未承認の医薬品等の迅速な使用を求めて
『保険外併用療養費制度における新たな仕組みに関する意見』
規制改革会議
医学にも限界があることは分かる。だが、何としても生きたいと思う患者は、様々な治療法を求め彷徨う。がん難民だ。
だが、このような治療法などは効果もはっきりしていないばかりか、むしろ害になるものもあり、しかも多くが法外な高額であることが多い。
しかし現時点ではその効果や安全性について国が認めるには至っていないものの、既に多くの臨床研究などを経て、かなりの効果が認められる治療法もある。患者としてはこれらの治療法を何とか受けたいと思う。ちょっとマウスの実験でいい成績が出た程度のものでも試してみたいとまでは言わない。一定のルールの中で、患者が生きたいと思う希望をかなえたい。
当会はこうしたいわば生存権に関わる患者の気持ちを何とか実現したいとかねてから訴えていたが、この度、規制改革会議から、ほぼ我々の主張に近い案が出されたので、ご紹介する。(會田昭一郎)
現在の健康保険制度では、保険外診療を一緒に受けると原則として保険診療まで全額自己負担になる(いわゆる混合診療禁止の原則)。この仕組みに対して、以前から制度のあり方が繰り返し議論され、厚生労働省が指定する治療については「保険外併用療養費制度」として、保険診療との併用が認められるようになった。
当会議は、この現行制度について、医療現場の臨床医師などからのヒアリングや厚生労働省との議論を重ね、公開討論を実施してきた。これらの議論を通じて、現行の保険外併用療養費制度のもとでも、必ずしも患者のニーズに迅速に応えられない問題があることが明らかになった。医療技術の革新がきわめて速いスピードで進むため、現行制度では個々に事情が異なる患者の切実なニーズに迅速に応えきれないのである。
安倍総理からも、この4月に「困難な病気と闘う患者さんが未承認の医薬品等を迅速に使用できるように、保険外併用療養費制度の仕組みを大きく変えるための制度改革」を実現するよう関係大臣に指示された。
当会議は、困難な病気と闘う患者が、未承認の医薬品等の保険外の治療を希望する場合に、安全性・有効性の確認を前提に、現在よりも迅速に、患者の必要に応じて治療を受けられるようにする仕組みとして、保険外併用療養費制度のなかに、既存の「評価療養」「選定療養」に加えて、患者ひとりひとりの治療を主な目的とする、“患者起点”の新たな仕組み(以下「選択療養(仮称)」)を創設することを求める。
T 新制度のねらい―「評価療養」との違い
「選択療養(仮称)」は、現行制度では救済できない患者が、安全性・有効性を確認するための手続きを経ることによって、保険診療と保険外療養とを併用できるようにするものである。当会議が現行の「評価療養」と別に新たな仕組みの創設を通して目指そうとするものは、次の4点である(具体的な手続き・メリット等は、規制改革会議平成26年4月23日資料1−2を参照)。
1.患者の治療の選択肢を拡大する
患者が強く希望する治療を受けられるよう、治療の選択肢を拡大することを目指す。後述の手続きによって、安全性・有効性を確認することを前提に、患者を起点として併用を認めることとして、治療の選択肢を現行の「評価療養」より拡大し、そのことによって、経済的負担等の問題が治療の妨げにならないようにする。選択肢の拡大は、先進医療の開発を促す効果も期待される。
2.評価療養対象外の患者にも治療の機会を提供する
現行の評価療養は、“保険導入のための評価”が主な目的となるため、評価を行うための実施計画(いわゆるプロトコル)が求める諸条件を満たすことが必要となり、その結果、評価療養の対象患者は、年齢制限や他の病気に罹患していないなどの一定の基準にあてはまる患者に限られる。したがって、評価療養対象外の患者にも希望する治療を受けられるようにする必要がある。
3.患者が必要とする保険外診療を迅速に受けられる
現行の「評価療養」では、実際に治療を実施するまでに平均6〜7か月(先進医療ハイウェイ構想等により期間を短縮してもおおむね3か月)の期間を要し、患者の切実なニーズに十分には応えきれない。「選択療養(仮称)」においては、患者からの申出を起点として、国内未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用できるようにすることを目指す。
4.患者のアクセスの改善
現行の「評価療養」は、保険収載への評価を行うことが本旨であるため、実施計画で定めた症例数を集めるために、技術ごとに定められた要件を満たし、国の承認を得た医療機関(1つの医療技術に対し平均で10医療機関程度)でのみ治療が行われる。したがって、全国の患者が容易にアクセスできるものではない。
