官製「安全情報」は本当か?
『「チェルノブイリ原発事故」第3回ウクライナ調査報告(1)』
食品と暮らしの安全基金
代表 小若 順一
なお、今回の調査も「食品と暮らしの安全基金」の小若順一代表のかねてからの市民運動の方法として、「食品と暮らしの安全」の読者のみな様から、取材費と、ガンの子どもが適切な医療を受けられるようにするためのカンパを募り実施しておられる。これは「何々していただきたいと思います」式の主として公的予算要求型の市民運動ではなく、自らが欲する事業を自らの力で行おうとする運動方式であることも注目に値する。
ここに小若代表のご好意で同報告の中から、医療関連の部分を転載させていただいた。転載をご快諾いただきました「食品と暮らしの安全基金」および小若順一代表に感謝いたします。(會田)
福島原発の事故後、政府の専門家は、健康影響は出ないと言い続けている。
本当にそうなのかを調べるには、チェルノブイリ原発事故が起きた国、ウクライナに行って調べると、最も正確な情報を得られる。遺伝的な影響を念頭に置きながら、実態調査することを決めたのが今年1月。2月末から1回目の調査を行った。
ここで、いきなり遺伝的な影響が考えられるガンの子どもに出会ってしまった。
そこで、「食品と暮らしの安全」の読者のみな様から、取材費と、ガンの子どもが適切な医療を受けられるようにするためのカンパをいただき、2回目の調査を5月末から行った。
このとき、測定すると極低レベルの地域なのに、「足が痛い」という子が多いのに気づいた。
そこで、3回目の調査を9月末から行うことにしたが、旅立つ前日に NHK の ETV 特集で、ウクライナでは、健康疾患のある子が78%、健康な子は6%と、政府報告書に出ていることが紹介された。
健康疾患は、医師にかかった子のデータをまとめたもので、ウクライナの経済状態では、単なる足痛、 頭痛、喉痛だけでは、医者のところに行かない。私たちの調査は、ほとんど医者に行かない健康異常を、 約 100 人の子どもを対象に調べたわけだが、ウクライナ政府のデータと見事に連動しているように感じて いる。
私たち「食品と暮らしの安全基金」の事務所は、さいたま市にあって、放射能の通常値は0.08マイクロシーベルト/時である。これと同じ値を示すウクライナの「非汚染地域」で、子どもの半数が、ヒザが痛いと手を上げたのには驚いた。
ウクライナの田舎は、自給的な食生活をしている人がほとんどである。これを、東京に当てはめれば、関東の食材だけを食べていると、同じような健康異常が起きる可能性があることになる。
救いも、見つかった。足や頭や心臓が痛いと言う26歳の女性を、汚染度がさらに低い地域に70日間、保養に行って、安全な食事をしてもらったら、痛みがなくなったのだ。彼女は、常に持ち歩いていた心臓の薬・ニトログリセリンを、今は持ち歩かなくなっている。
彼女がすごく健康になって幸せになっただけでなく、我われも大きな希望と、貴重な情報を得ることができた。
今回の取材は、1回目の調査が終わったときに企画されたツアーを兼ねており、調査団に加えて、ジャーナリスト、放射能測定の専門家や、原発に関心のある方も加わっていただいた。
行く先々で大歓迎を受けたので、皆さん驚かれたが、2回目に、一部の講演や訪問を予約し、あいさつ回りをしてきた私も、想像以上の大歓迎と、魂を揺さぶられる数々の話に、感動の日々を過ごすことができた。
初訪問の方はもっと驚かれて、ウクライナが大好きになったようだ。その一端を、この報告書でお届けしたい。
本当にそうなのかを調べるには、チェルノブイリ原発事故が起きた国、ウクライナに行って調べると、最も正確な情報を得られる。遺伝的な影響を念頭に置きながら、実態調査することを決めたのが今年1月。2月末から1回目の調査を行った。
