病は気からという。化粧などによってこのような病気や治療によるダメージを和らげることができれば、気持ちも前向きになり、外出等、積極的な行動に結びつくかもしれない。
そうはいっても具体的に何をどうしたらいいのか分からない方も多いと思われるが、この度資生堂が「資生堂ライフクオリティーメーキャップ」としてノウハウをまとめたパンフレットを作成し、WEB上でも公開した。
そこでこのプロジェクトを担当した資生堂ライフクオリティー ビューティーセンターにお願いし、活動の狙いや概要を解説していただいた。このような問題で悩んでおられる患者の皆さんの生活の一助となれば幸いである。
がんは、一生涯において2人に1人が罹患する疾患で、特に近年、がん疾患において新たな治療薬が開発され急速に治療効果が高まったことから、がんと共生し治療と向き合いながら生活を送る期間が長くなり、そのため治療に伴う副作用を抱えながら生活をする期間も長くなっています。治療の副作用に伴う外見上の悩み(肌色変化、眉やまつ毛の脱毛)、手術後の傷あとなど、今や「治療とともに化粧がある」ことは、患者さんや医療現場の双方から求められており、化粧は、患者の年代や性別を問わず日常生活を送る中で必要となってきています。
資生堂では、外見上のお悩みをカバーする方法を「資生堂ライフクオリティーメーキャップ」と称し肌の深い悩みやがん患者さんの外見ケアに対し、化粧による解決法をアドバイスしています。
2015年12月、がん治療の副作用による外見上の変化に対し、メーキャップによってカバーするテクニックをまとめ「がん患者さんのための外見ケアBOOK」を発行しました。
現在、治療の方、これから治療をはじめられる方、ご家族の方に手に取っていただければと思います。
今回はこの冊子の内容を以下に紹介するとともに資生堂ライフクオリティービューティーセンターサイトでも紹介しています。この情報は下記URLからご覧いただけると共に印刷できるようにもなっておりますので、是非ご活用ください。
紹介URL:■「がん患者さんのための外見ケアBOOK」で寄り添います
http://www.shiseidogroup.jp/slqc/information/information_151215.html
■資生堂ライフクオリティーメーキャップのはじまり
広島や長崎での原爆によるケロイドに悩む方に対して化粧によるカバーを目的に、1956年に「スポッツカバー」というファンデーションを開発し支援活動を始めました。さらに1992年から、色素異常などの病変部位をカバーするために大学病院でメーキャップ指導も行ってきました。現在は、当社銀座ビル(東京・銀座)の「資生堂ライフクオリティービューティーセンター( http://www.shiseidogroup.jp/slqc )」(図1)を活動拠点として、太田母斑や扁平母斑などの色素斑、血管腫、白斑、やけどや外傷性瘢痕、術後瘢痕に加え、抗がん剤治療の副作用による色素沈着や眉脱毛などの美容上の様々な悩みに対するメーキャップの有用性について研究し、患者さんへの外見ケアアドバイスをおこなっております。なおこの活動は全国の化粧品専門店やデパートなど全国約380カ所でも行っています。
全国のカウンセリング店舗一覧はこちら→ http://www.shiseidogroup.jp/slqc/shop/
図1.資生堂ライフクオリティービューティーセンター個室風景
1.がん患者さんの外見上(美容上)の悩み
がん患者さんの外見上(美容上)の悩みについて調査(N=120)したところ、「肌のくすみ・色素沈着」がもっと多く、続いて「眉・まつ毛の脱毛」、「爪・指先の変化」があげられました(図2)。具体的には、「顔色から、病気であることが他人にわかってしまう」、「爪の変化により、物をつかみにくく家事なども不便」といった日常生活に支障をきたすことが分かりました。
2010/1〜2012/12累計 N=120(475件)
2.治療の副作用による外見変化を化粧でカバー
通常、人は「より美しくなりたい」との思いでメーキャップをしますが、がん患者さんはメーキャップをすることで、「治療前の自分に戻りたい、近づきたい」という「本来の自分らしさを取り戻したい」という思いがあります。
がん治療中の患者さんの外見ケアとして上位にあげられる悩みを中心にメーキャップ法を解説します。(図3)
図3:がん治療中の患者さんへのメーキャップ例
(素顔の外見変化はCGによるイメージ演出)
