市民のためのリンパ浮腫治療とは?
『本邦におけるリンパ浮腫治療の現状
』
医療法人社団 リズミック産婦人科クリニック
山本 律
そのため、複合的理学療法では1から4週間で治療が終了するところを、患者は漫然と長期間の通院を余儀なくされている。当然、治療費負担は増加する。
患者にとっては症状の改善がスムーズに進まないばかりか、費用負担が嵩むことになり、不利な状況に陥っている。本当にこれは「市民のための治療」であろうか。
複合的理学療法の正確な普及に情熱を傾けるリズミック産婦人科クリニックの山本 律先生に、その実態をレポートしていただいた。(會田)
現在国際リンパ学会( International Society of Lymphology )がリンパ浮腫の治療法として最も科学的根拠のレベルが高いとしているのが、長年国際的に標準治療とされているフェルディらの考案した2段階治療プログラムからなる複合的理学療法です。これはCombined Physical Therapy (CPT) 又はComplete or Complex Decongestive Therapy (CDT) 、さらにはComplex Decongestive Physiotherapy (CDP) と略されますが、治療施設における用手的医療リンパドレナージ・多層圧迫包帯・圧迫下運動療法・スキンケアにより患肢の縮小に努める治療期(treatment phase: 第1段階)と、患者さん自身が治療施設に通うことなく自宅において縮小した患肢を用手的医療リンパドレナージ・弾性ストッキング着用(夜間は多層圧迫包帯)・スキンケアにより維持していく維持期(maintenance phase: 第2段階)で構成されます。
国際リンパ学会はリンパ浮腫の診断と治療に関し合意文書を作成し、ホームページ上に公開しています
( http://www.u.arizona.edu/~witte/ISL.htm )。同学会はこれをガイドラインではなく合意文書として公開する理由について、「これを作成した趣旨はリンパ浮腫の診断と治療における国際的合意を形成することであり、個別の臨床検討を無効とすることを意図してない」こと、また「医療過誤を定義する法的基準の規定を意図するものでもない」としています。われわれも従来、われわれのクリニックでは国際的に最も治療効果が高いとされる2段階治療プログラムからなる複合的理学療法を行うも、他施設でリンパ浮腫の治療として行われている科学的根拠の乏しいさまざまな治療法を否定する意図は全くないという姿勢を貫いてきました。その背景にはいずれ多くの医師がリンパ浮腫の治療に携わるようになり英文論文から海外の情報を得るようになってくれば、本邦でのリンパ浮腫治療もおのずと国際標準治療に沿ったものとなっていくものと信じて疑わなかったからです。しかし現状は残念ながら当クリニックが開院した8年前と全く変わっていません。大学で医学生に対しリンパ浮腫の診断・治療に関する講義が始まったという話は聞こえて来ませんし、講義を行うことができる医師も医学部にほとんど存在しない状態が続いています。病院内でリンパ浮腫外来を立ち上げたとしても医師はほとんど関与することなく、本来医師の指示に従いバンデージあるいはドレナージを施術すべきセラピストが診断・治療を一任されている状態です。そのセラピストの育成も鍼灸マッサージ師の育成を母体とする機関に委ねられたままのため、治療期が1-4週間で終了する2段階治療プログラムからなる複合的理学療法が普及せず、漫然と数週間あるいは数ヶ月に1回治療施設でドレナージやバンデージを繰り返すといった方法が普及しているのです。
私は7年程前関東圏の某特定非営利活動法人からリンパ浮腫治療に関する講義を依頼され、当初40-50人の講習生(理学療法士・鍼灸師)を相手に東京都内で講義をしていました。約6年前からは同法人の顧問として講義を行うとともに、リンパ浮腫の診断と治療に関する国際リンパ学会合意文書や他の有益な英文論文を紹介し、リンパ浮腫の治療法に関するアドバイスをするとともに治療結果に関するデーターの処理の方法などを指導してきました。そこでこの6年間絶えず言い続けて来たことは、欧米と同等の治療効果を得るためにはまず欧米で科学的根拠のレベルが最も高いとされている治療方法を行い、それと同じ効果が得られることを確認した上で、その後治療効果を下げない範囲で独自のアイデアを加えて行く事でした。しかし同施設では経営上のマネージメントの難しさを理由に、従来の科学的根拠の無い治療方法を変更することはありませんでした。すなわち毎日の連続したバンデージ治療が必要としているフェルディ法を無視して、1-2週間に1度バンデージ治療をひたすら繰り返し行う科学的根拠の無い治療法を継続しています。これでは病気を治すのではなく、定期的に患者を通院させ施術を無限に継続するというビジネスであり、治療ではないとする私の主張は最後まで聞き入れられませんでした。