ここで、いきなり遺伝的な影響が考えられるガンの子どもに出会ってしまった。
そこで、「食品と暮らしの安全」の読者のみな様から、取材費と、ガンの子どもが適切な医療を受けられるようにするためのカンパをいただき、2回目の調査を5月末から行った。
このとき、測定すると極低レベルの地域なのに、「足が痛い」という子が多いのに気づいた。
そこで、3回目の調査を9月末から行うことにしたが、旅立つ前日に NHK の ETV 特集で、ウクライナでは、健康疾患のある子が78%、健康な子は6%と、政府報告書に出ていることが紹介された。
健康疾患は、医師にかかった子のデータをまとめたもので、ウクライナの経済状態では、単なる足痛、 頭痛、喉痛だけでは、医者のところに行かない。私たちの調査は、ほとんど医者に行かない健康異常を、 約 100 人の子どもを対象に調べたわけだが、ウクライナ政府のデータと見事に連動しているように感じて いる。
私たち「食品と暮らしの安全基金」の事務所は、さいたま市にあって、放射能の通常値は0.08マイクロシーベルト/時である。これと同じ値を示すウクライナの「非汚染地域」で、子どもの半数が、ヒザが痛いと手を上げたのには驚いた。
ウクライナの田舎は、自給的な食生活をしている人がほとんどである。これを、東京に当てはめれば、関東の食材だけを食べていると、同じような健康異常が起きる可能性があることになる。
救いも、見つかった。足や頭や心臓が痛いと言う26歳の女性を、汚染度がさらに低い地域に70日間、保養に行って、安全な食事をしてもらったら、痛みがなくなったのだ。彼女は、常に持ち歩いていた心臓の薬・ニトログリセリンを、今は持ち歩かなくなっている。
彼女がすごく健康になって幸せになっただけでなく、我われも大きな希望と、貴重な情報を得ることができた。
今回の取材は、1回目の調査が終わったときに企画されたツアーを兼ねており、調査団に加えて、ジャーナリスト、放射能測定の専門家や、原発に関心のある方も加わっていただいた。
行く先々で大歓迎を受けたので、皆さん驚かれたが、2回目に、一部の講演や訪問を予約し、あいさつ回りをしてきた私も、想像以上の大歓迎と、魂を揺さぶられる数々の話に、感動の日々を過ごすことができた。
初訪問の方はもっと驚かれて、ウクライナが大好きになったようだ。その一端を、この報告書でお届けしたい。
調査団長 小若順一(食品と暮らしの安全基金代表)
【10 ベクレル食で子どもの7割に健康異常】
足、のど、頭が痛い子は7割
3つの学校で、足、のど、頭が、毎日のように痛くなるかどうかを質問し、合計101人の子どもに挙手してもらうと、7割の子どもが痛いと言い、3割の子どもは、この3ヵ所は痛くないという結果になった。日本の常識ではあり得ないが、ウクライナで「健康な子は6%」と、政府が報告書を出しているから、多すぎる数字ではない。この調査結果を、日本が援助している放射線医療研究所のチュマク所長に見せると、今の子は、家でゲームをするようになったので元気がなくなり、タンパク質とヨウ素の不足で健康障害が起きている、と語った。
ウクライナの専門家も、日本と同じように、放射能は心配ないと言ったのだが、これには疑問がある。
NHK「ETV特集・汚染地帯からの報告-ウクライナは訴える」(9月23日)では、われわれの調査地より汚染度の高いコロステンの学校で485人中、正規の体育の授業を受けられないのは14人で、他の生徒は軽い運動しかできないと報告している。
われわれの取材でも、学校の先生たちは、「昔の子は元気だったが、原発事故後に健康でない子が急激に増えた」と、一様に語った。
原発の近くにあったプリピャチ市の事故前の写真集には、学校で、健康そうな生徒の様子が映っている。健康でない子はこんなに登れない。
ウクライナの田舎では、地域の自給率が非常に高い。だから、食生活は日本のように急激には変わっていない。