※写真の外見変化は化粧とCGによる演出です
a)肌色変化をカバー(肌のくすみ、濃いシミ、目の下のくま)
重度のくすみが原因で、他人にがんということが分かってしまうことを気にされる方もいらっしゃいます。このような「くすみ」、「シミ、くま」を部分的にカバーすることで、肌色を明るく見せることができます。
<使用アイテム>
肌色変化にあわせて部分用ファンデーションなどを使用してカバーするとよいでしょう。選び方目安は下記図4参照し、悩みにあわせて選んでください。
薄いシミ、くすみは、部分的につけるファンデーションのコンシーラーや肌色を調整する効果のあるコントロールカラーの化粧下地を使用します。
くすみや濃いシミなどが気になる部分は、専用で使用する彩度が高くカバー効果のあるオレンジ系やイエロー系の部分用ファンデーション(コントロールカラー)を使用するとよいでしょう。(資生堂パーフェクトカバーファンデーションCTコントロールカラーがおすすめです)
図4:肌色変化にあわせた化粧品の選び方目安
(化粧下地、コンシーラー、コントロールカラー類)
- ファンデーションをきれいに仕上げるには、はじめにスキンケア化粧品で肌にうるおいを与えることが大切で、肌にしっかりとうるおいを与えた後、ファンデーションの"のり"をよくするための化粧下地を使用します。肌が乾燥する場合には、化粧水や乳液を多めにつけましょう。それでも乾燥する場合は、乳液のあとにクリームをつけてください。
※日やけ止めを使用する場合は、スキンケア後、化粧下地の前につけましょう。
化粧下地後に使用するファンデーションによって使用順序が異なります。 - 部分用ファンデーションは適量を指に取り、カバーしたい部分に軽くたたきながらなじませていきます。カバーが足りない場合は、さらに重ね塗りし指で軽く置くようになじませます。
- 部分用ファンデーションでカバーした上にパウダータイプのファンデーションや粉おしろいを重ねるときは、軽く押さえるようにつけることがポイント。のばしてつけると、先につけた部分用ファンデーションが薄れたり、取れてしまうことがあるので注意しましょう。
b)眉毛が脱毛した場合の眉の描き方
眉毛が抜けると顔の印象が変わってしまい、自分の顔でなくなったような感じを受けてしまいます。脱毛すると眉毛がどこに生えていたのか、特に眉頭(眉のスタ−ト)の位置がわかりにくくなるので、眉頭の位置を決めることがポイントです。その際参考になり、自然な眉を描くための目安は、「標準の眉のプロプロポーション」(図5)です。
図5:標準の眉のプロポーション
- ①眉頭
目頭の真上 - ②
眉尻
小鼻と目尻を結んだ延長線上、眉尻の高さは眉頭と一直線上 - ③眉山
眉頭と眉尻を結び、眉頭から2/3のところ目尻側の白目の終わりの真上
<使用アイテム>
アイブローペンシルは髪の色(ウィッグの色)に合わせて選ぶと自然に仕上がります。
アイブローペンシルには芯が硬いタイプと柔らかいタイプがありますので、眉が脱毛した場合には柔らかいタイプが描きやすいでしょう。
<眉頭の位置決めのポイント>
最初に眉頭の位置を決めることがポイントとなります。確認の方法は2つ(図6、図7)
確認方法(1)
眉頭は、鼻骨側面を鼻先から額に向かってなぞり、「アイホール(くぼみ)にさしかかる部分(図6:★)」と「眉弓の部分」を親指と人差し指で軽くつまみ、親指と人差し指の間に位置するところが眉頭にあたります。眉頭の位置が決まったら、アイライナーペンシルで印をつけ、「標準の眉のプロポーション」(図5)を参考にしながら、眉尻、眉山を決めて印をつけます。
図6:眉頭の位置決めのポイント 確認方法(1)
確認方法(2)
そろえた3本の指先を図@のAのアイホールに軽く当てます。揃え方は図b)を参考に、人差し指、中指、薬指の3本を揃えます。
図a) のAの位置から上へ指1本分あがたところBが、だいたいの眉の位置となります。
図c) 指1本分をおき
図d) その上に片方の指をそえると1本分あがったことになります。
図a) | 図b) | 図c) | 図d) |
- A:アイホール(眼球が入っているくぼみの部分)
※まっすぐ前を見た時に、黒目の真上に中指が当たるようにします - B:指1本分あげた位置
<描き方>
■眉が脱毛している場合
眉頭の位置がきまったら@〜Cの順番で描いていきます。
@ | A | B | C |
- @眉頭の位置を決め、眉尻、眉山の3点に印をつけます
- A1〜2mmの短い線を軽いタッチで描きながら3点をつなぎ、眉のアウトラインを描きます。
