市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
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市民のためのがん治療の会
より高精度で胃がんを早期発見するには
『胃がん検診で推奨されるのは「バリウム検査だけ」という不思議』
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
当会には人間ドックを含む検診で問題ないと言われていたのに検査後まもなくがんが発見された無念の気持ちが寄せられることがある。なんでも100%ということはないので、ある程度はやむを得ないこともあるかもしれないが、ご本人やご家族にとっては何とも割り切れない気持ちであろう。
検査結果の解析は読影をはじめ、医師等の医療側の力量の差はいかんともしがたいと思うが、その前に検査方法の問題がある。胸の]線間接撮影はそもそも結核予防法に基いて行われているが、肺がん検診にも利用される。胸の]線間接撮影の効果について問題になったこともあったが、うやむやになっていまだに行われているようだ。肺がんについてはヘリカルCTによる検査を主張しておられる方もある。
今回の胃がんもそうだ。例のバリウムでは影として腫瘍が把握されるだけで、粘膜に薄く広がるタイプのものは見落とされるのではないか。内視鏡で直接診る方がはっきり分かるに決まっている。 ついでに食道も診られる。
結局多田先生もおっしゃる通り、議論は患者=消費者不在で、下衆の勘繰りと言われればそれまでだが、胸の]線間接撮影も、バリウムによる胃がん検診も、変更になれば検診車をはじめとする検査事業者並びに事業者団体の体制にとって大問題になるので今回の厚労省研究班の見解も現状維持ということになり、今まで通りとなったのではないかなどと、つい考えてしまう。
常に物事は、何のためにやっているのか、そのために一番いい方法は何か、を考えるべきだろう。 因みに、胃カメラは良いとしても、バリウム検査より費用が、というご意見もあろう、熱心な読者はご存じであろうが、既に多田先生には本年2月に、『さいたま市民はなぜ内視鏡検査を1000円で受けられるのか』
http://www.com-info.org/ima/ima_20130206_tada.html
と題してご寄稿いただいておりますので、改めてご覧ください。
なお、このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)
http://jbpress.ismedia.jp/
2013.09.03(火)に掲載されたものをご厚意で転載させていただいたものです。
いつもながらの多田先生のご厚意に感謝いたします。(會田昭一郎)
 8年ぶりとなる「胃がん検診ガイドライン」の改訂を前にして、日本消化器がん検診学会が9月30日まで意見募集を行っています。

 今回のガイドライン案の結論は、「胃がん検診として推奨できるのは胃のX線検査(バリウム検査)のみであり、他の胃内視鏡検診、ヘリコバクター・ピロリ検査などは胃がん検診として推奨しない」ということです。

 胃がんは現在でも日本人の癌罹患率トップであり、その対策は国民的課題と言ってもよいでしょう。

 その予防対策として、胃がんの一番の原因とされているヘリコバクター・ピロリ菌の検査を推奨しないというのです。おまけに、胃がんの発見率が内視鏡より遥かに劣るX線検査を推奨するという決定がなされました。

 言い換えれば、「胃がんの死亡率を減らしたければ、胃内視鏡よりも精度の低い胃のバリウム検査を受けることを推奨します」という決定です。

 胃がん検診を受ける方々はもちろん“がんを早く見つけたい”と願っています。しかし、その思いが聞き入れられているとはとても思えないガイドラインだと言うしかありません。

 この決定は、医療の本来の目標であるはずの“みんなが健康で長く暮らせること”が見失われているという、医療にまつわる根深い問題を示す象徴的な出来事ではないかと思います。


【最重要項目は「根拠が十分あるかどうか」】

 現場の医師の感覚として、白黒の胃のバリウム検査よりもカラーの内視鏡の方が胃がん発見率が高いのは間違いないでしょう。

 しかし、ガイドライン判定の場では、いくら「さいたま市では胃内視鏡検診を導入することで、今までのバリウム検査では早期がんは20%しか見つからなかったのに、内視鏡検診では早期がんの段階で見つかる方が80%になった」と主張しても、「胃内視鏡検診の方ががんを早期に発見できることを示唆する報告はあるが、根拠(エビデンス)不十分」とされてしまいます。