放射能の専門家が言うのは間違いで、健康障害の原因は、放射能以外に考えられない。
食品による内部被曝が原因
調査した3つの地域とも、地上での空間線量は0.08μSv程度。われわれの事務所がある「さいたま市」と変わらない。線量が高い場所を探すと0.13μSvになるが、これも、さいたま市と変わらない。外部被曝による被害は、これで否定できる。だから、健康障害の原因は、食品から摂取する内部被曝しか考えられないことになる。そこで、食品の検査をしてみると、移住できる権利を持つ「第3種汚染地域」と、それと隣接した「非汚染地域」では多少の差はあったが、両方ともセシウム137が検出された。
第3種汚染地域のモジャリ村周辺では、ライ麦、ポテト、牛乳、チーズからも検出されたが、非汚染地域のコヴァリン村では、検出限界が高くてキノコしか検出されなかった。モジャリ村のキノコは200〜400 ベクレル/kg だから、コヴァリン村のキノコの2倍近い値になる。
ウクライナの田舎には、村の回りに森がある。ここでキノコやベリー類をとって、加工し、貯蔵しておいて、それを食べるから、日本では考えられないほど多くキノコを食べる。ベリー類が原料の飲み物も多い。
非汚染地域のコヴァリン村でも、「ひざが痛い」という子が半数いた。この食事の5%をキノコが占め、そのキノコが200ベクレル/kg汚染され、他の食品が汚染されていないとすると、平均10ベクレルの食事で、健康に障害が起きていることになる。
安全性のルールに反した放射能
日本の基準の10分の1で健康障害が起こるのは、放射能の安全ルールが変だからだ。化学物質は、動物実験で得られた「無作用量」に安全率の 100 分の1を掛けて、人間の基準にする。ところが放射能は、ガンが出なくなった「無発ガン量」をそのまま基準にしようとする。しかも「、安全率」を掛けないのに、それを「健康に影響が起きない」と言い換えているのが、現在の日本だ。
原子力村の科学者は二重のインチキを行っているのである。放射能を含む食品を、人に食べさせて実験すると、将来、ガンにかかるかも知れないから、内部被曝の人体実験はできない。
ところが、チェルノブイリ原発事故では、広い地域が放射能で汚染され、事実上の人体実験が進行中なのである。 ロシアやベラルーシも汚染されているが、取材し過ぎると逮捕されそうな国なので、われわれはウクライナで被害者を探し、丁重に取材させていただいている。
放射能の危険性はガンだけに注目してきたから、「無作用量」が突き止められていない。われわれの調査で、10ベクレル /kg の食事で被害が出ていたから、無作用量はさらに、かなり低いことになる。
細胞分裂しない組織での放射線障害
子どもの4割が、のどが痛いと言うのは、放射能で免疫力が弱っているからと考えられる。足痛と頭痛は、のど痛とは異なり、細胞死をカバーできないから生じると考えている。細胞分裂しない3大臓器が、脳、心臓、腎臓で、神経も細胞分裂しない。まったく細胞分裂をしないわけではないが、かつて、これらの組織はまったく細胞分裂をしないと考えられていたことがある。それほど、細胞分裂をしないのだ。
こういう細胞の遺伝子が放射線で傷つくと、うまく機能しなくなるか、細胞死を起こす。細胞死しても、細胞分裂が遅いから、それをカバーする能力が低い。だから、低レベルの内部被曝で臓器に異常が起きたり、神経に障害が起きると考えられる。放射線の専門家は、細胞分裂しやすい組織でのガンのことを語り、ほとんど細胞分裂しない組織のことは語らなかった。これは、無知によるものか、原子力村から研究費をもらうために、意図だったのかは知らない。だが、重要な危険性が、少なくとも日本ではまったく語られていないのである。このような体の異常は治らないのか。それを、確かめたので、次ページもお読みいただきたい。
