がん治療を考える
『放射線治療を選ぶ生き方の理由』
山梨大学大学院医学工学総合研究部
放射線医学講座教授 大西洋
1.これからの医療は高齢ながんの患者さんに選ばれる治療法が主役
日本では近い将来、世界でも類を見ない超高齢化社会が予測されており、これからの医療の主役はご高齢ながん患者さんたちです。図は主要国の対人口比の高齢者(65歳以上)の割合を示しています。日本の65歳以上の人口比率は、現在の出生率のままだと現在約四人に一人ですが、2030年ごろ三人に一人に、2060年頃には五人に二人になると予測されています。またこの高齢者のうち二人に一人以上は75歳以上が占めると考えられています。ご高齢な方へは福祉や介護も重要ですので医療費を国費からどのように捻出するかは大きな課題ではありますが、戦後の日本の復興に全力を尽くして我が国を支えてこらえたご高齢な方々への恩返しを我々が担っていかなくてはなりません。このような超高齢化社会においては、手術や化学療法の耐容性は低下し、必然的に低侵襲な放射線治療のニーズがより高まるでしょう。また75歳以上のがん治療についてはこれまでほとんど臨床試験がなく、標準的治療法を示す十分なエビデンスやガイドラインは存在していません。
2.「がん」に対する正しいイメージ
がんは、二人に一人が罹って三人に一人が亡くなる病気であり、日本人の死因のダントツトップである。言い換えると最もありふれた普通の死に方であり、人間の自然史に彩られた宿命ともいえ、決して目を背ける必要はなく、受け容れることが必要と思います。また、がんにかかっても半分は治る時代であり、発症してもすぐには死なないことは、死因の第二位・三位に位置する脳卒中や心疾患が発症日にそのまま息を引き取ることも少なくない病態と異なり、人生において非常に大きな意味をもつと思います。がんという病気にかかって初めて生きる意味や喜びを意識することが出来るでしょうし、その後の人生に輝きを持たせることもあるでしょう。また、もし先が長くなくとも、身の回りを整理したり、大切な家族や友人との暖かい人間関係が形成されたりするでしょう。最近の話題では、昭和時代に「イケメン力士」として名をなした竜虎関が家族と旅行中に突然「胸が苦しい」と訴え、心筋梗塞でそのまま息を引き取られましたが、何よりクローズアップされたのはご子息さんたちが「お父さんにこれまで一言も感謝の気持ちを言葉で伝えたことが無いのが最大の悲しいことです」とインタビューに痛々しく答えていたことです。このような点で、がんは「自分の生きる意味」についての認識を促してくれる「人間としての尊厳に満ちた自然の摂理」とも言えるのではないでしょうか。なお、がんの末期においてかつては「今死んでもいいから今すぐに除去して欲しい」、と恐れられた痛みや苦しみは、最近では薬物療法や放射線治療をうまく使用することで概ね緩和することが可能になってきています。
3.放射線治療の特徴と高度に進化した先端放射線照射技術
局所的ながんを根絶する主な治療法には手術と放射線治療があります。手術と比較して放射線治療は、@低侵襲(安全で心身に優しい)、A臓器の機能と形態を温存できる、B外来通院でも治療ができる、などの患者さんにとってのメリットがあります。@は痛くない・怖くない・安全で心身に優しい、Aは治療前と同じ生活の質を維持できる、Bは入院しないので仕事も家事も維持できる、ということを意味し、一言でまとめると「治療中も治療後も普段の生活を壊さずに今まで通りにいられること」であります。図1は、歯肉(歯茎)の巨大ながんが進行してあごの骨を溶かしてしまっている症例ですが、放射線治療によりがん病巣が消失しただけでなく溶けてしまっていた骨が元に戻っています。手術でがんを切除することはできても、骨が元通りになることはありません。
図1 歯肉がんの放射線治療前後のCT写真
このように患者さんにとって好ましい長所も多い放射線治療ですが、旧来の放射線治療技術では治療中や治療後に副作用で苦しむこともありますし、病態によっては手術に比べて根治度は高くない場合もあります。また、放射線誘発がんを発生しうる、という問題点もあります。この問題に対して、昨今の照射技術の進歩はめざましく、従来は不可能であった腫瘍への精密な線量集中性を実現できるようになりました。そのための具体的な高精度放射線治療技術として、体幹部定位放射線治療、強度変調放射線治療、粒子線治療、画像誘導放射線治療、呼吸性移動対策などが挙げられ、かなり普及してきています。
