「日本脳炎ワクチンの定期接種」は本当に北海道に必要なのか?(3)』
感染症対策は公衆衛生の面からも大切な問題で、最近もおたふく風邪(流行性耳下腺炎)の流行や、妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、おなかの赤ちゃんが目や耳、心臓に障害が出る「先天性風疹症候群」の原因となる風疹なども問題になっている。
ところが北海道では日本脳炎の発症が無いにもかかわらず、日本脳炎ワクチンの定期接種が行われることになるなど、一体、公衆衛生行政はどちらを向いて行われているのか問題となっている。
当会の名称「市民のためのがん治療の会」はあだやおろそかにつけたわけではなく、医療が本当に「市民のため」に行われているのかどうかを検証し、「市民のため」に行われるように普及啓発し、政策提言を行ってきている。
今回は北海道における「日本脳炎ワクチンの定期接種」についてワクチントーク北海道 代表 荻原敏子氏にご寄稿いただいた。長文なので3回に分けて連載させていただく。
1948年の予防接種法施行から約70年間、予防接種被害を出した過去に学ぶことなく、国は問題のあるワクチン接種をすすめ、多くの被害者や保護者を苦しめてきました。
さらに、ワクチン産業の市場拡大をめざして2014年に国は「予防できる疾病はワクチンで防げ(VPD:Vaccine=ワクチンPreventable=予防可能なDiseases=病気の略)」と1200億円の予算を計上しました。2000年代からワクチンの製造量はどんどん増えています。(表1)
ワクチン関係の公費支出は肥大化されていますが、特に1歳までに増加した過密な予防接種スケジュールにより、乳児では利便性のためとして一度に複数のワクチンの同時接種(6種類のワクチンを同時に注射等)が行われ、接種後に死亡する被害が毎月でています。接種現場だけでなく、製造現場では、化血研の血液製剤不正製造、BCG製法違反などもおきていますし、接種ミスや違法な混合接種なども起き、予防接種事故(5685件数でる)など問題は多岐にわたっています。
予防接種で病気を撲滅できた唯一の例は天然痘です。ポリオや麻疹、その他の感染症についても、ワクチンができる前からは病気は激減しています。医療や人間とウイルス等の共生関係の歴史を経て、予防接種で防ぐことのできる病気(感染症)自体が少なくなっている中、社会防衛という考え方自体を見直すべき時期にきています。しかし、相変わらず病気の怖さを強調してワクチンを推進しようという考えから、個人の病気予防のためと称して子宮頸がん、日本脳炎などの予防接種がすすめられていますが、この背景にはワクチン推進スローガン(VPD)で、ワクチンで防げる病気は防ぐところから、ワクチンへの過剰な信頼と依存をする)の考え方が根底にあります。
この考えが必要以上に、国までもが採用するに至った根拠は審議会での医師会代表の発言をひろっていくと、そこには医師の利益が深くからんでいるように思われます。ワクチン費用も接種費用の半分以上は医師側の利権につながるとささやかれています。北海道での日本脳炎ワクチンの導入に積極的に動いたのは札幌医師会です。3万超の署名まで集め日本脳炎ワクチンの定期接種を推進したことは「ない病気から子どもを守る」ための方法としては医師の倫理に反し、いかにも稚拙なやりかたです。感染症も治る病気になり、小児科にかかる子どもたちは減りました。子供の数も減っているので、個人病院は運営が厳しい状況になっていると聞きます。
北海道で日本脳炎ワクチンを定期接種にするのに100億円の予算計上がされました。北海道の持ち出しは11億円とされていますが、この半分が北海道の医師側に行くと思われます。戦争法案をはじめ、自衛隊の海外派遣が問題にされていますが、北海道の自衛隊部隊がまず、海外派遣に行ったことは道民の記憶に新しいことです。今後、流行地への海外派遣が増えることを踏まえて日本脳炎ワクチン定期接種化がすすめられたのかとの懸念もぬぐえません。
いずれにしても、子どものためという口実で、国と製造業者や医師会の利権の構造が見え隠れします。
ワクチンが公的接種化される意味
