市民のためのがん治療の会は平成27年10月23日、参議院議員会館において「がん検診を考える」をテーマに、平成27年市民のためのがん治療の会第4回講演会を行いました。
講演会はジャーナリスト 岩澤倫彦氏の「迷走する胃がん検診〜バリウム検査の危険性と"検診ムラ"の大罪〜」、北海道がんセンター名誉院長 西尾正道医師の「なぜ、いま、検診か」の後、会場との質疑を行い、終了しました。その時の講演、質疑を踏まえ、私たちは下記を中心にがん検診を考えました。
これらの背景を整理すると、次のようになろうかと思います。
- どの検診ががんの発見に有効かの研究を進め、また、検診の際の苦しさ、痛みなどをできるだけ軽減できるような研究を進める
- がんにはならないで済めばいいに決まっている。ただ、我々を取り巻く環境は、どうしてもがんが増加する複合汚染が進んでいる。その結果がんになる確率が増えるという現実を冷静に考えれば、がん治療においては、早期に発見し治療することにより、低侵襲の治療で生存確率を高めれば、安い医療費で対応できることは明らかである。そのためには結核の感染症法同様の定期検診を義務付ける
- このような状況においては、現在基本的に100%自費で受けているがん検診の受診率を高めるために、検診も保険診療とすべきである。さらに、今や国民病ともいうべきがんに対しては、結核などと同様に、強制力を持った全員検診を目指すべきである。
まず我々を取り巻く環境を見て見みましょう。従来からよく言われていた2015年問題=団塊の世代が70歳になる:がんの好発年齢に達したのはすでに本年です。がんには言わば老人病の側面があり、高齢化率が急速に上昇するということは、がんに罹患する人も急増することを意味します。
加えて当会顧問の西尾正道医師によれば、日本は単位面積当たりで比較すると世界一農薬が使用されており、また農薬残留基準値も緩い。またTPPにより、遺伝子組換え食品の表示もできなくなり、健康被害が危惧される農薬・化学物質・遺伝子組換え食品の摂取により、相乗的にがんは増加する可能性が高まると考えられます。
また日本は世界一の医療被ばく国であり、診断被ばくが原因とされる発がん、さらには福島原発事故による放射性物質の飛散による「長寿命放射性元素体内取込み症候群」とも言える発がんも増加するでしょう。
以上のような状況の下で、現状でもよく、二人に一人はがんに罹患すると言われていますが、今年のがん患者は国立がん研究センターの発表でも98万人、もう100万人時代です。間もなく三人に二人ががんになり、日本人の死因もがんは三人に一人から二人に一人になります。今や国民病として、国が先頭に立ってがん対策を講じる段階です。
残念ながら罹患してしまったら、T期で発見されれば局所治療法で治癒が望めますが、進行したり、全身化すると、治療は基本的に抗がん剤治療も必要となります。ところがTPP発効により、ますます抗がん剤が高騰することが確実視される中、早期で発見し、手術または放射線治療で局所制御できれば患者の身体的、精神的、経済的負担は軽く、健保財政にとっても負担軽減となります。今や国民総医療費は40兆円、国家予算の半分です。
ですからがんにならないに越したことはありませんが、残念ながら罹患してしまったら、T期で発見し、局所治療法で治癒するようにしましょう。食道がん、胃がん、大腸がんなどでも内視鏡的な手術で済むでしょうし、子宮頸がん、前立腺がん、肺がんなども比較的侵襲性の低い治療で治る可能性が大です。そうすればまず患者は肉体的、精神的負担も軽く、経済的にも楽になります。家族の負担も軽くなり、仕事への影響も軽くて済み、ひいては健康保険財政負担も減少します。
正に近江商人の「三方よし」どころか「四方、五方よし」のいいことずくめであり、すぐ取りかかりましょう。世の中には良いと分かっていてもやらないことがたくさんありますが、まずは命にかかわるがんの問題から始めましょう。
