山形県でのコホート研究の結果、がんサバイバーでは喫煙している人は喫煙しない人に比べて死亡リスクがかなり高いという傾向が見られた。
毎年5月31日の国際禁煙デーに因んでご専門の先生方に喫煙に関するご寄稿を頂いているが、今年は山形大学医学部臨床腫瘍学講座の吉岡孝志先生に、山形県コホート研究の結果を参考に情報提供いただいた。
2人に1人が「がん」に罹り、3人に1人「がん」で亡くなる時代となって「がん」制圧への取り組みは喫緊の課題となって久しいものがあります。その一方で、がん治療の進歩から「がん」になっても治った状態や「がん」を持ちながら長く生きて普通の生活をしている方、所謂「がんサバイバー」も確実に増えてきています。
現在、がんになったことのある人もそうでない人にも同様の生活指導や健康診断が行われています。しかし、がんサバイバーに通常の健常者と同じ生活指導や健康診断をしていてよいのか、がんサバイバーに特に注意をしなければならない点はないのか、がんサバイバーに対する生活指導や健康診断を見直す必要があるのではと考えました。そこで山形県コホート研究の中で検討してみました。
山形県コホート研究は、1979年の舟形町での糖尿病検診を発端とし山形県全域で行われているコホート研究です。多くの県民の皆様に協力いただき健康診断等を経時的に行う事で、病気の発症の原因や健康管理の在り方を研究してきました。今回の研究には、山形県コホート研究のうち2004年から2006年に行われた基礎調査と2011年の追跡調査に御協力いただいた山形県高畠町2,292名の方の調査データを使用させて頂きました。
2,292人の中で、基礎調査でがんになったことのある人(がんサバイバー)が124人いました。また、2,292人のうち喫煙状況がわかっている人が2,116人おり、その中でがんサバイバーが116人、がんに罹ったことのない人が2,000人、2011年の追跡調査までに亡くなった方が108人、新たな「がん」になった方が95人おりました。
喫煙状況がわかっている方で、基礎調査の段階で喫煙している方が、がんになったことがある人で10.5%、がんにかかったことのない方で17%と、若干がんにかかったことのある方で少ないものの、がんになったことのある方が特に禁煙している様子は見られませんでした。
喫煙状況と死亡リスクを見てみると、がんにかかったことのない方でも喫煙で死亡リスクが4.6%から6.2%に増えていました。しかし、がんサバイバーでは喫煙していない人で7.7%なのに対して喫煙している人で25.0%と死亡リスクが3倍以上高かったという結果でした。
また、喫煙状況と新たながんの発症を見てみると、がんにかかったことのない方では喫煙でがん発症は4.1%から5.3%と増えていましたが、がんサバイバーでは喫煙していない人で6.7%なのに対して喫煙している人で16.7%と新たな発がんリスクが2倍以上高いという結果でした。発がん者数が少ないので明らかにリスクが高まるという証明にはなりませんでしたが、その傾向があるという事は言えました。
以上のことから、がんにかかったことのない人たち以上に、がんサバイバーにおいてこそ禁煙は大切であることがわかりました。
次に喫煙状況とは関係なく、がんにかかったことのない人とがんサバイバーで様々な病気の発症の関係を調べました。その中で特に心臓病との関連が証明されました。基礎調査の時に心臓病を持っていなくて、がんになったことのない人が993人、がんになったことのある人が60人いました。そのうち2011年の追跡調査までに新たな心臓病の発症が、がんになったことのない人では4.4%、がんサバイバーでは10.0%と、がんになったことのある人では心臓病の発症リスクが2倍以上と明らかに高く、がんサバイバーの健康管理において特に心臓病のチェックが重要であることがわかりました。
今回の研究から明らかになったことは、「がん」と診断されても禁煙は大切であるということ、がんになったことのある人は特に心臓病に気を付ける必要があるということです。山形県コホート研究は2万人の方の協力を得て、基礎調査が終了したところです。今後追跡調査を行う予定で随時結果が出てきますので、2万人の中で本研究において明らかとなった所見以外にも、がんサバイバーに関する注意点が明らかになってくるかもしれません。さらに研究を続けていきたいと考えています。
略歴1959年宮崎県都城市生まれ。腫瘍内科医、医学博士。東北大学医学部卒業後、内科研修医を経て、東北大学抗酸菌病研究所(現加齢医学研究所)癌化学療法研究分野に所属し医学博士を取得。東北大学加齢医学研究所癌化学療法分野准教授を経て、2007年から山形大学医学部臨床腫瘍学講座教授。専門は、がん薬物療法で臨床試験等積極的に取り組んでいる。