ワクチン開発は、病気に苦しむ患者やご家族の悲願であり、研究開発は科学者の熱意の賜物でした。人類の健康に貢献する面も確かにあります。しかし、病気が脅威でなくなった今、企業としては、特定少数のためだけに作って販売するのでは利益を追求できません。少子高齢化の中で、不要な子どもや高齢者共に接種がすすめられているのです。
表1でわかるように、ワクチン生産額はうなぎのぼり。近年では海外の巨大製薬メーカーも参入し、ワクチン市場はますます魅力的なものになっています。メーカーは生き残りをかけて、官民一体となって国は精力的にワクチンを売りこんでいます。企業のため、経済のため、子どもの腕を刺し打てと迫ってくる、そういっても過言ではない状況でしょう。
それでも日本脳炎ワクチンは子どもたちにとっての利益は見当たらない
日本脳炎ワクチンは効果も副作用も多く、改良されてなお副作用被害が問題とされるワクチンです。
患者発生状況、抗体の自然獲得、臨床試験の結果、再開による害反応の報告など、どれをとっても、接種を受ける子どもたちにとって、特に北海道地域の子どもたちにとって百害あって一利なしともいうべきだ、全く利益は見当たりません。現在の日本においては、蚊に刺されて子どもが日本脳炎になる危険性はほとんどありません。それでも日本脳炎ワクチンを打ち続けようとする理由はなんなのでしょうか?
今回の定期接種化は、40年間媒介する蚊もいない北海道で、2016年4月から定期接種が開始される。20歳にまで対象年齢をさかのぼり接種するというものである。対象年齢が増えるだけに多数の害反応が心配されます。全国でも必要のないワクチンですが、なおさら、北海道には必要がないと考えられるものであり、賢明な保護者の判断になるための正しい情報が必要です。
- 平成28年度に日本脳炎の定期接種を受けることが可能な年齢層の人口は、特例接種対象者を含めて約89万7千人と推計
- 対象者全員が4回の定期接種を単年度で受けるものとすると、ワクチンの必要数は延べ358万8千人分となる。これは、平成25年の乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンの国内生産実績である403万9千人分の約89%に相当し、接種可能な全ての人に接種を勧めることは、全国的な供給不足を招くことが懸念される。なお、この場合の接種費用は、接種単価6,942円で試算すると249億789万6000円となる。
- 一方、接種を優先すべき対象者についての考え方を踏まえ、最も優先すべき3歳になる者の90%が1期初回接種を受け、道内への転入者も考慮し、4歳になる者、9歳になる者の5%がそれぞれ1期追加接種、2期接種を受け、さらに、6歳、7歳(10月2日生まれ以降)になる者、18〜20歳になる者の50%が初年度に1期初回接種2回を受けると仮定すると、他の年齢層が全く接種しないとして、ワクチンは延べ27万7千人分が必要となる。この場合の接種費用は、19億2293万4000円となる。これらのことから、本道において定期接種を開始する場合には、各年度に優先すべき対象者が接種を受けることにより対象年齢層が順次免疫を獲得できるよう、市町村は、医療関係者、保護者等の理解、協力を得ながら円滑に接種を進め、道は必要に応じて厚生労働省とワクチン供給に関する連携・調整を図ることが大切である。
- 本委員会としても、当分の間、各年度における接種者の状況、接種率等を把握するとともに、国の動向も注視しながら、必要に応じて情報提供や技術的助言を行うことが望ましい。
ワクチンの背後事情 参考資料(古賀氏学習会資料より抜粋)
「予防接種は良いもの」へのアンチテーゼ〜隠された被害とのたたかい
- 予防接種は内務省管轄で開始
- 1948年:GHQ(連合国軍総司令部)の指導のもと予防接種法制定。「強制・無補償」─罰金で接種を強制
- 1948年11月:京都市、島根県東部でジフテリア予防接種禍(1000年被害、80数名死亡)
- 国は各地から報告される接種事故の情報を公表しなかった
- 1970年6月、種痘禍の被害児を抱える親が厚生省に救済要求
- 1976年 救済制度ができる
- 1973年〜1992年:4大訴訟:被害児150名と家族が、東京、名古屋、大阪、福岡で提訴。東京高裁で敗訴した国が責任を認め、被害者に謝罪。2p
- 1994年法改正:個別接種、救済充実、情報提供、インフルエンザV 廃止、予防接種後副反応報告(立ち遅れの原因?ワクチン不信への信頼回復?)
