画期的な肺がん検診について、先達に聞く
『CT肺癌検診と炭素線一回照射による治療』
放射線医学総合研究所名誉研究員
飯沼 武(医学物理士)
飯沼 武(医学物理士)
日本のがん死亡者の中で最も多いのは肺がんによるものである。 その肺がんの診断と治療に先駆的な発想で発言し、CTを導入した肺がん検診の道を切り開いた飯沼先生に肺がんの検診と治療について寄稿頂いた。 (西尾 正道)
【はじめに】
肺癌はがんの中でも最も死亡数が多い病気であり、がん対策の中でも最重要課題と言われております。その肺癌から人類を救うためには、予防が最も効果的であると考えます。
第一は肺癌の最大の原因とされる煙草の禁煙であります。これによって肺癌の発生そのものの減少になります。しかし、問題は喫煙率が下がってから肺癌の発生が減るまでには10年以上の遅れがあることがわかっております。そこで必要になるのが早期発見による早期治療であります。
日本では長年にわたって胸部X線を利用する肺癌検診が行われてきました。しかし、この胸部X線肺癌検診の死亡率減少効果はほとんどないのではないかと言われていました。実は、世界で胸部X線による肺癌検診を行っているのは日本だけなのです。
そこで、本稿では新しいCTによる肺癌検診の動向をご説明し、さらに、それを治療するための炭素線一回照射法についてお話しすることに致します。
日本では長年にわたって胸部X線を利用する肺癌検診が行われてきました。しかし、この胸部X線肺癌検診の死亡率減少効果はほとんどないのではないかと言われていました。実は、世界で胸部X線による肺癌検診を行っているのは日本だけなのです。
そこで、本稿では新しいCTによる肺癌検診の動向をご説明し、さらに、それを治療するための炭素線一回照射法についてお話しすることに致します。
【低線量CTによる肺癌検診】
日本では結核検診の流れを引き継いで、胸部X線を利用する肺癌検診が行われ来ました。
しかし、私たちは1990年の初めごろから、胸部X線による肺癌検診はほとんど効果がなく、 肺癌死亡を減らすことはできないと考えました。
実は、その頃、CTに大きな技術変革が起こっておりました。それはラセンCTの開発であります。それまでのCTはX線管球が一回転するごとに、患者のベッドが動くというやり方で撮影をしていました。そのため、胸部などの大きな臓器を撮影するためには多くの時間がかかり、呼吸停止下で撮影することは不可能でした。ラセンCTではスリップリングの導入によりX線管球を連続的に回転させることができるようになり、被験者をベッドの上で一気に移動することによって胸部全体を10秒程度で撮影することが可能になりました。これにより、CTによる胸部の撮影が実用化したのであります。
さらに、重要なことは胸部の撮影は低線量で可能であることです。CTはもともと、線量が高い検査として有名であり、放射線検査はいくら線量が低くても、発がんのリスクが心配されていますので、診断に差支えない限り、できるだけ低い線量で撮影することが求められます。私達は最初から、このことを目指し、低線量のCT検診を達成しています。現在では、 1ミリ・シーベルト程度で検診を行っています。通常の検査の1/10程度です。最近は、さらに新しい方法が開発され、線量が低下しております。
さらに、CTによる肺癌の検出能力は非常に優れていて、胸部X線では見つけられない早期の肺癌を沢山発見できることが明らかになりましたので、私達、放射線医学総合研究所のグループ(舘野之男、飯沼 武、松本徹、宮本忠昭)は世界で初めて、1990年にCTによる肺癌検診を提唱しました。その後、多重検出器CTが発明され、低線量で薄い断面を撮影できるようになりました。一方、CTによる肺癌検診はその有効性について長年、議論が続いておりましたが、2010年11月に米国の国立がん研究所のプロジェクトが無作為臨床試験を行い、CT検診が胸部X線検診と比較して、肺癌死亡を20%減らし、全死亡も7%減らすという結果を報告し、その有効性が確立しました。
これから日本においても、現行の胸部X線による肺癌検診を低線量CTによる検診に置き換えてゆくことが必須となりました。私達は、そのために必要な検討を進めています。
しかし、私たちは1990年の初めごろから、胸部X線による肺癌検診はほとんど効果がなく、 肺癌死亡を減らすことはできないと考えました。
実は、その頃、CTに大きな技術変革が起こっておりました。それはラセンCTの開発であります。それまでのCTはX線管球が一回転するごとに、患者のベッドが動くというやり方で撮影をしていました。そのため、胸部などの大きな臓器を撮影するためには多くの時間がかかり、呼吸停止下で撮影することは不可能でした。ラセンCTではスリップリングの導入によりX線管球を連続的に回転させることができるようになり、被験者をベッドの上で一気に移動することによって胸部全体を10秒程度で撮影することが可能になりました。これにより、CTによる胸部の撮影が実用化したのであります。
