢献出来ればと考えています。
先生は市民のためのがん治療の会が発足した当初、私も協力医としてお手伝いしましょうとおっしゃってくださった最初の先生として、感謝いたしております。
放射線治療は一般の患者さんには殆ど知られていません。放射線治療について多くの方に知って欲しかったからです。また尊敬する西尾先生のお役に立ちたかった個人的事情もあります。
放射線治療は一般の患者さんには殆ど知られていません。放射線治療について多くの方に知って欲しかったからです。また尊敬する西尾先生のお役に立ちたかった個人的事情もあります。
私も頭頸部がん(舌がん)ですが、不破先生が「全摘は亜全摘に、亜全摘は普通の手術に」という、患者のQOLを大事にした治療に長年取り組まれた姿勢に深い感銘を覚えます。申し上げるまでもないことですが、頭頸部がんは手術を受けると大きなQOLの低下を生じます。「愛と死を見つめて」のヒロインもその例です。
放射線治療の最近の進歩は著しいものがあります。強度変調放射線治療、粒子線治療により副作用の軽減とより高い治療効果も得られるようになってきました。また抗がん剤の併用治療の進歩も大きなものがあります。特に進行舌がんには動注療法が有効です。頭頸部がんの治療は早期例では放射線治療、進行がんでは手術とされてきましたが、進行がんも切らずに治る時代になったと言えるのではないでしょうか。尤も症例によっては最初から手術が良い場合もありますし、手術は今後とも重要な治療であることには変わりありません。
放射線治療の最近の進歩は著しいものがあります。強度変調放射線治療、粒子線治療により副作用の軽減とより高い治療効果も得られるようになってきました。また抗がん剤の併用治療の進歩も大きなものがあります。特に進行舌がんには動注療法が有効です。頭頸部がんの治療は早期例では放射線治療、進行がんでは手術とされてきましたが、進行がんも切らずに治る時代になったと言えるのではないでしょうか。尤も症例によっては最初から手術が良い場合もありますし、手術は今後とも重要な治療であることには変わりありません。
長年愛知県がんセンターで業績を上げられ副院長として確固たる地位を築いておられた先生が福島県の南東北がん陽子線治療センターに転じられたのには驚きました。
私は23年間勤務した愛知県がんセンター放射線治療部を退職し、2007年9月に福島県郡山市にある南東北がん陽子線治療センターに異動しました。本陽子線治療施設は日本での陽子線治療施設としては6番目で、民間施設としては初めての施設になります。愛知がんセンター時代には頭頸部(耳、鼻、喉、口のがん)進行がんを中心に放射線治療と抗がん剤の治療を行い、それなりの成果を上げてきた自負がありましたが、進行肺がん、食道がんに対しては従来の放射線治療による治療成績の改善に限界を覚えたことが異動の大きな理由です。
私は23年間勤務した愛知県がんセンター放射線治療部を退職し、2007年9月に福島県郡山市にある南東北がん陽子線治療センターに異動しました。本陽子線治療施設は日本での陽子線治療施設としては6番目で、民間施設としては初めての施設になります。愛知がんセンター時代には頭頸部(耳、鼻、喉、口のがん)進行がんを中心に放射線治療と抗がん剤の治療を行い、それなりの成果を上げてきた自負がありましたが、進行肺がん、食道がんに対しては従来の放射線治療による治療成績の改善に限界を覚えたことが異動の大きな理由です。
患者としては常に新しい治療法、特効薬の出現を強く期待しておりますが、陽子線治療もその一つです。ただ、現時点ではまだEBMレベルでの標準治療とは言えない。
7月1日現在で照射人数は200人を超えました。現在のペースは年間400人の治療人数に相当します。 まだ当院での治療も始まったばかりですが、徐々に実績も上がってきています。どういう治療法も最初は手探りの状況から始まって実績を積み上げて標準治療となります。陽子線の場合は図1に明らかなように、照射した部位に高い線量を高い効果で照射できるという特徴が明らかになっています。今後も地道に実績を積み上げてゆきたいと思っておりますし、それしか説得材料もないと思います。