「選択療養(仮称)」では、当該患者の治療を適切に実施できる体制(例えば、専門科/専門医の配置、設備、経過観察の体制、万一の健康被害への対応、他医療機関との連携など)が整っていることを後述の「診療計画」に明記する。それが確認されれば、診療内容に応じて、できる限り患者に身近な医療機関でも治療を受けられるようにする。
U 新制度の仕組み― 安全性・有効性の確保と皆保険制度の堅持
新制度では、国民皆保険制度の堅持を前提に、安全性・有効性を確保しつつ、評価療養と両立する仕組みとして、次の手続きがとられる(詳細は前掲資料1−2参照)。
1.治療の安全性・有効性の確保のための手続き
患者が治療内容に対して十分な情報を持ち得ないがゆえに、合理的な根拠が疑わしい治療や自己負担を拡大させるだけの治療を受けるようなことは、決してあってはならない。このような治療を「選択療養(仮称)」の対象から除外し、治療の安全性・有効性を確保するために、次の手続きをとることとしている。
@ 医師は海外の治療実績等のエビデンスに基づいて安全性・有効性の確認を行い、一定の要件を満たす「診療計画」をエビデンスとともに患者に書面で提示して説明する。患者やその家族が理解し、納得することが「選択療養(仮称)」の前提である
A 医師は@の書類を添付して申請し、専門家が全国統一的に中立的・客観的な立場から、当該患者の治療の安全性・有効性や患者への不利益の有無について迅速に確認する
B 医師と患者の間の大きな情報格差を考慮して、Aの結果を患者に直接情報提供する仕組みを設ける
2.評価療養や保険収載につなげる仕組み
「選択療養(仮称)」の実績を「治療結果報告書」として当局に提出することで、「選択療養(仮称)」を評価療養のプロセスに載せ、保険収載される可能性のある診療が「選択療養(仮称)」に留まらないように、将来の保険収載につなげる仕組みをつくることができる。ただし、「選択療養(仮称)」から評価療養に移行させる場合に、当該診療を受けられる医療機関へのアクセスが制限されることがないよう十分な配慮が必要である
V まとめ
以上のとおり、「選択療養(仮称)」は、現行の「評価療養」では対応しきれない患者の個別の治療を主な目的とするものである。
「選択療養(仮称)」は、将来の保険収載の道をひらくルートになるとともに、現行の「評価療養」では対応できない個々の患者の切実なニーズに応じた治療を迅速に行うことを目的とする新たな仕組みである。今後の「選択療養(仮称)」の制度設計においては、国民皆保険制度のもとで、安全性・有効性が確保されることを前提とし、可能な限り患者の直面する制約が取り除かれるような制度とする必要がある。
(参考)
「選択療養(仮称)」の趣旨、仕組み及び効用
第30 回規制改革会議 資料1−2(平成26 年4 月23 日)
詳細は コチラをダウンロード
当会議は、この現行制度について、医療現場の臨床医師などからのヒアリングや厚生労働省との議論を重ね、公開討論を実施してきた。これらの議論を通じて、現行の保険外併用療養費制度のもとでも、必ずしも患者のニーズに迅速に応えられない問題があることが明らかになった。医療技術の革新がきわめて速いスピードで進むため、現行制度では個々に事情が異なる患者の切実なニーズに迅速に応えきれないのである。
安倍総理からも、この4月に「困難な病気と闘う患者さんが未承認の医薬品等を迅速に使用できるように、保険外併用療養費制度の仕組みを大きく変えるための制度改革」を実現するよう関係大臣に指示された。
当会議は、困難な病気と闘う患者が、未承認の医薬品等の保険外の治療を希望する場合に、安全性・有効性の確認を前提に、現在よりも迅速に、患者の必要に応じて治療を受けられるようにする仕組みとして、保険外併用療養費制度のなかに、既存の「評価療養」「選定療養」に加えて、患者ひとりひとりの治療を主な目的とする、“患者起点”の新たな仕組み(以下「選択療養(仮称)」)を創設することを求める。
T 新制度のねらい―「評価療養」との違い
「選択療養(仮称)」は、現行制度では救済できない患者が、安全性・有効性を確認するための手続きを経ることによって、保険診療と保険外療養とを併用できるようにするものである。当会議が現行の「評価療養」と別に新たな仕組みの創設を通して目指そうとするものは、次の4点である(具体的な手続き・メリット等は、規制改革会議平成26年4月23日資料1−2を参照)。
1.患者の治療の選択肢を拡大する