まず、バリウム検査と胃内視鏡検査を患者に自由選択で選ばせている時点で、“対象の選び方に問題あり”とされてしまいます。さらには、胃内視鏡検査はまだ開始してから数年しか経過していないため「観察期間が短い」という問題があるから「根拠として不十分」となってしまうのです。

 完全な研究データーを揃えるためには、“胃のバリウム検査を受ける人たち“と”胃内視鏡を受ける人たち“を振り分け、長期的にその状態のまま観察しなければなりませんが、そのような研究を行うことは現実問題として不可能です。

 ガイドライン委員会の最重要事項は、「十分な期間と数多くの症例数が揃っていて文句のつけようのない証拠となっているかどうか」です。そのような観点から判断すれば、まだ始まって間もない胃内視鏡検診が「胃がん検診に有効性あり」と決定されることはあり得ないのです。


【一致しない各プレイヤーの最重要目標】

 「胃内視鏡検査は根拠が十分にまだ揃っていないので、胃がん検診のガイドラインとしては推奨できない」というガイドライン委員会の主張は、理屈としては分かります。

 しかし、それはあくまで、「証拠が十分にあること」を最優先事項として判定するガイドライン決定の場においては、という条件付きでの話です。

 胃がん検診時に何を最重要視するかは立場によって様々です。

 例えば、胃がん検診として「ペプシノゲン検査」(血液検査で胃炎の強さを判定する検査、胃内視鏡検査よりもコストは5分の1程度で済む)を行うことも、胃がん検診のコストを下げることを最重要目標とする保険者側の立場からすると十分に正しいと思います。

 一方で、医療現場(開業医を中心とする医師会)が「胃内視鏡検査を全員に行うことが最も有効な胃がん検診である」と主張するのも、胃がんの早期発見率を高めるということを最重要目標とするのであれば一番の王道のはずです。

 このように、「十分なエビデンス(根拠)」を目標とするか、「コストパフォーマンス」を目標とするか、「胃がんの発見率(胃がん検診の精密さ)」を目標とするか、医療を行う立場によって最重要目標が異なります。同じ医療業界の中で別々の目標を目指しているのが医療現場ではよく起こる問題なのです。


【みんなの究極の目標は同じはず】

 これに対する打開策は1つしかないと思います。

 つまり、検診や医療の究極の目標は「みんなが健康に長生きできること」のはずです。それに異論を唱える人はいないでしょう。その目標に向かって、各自の方向性を修正すればよいのです。

 「みんなが健康で長生きできること」という究極の目標の前では、「証拠か現段階で不十分である」ことにはこだわっていられないはずです。また、「コストが高いから安い検査を」ではなく、「最良の検査をコストを下げて提供する方策」をギリギリまで模索すべきです。医師側も「万全」ばかりにこだわるのではなく、技量と診断技術の向上によるコスト削減に努力すべきでしょう。

 胃がん検診のコストパフォーマンスと質の向上に関しては、次のような“さいたま市方式”が1つの答えになり得るのではないかと思います。

 市民全員に胃内視鏡検査を提供して内視鏡画像を全て回収し、専門医によるダブルチェックを行います。一方でコスト上昇を抑えるために、「胃底腺ポリープ(胃の良性ポリープ)や十二指腸潰瘍(ガンになることはない)の病理組織検査は行わない」などの内部規則を徹底する、というものです。

 ガイドライン委員会も「根拠が不十分である」点を強調するのではなく、根拠が揃うまでの時間により失われる国民の健康を考慮した上で最終声明を出すべきではないでしょうか。

略歴
多田 智裕(ただ ともひろ)

平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士


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