市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
進行胃癌の克服
『がん患者としての自戒』

近畿大学学長 塩ア 均
NHKラジオ第一の人気番組「ラジオ深夜便」。愛聴しておられる多々方も多いと思う。午前4時台の「明日へのことば」は様々な興味深いテーマでのインタビューだ。
先日、近畿大学学長の塩ア均先生のインタビューが放送された。W期の進行胃癌ということであった。少し前までは日本ではがんと言えば胃がんと言われるほど胃がんは多かったが、食生活や衛生状態の改善によって、相対的に全てのがんに占める胃がんの割合は減ってはいるものの、依然として日本では多いがん種のひとつだ。
塩ア先生の場合はかなり悪性度の強いがんだったようで、番組でも治療のご苦労を縷々語られたが、結局、この難治性胃がんを克服された。
そこで是非「がん医療の今」にご寄稿いただき、みなさんにも情報提供していただきたいと思いお願いしてみたところ、ご快諾いただいた。ご多用の折柄ご寄稿いただきました塩ア学長先生には改めて御礼申し上げます。また、全く一面識もない先生にご寄稿をお願いするについては、日頃ご指導いただいている日本放射線腫瘍学会理事長で近畿大学医学部教授の西村先生のお口添えをいただきました。西村先生に御礼申し上げます。(會田 昭一郎)
第IV期進行胃癌のがん患者として闘病生活、さらにその後の経過を振り返り、化学放射線療法後の胃切除患者が経験している日常を報告する。

近畿大学医学部附属病院の院長に就任し、多忙であったこともあり2年ぶりに受けた検診(PETセンター開設のモニターとしてPET/CT検査を受けた)で、私の専門分野の進行胃癌(No.16リンパ節に複数の転移)が発見され、治療する身が治療を受けることとなった。PET検査の画像に映し出された状況が自分のものとは信じられなく、茫然としたあの時の気持ちが、今でも鮮明に甦ってくる。発見される2年前に胃内視鏡検査を受け何も異常がないことを確認しており、半ば安心して受けた検査であった。その日から、今後を如何に生きるかの自問自答が数日間繰り返された。一度は何も治療しないでやり残したことをやり遂げようと考えた。しかしながら、がん治療の外科専門医として多くの胃がん患者さんを手術してきた医師として、出した結論は「諦めるのではなく、自分が今まで培ってきた知識や技術を総動員してできるだけのことをやってみよう」であった。胃癌では通常行われない抗がん剤と放射線治療を組み合わせた化学放射線治療を試みることにした。この治療に関しては放射線治療医が胃がんには有効であるとの根拠(エビデンス)がないことを理由に、当初は反対したが、私自身のことであり説得に努め最終的には了解を得た。抗がん剤の点滴+放射線治療を受け、その後、手術を予定した。食道がん患者には通常行われている治療であるが、私自身も胃癌患者にこの治療を行うのは初めての試みであった。苦しい化学放射線治療が終了し、2か月後に胃切除術(D3リンパ節廓清:腹部大動脈周囲リンパ節廓清)を受けた。

1、術4日後から嘔気、嘔吐があり、水分の摂取も上手く進まず、末梢からの補液のみの栄養管理が難しい状況で、1か月間に15Kgの体重減少を経験した。
2、その後、朝食にパン食がだめなこと、お茶碗半分量のお粥と副食が最も良く摂取・消化できることを経験し、術後1か月で社会復帰した。
3、手術後8年を経過し、体重は5Kg回復したが、朝食の摂取が上手くいかないと1日中食事摂取が進まないこと、時々起る腸閉塞の恐怖など、胃切除を受けた者でないと解らないこと経験をしている。

今日、元気に社会生活を過ごせていることについて感じるのは、「天命」「家族の支え」を実感し、「諦めない、弱音を吐かない」「今が一番若い」の実行であり、「一期一会」「敬天愛人」「則天去私」などの先人の教えの有難さである。 そのお蔭で、これらの悩みを通じて患者さんとの良好なコミュニケーションを取り合える喜びを味わっているし、病を経験することは必ずしも不幸なことではないと患者さんと語り合えるこの頃である。