患者が強く希望する治療を受けられるよう、治療の選択肢を拡大することを目指す。後述の手続きによって、安全性・有効性を確認することを前提に、患者を起点として併用を認めることとして、治療の選択肢を現行の「評価療養」より拡大し、そのことによって、経済的負担等の問題が治療の妨げにならないようにする。選択肢の拡大は、先進医療の開発を促す効果も期待される。
2.評価療養対象外の患者にも治療の機会を提供する
現行の評価療養は、“保険導入のための評価”が主な目的となるため、評価を行うための実施計画(いわゆるプロトコル)が求める諸条件を満たすことが必要となり、その結果、評価療養の対象患者は、年齢制限や他の病気に罹患していないなどの一定の基準にあてはまる患者に限られる。したがって、評価療養対象外の患者にも希望する治療を受けられるようにする必要がある。
3.患者が必要とする保険外診療を迅速に受けられる
現行の「評価療養」では、実際に治療を実施するまでに平均6〜7か月(先進医療ハイウェイ構想等により期間を短縮してもおおむね3か月)の期間を要し、患者の切実なニーズに十分には応えきれない。「選択療養(仮称)」においては、患者からの申出を起点として、国内未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用できるようにすることを目指す。
4.患者のアクセスの改善
現行の「評価療養」は、保険収載への評価を行うことが本旨であるため、実施計画で定めた症例数を集めるために、技術ごとに定められた要件を満たし、国の承認を得た医療機関(1つの医療技術に対し平均で10医療機関程度)でのみ治療が行われる。したがって、全国の患者が容易にアクセスできるものではない。
「選択療養(仮称)」では、当該患者の治療を適切に実施できる体制(例えば、専門科/専門医の配置、設備、経過観察の体制、万一の健康被害への対応、他医療機関との連携など)が整っていることを後述の「診療計画」に明記する。それが確認されれば、診療内容に応じて、できる限り患者に身近な医療機関でも治療を受けられるようにする。
U 新制度の仕組み― 安全性・有効性の確保と皆保険制度の堅持
新制度では、国民皆保険制度の堅持を前提に、安全性・有効性を確保しつつ、評価療養と両立する仕組みとして、次の手続きがとられる(詳細は前掲資料1−2参照)。
1.治療の安全性・有効性の確保のための手続き
患者が治療内容に対して十分な情報を持ち得ないがゆえに、合理的な根拠が疑わしい治療や自己負担を拡大させるだけの治療を受けるようなことは、決してあってはならない。このような治療を「選択療養(仮称)」の対象から除外し、治療の安全性・有効性を確保するために、次の手続きをとることとしている。
@ 医師は海外の治療実績等のエビデンスに基づいて安全性・有効性の確認を行い、一定の要件を満たす「診療計画」をエビデンスとともに患者に書面で提示して説明する。患者やその家族が理解し、納得することが「選択療養(仮称)」の前提である
A 医師は@の書類を添付して申請し、専門家が全国統一的に中立的・客観的な立場から、当該患者の治療の安全性・有効性や患者への不利益の有無について迅速に確認する
B 医師と患者の間の大きな情報格差を考慮して、Aの結果を患者に直接情報提供する仕組みを設ける
2.評価療養や保険収載につなげる仕組み
「選択療養(仮称)」の実績を「治療結果報告書」として当局に提出することで、「選択療養(仮称)」を評価療養のプロセスに載せ、保険収載される可能性のある診療が「選択療養(仮称)」に留まらないように、将来の保険収載につなげる仕組みをつくることができる。ただし、「選択療養(仮称)」から評価療養に移行させる場合に、当該診療を受けられる医療機関へのアクセスが制限されることがないよう十分な配慮が必要である
V まとめ
以上のとおり、「選択療養(仮称)」は、現行の「評価療養」では対応しきれない患者の個別の治療を主な目的とするものである。
「選択療養(仮称)」は、将来の保険収載の道をひらくルートになるとともに、現行の「評価療養」では対応できない個々の患者の切実なニーズに応じた治療を迅速に行うことを目的とする新たな仕組みである。今後の「選択療養(仮称)」の制度設計においては、国民皆保険制度のもとで、安全性・有効性が確保されることを前提とし、可能な限り患者の直面する制約が取り除かれるような制度とする必要がある。
(参考)
「選択療養(仮称)」の趣旨、仕組み及び効用
第30 回規制改革会議 資料1−2(平成26 年4 月23 日)
詳細は コチラをダウンロード