では具体的にどうするか。早期がんで発見するためには、検診を受けましょう。まず、エビデンスのはっきりしている検診を選定し、検討することが大事です。検診そのものも本当に「市民のための検診」かどうか、検討が必要です。そして重要なのは、みなさんが検診を受けるためには、検診が受けやすい条件を整えることが肝要です。
- 経済的→保険診療、公費負担等、個人負担を可能な限り少なくする
- 社会的→受診しやすい条件整備(労働条件、受診時間など)
- 身体的→受診の困難さ、検査時の痛みなどの軽減(検査機器、技術の向上)
- 制度的→国民病とも言えるがん、感染症法のような強制力を持った検診制度へ
「がん対策推進基本計画」などでは検診率を50%にするという目標が掲げられていますが、がんが国民病だとすれば、かつての国民病の結核のように、法律で検診を義務付け、100%検診すべきではないでしょうか。結核で死亡する人の数は年間2000人強ですが、がんによる死亡数は40万人近くですから、結核の200倍近い死亡数です。感染症法によって行われている結核検診のような強制力の伴った体制作りが必要だと思います。
結核の検診は皆さんも健康診断の時にバスのような検診車が来てくれて、しかも無料で受けられますが、がん検診は忙しい人などが検診を受けやすいようなシステムになっていない上に、基本的に有料です。簡便に受けられ、費用負担もないような仕組みにして、全員検診を実現すべきでしょう。
ここまで来ると直ちに反論があるでしょう、「一体、国民全員のがん検診を無料にするという膨大な予算はどこにあるか」と。
ただ、それなら今のままにしていれば国民総医療費はどんどん膨張するばかりですが、思い切って予算を投入すれば、すぐには無理ですが、徐々に費用減殺効果が出ることは明らかです。この費用の投入は、がん検診を健康保険扱いにしても結局公費を使うのに変わりはありません。
では予算が無いかというとそうでもないのではないでしょうか。現在の抗がん剤はほとんど全て輸入薬品であり、年間輸入額は2兆5000億円以上あり、輸出入インバランスの大きな要因の一つにさえなっています。TPPが発動されれば、韓国の例を見ればわかるように、現在の2倍の5兆円になるかもしれません。T期で手術か放射線で局所制御できれば高い薬を使わなくても済むでしょう。また、平成26年度の会計検査院による「指摘金額」(不適切な会計経理により生じた徴収不足額や過大支出額など)は2060億円に上ると言われています。検査の実施率は8%程度ですから、本当は2兆800億円程度になる計算になります。
問題になっている子宮頸がん(HPV)ワクチンの導入時のことを思いだしてください。HPVワクチンは当初は子宮頸がん予防に役立つとして当会もその普及に努力しましたが、その時点での問題は「費用」でした。総額6万円前後もするので、何とかこれを無料にと運動し、すぐに無料にするのも無理と思い、当会も健康保険での接種を主張しました。しかし、保険収載すれば健康保険財政がひっ迫するので、最終的に政府は定期接種に組み込み、公費で接種することとしました。
そうは言っても、直ちにがん検診を全額公費負担にするのも抵抗が大きいでしょうから、当面は保険収載して個人負担を軽減させることとし、全額公費負担へと徐々にでも良いですから移行するよう求めたいと思います。
もう一つ、「検診マニア」のような人たちが、あちこちの病院で検査を受けたがるという問題も懸念されるかもしれませんが、これは現在問題になっている多重頻回受診問題同様、検診登録制度などによって、特別の指示が無い場合は一定期間内の保険検診は受けられないようにすることは可能だと思います。
政治とは税金の使い道を決めることだ、と言われることがあります。正にこのようなことは国民自らが、自分たちが苦しまず、安くがんを治して、国も助かることを選択するかどうかにかかっているではないでしょうか。
市民のためのがん治療の会は先頭に立ってこうした政策の実現に向けて、みなさんと共に進みたいと思います。
皆様のご意見などを踏まえこの趣旨を取りまとめ、政府、関係省庁、関係諸団体、報道機関等へ申入れを行いたいと考えております。
皆さまからの建設的なご意見をお待ちいたします。Email : com@luck.ocn.ne.jp