 そこが聞きたい
Q 「胃癌では通常行われない抗がん剤と放射線治療を組み合わせた化学放射 線治療を試みることにした。この治療に関しては放射線治療医が胃 がんには有 効であるとの根拠(エビデンス)がないことを理由に、当初は反対したが、私自身のことであり説得に努め最終的には了解を得た。抗が ん剤の点滴+放射線治療を受け、その後、手術を予定した。」とのことですが、素人でも一般的に、胃がん、大腸がんなどの治療の第一選択は手術 で、放射線治療の適応にはならないということは分かっておりますが、ご専門の医師であられる先生が放射線治療医も反対した化学放射線療法を選択されて成功されたことは、一般の患者からすると、先生のような方だから周囲の先生方も応じてくださったが、私たちは望んでもそのような治療は受けられない、と思うと思います。 先生の受けられた治療はいわゆる標準治療ではないのでしょうが、一般市民は受けられない治療法ではないでしょうか。特に国がんのようにプロトコルに従っての治療しかしないようなところでは望むべくもないことのように思われます。一般市民でも、もちろん先生と同じようなタイプの胃がんの場合、望めば、先生のような治療が受けられるのでしょうか。

A ご指摘の件は現在の医療の大きな問題点です。
現在関西地区を中心にOGSGとういう研究グループで私が行った治療を近畿大学が中心になり臨床試験を行っています。なかなか良好な成績が出ているようです。
そのうち、成績がまとめられて報告されると思います。

Q いまどき胃がんなどで残念な結果になるのも悔しい限りですが、実は「市民のためのがん治療の会」10年の活動の中で、胃がんで悲しい結末を迎えられた方々もたくさんおられます。先生の貴重な、文字通り命がけのご治療で、大きく胃がん治療が進む光明が見えました、本当にありがとうございました。

もう一点、10年間の市民のためのがん治療の会の活動の中で、人間ドックでの見落とし?で、あっという間に残念な結果になった方々の無念の声がたくさん あります。
そこで2年前の検診で問題ないのに、2年後にW期の進行がんが発見されるというのも驚きです。私は舌がん患者ですが、消化器系統に多重がんが発生する傾向があるので、胃、大腸などの検診は受けるように言われており、先日も胃と大腸の内視鏡検査を受けたばかりです。その時検査の先生から、私の場合胃は2年、大腸は5年ぐらいに一度見ておいたらどうでしょうと言われましたが、先生のお話を伺うと、不安になります。胃は毎年 検査ぐらいが必要でしょうか。


A 内視鏡検査を行っていても、胃がんは1年、大腸がんは2年が早期発見の限界と思います。食道癌では半年前の食道造影では全く異常なく、半年後進行癌という症例を数例経験しております。
胃癌といえども、進行の非常に早いものから、ゆっくり大きくなるものまで様々です。がんの局所は小さくても転移をしているものもあり、その人その人により異なりますので、一概にこうですよと言うことはできません。これが、がんの難しいところです。とにかくこまめにまじめに検診を受けることが必要です。医学の世界では見落としも含めて、絶対大丈夫は無いと考えるべきです。

Q ありがとうございました。このたびは突然のお願いにもかかわらず、また、ご公務ご多端の折柄ご寄稿いただき、更にはご丁寧にご回答いただき本当にありがとうございました。先生もどうぞご自愛いただきまして、ますますのご活躍をお祈り申し上げます。



略歴
塩ア 均(しおざき ひとし)

和歌山県出身、大阪大学医学部医学科卒業。
平成13年、近畿大学教授(現在に至る)、大学院医学研究科授業担当。
        医学部外科学 I 教室勤務、医学部附属病院第一外科部長兼務。
平成14年、医学部附属病院中央手術部長。
平成15年、医学部外科学教室勤務、医学部附属病院外科部長兼務。
        医学部外科学教室(上部消化管外科部門)勤務、
        医学部附属病院上部消化管外科部長兼務。
平成16年、医学部附属病院長。
        学校法人近畿大学評議員就任(現在に至る)。
平成20年、医学部長(現在に至る)。
平成21年、学校法人近畿大学理事就任(現在に至る)。
平成24年、学校法人近畿大学学長就任(現在に至る)。


Copyright (C) Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.