- 義務なき強制?個人防衛のものに努力義務が課せられるのは理論的にはおかしい。現行法では、定期接種A類は国が受けてほしい(勧奨)としているが、日本脳炎や子宮頸がんは病気の怖さ強調されてA類とされているが、本来義務を課すような予防接種ではない。
- 1989年4月〜93年4月 MMRワクチン禍、3名が提訴
- 1985年〜1990年代 市民運動が高まる
ワクチン・世界戦略
ワクチンの世界戦略と日本の予防接種行政の変遷について考える際、1994年の法改正後の改正(揺り戻し)で起きたことを振り返ってみることが重要である。
インフルエンザワクチンの復活でその幕は開けられた。学童防波堤論が破たんし、1994年改正でインフルエンザワクチンは公的接種から外された。しかし、2000年前後から、高齢者施設でのインフルエンザによる死亡というマスコミ報道のもと、インフルエンザワクチンが努力義務をかさず高齢者(65才以上)への公的接種が開始されたのである(定期接種B類型)
2009年には新型インフルエンザ騒動がつくられ、2012年からのワクチン行政の見直しに先鞭をつけた。2009年(舛添厚労大臣の時)以後は外国製ワクチンを入れざるを得ない状況になった。
3新ワクチンを事業接種として導入し、子宮頸がんワクチンによる深刻な被害が社会問題化し、乳児の同時接種死亡問題が起きたがいずれも現在未解決であることは論をまたない。
この間、ワクチンギャップが必要以上に強調され、海外のメーカーのワクチンが容易に導入されるようになった。世界戦略に飲み込まれ、次々ワクチンが公的接種に格上げされるようになった。新型インフルエンザワクチンが問題となると子宮頸がんワクチンがでてくるというように、バーター的に別のワクチンが出てくる。子宮頸がんワクチンが問題となると、ロタワクチンが導入されようとされる(ワクチン会社はどちらも、グラクソ・スミスクライン社とMSD社である)
ついに、2013年には法改正では、定期接種B類にどんどん追加できるようになった。
その後、ポリオワクチンの不活化による4種混合ワクチン、水ぼうそう・成人肺炎球菌・B型肝炎・ロタ・ノロ・など細胞培養ワクチンの大量生産が可能となり、世界的に売り込みが始まった。2012年の事業接種(ヒブ、肺炎球菌、子宮頸がんワクチン)以後はロタなどの単価の高い外国製ワクチン容易に導入されるようになった。
一方で、新興再興感染症と言う考え方が強調され、麻しん、風しんの接種が促進された。日本脳炎は生産額の2割を占める(表1)。日本独自のワクチンであり、国策上保護されていることが日本脳炎ワクチンを北海道でも行うことの背景にもありそうである。また、風しんの病気自体はたいしたことのない感染症であるが、妊婦がかかると先天性風しん症候群が心配だとして、妊婦だけでなく、配偶者や周りの人にも風しんワクチンの接種推進キャンペーンをポスターを作成して行っている。ポスターやネットなどさまざまな媒体が予防接種普及促進のツールとして使われているが、肝心の副作用情報やネガティブ情報は依然隠されたままである。
医学的根拠はなくても定期接種化がすすめられるのは?