4.手術の欠点と放射線治療のおまけ的効果
患者さんたちにとって手術を受けるときに悩ましいのは、切ることで根治に結びつくことが期待できる長所もある一方で、「臓器を切り刻む」ことによる「臓器の損失」の問題点が存在することです。前者は「臓器の機能と形態の損失」であり、がんを治すこととひき替えに我慢を強いられますが、比較的わかりやすい手術の具体的なデメリットです。それでは手術に伴う侵襲とは何を意味するでしょうか。手術侵襲とは、傷を治すために発生する「炎症」と、「心身のストレス」を意味し、炎症はサイトカイン、ストレスはコルチゾールやアドレナリンという生理活性物質の放出によります。ここからはやや専門的な話で一般の方には分かりにくいかもしれませんが、炎症やストレスががん細胞にどんな影響を及ぼすかについての医学的な学説を説明しますと、サイトカインはがん細胞の悪性度を促進し、コルチゾールは免疫抑制作用があると言われています。更に手術によるマイナス効果として、病巣周辺のリンパ節を切除してしまいますので、元々あったリンパ節のがん細胞をトラップして免疫反応を起こすという貴重な場が喪失してしまう可能性も考えられています。また、全身麻酔自体も免疫機能を低下させることが分かっています。以上をまとめると、手術は「病巣とともに身体の一部が失われて怖い」というだけでなく、「がん細胞を悪性化したり免疫機能を低下させたりすることがある」という短所が伴う可能性がありますが、このことは一般にはあまり知られていないかもしれません。最近では、手術も内視鏡などを用いて低侵襲化が進歩しており、切除範囲も以前より狭くなってきているようです。
一方で、放射線治療は手術ほどの炎症やストレスが発生することは一般的には少なく、手術では発生しうるがんに対するマイナス効果が少ないのではないかと考え、現在研究を進めております。また、放射線治療には「アブスコパル効果」というおまけの効果が報告されています。「アブ=遠くに」「スコパル=狙いを定めて」という意味で、がんの病巣が多数ある場合にそのうちの一カ所の放射線治療を行うとその他の病巣にも縮小効果が生じる現象のことです。放射線照射を受けて弱ったがん細胞をマクロファージや樹状細胞などが処理し、がん細胞に対する免疫作用をもつリンパ球を活性化することによると考えられています。夢のような効果ですが、実際に遠くの病巣が目に見えて小さくなることは非常にまれであり、治療現場ではほとんど当てにされていませんでした。ところが最近このアブスコパル効果に関係するリンパ球の機能を高める薬剤が開発され、米国などで臨床応用が始まっています。日本で実用化されるかどうかまだ分かりませんが、学会などではにわかに期待を集め始めています。
5.「標準治療」って何?
病気になってその治療方法を調べてみると必ず目にしたり耳にしたりする言葉に、「エビデンスに基づいたガイドライン」という表現があります。エビデンスの創出は、我々が患者さんにも協力していただきながら日夜研究に力を注いでいる大切な目標です。そのガイドラインで最も推奨される治療法が標準治療なのですが、一般の方々は「エビデンス」「ガイドライン」「標準治療」と書かれてもその真意についてはなかなか分かりにくいのではないかと思います。そこでもう少し解説すると、一般的な標準治療とは「限られた状況(臨床試験)で比較の行われた治療方法の中で生存率が最も高いことが証明され日常的に提供されている治療方法」のことです。ここで注意が必要なのは、「比較をしていない治療方法とは優劣が分からない」こと、「臨床試験の条件と異なる場合には通用するかどうか分からない」こと、「生存率がわずかでも高ければ多少つらくても良い治療として評価される」ということです。これらを逆に言い換えると、「新しい治療方法はリアルタイムでは標準治療にはなり得ない」「標準治療は80歳を超えるようなご高齢な方にはあてはまるとは限らない」「生存率より生活の質を重視したい希望があってもそうではない治療方法が推奨されてしまうことがある」という意味です。前述しましたが、これからの医療の中心になるご高齢な方々にとっては、同様の条件でのエビデンスがない場合が多いですし、単なる生存率よりも大切にしたい様々な評価指標(治療中の副作用や治療後の生活の質など)があるかもしれません。我々は、患者さんの視点に基づいた研究成果を導き出すことが重要であると考えています。技術革新の早い先端放射線治療は新しいが故に標準治療にはなれませんが、ご自身の大切にしたい視点で放射線治療を選択肢の一つとして考えてみてください。