心臓と あちこち痛いのが治った 26 歳女性
2回目の取材で、住民に健康被害が多いことを知り、汚染されていない場所で、きれいな食物をとりながら療養すると、どれくらい効果があるかを知ろうと考えた。療養期間は、セシウムの生物学的半減期である70日間。療養に行ったナタリアさんは、原発から西へ約120qの第3種地域にあるビグニ村出身で、1986年1月生まれ。『食品と暮らしの安全』読者のみな様の寄付金で、7月12日から9月20日まで非汚染地だけで療養し、験を語っていただいた。
ナタリアさんは村で大きくなったが、元々体が弱く、病気がち。特に心臓が悪く、手足も痛かった。甲状腺炎の2級だが、手術はしていない。軽い風邪をひいただけで、すぐ喉が痛くなった。20歳だった弟は、1年前、骨ガンで死亡。以上が療養前の状態である。
非汚染地域で保養
7月 12 日にビグニ村を出発し、黒海に面したクリミア半島の小さな町の保養地に移動。ナタリアさんは村から出ることが少なく、今回訪れた黒海沿岸も小さいとき以来だった。温暖で環境のいいところだが、育った気候と違うことや、一人で過ごすストレスから7月21日に恋人が住むウクライナ北部のデスナの保養地に移動。デスナはチェルノブイリに近いが、東側の汚染が少ない「非汚染地域」だ。
その後、東のスーミィに行き、8月1日からはドニエプル川沿いのスヴェトロボツクに滞在。
45日目まではダメだったが 8月27日から、キエフの西にあるサナトリウム(療養所)に移り、治療した。いずれも非汚染地だが、45日目でも体調は良くなっておらず、心電図でも良くないことが確認されている。 それが、54日目には体の痛みがかなり少なくなっていた。その後、療養所を出 て、非汚染地で暮らし、 70日目を迎えたとき、痛みはすっかりなくなっていた。
療養に行く前、ナタリアさんは心臓が痛くなったときのためにニトログリセリンをいつも所持していた。現在は持ち歩かなくなっていることが、良くなったことを証明している。ウクライナ独特の治療を受けているから、良くなった原因がすべて、放射能を含まない食品によるとは言えない。
だが、60日ぐらい非汚染地域で療養すれば、体の痛みがほぼ消えることがわかったのだ。療養を終えたナタリアさんはビグニ村へは戻らず、キエフで仕事を探している。また、元気になったので、来年、恋人と結婚すると言う。ここですぐ、われわれは結婚祝いのお金を集めて手渡した。
これで、キエフで1ヵ月暮らすことができるし、非汚染地のキエフで仕事が見つかれば、体調が悪くなることはないだろう。こうして1人の女性が希望に満ちた人生を歩み始めた。
彼女が良くなったことは、福島にも日本にも、希望と指針を与えたことになる。
略歴
小若順一(こわか じゅんいち)
NPO法人『食品と暮らしの安全基金』代表。
1950年、岡山県生まれ。1984年に「日本子孫基金」を設立、ポストハーベスト農薬の全容解明など、食品の安全を守る活動の第一人者。
著書: 『食べるな、危険!』(講談社)、『食べ物から広がる耐性菌』(三五館)、『使うな、危険!』(講談社)、 『食べなきゃ、危険!』(三五館) 『食事でかかる新型栄養失調』(三五館)、 『放射能を防ぐ知恵』(三五館)、『生活防衛ハンドブック』(講談社α文庫)など多数。
NPO法人『食品と暮らしの安全基金』代表。
1950年、岡山県生まれ。1984年に「日本子孫基金」を設立、ポストハーベスト農薬の全容解明など、食品の安全を守る活動の第一人者。
著書: 『食べるな、危険!』(講談社)、『食べ物から広がる耐性菌』(三五館)、『使うな、危険!』(講談社)、 『食べなきゃ、危険!』(三五館) 『食事でかかる新型栄養失調』(三五館)、 『放射能を防ぐ知恵』(三五館)、『生活防衛ハンドブック』(講談社α文庫)など多数。