エルテカ・フェルディ先生は「ドイツのリンパ浮腫治療環境および今後の展望」と題した講演で、「リンパ浮腫に対する基本的な治療としては、CDTと呼ばれる複合的理学療法があります。これは二つの段階があります。第1段階はリンパの排液、この第1段階のリンパ排液を省略しないできちんと行うことが非常に重要です。」と私と同様の意見を述べられています。しかし残念ながら同法人関連のセラピストがメディアや、リンパ浮腫患者を対象とした講演会で話し実際行っているのは、フェルディ先生の主張を全く無視した治療法です。もし己の施設の事情で本来すべき1日1回のリンパ排液を連日できない、すなわち第1段階のリンパ排液を省略せざるをえないのであれば、メディアやリンパ浮腫患者を対象とした講演会ではそのことを正直に述べるべきです。東京から当クリニックへ来院される患者さんからは、東京ではフェルディ法による2段階治療プログラムからなる複合的理学療法が受けられる施設がないとの話を聞きます。札幌では、大学病院ですらCDTの第1段階を省略した治療を行っています。すなわち同法人の影響がとてつもなく大きく、日本ではフェルディの提唱した2段階治療プログラムからなる複合的理学療法に関して正しい知識が患者さんやセラピストに伝わっていないのです。
2008年4月リンパ浮腫指導管理料が算定可能となって以降、日本中のがん治療施設でリンパ浮腫に関する知識をもつ看護師が必要となりました。そのため非常に多くの看護師さん達が同法人で講義を受けるようになりましたが、講習料ばかり高くなって正しいフェルディ式リンパ浮腫治療を日本にも広めるよう講義内容を見直すような努力をしていません。同法人は特定非営利活動法人でありフェルディスクールとライセンス契約を交わしている以上、利益の追求ではなくリンパ浮腫に関する正しい知識を伝え、率先してフェルディスクール同様現在最も科学的根拠レベルの高い治療を行うという社会的責任を負うべきです。同法人あるいはその関連施設のために、フェルディ式の一部だけを真似た科学的根拠のない治療法がはびこる日本の現状が残念でなりません。
国際リンパ学会はリンパ浮腫の診断と治療に関し合意文書を作成し、ホームページ上に公開しています
( http://www.u.arizona.edu/~witte/ISL.htm )。同学会はこれをガイドラインではなく合意文書として公開する理由について、「これを作成した趣旨はリンパ浮腫の診断と治療における国際的合意を形成することであり、個別の臨床検討を無効とすることを意図してない」こと、また「医療過誤を定義する法的基準の規定を意図するものでもない」としています。われわれも従来、われわれのクリニックでは国際的に最も治療効果が高いとされる2段階治療プログラムからなる複合的理学療法を行うも、他施設でリンパ浮腫の治療として行われている科学的根拠の乏しいさまざまな治療法を否定する意図は全くないという姿勢を貫いてきました。その背景にはいずれ多くの医師がリンパ浮腫の治療に携わるようになり英文論文から海外の情報を得るようになってくれば、本邦でのリンパ浮腫治療もおのずと国際標準治療に沿ったものとなっていくものと信じて疑わなかったからです。しかし現状は残念ながら当クリニックが開院した8年前と全く変わっていません。大学で医学生に対しリンパ浮腫の診断・治療に関する講義が始まったという話は聞こえて来ませんし、講義を行うことができる医師も医学部にほとんど存在しない状態が続いています。病院内でリンパ浮腫外来を立ち上げたとしても医師はほとんど関与することなく、本来医師の指示に従いバンデージあるいはドレナージを施術すべきセラピストが診断・治療を一任されている状態です。そのセラピストの育成も鍼灸マッサージ師の育成を母体とする機関に委ねられたままのため、治療期が1-4週間で終了する2段階治療プログラムからなる複合的理学療法が普及せず、漫然と数週間あるいは数ヶ月に1回治療施設でドレナージやバンデージを繰り返すといった方法が普及しているのです。