- Bアイブローブラシでぼかしてなじませます。
- Cパウダーアイブローで眉に太さをつけ形を整えます。
■眉が脱毛している場合
眉毛がまばらに抜けた場合、眉がまばらなところに1本1本毛を足すような動きでアイブローペンシルを使い、毛の流れに沿って軽いタッチで描きます。
整える前 | 整えた後 | 1本1本付け足す | 付け足した後整える |
@ | A | B | |
- @仕上げたい眉の形をイメージしながらアイブローブラシで毛流れを整えます。
- A眉のまばらなところを見極めて1本1本をごく軽いタッチで足すように描きます。
- Bアイブローを寝かせ気味に手に持ち描き、毛流れに沿ってアイブローブラシで馴染ませます。
<ワンポイントアドバイス>
治療により「眉毛が抜ける可能性がある」場合は、脱毛した際に写真を参考にしながら眉を描くことができるよう、脱毛前に自身の眉の写真(顔全体と眉や目もとをアップ)を撮影しておくといいでしょう。
c)まつ毛が抜けた場合のアイラインの描き方
まつ毛が抜けると目の印象が弱くなり、顔がぼやけてしまいがちになります。このような時は、アイライナーペンシルを使いアイラインを引くだけで目の印象がはっきりしてきます。
<描く方向>
目尻から目頭に向かって短く数回にわけて描きます。
<描き方>
■まつ毛がまばらな場合
まつ毛がまばらに抜けている場合は、まつ毛が抜けてしまったところを目尻から目頭方向に少しづつ描き足します。
■まつ毛がない場合
まつ毛がない場合は、まつ毛が抜けてしまったところ(粘膜の外側)に沿って、描き足します。
1回で描こうとせず、短く数回に分けて描いていきます。
■アイラインが苦手な方
アイシャドーで陰影や色をつけることで、目元をはっきり見せることができます。
@アイホール(目のくぼみ)を目安にライトカラー(明るい色)をまぶたに幅広くつけます。
Aダークカラー(濃い色)をまつ毛の生え際に沿ってつけます。
3.術後の傷あとを化粧でカバー
がんの種類によっては術後の傷あとが気になる場合もあります。
肌の凹凸を補正する専用のファンデーション(パーフェクトカバーファンデーションBM)、さらに深い傷あとや腫瘍摘出後の陥凹を補正する専用のファンデーション(パーフェクトカバーフラットチェンジャー/フラットキーパー※)を使用することで、目立たなくすることができます。
※資生堂ライフクオリティービューティーセンター(東京・銀座)限定取り扱い
図8は深い傷あと(腫瘍摘出後)の60代女性です。
ご自身では、絆創膏で深い傷あとを隠していますが、専用のファンデーションを使用することで、深い傷あとをカバーすることができます。
ご本人から、「絆創膏を貼って歩くと余計に目立ってじろじろ見られてしまうが、専用のファンデーションでカバーすることで人目を気にせず外出でき、それがとてもうれしい」と感想をいただいています。
図8:深い傷あとのカバー例
4.化粧のちからで心も明るく
外見ケアのアドバイスを受けたがん患者さんからは、「治療に対しても前向きに考えられるようになった」「治療を続けようと思えるようになった」「外出したくなった」といった声も聞かれ、気持ちに前向きな変化が現れます。このように、化粧は重要な役割を果たす可能性があると思います。
まだまだ、がん患者さんへの外見ケアに関する具体的な情報が不足していること、そして、がん患者さんに必要な情報の集約が必要と思います。がん治療中、治療後、これから治療を受ける方、ご家族の方、ご友人の方、関係者のみなさんに「がん患者さんのための外見ケアBOOK」がヒントになればと思います。
<関連リンク>
■対応しているおもな肌悩み
肌に深い悩みをお持ちの方/がん治療による外見上のお悩みをお持ちの方
http://www.shiseidogroup.jp/slqc/salon/situation.html
■がん患者さんのための外見ケアBOOK
http://www.shiseidogroup.jp/slqc/information/information_151215.html
■全国カウンセリング店一覧
http://www.shiseidogroup.jp/slqc/shop/
■資生堂ライフクオリティービューティーセンター
http://www.shiseidogroup.jp/slqc/
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