6.がんの治療法を選ぶ生き方のヒント
標準治療の条件が当てはまらない方や、治療方法の評価軸が生存率だけではない方は、ガイドラインを読んでも答えは出てきません。ご高齢な方はご自身の価値尺度・信念といった個々の人生哲学に基づいた判断で治療方法を選択していくことが求められます。病院での医療スタッフの話や医学書に書いてある記載を鵜呑みにはせず、自分でよく考えることが大切です。「どの治療法がベストか」、ではなく、「自分が考えて選んだ治療」がベストなのです。まずそれぞれの病状と様々な治療方法を正確に理解し、個人個人が自分自身で答えを出すことが大切です。それは『自分らしい生き方』を探して実現することであり、 それこそ自 己の生命の尊厳に満ちたあるべき形ではないでしょうか。それは決して簡単なことではありませんから、時間をかけて調べたり相談したりして熟考する必要があるでしょう。そのためにも、「がんという人間の宿命」に立ち向かう心構えを普段から考えておく必要があり、なかなか答えを見いだせない時には、自分が選んだということが一番大切であり結果によらず選んだ方法が正解であると考えています。また、「人生は有限であり諸行無常である、という意識に基づいた潔い生き方」も人間として尊いのではないかと筆者は考えています。放射線治療についても、「いい放射線治療施設=先端的高精度放射線治療装置施設」とは限りません。最も大切なのは、患者さん個々の気持ちや考え方に高精度な治療戦略を立てることであり、患者さんと医師の十分な会話なしでは成り立たないと考えております。放射線診療医は、全身の臓器がんを対象に、根治的にも緩和的にも治療しますので、さまざまな面で良い相談相手になると思われます。治療方法にお悩みになったら、是非お近くの放射線治療科を受診されてみてください。
略歴日本では近い将来、世界でも類を見ない超高齢化社会が予測されており、これからの医療の主役はご高齢ながん患者さんたちです。図は主要国の対人口比の高齢者(65歳以上)の割合を示しています。日本の65歳以上の人口比率は、現在の出生率のままだと現在約四人に一人ですが、2030年ごろ三人に一人に、2060年頃には五人に二人になると予測されています。またこの高齢者のうち二人に一人以上は75歳以上が占めると考えられています。ご高齢な方へは福祉や介護も重要ですので医療費を国費からどのように捻出するかは大きな課題ではありますが、戦後の日本の復興に全力を尽くして我が国を支えてこらえたご高齢な方々への恩返しを我々が担っていかなくてはなりません。このような超高齢化社会においては、手術や化学療法の耐容性は低下し、必然的に低侵襲な放射線治療のニーズがより高まるでしょう。また75歳以上のがん治療についてはこれまでほとんど臨床試験がなく、標準的治療法を示す十分なエビデンスやガイドラインは存在していません。
2.「がん」に対する正しいイメージ
がんは、二人に一人が罹って三人に一人が亡くなる病気であり、日本人の死因のダントツトップである。言い換えると最もありふれた普通の死に方であり、人間の自然史に彩られた宿命ともいえ、決して目を背ける必要はなく、受け容れることが必要と思います。また、がんにかかっても半分は治る時代であり、発症してもすぐには死なないことは、死因の第二位・三位に位置する脳卒中や心疾患が発症日にそのまま息を引き取ることも少なくない病態と異なり、人生において非常に大きな意味をもつと思います。がんという病気にかかって初めて生きる意味や喜びを意識することが出来るでしょうし、その後の人生に輝きを持たせることもあるでしょう。また、もし先が長くなくとも、身の回りを整理したり、大切な家族や友人との暖かい人間関係が形成されたりするでしょう。最近の話題では、昭和時代に「イケメン力士」として名をなした竜虎関が家族と旅行中に突然「胸が苦しい」と訴え、心筋梗塞でそのまま息を引き取られましたが、何よりクローズアップされたのはご子息さんたちが「お父さんにこれまで一言も感謝の気持ちを言葉で伝えたことが無いのが最大の悲しいことです」とインタビューに痛々しく答えていたことです。このような点で、がんは「自分の生きる意味」についての認識を促してくれる「人間としての尊厳に満ちた自然の摂理」とも言えるのではないでしょうか。なお、がんの末期においてかつては「今死んでもいいから今すぐに除去して欲しい」、と恐れられた痛みや苦しみは、最近では薬物療法や放射線治療をうまく使用することで概ね緩和することが可能になってきています。
