この度、私たちが現在、超高齢化、放射性物質・化学物質・遺伝子組み換え食品などによる複合汚染、特に当会顧問西尾正道先生に拠れば、福島原発事故により生じた放射性物質の大量放出とそれによる汚染という最悪の環境下にある今、がんの発生が増加することが確実視される状況に鑑み、会の活動のもう一つの柱として、「全員がん検診」によって残念ながらがんを発症しても、できるだけT期で発見し、治療すべきであるということを提言することといたしました。
先週の「がん医療の今」(平成27年12月28日、No.253)に掲載した「がん検診を考える」と併せて当会の考え方をアピールするものとして、ここに掲載いたします。
平成27年市民のためのがん治療の会第4回講演会は「がん検診を考える」と題し、平成27年10月23日(金)に徳永エリ参議院議員の御厚意で参議院議員会館の会議室をお借りして開催した。講演会の開催にあたり、ご尽力いただいた會田会長、小川ひろみ様や東京在住の会員の皆さまに心からお礼を申し上げます。
講演会では長年、C型肝炎訴訟や胃癌検診の問題を取材してきた岩澤倫彦氏から胃癌検診の問題を講演頂きました。この40年間胃癌による死亡者は約5万人前後で推移しており、がん検診の目的である死亡者数の減少は見られず、バリウム検査の問題点が説明された。私は検診による医療被曝を避け、早期癌も見つけやすい内視鏡検査(3〜4年毎)に切り替えるべきであると考えており、またピロリ菌感染陽性者を中心に検診を進めるという検診対象者の絞り込みも必要であると考えていたため、岩澤氏の講演には多くの点で同感するものがあった。
私は「なぜ、いま、検診か」と題して、現状のがん検診の問題点をお話しし、検診も保険診療とすべきであることを訴えさせて頂いた。
日本は世界一の医療被ばく国であり、2004年には日本人のがん罹患者の3.2%が診断被ばくが原因とされる内容の論文まで出されている。またがん検診の有効性に疑問を投げかけ、『がん放置療法』まで言い出す医師も出現する昨今である。しかし、がん治療においては、早期に発見し治療することにより、低侵襲の治療で生存確率を高め、安い医療費で対応できることは明らかである。問題は効率のよい低線量被ばくによるがん検診が検討される時期となっていることである。超音波検査装置の画像解像度の向上と血液検査による腫瘍マーカーやウイルス感染の有無などの検索が進歩した現在、今一度がん検診のあり方を考えるべきである。
具体的には現在行われている5つの疾患(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん)は2015年の予測がん罹患者数98万人のうち53%を占めるものであるが、肺がんの次に死亡者数が多い肝臓・胆嚢・膵臓の領域のがん検診はされていない(図1)。
現状では進行癌で発見され、死亡者数が増加している肝・胆・膵などの臓器に対する検診体制も望まれる。肺がん検診では被ばく量の多い毎年のX線間接撮影は止め、3〜4年に一度のCT撮影に変えることも検討されるべきである。戦後、国民病だった結核対策として「結核予防会」が胸部写真撮影を開始したが、結核による死亡者が激減し、がん対策に業務を切換え、対がん協会を中心として肺がん発見のために胸部写真を撮り続けている歴史的な経緯があるが、40年前の手法に固辞することなく、CT撮影も検討すべきである。米国の肺癌リスクの高い被験者53,454人を対象とした無作為化比較試験(NLST試験)では、CT検診により、肺癌陽性率はCT群24.2%、胸部X線群6.9%であり、CT群の肺癌死亡率の方が20%低かったと報告されている。
胃がん検診も早期がんの発見が容易ではないバリウム透視撮影を止め、ピロリ菌感染者を対象とした内視鏡検査とすべきである。また低い管電圧で撮影するため被ばく線量が多くなる乳房撮影を止めて超音波診断に切り替えるべきである。
カナダのNational Breast Screening Studyでは最長25年に及ぶ追跡調査の結果から、「マンモグラフィ検診は乳がん死を抑制しない」という報告が出され、ノルウェーからはマンモグラフィ検査は乳癌発生率に影響しているという報告もある。
子宮がんにおいても子宮体がんが増加している現状では検診により、妊孕性を確保できる早期の処置が望まれる。これは少子化対策にも通じる対応である。子宮頸がんワクチンの副反応が問題となっているが、弱毒化ワクチンでも不活化ワクチンでもなく、遺伝子操作によりHPVウイルスを分解して成分だけを取り出し、アジュバントという免疫増強剤を添加したスプリットワクチンである子宮頸がんワクチンではまだ予測できない想定外の副反応のリスクの解明は充分にはなされておらず、当面はワクチン接種よりも検診を心掛けるべきである。私が医師となった1974年には子宮がんと言えば、子宮頸がん:9割、子宮体がん:1割であったが、2014年には子宮頸がん:4割、子宮体がん:6割となっている。子宮頸がんワクチンが約7〜8割の予防効果とすれば子宮がん全体の約1/3の予防効果となる。こうした現状を考えれば、検診で早期発見し妊孕性を保存できる対応が重要なのである。
さらに肝臓がんなどではHCV・HBV検査によりキャリアを対象とした超音波検診も有用である。こうした時代の進歩に対応した検診が考えられるべきである。
二人に一人ががん罹患すると言われる時代であるが、今後の日本では福島原発事故による放射性物質の飛散による『長寿命放射性元素体内取込み症候群』とも言える発がんや慢性疾患が確実に増加する。また日本は単位面積当たりで比較すると世界一農薬が使用されており、また残留基準値も緩い。またTPPにより、遺伝子組換え食品の表示もできなくなり、健康被害が危惧される。最も使われているネオニコチノイド系農薬が自閉症の主な原因であることも判明した。農薬・化学物質・遺伝子組換え食品の摂取や放射線被ばくにより、相乗的に健康被害の増加が予測される時代となり、日本人の生活のあり様を考えると同時に、がん検診を保険診療にすることにより低額な医療費で済む早期がんを発見し治療する必要がある。政府は「一億総活躍社会」と叫んでいるが、このままでは「一億総奇病・難病社会・一億総癌罹患社会」となりかねない。
医療はTPPの最大のターゲットとされており、今後は抗癌剤も高騰するが、抗癌剤を使用しないで済む治療が望まれる。そのためにはハイリスク群の検討を行い効率性も考え、低線量被ばくも考慮した検診を更に普及させるべきである。検診を保険診療とすることにより、最終的には医療費も削減できるのである。最後に今後の放射線被ばくを極力低減したがん検診(一次検診)のあり方についての私見を表1に示し、校を終わる。
略歴
北海道医薬専門学校学校長、厚生労働省北海道厚生局臨床研修審査専門員、
独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)、
認定NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」顧問。
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年間、がんの放射線治療に従事。がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、改善するための医療を推進。