さらに、重要なことは胸部の撮影は低線量で可能であることです。CTはもともと、線量が高い検査として有名であり、放射線検査はいくら線量が低くても、発がんのリスクが心配されていますので、診断に差支えない限り、できるだけ低い線量で撮影することが求められます。私達は最初から、このことを目指し、低線量のCT検診を達成しています。現在では、 1ミリ・シーベルト程度で検診を行っています。通常の検査の1/10程度です。最近は、さらに新しい方法が開発され、線量が低下しております。
さらに、CTによる肺癌の検出能力は非常に優れていて、胸部X線では見つけられない早期の肺癌を沢山発見できることが明らかになりましたので、私達、放射線医学総合研究所のグループ(舘野之男、飯沼 武、松本徹、宮本忠昭)は世界で初めて、1990年にCTによる肺癌検診を提唱しました。その後、多重検出器CTが発明され、低線量で薄い断面を撮影できるようになりました。一方、CTによる肺癌検診はその有効性について長年、議論が続いておりましたが、2010年11月に米国の国立がん研究所のプロジェクトが無作為臨床試験を行い、CT検診が胸部X線検診と比較して、肺癌死亡を20%減らし、全死亡も7%減らすという結果を報告し、その有効性が確立しました。
これから日本においても、現行の胸部X線による肺癌検診を低線量CTによる検診に置き換えてゆくことが必須となりました。私達は、そのために必要な検討を進めています。
【炭素線一回照射による肺癌の治療】
現時点での肺癌の治療は主として、外科手術で行われております。手術は身体にメスを入れるという侵襲の大きい方法であり、とくに、これから急増が予想される高齢者の肺癌患者にとっては非常に負担の大きい治療であります。CT検診で早期の肺癌が大量に発見されてきても、その後の治療法が外科治療ですと、患者さんの身体的影響は無視できませんね。
私達、放医研ではご存知の通り、最先端の放射線治療として重粒子線がん治療の開発を進めて参りました。今では、病期T期の早期肺癌は炭素線の1回の照射で治すという画期的な方法を宮本らが開発しました。このやり方ですと、患者さんの負担は極めて少なく、まさに、 理想的な治療法であります。しかも、治療成績は手術に勝るとも劣らない成績をあげています。現時点では、保険が適用できませんので、300万円と高価ですが、何しろ一回の照射で 終了するわけですから、将来的には安価になる可能性は十分にあり、今後の世界の肺癌の治療はCT検診の普及と相まって、炭素線一回照射法が主流になるものと期待しております。
私達、放医研ではご存知の通り、最先端の放射線治療として重粒子線がん治療の開発を進めて参りました。今では、病期T期の早期肺癌は炭素線の1回の照射で治すという画期的な方法を宮本らが開発しました。このやり方ですと、患者さんの負担は極めて少なく、まさに、 理想的な治療法であります。しかも、治療成績は手術に勝るとも劣らない成績をあげています。現時点では、保険が適用できませんので、300万円と高価ですが、何しろ一回の照射で 終了するわけですから、将来的には安価になる可能性は十分にあり、今後の世界の肺癌の治療はCT検診の普及と相まって、炭素線一回照射法が主流になるものと期待しております。
【終わりに】
世界のがんの中でも最も死亡数の多い肺癌の死亡を減らす戦略として、私達はCT検診によって早期肺癌を大量に発見し、それを炭素線一回照射で治すというパラダイムを提案しました。この方法と禁煙指導と組み合わせることにより、日本と世界の肺癌死亡を大きく減らせることができると確信します。また、ここでは、詳細は述べませんが、CT検診で早期の肺癌を発見し治療することにより、検診を行わずに、進行肺癌が多く見つかる場合と比較して,肺癌の総医療費が減る可能性も予想されています。
私達は早急にCT検診が国の対策型検診として、現行の胸部X線に代わって導入されることを強く希望しております。
私達は早急にCT検診が国の対策型検診として、現行の胸部X線に代わって導入されることを強く希望しております。
略歴
飯沼 武(いいぬま たけし)
1956年東京大学工学部応用物理学科卒業後、東京大学工学部助手、放射線医学総合研究所物理研究部研究員、放射線医学総合研究所臨床研究部医学物理研究室長、同重粒子線医科学センター研究室長を経て、1994年 埼玉工業大学基礎工学課程教授。2002年放射線医学総合研究所名誉研究員、現在に至る。
1960-62年 日本政府原子力留学 英国LEEDS大学病院医学物理学科
この間、各種の医用画像診断装置、とくに核医学装置、X線装置、コンピュータ断層装置(CT)、磁気共鳴診断装置(MRI)の研究開発に従事。 最近はLSCTによる肺癌検診の高度化に関する研究と炭素線を用いる肺癌一回照射の研究、検診における医療被曝の利益リスク分析などに取り組んでいる。
工学博士、医学物理士
所属学会:日本医学放射線学会、日本核医学会、日本放射線腫瘍学会、日本医用画像工学会、日本CT検診学会、コンピュータ支援画像診断学会等名誉会員、日本がん検診診断学会功労会員、日本肺癌学会正会員