7月1日現在で照射人数は200人を超えました。現在のペースは年間400人の治療人数に相当します。 まだ当院での治療も始まったばかりですが、徐々に実績も上がってきています。どういう治療法も最初は手探りの状況から始まって実績を積み上げて標準治療となります。陽子線の場合は図1に明らかなように、照射した部位に高い線量を高い効果で照射できるという特徴が明らかになっています。今後も地道に実績を積み上げてゆきたいと思っておりますし、それしか説得材料もないと思います。
このような巨額の投資を必要とする施設を民間で運営するのは大変ではないでしょうか。
現在の年間400人ペースを維持できれば少なくとも大きな赤字を生むことはないようです。民間病院ですから採算性は当然、重要視され、機会あるたびに照射人数は公表されます。正直、胃の痛くなることもありますが、公的資金の援助がない民間病院では仕方のないことと諦めています。このセンターのある郡山市は新幹線が通り、東京から1時間20分、仙台から40分と地の利はあるかもしれませんが、人口は37万に過ぎません(福島県で200万)。この人口で、しかも300万近い金額が必要な陽子線治療にどれだけの患者さんが集まるのか不安でしたが、今の照射人数は嬉しい誤算と思っています。 今後民間ベースの粒子線医療施設が誕生しますが、大都会では問題なく患者は集まると思いますが、地方では地道な活動をこつこつ行うしかありません。陽子線治療に限らず、医療への貢献度、責任の重さは民間、公的医療機関に等しく課せられた命題です。その意味で南東北陽子線センターと他の公的機関の使命は同じであると考えています。国のがん医療中枢機関の責任者から地方の基幹病院の責任者に異動された方から「南東北がん陽子線治療センターの成否が今後の陽子線治療の成否に繋がる」と頂いた言葉は非常に重く受け止めており、本施設での実績が我が国での陽子線治療の普及、引いては今後のがん治療に大きく影響するものと考えています。
現在の年間400人ペースを維持できれば少なくとも大きな赤字を生むことはないようです。民間病院ですから採算性は当然、重要視され、機会あるたびに照射人数は公表されます。正直、胃の痛くなることもありますが、公的資金の援助がない民間病院では仕方のないことと諦めています。このセンターのある郡山市は新幹線が通り、東京から1時間20分、仙台から40分と地の利はあるかもしれませんが、人口は37万に過ぎません(福島県で200万)。この人口で、しかも300万近い金額が必要な陽子線治療にどれだけの患者さんが集まるのか不安でしたが、今の照射人数は嬉しい誤算と思っています。 今後民間ベースの粒子線医療施設が誕生しますが、大都会では問題なく患者は集まると思いますが、地方では地道な活動をこつこつ行うしかありません。陽子線治療に限らず、医療への貢献度、責任の重さは民間、公的医療機関に等しく課せられた命題です。その意味で南東北陽子線センターと他の公的機関の使命は同じであると考えています。国のがん医療中枢機関の責任者から地方の基幹病院の責任者に異動された方から「南東北がん陽子線治療センターの成否が今後の陽子線治療の成否に繋がる」と頂いた言葉は非常に重く受け止めており、本施設での実績が我が国での陽子線治療の普及、引いては今後のがん治療に大きく影響するものと考えています。
費用はいくらかかるのですか。併用する化学療法は保険はきかないのですか。
陽子線治療は先進医療であるため現在は保険はきかず288万3千円です。化学療法を併用する場合は保険が適用されます。また南東北がん陽子線治療センターではX線治療と組み合わせる場合は240万円としています。X線治療は保険が適用されます。
陽子線治療は先進医療であるため現在は保険はきかず288万3千円です。化学療法を併用する場合は保険が適用されます。また南東北がん陽子線治療センターではX線治療と組み合わせる場合は240万円としています。X線治療は保険が適用されます。
略歴
不破 信和(ふわ のぶかず)
三重大学医学部卒業後、三重大学病院研修医、浜松医科大学放射線科を経て昭和59年7月より愛知がんセンター放射線治療部勤務。平成10年4月同部長、平成18年4月愛知県がんセンター副院長兼放射線治療部部長。平成19年9月南東北がん陽子線治療センター長、現職。
三重大学医学部卒業後、三重大学病院研修医、浜松医科大学放射線科を経て昭和59年7月より愛知がんセンター放射線治療部勤務。平成10年4月同部長、平成18年4月愛知県がんセンター副院長兼放射線治療部部長。平成19年9月南東北がん陽子線治療センター長、現職。