市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
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市民のためのがん治療の会
興味深い治療法
『がんの温熱療法(ハイパーサーミア)』

産業医科大学 放射線科学 大栗隆行
がんの温熱療法は、手術や放射線治療のようなシャープな切れ味鋭い治療法ではない。むしろ放射線治療などと併用されて、その効果を増す、いわゆる増感作用を発揮するようなことが多いようだ。だが、コレラなどの高熱を発する疾病によって他の疾病が改善もしくは完治するようなことは古くから経験的に知られており、がんも42℃程度でかなりのダメージを受けることから、がんの温熱療法も古くから研究が続けられている。
個人的には非常にかんしんをもっているが、完治は見込まれなくても、緩和医療などにおいて活用が見込まれるのではないかと思う。
患者サイドからは様々な研究開発を望みたいところだが、いわば派手な効果をもたらすものではないといってよいこの穏やかな治療法はいつものように、患者サイドの見地からではなく、社会経済的な要因から私が受けた舌がんの「小線源治療」などと同様、「絶滅危惧医療」の一つとなっている。
一昨年がん・感染症センター都立駒込病院放射線科唐澤 克之先生にご寄稿いただいた『悪性胸膜中皮腫に対する温熱化学放射線療法』
http://www.com-info.org/ima/ima_20120222_karsawa.htmlも併せてご覧ください。
(會田 昭一郎)
 がんに対して行う温熱療法を“ハイパーサーミア”と言いますが、その歴史は古く紀元前の書物にがんの焼却法の記載が確認され、また約100年以上前にがんの治癒と発熱との関連が報告されています。1960年代に培養細胞を用いた温熱の細胞致死効果が確認されて以降、本格的な研究が進みました。多くの基礎研究がなされ、42-43℃の加温により加温時間と共に細胞の生存率が低下する点、温熱の効きやすさはがんの種類にあまり左右されない点、がんの方が正常な組織より加温されやすい点、放射線や抗がん剤に効きにくい低酸素細胞が温熱に弱い点、細胞の放射線や抗癌剤によるダメージからの回復が温熱により阻止される点、放射線の効きにくい細胞周期にあるがんは温熱が効きやすい点といった、がん治療における非常に有利なメリットが生物学的に解明されました。
 1980年代より加温機器の開発も進み、高周波やマイクロ波を用いた装置が使われています。現在では、がんの存在する領域の体表面を電極のついたパットで挟み込み高周波を流し発熱させる外部加温法が最も多く用いられています。1回の治療時間は約1時間で、表在性加温では加温する体表面の熱感を感じるのみです。胸部、腹部や骨盤領域に行う深部加温(乳がん・皮膚がん等を除く体の深部に存在する多くのがんが対象)では、熱感の他に軽く運動した程度の疲労感を生じますので、普段の生活を自立できる程度の体力は必要です。パットの接地する体表面付近は熱くなるので、深部加温ではパットの中は冷たい食塩水が還流し体の表面は冷やされます。放射線や抗癌剤の副作用(血球減少、消化器・神経症状等)が、この方法でのハイパーサーミアにより増悪することは通常ありません。
 1980〜1990年代に数多くの臨床試験が施行されました。特に表在性の腫瘍(乳がん・皮膚がん・頭頸部がん等)は、多くの無作為比較試験(いわゆるくじ引き比較試験)で放射線治療にハイパーサーミアを加えることでの腫瘍の消失する率や治療した腫瘍の再増大しない率の改善が確認されています。これらの結果から1990年より本邦ではハイパーサーミアは健康保険の適応となっています。私どもの経験でも、十分な温度上昇(42℃以上)が得られる症例は表在性腫瘍では多く、温度上昇に伴う放射線治療効果の改善を実感できることが多いです。臨床試験でも温度上昇とがんの制御率の関連が確認されています。つまり、表在性腫瘍は加温しやすい場合が多く、良い温度で加温できれば放射線治療の効く率が非常に高くなります。
 深在性腫瘍に関しては、表在性腫瘍と比べ行われた臨床試験の数はやや少ないですが、子宮頚癌、直腸癌や膀胱癌では放射線治療にハイパーサーミアを加えることでの治療効果の改善が無作為比較試験で確認されています。浅在性腫瘍と同様に放射線治療との併用では、良好な温度上昇と治療成績との相関が指摘されています。しかし、現状の深部加温装置は、深部の温度を上昇させるためには広範な領域(直径で20-30cm程度)を加温する必要があり、熱感・疼痛、発汗や疲労を生じやすく42℃以上の良好な温度上昇が得られるのは一部の患者(やせ型体型、非高齢者等)に限られます。
   一方で、抗がん剤の治療効果を改善させるのに必要と推定される温度上昇は、40-41℃程度のやや低い温度でも得られることが基礎研究で分かっており、この程度の温度上昇は深部加温でも多くの症例で達成することが可能です。抗がん剤にハイパーサーミア加えるメリットを検討した臨床試験は非常に少ないですが、近年、大規模な無作為比較試験がドイツを中心に行われ、軟部肉腫(四肢等に生じるがん)において治療成績の向上が確認されています。この試験での腫瘍内の温度は41℃台であり放射線治療との併用ほど温度上昇は必要とされない印象です。本邦でも、抗がん剤の治療効果の向上を目的としたハイパーサーミアの施行割合が増加しています。現在、臨床で用いられている多くの種類の抗がん剤でハイパーサーミアを併用するメリットが基礎研究では確認されています。今後、抗がん剤とハイパーサーミアの併用効果を解明する臨床試験が広く行われることが期待されています。

◎編集注:温熱用法についての治療施設などの情報については、日本ハイパーサーミア学会HPで、認定施設、指導医、認定医などの情報が得られますので、ご参考になさって下さい。
http://www.jsho.jp/index.php?option=com_content&view=featured&Itemid=50
略歴
大栗 隆行(おおぐり たかゆき)

平成9年、産業医科大学医学部を卒業。産業医科大学病院 放射線科入局、新日鉄八幡記念病院放射線科、産業医科大学大学院 第一病理学、マツダ株式会社 専属産業医を経て、平成20年4月より産業医科大学 放射線科学講師、現在に至る。 専門 放射線腫瘍学 特に温熱療法、肺癌


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