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市民のためのがん治療の会
メディアの「セカンド・オピニオン」
『健康被害に関するICRPの理論の問題点(2)』

北海道がんセンター名誉院長 西尾 正道
本稿は、日本政府が福島第一原発事故による被曝放射線量の線量限度の根拠としているICRP(国際放射線防護委員会)勧告について、放射線治療の専門医である西尾先生がICRPは国際的な「原子力ムラ」の一部と鋭く指摘されたもので、インターネット報道メディアのIWJに寄稿されたものを、IWJのご厚意で転載させていただいたものである。ここに謝意を表するものである。
先週に引き続き掲載いたします。
(會田 昭一郎)

誤魔化しで構築されているICRPの理論 (ここから会員限定)
 しかし、内部被曝の実効線量の計算では、放射性物質の近傍の限局した局所の細胞にいくら当たっているかを計算するのではなく、全身化換算するため超極少化した数値となる。
 では、放射性微粒子の近傍はどの程度被ばくするのかを考えてみよう。資料4は医療用イリジウム(Ir−192)線源を点線源として医療用治療計画装置で計算したものである。

資料4 イリジウム線源の近傍線量
資料4

 線源の近傍は電子平衡が成立せず、正確には測定できないが、線源から5mmの点を100%とすると、0.1mmの点では1284倍となっている。単純に放射線の減弱を距離の逆2乗の法則で考えれば、50×50=2500倍となる。測定機器の限界から、正確な測定もできないほど線源近傍の細胞は被曝しているのである。0.1mmでもここには10層(一個の細胞サイズを10μmとした場合)の細胞がある。こうした過大に被ばくした細胞が障害されたり、がん化しても全く不思議ではない。このため、放射性セシウム粒子が鼻粘膜に密着した場合は、鼻血の原因となるのである。
 資料5の写真は舌がんに対して、腫瘍内にCs-137の針状線源を刺入する組織内照射の治療症例である。腫瘍を取り囲むようにしてCs-137針を7本刺入した写真と照射後10日目の粘膜反応の口腔写真である。放射線は当たった所にしか反応は出ない。照射後の粘膜炎が強度となり白苔が出現している。本来内部被曝の計算は被曝している細胞の線量で評価すべきであるが、これを全く被爆していない全身の細胞まで含めて計算することは全く間違っているのである。このようなICRPの計算方法では内部被曝線量は本当に当たっている細胞集団の数万分の一〜数十万分の一の線量となる。

資料5 舌がんに対するCs-137針による組織内照射
資料4

 またカリウム(K-40)のβ線の自然放射線は微小サイズであり、体内ではイオンとして存在しているが、原発事故で放出された人工放射線はサイズが大きく微粒子としても存在するため、心筋などでは細胞膜のカリウムチャンネルを障害し、細胞内外のカリウムのバランスを崩し、心伝導系の異常をきたし心電図異常が見られたり、最悪の場合は突然死につながる。こうした事態をICRPでは全く想定していない。
 こうした基本的な問題を考慮せず、誤魔化しで構築されているのが現在のICRPの理論なのである。そしてさらにこうした生体影響を正確に反映したものではない実効線量だけで議論され、対策が立てられていることが二重の誤魔化しなのである。人体影響は単に線量だけではないことも知るべきである。
 1945年の原爆投下のデータを根拠に組み立てられたICRPの理論的破綻は明確であり、それ以降の最近の放射線生物学の知見を取り入れて検討してないICRPには呆れるだけである。
 紙面の都合もあり、放射線の人体影響の幾つかの主な要因を資料6に示す。これらの要因の詳細は拙著などを参考として頂ければ幸いである。

『放射線健康障害の真実』 『正直ながんのはなし』 『被ばく列島』

資料6 人体影響の種々の因子
資料4

 国民はICRPの催眠術から覚醒するべきであろう。原発の問題は、単に人体影響ばかりでなく、『国破れて 山河あり』だが、『原発事故では 山河なし』なのである。
 最後に、政府は報道にも露骨に圧力をかけて思うままに愚策を推進しており、戦後日本にとって最も危険な時期となっている。こうした時代の流れは早期に止めなければ、止めようがなくなる。全国にばら撒かれた原子力発電所にミサイル一発撃ち込まれれば簡単に負ける国なのに、戦争ができる国にしようとする見識の無さは呆れる。この日本の状況はまともな人間であれば、憂い、ストレスとなる。
 IWJを率いる岩上安身氏は2月19日に私のインタビューを終えて帯広市に向かったが、21日夜に心臓発作で緊急入院となった。幸い近くに帯広市内で最も大きな病院で救急救命部門も充実している施設で手当てを受けることが出来た。過労やストレスが原因とされる「冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)」であった。この疾患は単純に心臓の冠動脈が狭窄して発症する狭心症ではなく、二トロールなどの冠動脈の血管拡張の薬剤だけでは発作は改善せず、対応に苦慮することもある。冠動脈が痙攣し循環障害をきたすからである。そのため、ストレスや過労によりまた誘発されるリスクがある。
 人間の運命は不公平なもので、開発途上国の医療施設に乏しい地域のホテルで夜間に発作を起こし死亡する人もいるし、元旦に都内の大病院の前で倒れて救命された人もいる。こうした救急疾患では何処で発作を起こすかが生死の分かれ目ともなる。真摯に見識を持って報道に携わっている岩上氏にとって、現状の日本や世界の政治状況がストレスの原因であるばかりでなく、会員数が減少して会費だけで切り盛りしているIWJの経営問題も大きなストレスとなっていると思われる。政府の圧力にも屈せず、まともなジャーナリストとして活動することが如何に大変かは察するに余りある。今後もさらにストレスがたまる時代となりそうである。景気も東京オリンピックまでは誤魔化せてもそれ以降はトンデモナイ経済危機に見舞われるであろう。集団的無責任で『今だけ、金だけ、自分だけ』の日本の風潮を変えなければストレスも続く。
 皆様にはIWJへの多大なご支援をお願いしたいと思います。大本営発表のような内容しか報じない大新聞の購読はやめて、IWJの会員となり、正しい情報を得て我々は生き方を考えたいと思う。

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略歴
西尾 正道(にしお まさみち)

北海道医薬専門学校学校長、厚生労働省北海道厚生局臨床研修審査専門員、
独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。 国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年がんの放射線治療に従事。
がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、改善するための医療を推進。 「市民のためのがん治療の会」顧問。


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