私は7年程前関東圏の某特定非営利活動法人からリンパ浮腫治療に関する講義を依頼され、当初40-50人の講習生(理学療法士・鍼灸師)を相手に東京都内で講義をしていました。約6年前からは同法人の顧問として講義を行うとともに、リンパ浮腫の診断と治療に関する国際リンパ学会合意文書や他の有益な英文論文を紹介し、リンパ浮腫の治療法に関するアドバイスをするとともに治療結果に関するデーターの処理の方法などを指導してきました。そこでこの6年間絶えず言い続けて来たことは、欧米と同等の治療効果を得るためにはまず欧米で科学的根拠のレベルが最も高いとされている治療方法を行い、それと同じ効果が得られることを確認した上で、その後治療効果を下げない範囲で独自のアイデアを加えて行く事でした。しかし同施設では経営上のマネージメントの難しさを理由に、従来の科学的根拠の無い治療方法を変更することはありませんでした。すなわち毎日の連続したバンデージ治療が必要としているフェルディ法を無視して、1-2週間に1度バンデージ治療をひたすら繰り返し行う科学的根拠の無い治療法を継続しています。これでは病気を治すのではなく、定期的に患者を通院させ施術を無限に継続するというビジネスであり、治療ではないとする私の主張は最後まで聞き入れられませんでした。
エルテカ・フェルディ先生は「ドイツのリンパ浮腫治療環境および今後の展望」と題した講演で、「リンパ浮腫に対する基本的な治療としては、CDTと呼ばれる複合的理学療法があります。これは二つの段階があります。第1段階はリンパの排液、この第1段階のリンパ排液を省略しないできちんと行うことが非常に重要です。」と私と同様の意見を述べられています。しかし残念ながら同法人関連のセラピストがメディアや、リンパ浮腫患者を対象とした講演会で話し実際行っているのは、フェルディ先生の主張を全く無視した治療法です。もし己の施設の事情で本来すべき1日1回のリンパ排液を連日できない、すなわち第1段階のリンパ排液を省略せざるをえないのであれば、メディアやリンパ浮腫患者を対象とした講演会ではそのことを正直に述べるべきです。東京から当クリニックへ来院される患者さんからは、東京ではフェルディ法による2段階治療プログラムからなる複合的理学療法が受けられる施設がないとの話を聞きます。札幌では、大学病院ですらCDTの第1段階を省略した治療を行っています。すなわち同法人の影響がとてつもなく大きく、日本ではフェルディの提唱した2段階治療プログラムからなる複合的理学療法に関して正しい知識が患者さんやセラピストに伝わっていないのです。
2008年4月リンパ浮腫指導管理料が算定可能となって以降、日本中のがん治療施設でリンパ浮腫に関する知識をもつ看護師が必要となりました。そのため非常に多くの看護師さん達が同法人で講義を受けるようになりましたが、講習料ばかり高くなって正しいフェルディ式リンパ浮腫治療を日本にも広めるよう講義内容を見直すような努力をしていません。同法人は特定非営利活動法人でありフェルディスクールとライセンス契約を交わしている以上、利益の追求ではなくリンパ浮腫に関する正しい知識を伝え、率先してフェルディスクール同様現在最も科学的根拠レベルの高い治療を行うという社会的責任を負うべきです。同法人あるいはその関連施設のために、フェルディ式の一部だけを真似た科学的根拠のない治療法がはびこる日本の現状が残念でなりません。
略歴
山本 律(やまもと りつ)
昭和56年3月 北海道大学医学部医学科卒業。北海道大学病院・市立札幌病院・市立旭川病院・国立札幌病院において臨床研修後、昭和61年10月〜北海道大学病院勤務。平成元年〜3年 ロックフェラー奨学生として米国ペンシルバニア大学留学。
北海道大学大学院医学研究科 婦人科学分野 助教授を経て、平成17年9月 リズミック婦人科クリニック開設。平成18年12月 医療法人社団 リズミック産婦人科クリニック 理事長
昭和56年3月 北海道大学医学部医学科卒業。北海道大学病院・市立札幌病院・市立旭川病院・国立札幌病院において臨床研修後、昭和61年10月〜北海道大学病院勤務。平成元年〜3年 ロックフェラー奨学生として米国ペンシルバニア大学留学。
北海道大学大学院医学研究科 婦人科学分野 助教授を経て、平成17年9月 リズミック婦人科クリニック開設。平成18年12月 医療法人社団 リズミック産婦人科クリニック 理事長