2012年5月23日、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会は予防接種制度の見直しについての第2次提言がだされた。この第二次提言はその後のワクチン行政を大きく変容させるものとなった。
報告では2011年3月11日のワクチン評価に関する小委員会報告書通り、医学的科学的観点から、7ワクチン(子宮頸がんワクチン、ヒブ、小児用肺炎球菌、水痘、おたふくかぜ、成人用肺炎球菌、B型肝炎)について広く接種推進するのが望ましいとされた。
しかし、有識者だけでなく厚労省自身も、「新しいワクチンのうち、どのワクチンを接種すべきかについては、専門家の間でも意見が分かれている」と発言していた。
一方で、自治事務としての定期の予防接種を行うことになる自治体は、財源負担に消極的だった。適切な年齢層に打つべきワクチンを後で接種勧奨すると追加の接種が必要となり、事務が複雑になることも懸念されるとされた。審議会に自治体代表としている委員は、定期接種とする法改正がされない場合には、12年度末まで行われている子宮頸がんワクチン、ヒブ、小児用肺炎球菌の3ワクチンについては、13年以降も補正予算による事業として継続することを国に要望している。「要は財政(金)の問題」と公言しているが、こうした発言により、公費での財政負担がされれば、接種の責任は一切問われず、委託費を収入とできる医師と、消費拡大を目指す製薬会社、利権にむらがる政治家の三つ巴で、ワクチンの供給が需要を喚起し続ける構造ができあがったのである。
市民運動は何をしてきたのか
市民運動は常に「必要な人に必要なワクチンを」として、副作用被害の掘り起しと救済のために下記のような申し入れ行動を行ってきた。
- MMRワクチンの中止
- 訴訟支援(MMR・DPT)
- 厚生(労)省や自治体への申し入れ(保育園での接種強制反対)
- 日脳V、ポリオVの中止、混合ワクチンの問題提起
- 高齢者へのインフルエンザV定期接種化反対(乳幼児も)
- 新型インフルエンザ特措法に意見書
- タミフル被害への対応と救済申入れ
- 子宮頸がんワクチン導入、定期接種化反対
- 被害発生を防ぐしくみつくりを要請
- ワクチンと病気の実態解明、感染症拡大防止のための手段としてのワクチン再検証が必要との立場
しかし、市民運動はボランタリーの被害者に寄り添うことでしかなく資金もない。「反ワクチン運動」などと揶揄されることもありが、不要なワクチンをどう拒否するかは健康に暮らす権利であり、自己決定そのものであり、国家の介入は許されない領域の問題である。ワクチン接種に不安を持つものに「義務」として強制することは人格権の否定である。当たり前のことが許されない社会にワクチンだけの問題にとどまらず、社会のありかたへの疑問が尽きない。
VPD論者の主張の欺瞞
VPD論者は、定期接種と任意接種の救済制度を一本化し、救済措置の担い手を「国」から「国民全体」へとか、誰かに責任を求める仕組みから、ワクチン接種者一人ひとりが責任とリスクを分かち合う仕組みへ転換すべきという主張をしている。
また、米国の無過失補償・免責制度である、VICP(Vaccine Injury Compensation Program;全国ワクチン被害救済プログラム)のような仕組みとして、ワクチンの1コンポーネントにつき75セントを接種者やその保護者が支払い、基金として積み立てる。健康被害が出た場合は、基金からの救済金給付を受け取るか、国やメーカーに対して訴訟を起こすかを選べるようにする。などの制度の導入を主張している。
しかし、無過失補償するほど、現在あるワクチン接種はすべての人に必須のものではない。予防接種の効果は限定的であり、副作用はどれほど確率を逓減できたとしても不可避のものである。過去の歴史をみれば、失政、明らかに故意または過失により生命や健康に重大な損害を発生させ続けた予防接種行政のもとで、発生した被害の因果関係を頑なに否定して、それでも業界や医師会寄りにVPDを振りかざして接種を推進することが行われていること自体、まともな国のありかたとはいえない。個人の安全、安心して健康に暮らすための自己決定権という重要な選択権に介入する人権侵害行為そのものであり、それを償うためには無過失補償という枠組みが責任はあいまいなまま救済しやすい制度となるかもしれないが、確信犯である予防接種をめぐる「ワクチン村」の利権をいつまでも守ることは、薬害や予防接種禍を根絶することには決してならない。
ワクチンを利権のために導入し、被害を認めないことでより一層の被害拡大を行い、行うべき救済を行わない。そして、責任はいつまでも見えない誰かに転嫁され続ける。
予防接種をめぐるそうした構造を、いまこそ断ち切るための抜本的な予防接種政策の見直しが必要である。 (参考資料;文責 古賀真子)
厚生労働省結核感染症課予防接種室
ワクチントーク北海道代表:元札幌市養護教諭、40年間養護教諭を経験し子どもたちの感染症やインフルエンザワクチンの効果に疑問を持ち続けた。日本脳炎ワクチン定期接種問題に関連し北海道にもワクチントークを立ち上げた。