3.放射線治療の特徴と高度に進化した先端放射線照射技術
局所的ながんを根絶する主な治療法には手術と放射線治療があります。手術と比較して放射線治療は、@低侵襲(安全で心身に優しい)、A臓器の機能と形態を温存できる、B外来通院でも治療ができる、などの患者さんにとってのメリットがあります。@は痛くない・怖くない・安全で心身に優しい、Aは治療前と同じ生活の質を維持できる、Bは入院しないので仕事も家事も維持できる、ということを意味し、一言でまとめると「治療中も治療後も普段の生活を壊さずに今まで通りにいられること」であります。図1は、歯肉(歯茎)の巨大ながんが進行してあごの骨を溶かしてしまっている症例ですが、放射線治療によりがん病巣が消失しただけでなく溶けてしまっていた骨が元に戻っています。手術でがんを切除することはできても、骨が元通りになることはありません。
図1 歯肉がんの放射線治療前後のCT写真
4.手術の欠点と放射線治療のおまけ的効果
患者さんたちにとって手術を受けるときに悩ましいのは、切ることで根治に結びつくことが期待できる長所もある一方で、「臓器を切り刻む」ことによる「臓器の損失」の問題点が存在することです。前者は「臓器の機能と形態の損失」であり、がんを治すこととひき替えに我慢を強いられますが、比較的わかりやすい手術の具体的なデメリットです。それでは手術に伴う侵襲とは何を意味するでしょうか。手術侵襲とは、傷を治すために発生する「炎症」と、「心身のストレス」を意味し、炎症はサイトカイン、ストレスはコルチゾールやアドレナリンという生理活性物質の放出によります。ここからはやや専門的な話で一般の方には分かりにくいかもしれませんが、炎症やストレスががん細胞にどんな影響を及ぼすかについての医学的な学説を説明しますと、サイトカインはがん細胞の悪性度を促進し、コルチゾールは免疫抑制作用があると言われています。更に手術によるマイナス効果として、病巣周辺のリンパ節を切除してしまいますので、元々あったリンパ節のがん細胞をトラップして免疫反応を起こすという貴重な場が喪失してしまう可能性も考えられています。また、全身麻酔自体も免疫機能を低下させることが分かっています。以上をまとめると、手術は「病巣とともに身体の一部が失われて怖い」というだけでなく、「がん細胞を悪性化したり免疫機能を低下させたりすることがある」という短所が伴う可能性がありますが、このことは一般にはあまり知られていないかもしれません。最近では、手術も内視鏡などを用いて低侵襲化が進歩しており、切除範囲も以前より狭くなってきているようです。
一方で、放射線治療は手術ほどの炎症やストレスが発生することは一般的には少なく、手術では発生しうるがんに対するマイナス効果が少ないのではないかと考え、現在研究を進めております。また、放射線治療には「アブスコパル効果」というおまけの効果が報告されています。「アブ=遠くに」「スコパル=狙いを定めて」という意味で、がんの病巣が多数ある場合にそのうちの一カ所の放射線治療を行うとその他の病巣にも縮小効果が生じる現象のことです。放射線照射を受けて弱ったがん細胞をマクロファージや樹状細胞などが処理し、がん細胞に対する免疫作用をもつリンパ球を活性化することによると考えられています。夢のような効果ですが、実際に遠くの病巣が目に見えて小さくなることは非常にまれであり、治療現場ではほとんど当てにされていませんでした。ところが最近このアブスコパル効果に関係するリンパ球の機能を高める薬剤が開発され、米国などで臨床応用が始まっています。日本で実用化されるかどうかまだ分かりませんが、学会などではにわかに期待を集め始めています。
5.「標準治療」って何?
