市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
これでも安全?
『鼻血論争を通じて考える』

北海道がんセンター 名誉院長
西尾正道
現状の被ばく線量で鼻血が出るなど、噴飯ものだ、というような主張をされる医師も沢山おられるようです。
ですが、放射線被ばくの健康被害は良く分からないことが多いそうで、先般、スウェーデン社会研究所で行われた講演会では、スウェーデンでは「我々には分からないことがたくさんある、だから情報を広範に公開して、市民と共有するのだ」という説明があり、立派な見識だと思いました。
京大原子炉研の小出先生は、危ないか危なくないか分からないときは、危ないと思って対応するべきで、結果的に危なくなければ、良かったね、と言えばいい、と言われていますが、その通りでしょう。
鼻血論争に関して、「市民のためのがん治療の会」最高顧問で北海道がんセンター名誉院長が5月23日、衆議院議員会館記者会見時に配布された資料を西尾先生のご許可を得て、掲載するものです。
なお、7月12日(土)午後、西尾先生の講演会を一橋大学社会学部「人間環境論」関連公開講座「放射線健康被害を含めた日本人の健康をどう守るか」として開講いたしますので、文末のチラシをご覧の上、ご参加ください。 (會田 昭一郎)
巷では、今更になって鼻血論争が始まっています。事故後は鼻血を出す子どもが多かったので、現実には勝てないので多くの学者は沈黙していましたが、急性期の影響がおさまって鼻血を出す人が少なくなったことから、鼻腔を診察したこともないと思われる専門家と称する学者達は政府や行政も巻き込んで、放射線の影響を全否定する発言をしています。これはまさにICRPの疑似科学盲信者の科学的研究姿勢の欠如と、原発推進者達の事実の隠蔽です。

 しかし、こうしたまだ解明されていない鼻血や全身倦怠感などの症状については、ICRPの基準では理解できないのです。ICRPの論理からいえば、シーベルト単位の被ばくでなければ血液毒性としての血小板減少が生じないので鼻血は出ないという訳です。しかしこの場合は大変深刻で、出血傾向による諸症状が出現し、鼻血どころではなく、歯磨き時に歯茎からも出血しますし、紫斑も出るし、消化管出血や脳出血なども起こり致命的となることもあります。しかし現実に血小板減少が無くても、事故直後は鼻血を出したことがない多くの子どもが鼻血を経験しました。伊達市の保原小学校の『保健だより』には、『1学期間に保健室で気になったことが2つあります。 1つ目は鼻血を出す子が多かったこと。・・・』と通知されています。またDAYS JAPANの広河隆一氏は、チェルノブイリでの2万5千人以上のアンケート調査で、避難民の5人に1人が鼻血を訴えたと報告しています。こうした厳然たる事実があるのです。

 この鼻血については、次のように考えられます。通常は原子や分子は何らかの物質と電子対として結合し存在しています。セシウムやヨウ素も例外ではなく、呼吸で吸い込む場合は、塵などと付着して吸い込まれます。このような状態となれば放射化した微粒子の状態となり、湿潤している粘膜に付着して局所的に放射線を出すことになります。そのため一瞬突き抜けるだけの外部被ばくとは異なり、(準)内部被ばく的な被ばくとなるのです。

 健康影響は、不溶性の放射性微粒子が、粘膜が湿潤した鼻・喉頭・口腔・咽頭の広範囲な粘膜に付着すると影響は強く出ます。この場合はいわゆる面積効果です。これらの内部被曝という観点では、@セシウムホットパーティクルの存在 A不溶性の微粒子ですぐには消えない B付着して被ばくする C面積効果 D子どもは高感受性で影響が強く出る E鼻血を出しやすいキーゼルバッハ部位は空気中のダストが最も集積する場所である。こうした要因を評価する必要があります。
 事故後数日間の状態では、放射性浮遊塵による急性期の影響が真っ先に出ます。放射性浮遊塵を呼吸で取り込み、鼻腔、咽頭、気管、そして口腔粘膜も含めて広範囲に被ばくすることになりますから、最も静脈が集まっている脆弱な鼻中隔の前下端部のキーゼルバッハという部位から、影響を受けやすい子どもが出血することがあっても不思議ではありません。

 また咽が痛いという症状もこうした機序によるものです。この程度の刺激の場合は粘膜が発赤したりする状態にはならず、診察しても粘膜の色調変化は認められませんが、粘膜の易刺激性が高まるため、広範な口腔・咽頭粘膜が被ばくした場合は軽度の痛みやしみる感じを自覚する訳です。受けた刺激を無視し、採血や肉眼的な粘膜炎所見などの明らかな異常がなければ、放射線が原因ではないとして刺激の実態をブラックボックス化するICRPの評価だけでは事実は解明できません。

 ICRPの健康影響評価では現実に起こっている被ばくによる全身倦怠感や体調不良などのいわゆる「ぶらぶら病」も説明できません。そのため何の研究や調査もせずに、精神的・心理的な問題として片付けようとする訳です。ちなみに医学的にはストレス症候群の身体症状の一つとしてて鼻血が出るという報告は有りません。
 今後、生じると思われる多くの非がん性疾患についても否定することでしょう。鼻血論争は、未解明なものは全て非科学的として退け、自分たちの都合のよい内容だけを科学的とする従来のICRP主義の人たちの発言の始まりでしかないと思います。
 医学論文で、空気中の粒子状ダストが鼻血を増加するという報告もありますし、放射線治療においては常識的なボリューム効果(この場合は付着した面積効果)も考えると、放射線が鼻血の大きな要因として関与していると考えられます。



略歴
西尾 正道(にしお まさみち)

独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科) 

 1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年がんの放射線治療に従事。

 がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、収善するための医療を推進。「市民のためのがん治療の会」顧問。


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