病気になってその治療方法を調べてみると必ず目にしたり耳にしたりする言葉に、「エビデンスに基づいたガイドライン」という表現があります。エビデンスの創出は、我々が患者さんにも協力していただきながら日夜研究に力を注いでいる大切な目標です。そのガイドラインで最も推奨される治療法が標準治療なのですが、一般の方々は「エビデンス」「ガイドライン」「標準治療」と書かれてもその真意についてはなかなか分かりにくいのではないかと思います。そこでもう少し解説すると、一般的な標準治療とは「限られた状況(臨床試験)で比較の行われた治療方法の中で生存率が最も高いことが証明され日常的に提供されている治療方法」のことです。ここで注意が必要なのは、「比較をしていない治療方法とは優劣が分からない」こと、「臨床試験の条件と異なる場合には通用するかどうか分からない」こと、「生存率がわずかでも高ければ多少つらくても良い治療として評価される」ということです。これらを逆に言い換えると、「新しい治療方法はリアルタイムでは標準治療にはなり得ない」「標準治療は80歳を超えるようなご高齢な方にはあてはまるとは限らない」「生存率より生活の質を重視したい希望があってもそうではない治療方法が推奨されてしまうことがある」という意味です。前述しましたが、これからの医療の中心になるご高齢な方々にとっては、同様の条件でのエビデンスがない場合が多いですし、単なる生存率よりも大切にしたい様々な評価指標(治療中の副作用や治療後の生活の質など)があるかもしれません。我々は、患者さんの視点に基づいた研究成果を導き出すことが重要であると考えています。技術革新の早い先端放射線治療は新しいが故に標準治療にはなれませんが、ご自身の大切にしたい視点で放射線治療を選択肢の一つとして考えてみてください。
6.がんの治療法を選ぶ生き方のヒント
標準治療の条件が当てはまらない方や、治療方法の評価軸が生存率だけではない方は、ガイドラインを読んでも答えは出てきません。ご高齢な方はご自身の価値尺度・信念といった個々の人生哲学に基づいた判断で治療方法を選択していくことが求められます。病院での医療スタッフの話や医学書に書いてある記載を鵜呑みにはせず、自分でよく考えることが大切です。「どの治療法がベストか」、ではなく、「自分が考えて選んだ治療」がベストなのです。まずそれぞれの病状と様々な治療方法を正確に理解し、個人個人が自分自身で答えを出すことが大切です。それは『自分らしい生き方』を探して実現することであり、 それこそ自 己の生命の尊厳に満ちたあるべき形ではないでしょうか。それは決して簡単なことではありませんから、時間をかけて調べたり相談したりして熟考する必要があるでしょう。そのためにも、「がんという人間の宿命」に立ち向かう心構えを普段から考えておく必要があり、なかなか答えを見いだせない時には、自分が選んだということが一番大切であり結果によらず選んだ方法が正解であると考えています。また、「人生は有限であり諸行無常である、という意識に基づいた潔い生き方」も人間として尊いのではないかと筆者は考えています。放射線治療についても、「いい放射線治療施設=先端的高精度放射線治療装置施設」とは限りません。最も大切なのは、患者さん個々の気持ちや考え方に高精度な治療戦略を立てることであり、患者さんと医師の十分な会話なしでは成り立たないと考えております。放射線診療医は、全身の臓器がんを対象に、根治的にも緩和的にも治療しますので、さまざまな面で良い相談相手になると思われます。治療方法にお悩みになったら、是非お近くの放射線治療科を受診されてみてください。
大西 洋(おおにし ひろし)
1988年千葉大学医学部卒業。山梨医科大学、成田赤十字病院、アメリカのMDAnderson がんセンター等で研鑽を重ね、2014年より山梨大学大学院医学工学総合研究部放射線医学講座教授、現職。
現在、国の放射線治療ガイドライン策定に関わり、日本放射線腫瘍学会理事等の要務を担っている。
1988年千葉大学医学部卒業。山梨医科大学、成田赤十字病院、アメリカのMDAnderson がんセンター等で研鑽を重ね、2014年より山梨大学大学院医学工学総合研究部放射線医学講座教授、現職。
現在、国の放射線治療ガイドライン策定に関わり、日本放射線腫瘍学会理事等の要務を担っている。